事業承継を検討している経営者の中には、何から手をつけて良いのかわからないという方もいるのではないでしょうか。
事業承継は決めなければいけないことが多く、手続きも複雑になるため、思い立ったからといってすぐに実施できるわけではありません。そのため、円滑な事業承継を実施するためには、事前準備が重要です。
本記事では事業承継の準備の重要性や具体的にやること、事業承継の進め方等を解説します。事業承継を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
目次
事業承継は企業理念や事業への想いも引き継ぐこと
事業承継とは現在の会社の事業を別の人に引き継ぐことで、要素として以下の3つを承継します。
・事業(経営権)の承継、
・財産(株式、事業用資産、資金等)の承継
・無形財産(従業員や技術、ノウハウ、経営理念等)の承継
「承継」には「前代の精神・事業等を受け継ぐ」という意味があり、事業承継では具体的な資産の他、企業理念や先代経営者の事業への想い、会社の解決すべき課題等のさまざまなことも引き継ぐことになります。日本企業の99%は中小企業が占めているとされているので、中小企業は雇用や技術の担い手として日本を支える重要な存在です。
日本の活力または発展には中小企業を欠かすことはできないので、中小企業を存続させていくためにも、事業承継は重要な取り組みとなります。
● 事業承継の必要性
中小企業は地域経済・社会を支えると同時に雇用の受け皿にもなっており、中小企業が日本を支えていると言っても過言ではない状況です。しかし、近年は中小企業経営者の高齢化と後継者不足の問題が深刻化しています。事実、東京商工リサーチによれば、2021年の社長の年齢分布は70代以上の構成比が32.7%と最も高くなっています。
経営者の高齢化と後継者不足の問題により、経営状況が良好でも後継者が決まらずに廃業してしまう中小企業は珍しくなく、このまま事業承継ができずに廃業してしまう中小企業が増えると、雇用や技術への影響が懸念されています。このような背景の中、政府も事業承継の問題を重く受け止め、円滑な事業承継の実施に向けたさまざまな取り組みを行っています。
事業承継に用いられる3つの方法
事業承継の方法としては、主に以下の3種類があります。
・親族内承継
・親族外承継(役員・従業員等)
・第三者承継(M&A)
それぞれの承継方法を見ていきましょう。
● 親族内承継
親族内承継は一般的に事業承継で最も用いられており、経営者自身の子供や配偶者、兄弟等の親族に事業を承継する方法です。後継者の育成期間を確保しやすく、従業員や取引先等から理解も得やすいといったメリットがある一方で、親族内に後継者としての資質を持っている人がいないケースや、後継者以外の親族から反対されてしまうといったデメリットもあります。
また、近年は経営者の子供でも事業承継を断るケースが増加傾向にあるため、子供がいても親族内承継ができない場合が増えています。親族内承継ができない場合は、他の承継手段を検討する必要があるでしょう。
● 親族外承継(役員・従業員等)
親族外承継は、親族以外の自社の役員や従業員等から後継者候補を見つけて、事業を引き継ぐ方法です。親族内承継では贈与や相続による事業承継が一般的ですが、親族外承継では株式譲渡が一般的になります。
メリットとしては、事業への理解が深く、経営能力の高い後継者を経営者自らが選べたり、既存の従業員からの理解が得やすいことが挙げられます。しかし、後継者候補は事業承継に伴う多額の資金を準備しなければいけないので、円滑に事業承継が実施できないというリスクもあります。
● 第三者承継(M&A)
第三者承継(M&A)は、親族内や自社の役員・従業員に後継者候補がいない場合に用いられることが多い方法です。
後継者問題を解消でき、早期の事業承継ができる可能性が高い他、譲受企業の資本力や経営ノウハウを活かすことで業績の向上も期待できます。また、創業者利益を得られる点においても、現経営者にとっては大きなメリットになるでしょう。一方で、希望通りの相手が見つからなかったり、経営方針や描いていたビジョンから逸脱してしまったりといったデメリットがあります。
事業承継はできるだけ早めの準備が大切
事業承継の準備はできるだけ早めに行うことが大切です。理由がいくつかありますので、1つずつ確認していきましょう。
● 事業承継には5年から10年の期間が必要
