「適格株式交換」とは、株式交換により子会社の株主に交付される対価が親会社の株式であり、かつ適格要件を満たした株式交換のことをさします。適格要件を満たしていない「非適格株式交換」とは、税務上区別されます。
ここでは、適格株式交換の要件とは何か、いわゆる特定役員継続要件の緩和といった、近年の法改正についてわかりやすく解説していきます。
なお、本記事において会社は株式会社を指すものとし、株式を譲り受ける企業を「親会社」、譲渡する企業を「子会社」と表記します。
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株式交換と適格株式交換
株式交換とは、会社が発行済株式の全部を他の会社または合同会社に引き継ぐことにより、完全親子会社関係を創設する手法です。旧商法では、株式交換の対価は株式に限定されていましたが、現在では株式交換の対価は株式だけでなく現金等の交付も可能となりました。
株式交換は、税制上適格株式交換と非適格株式交換に分類されます。適格株式交換の場合、子会社に対する課税は発生しませんが、非適格株式交換の場合、子会社に対する課税が発生します。通常、非適格株式交換では株式交換によって完全子会社化する予定の会社について、一定資産を時価で評価する必要があります。
子会社の株主に対して株式以外の対価が交付される非適格株式交換の場合、譲渡損益に対して課税がされることになり、株式交換によって子会社化する会社の株主が税金を支払うことになります。
一方で、子会社の株主に対して株式のみの対価が交付される場合、子会社は課税対象となることもありますが、子会社の株主は課税がされません。この場合、完全子会社の株式を時価ではなく簿価で売却したものとするため、譲渡益に対する課税が行われないのです。
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適格要件
株式交換において、完全子会社となる株主に対し、株式交換完全親会社の株式以外の資産等が交付されないことに加え、次の3パターンのいずれかに該当する株式交換であったとき、適格株式交換であるとみなすことができます。
(Ⅰ) 株式交換による親会社と子会社の関係が100%の資本関係であり、完全支配関係である場合【グループ内再編(100%)】
(Ⅱ) 株式交換を実施しようとする時点で、親会社と子会社の間に50%を超える支配関係がある場合【グループ内再編(50%超)】
(Ⅲ) 株式交換の目的が共同事業である場合【共同事業再編】
(Ⅰ)~(Ⅲ)の株式交換における適格要件の表は以下のようになります。下の表の縦軸の関連性と、横軸の支配関係の「○」の要件を満たしていることが適格株式交換とみなされる要件です。
要件 | グループ内再編(100%) | グループ内再編(50%超) | 共同事業再編 |
①(完全)支配関係継続 | ○ | ○ | ○ |
②株式継続保有 | ○ | ○ | ○ |
③従業者引継 | ー | ○ | ○ |
④事業継続 | ー | ○ | ○ |
⑤事業関連性 | ー | ー | ○ |
⑥規模・経営参画 | ー | ー | ○ |
①~⑥の関連性・継続性についての基準は以下の通りです。
1.(完全)支配関係継続:株式交換後も親会社による(完全)子会社への支配関係が継続されるものであること
2.株式継続保有:子会社の株主(支配株主)が親会社の株式を継続して保有するものであること
3.従業者引継:株式交換後も、子会社の従事員のうち、その総数の80%以上の者が、引き続き子会社の業務に従事することが見込まれていること
4.事業継続:完全子会社の主要事業が、株式交換後も継続されるものであること
5.事業関連性:親子会社間の事業が関連するものであること
6.規模・経営参画:親会社と子会社の売上金額、従業者数、もしくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと、または、株式交換により子会社の特定役員*1全員が退任しないものであること(特定役員継続要件)
こちらは次の章で詳しく解説します。
株式交換の適格要件は、近年税制改正が行われており、上記の基準にも要件の追加や変化がみられます。
*1特定役員:役員等勤続年数が5年以下である人
適格要件に関する税制改正
株式交換における適格要件は、平成28年度および29年度にそれぞれ以下のような税制改正が実施されています。改正点は以下の通りです。
平成28年度における株式交換の適格要件に関する税制改正
特定役員継続要件の緩和
これまでは、株式交換の実施により上記の特定役員継続要件を満たすためには、完全子会社の特定役員のうち「1人も退任しないこと」が条件となっていました。
しかし、税制改正により、経営参画の要件について、特定役員のうちいずれか1名でも残席していれば、要件を満たすものとするという要件に変更されました。
改正前の基準では、1人でも特定役員が退任する可能性がある場合、適格要件を満たすかどうかについて留意する必要がありました。しかし、改正後は1人を除くすべての特定役員が退任しても適格要件を満たすことができるため、適格要件を満たすための判定基準が緩和されました。
株主が50人以上存在する場合に取得する完全子会社株式の取得価額
株主が50人以上存在する子会社の株式交換において、親会社が取得する子会社の株式取得価額は、子会社の簿価純資産価額*2によるものとされていました。
税制改正後は、株式交換直前の子会社の前期末の簿価純資産価額に、株式交換直前までの資本金等の額の増減を加減算した金額を計上できるものへと改正されました。
改正前の基準では、株式交換直前の子会社の簿価純資産価額を算出する必要がありましたが、改正後は、前期末時の簿価純資産額を計上することができるため、簿価純資産価額を算出する負担が軽減されました。
*2簿価純資産価額:株式交換直前の子会社の資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を引いた金額
平成29年度における株式交換の適格要件に関する税制改正
スクイーズ・アウト関連の税制整備
スクイーズ・アウトとは、会社の支配株主が他の少数株主の有する株式の全部を、現金を対価としてその少数株主の個別の承諾を得ることなく強制的に取得し、特定の株主のみを会社の株主にすることをいいます。
先述した通り、株式交換においては親会社の株主から子会社の株主に株式以外の資産等が交付された場合は、非適格株式交換とされます。
しかし税制改正後は、親会社が「子会社の株式の総数の2/3以上」を保有している場合の株式交換においては、先述の他要件を満たせば株式交換の対価が金銭等で交付されたとしても、適格株式交換とみなされることとされました。
数年前には適格要件について留意する必要のあった株式交換でも、改正後の基準緩和で適格要件に充当するケースも少なくありません。
まとめ
株式交換では、対価として現金を取得した場合、得た譲渡益に対して課税がされることとなりますが、適格要件を満たしていれば課税対象になりません。税制の改正によって適格要件の基準が緩和されましたが、株式交換における適格要件の判定が容易であるか複雑であるかは、企業によってケースバイケースであるといえます。詳細な点については専門家からの助言を取り入れつつ、最適な選択を導くことが大切となるでしょう。