事業承継は実施を考えたからといって、すぐに着手することができるわけではありません。後継者の選定や事業承継方法の決定、税制対策、株式の移譲(譲渡・贈与・相続)手続き等、さまざまなことを考えて実施する必要があります。
また後継者の育成や承継後の統合プロセス(PMI)には数年単位の時間が必要になるため、一般的に事業承継は5年から10年計画で実施する必要があるとされています。M&Aを活用した第三者への承継は、親族内承継や親族外承継より時間がかからないとされていますが、事業承継実行中に不測の事態が起こらないとも限らないので、早めに準備するのが良いでしょう。
● 経営者の高齢化と後継者不足の問題
以前は一般的な承継方法とされていた親族内承継ですが、近年は親族内承継を実施しないケースが増えています。そのため、親は子供が事業を引き継いでくれると思い込んでいたのに、実は子供に承継の意志がない、といったことも十分に考えられるでしょう。
また後継者が見つからない場合は第三者への承継を検討しなくてはいけませんが、すぐに希望の相手が見つかるとは限らないため、時間がかかってしまうこともあります。経営者の高齢化と後継者不足によって事業承継が行われずに廃業してしまうと、地域経済のインフラだけでなく、従業員も路頭に迷うことになります。そのため、どの手段を選択するにしても、将来的に事業承継を考えているのなら早めの準備を心がけ、円滑に次の世代へ事業の引き継ぎを行うことが重要です。
事業承継に伴い準備すること
円滑な事業承継を実施するためには、事前の準備が重要です。ここでは、事業承継に必要となる具体的な準備を紹介するので、把握しておきましょう。
準備① 後継者の選定と育成
事業承継の準備として後継者の選定があります。親族や自社の役員・従業員に適任者がいるのか、適任者がいた場合は承継の意志があるのかを確認しておきましょう。もしも後継者がいない場合は、第三者への承継も検討しなければいけません。
また後継者がいる場合でも育成には時間がかかるため、遅くても経営者が60歳になる前に準備しておくことが望ましいです。
準備② 経営状況・経営課題等の把握(見える化)
後継者へ円滑に事業を引き継ぐためには、できるだけ具体的に経営状況や経営資源、経営課題を見える化し、自社の強みと弱みを把握することが大切です。見える化の具体的な内容として、以下のようなものが挙げられます。
・業界の将来性
・資産・負債の内容
・従業員の状況(人数、年齢構成、平均年齢等)
・株主の状況等
また会社の経営状況だけでなく、事業承継の課題についても見える化し、早期の対応に繋げることも重要です。見える化は経営者が取り組むこともできますが、専門家のサポートを受けると、より効率的に取り組めます。
準備③ 事業承継に向けた経営改善
事業承継を円滑に実施するためには、経営状況・経営課題等の見える化によって明らかになった部分に対して、承継に向けた経営改善も大切です。後継者が引き継ぎたくなるような魅力作りが必要になります。そのためには、会社の業績改善や経費削減だけではなく、以下のことも含めて磨き上げを実施しておきましょう。
・商品やブランドイメージ
・優良な顧客
・金融機関や株主との良好な関係
・優秀な人材
・知的財産権や営業上のノウハウ
・法令遵守体制等
準備④ 事業承継計画策定
事業承継はやらなければいけないことが多々あるため、具体的に事業承継を進める際は、自社や取り巻く状況を整理したうえで、会社の 10 年後を見据えた事業承継計画を策定する必要があります。
「いつ」「どのように」「何を」「誰に承継するのか」といった具体的な計画の立案・策定を行いましょう。また、事業承継計画は後継者と一緒に取引先や従業員、取引金融機関等との関係を考えながら策定するのはもちろんですが、関係各所に共有しておくことで、事業承継実施時に理解や協力を得やすくなる可能性が高くなります。
準備⑤ 活用できる支援策の確認
事業承継に活用できる支援策は多く、活用することで円滑な事業承継を実施できる可能性が高くなります。例えば、政府主導で実施されている支援策には以下のようなものがあります。
・事業承継税制
・事業承継・引継ぎ補助金
・事業承継・引き継ぎ支援センター
・遺留分に関する民法の特例・所在不明株主に関する会社法の特例
・事業承継ファンド
・経営資源集約化税制
・承継円滑化法に基づく金融支援
政府主導の支援策については改めて後述しますが、いずれも事業承継では有用になります。自社の状況に合せて活用できる支援策を確認し、内容を把握しておくと良いでしょう。
事業承継を進める方法
中小企業の事業承継を進めるにあたり、まずは基盤を固めるために後継者の育成、経営状況・経営課題等の把握(見える化)、事業承継に向けた経営改善、活用できる政府支援策の確認をして事業承継の準備を実施します。
準備が完了したら、親族内承継または親族外承継の場合は「事業承継計画の策定」、第三者への承継の場合は「マッチングの実施」を行います。
最後に事業承継計画やM&A等に沿って、会社の資産の移転や経営権の移譲を実施します。なお、事業承継の実行段階においても、事業承継計画は状況に応じて修正・ブラッシュアップすることが大切です。
また、事業承継の実行段階では、税金の問題や法的な手続き等が必要になるため、専門家のサポートを受けながら実施することをおすすめします。
事業承継の準備時に知っておきたい政府主導の支援策
事業承継における支援策として、政府が主導となっているものも多数あるため、準備段階で支援策も確認しておくことが重要になります。ここでは政府主導の支援策の中でも、特に知っておきたいものを紹介していきます。
● 事業承継税制
事業承継税制は、事業承継に伴う相続税・贈与税の納税猶予を受けられる制度です。
制度を活用するためにはさまざまな要件を満たさなければいけませんが、事業承継時に後継者が納めるべき相続税・贈与税の猶予が受けられ、金銭面での負担を大幅に軽減できるので活用をおすすめします。
ちなみに、事業承継税制は2018年度の改正によって10年間の特例措置が設けられ、贈与税・相続税の納税猶予割合が100%に引き上げられている他、雇用確保要件が緩和されたことで、以前より活用しやすくなっています。
● 事業承継・引き継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援援センターは、全国47都道府県に設置されている事業承継・M&Aの公的相談窓口です。
事業承継について、承継前の基本的な相談から親族内承継や従業員承継、M&Aの成約まで専門家、金融機関、支援機関と連携しながら一貫したサポートを行っています。
例えば、後継者不足に悩む事業者と創業を希望する人のマッチングを行う「後継者人材バンク」や、後継者問題の相談から譲受企業の紹介や成約のサポートを行う「第三者承継支援」といった事業を実施しています。
● 事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金は、事業再編・事業統合を含めた事業承継を契機とし、新しい取り組み等を行う中小企業や小規模事業者に対して、取り組みに関わる経費の一部を補助する制度になります。
事業承継・事業再編・事業統合を促進することで、日本経済の活性化を目的としており、「経営革新事業」「専門家活用事業」「廃業・再チャレンジ事業」の3種類の補助金があります。
補助率はどれも3分の2となっていますが、上限額や支援対象者は補助金の種類によって異なるため、確認しておきましょう。
● 事業承継ファンド
事業承継の手段として、事業承継ファンドを活用するというのも近年増加傾向にあります。
事業承継ファンドを活用することで、事業承継にかかわる資金の調達ができる他、ファンドによっては、経営販路の拡大や体制作りの協力を得られるといったメリットを得られます。
民間企業が運営している事業承継ファンドも多いですが、代表的な事業承継ファンドとしては、国の中小企業政策の中核的な実施機関となる「中小機構」があります。
中小機構では、ファンドに関する情報提供や、投資交渉に向けた経営計画・資金計画の作成等のサポートを行っているので、活用を検討してみても良いでしょう。
まとめ
事業承継の方法には親族内承継、親族外承継、第三者承継があり、それぞれ後継者の属性が異なります。
また事業承継では、後継者の選定や経営状況・課題の見える化等の準備が必要な他、後継者の育成やPMIに長い時間が必要です。そのため、事業承継の実施を考える場合は5年から10年の期間を見なくてはいけません。
加えて、事業承継の実施中にトラブルが生じる可能性もあるため、将来的に事業承継を決めている人は、早めの準備を心がけるようにしましょう。
円滑な事業承継を実施するためにも、記載してあるチェックリストで準備に抜けがないか確認してください。なお、事業承継には幅広い専門知識が必要になるため、経験豊富な信頼できる専門家のサポートを受けるのがおすすめです。