M&Aにおいて一般的にイメージされやすいのが「合併」でしょう。その合併には「吸収合併」と「新設合併」の2つがあります。吸収合併は、当事会社のうち既存の1つの会社を存続会社として他の当事会社すべてを吸収する方法をいい、新設合併は、当事会社のすべてを新設の会社が吸収し、既存のすべての会社が消滅する方法をいいます。
実務においては、新設合併では事業免許(許認可)を再度取得しなければならないこと、上場においては新規上場扱いになること、すべての会社を消滅させることなどから株式の回収など必要な手続きや経費がかさむことから、圧倒的に吸収合併が利用されます。
ここでは、合併のうちほとんどの場合を占める吸収合併における、手続きの流れと必要とされる株主総会にかかる知識を網羅的に解説していきます。
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目次
吸収合併に伴う業務執行決定機関と株主総会の承認とは
合併の手続きの概要と承認について解説をします。
合併手続きの概要
合併を行う場合、まず当事会社間で合併契約の締結をすることが必要であり、締結後に各当事会社は合併契約と内容の所定の情報を備置し、株主・債権者に対し閲覧、謄写に供しなければなりません。そして、各当事会社で株主総会の承認を得るとともに、株主の株式買取請求や債権者異議手続きを行います。それらの手続きを経た上で、効力発生日に合併の効力が生じ、さらにその後6ヶ月間必要な情報の備置を行います。
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合併契約締結の承認
会社が合併をする場合、合併契約を締結する必要があります(会社法(以下「法」)748条)。取締役会設置会社では取締役会の決議(法362条4項)、取締役会非設置会社では取締役の決定により、代表取締役などが当事会社間で合併契約を締結します。
吸収合併契約では、当事会社の商号・住所、合併により存続する会社(以下「存続会社」)が合併により消滅する会社(以下「消滅会社」)の株主に対して交付する対価、合併の効力発生日など、法749条に規定する事項を記載する必要があります。
合併契約の締結には、上記の通り取締役会など業務執行決定機関による決定が必要となります。また、合併契約の締結は上記の業務執行決定機関による承認を経ても、その後株主総会の特別決議による承認を得る必要があることから、株主総会の承認を停止条件とする契約の締結であると整理されています。
株主総会の承認
当事会社は上記の合併契約を締結後、合併契約の内容、株主などに対する対価の相当性に関する事項などを含む法定の事項を株主及び債権者の閲覧、謄写に供しなければなりません(法782条、794条)。当事会社はこれらの情報の備置を前提として株主総会を開催し、上記合併契約の承認を得なければならないのです。
1)消滅会社の場合
消滅会社は効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議によって、吸収合併契約の承認を得なければなりません(法783条1項、309条2項12号)。消滅会社が書面投票・電子投票を行う場合には、株主総会参考書類には当該合併を行う理由、合併契約の内容の概要などを記載しなければなりません(会社法施行規則86条)。
2)存続会社の場合
存続会社は効力発生の前日までに、株主総会の特別決議によって吸収合併契約の承認を受けなければならない(法795条1項、309条2項12号)。存続会社が書面投票・電子投票を行う場合には、株主総会参考書類には消滅会社の場合と同様の事項を記載しなければなりません。
また、承継する消滅会社の資産に存続会社の株式が含まれている場合には、取締役は株主総会で当該株式に関する事項を説明しなければなりません。
合併における株主総会の承認の要否
合併では株主総会の特別決議が原則必要になりますが、例外もあります。
原則 株主総会の特別決議が必要
上述のように、次に説明する略式合併・簡易合併に該当する場合を除き、原則として合併の際には株主総会の特別決議による合併契約の承認が必要です。
例外 略式合併と簡易合併
次に例外の場合を解説します。株主総会による合併契約の承認決議を省略できる場合として、略式合併と簡易合併があります。
略式合併(略式吸収合併)
1)消滅会社
存続会社が消滅会社の特別支配会社である場合には、合併契約の承認にかかる消滅会社の株主総会の決議は要しません(法784条1項本文)。
特別支配会社とはある株式会社の総株主の議決権の10分の9(これを上回る割合を定款で定めたときはその割合)以上を、他の会社及び当該他の会社が発行済株式の全部を有する株式会社が有している場合における他の会社をいいます(法468条1項かっこ書、会社法施行規則136条)。つまり、A社がB社の総株主の議決権の10分の9以上を有している場合、当該A社がB社の特別支配会社です。また、A社がC社の100%の株式を有している場合で、C社がB社の総株主の議決権の10分の9以上を有している場合にもA社はB社の特別支配会社となります。
しかし、合併の対価の全部または一部が譲渡制限株式などの場合であって、消滅会社が公開会社であってかつ種類株式発行会社でないときは、株主総会の特殊決議が必要になります。これは上記で説明した消滅会社が種類株式発行会社であった場合と同様、譲渡性の低い譲渡制限株式が対価として交付されてしまうからです。
2)存続会社
消滅会社が存続会社の特別支配会社である場合には、株主総会の承認は要しません(法796条1項)。
しかし、合併対価の全部または一部が存続会社の譲渡制限株式などである場合であって、存続会社が公開会社でない場合には、株主総会の決議が必要になります(法796条1項但し書き)。非公開会社の株主は持株比率の維持に関心を持つのが通常であるところ、この場合には存続会社の株主については、第三者に対する募集株式の発行と変わりがないことになってしまう(自己の持株比率が変動してしまう)ためです。
簡易合併(簡易吸収合併)
存続会社において、消滅会社の株主に交付する対価の帳簿価額の合計額が、存続会社の純資産額として法務省令(会社法施行規則196条)で定める方法により算定される額の5分の1を超えないときは、株主総会の決議は不要です(法796条2項本文)。存続会社の純資産に比べ、当該合併における対価が小さいときは、存続会社の株主に重大な影響を及ぼさないためです。
合併差損が生じる場合合併に際し、次のように合併差損が生じる場合には、取締役は株主総会においてその旨を説明しなければなりません(法795条1号・2号)。合併することにより会社の財産状態が悪化するためです。
a)存続会社が承継する消滅会社の債務の額として法務省令(会社法施行規則195条1項)で定める額(承継債務額)が承継する資産の額として法務省令(会社法施行規則195条2項)で定める額(承継資産額)を超える場合
b)存続会社が消滅会社の株主に交付する存続会社の株式などを除く金銭などの帳簿価額が承継資産額から承継債務額を控除して得た額を超える場合
このように合併差損が生じる場合には、簡易合併の要件に該当する場合においても株主総会の決議が必要となるので注意が必要です(法796条2項1号・2号)。
一定の数の株式を有する株主が反対する旨の通知を行った場合
存続会社は簡易吸収合併の要件を満たしていた場合でも、効力発生日の20日前までに株主に対し、吸収合併をする旨及び消滅会社の商号・住所を通知または公告しなければならないところ(法797条3項・4項)、法務省令(会社法施行規則197条)で定める数の株式を有する株主が通知・公告の日から2週間以内に吸収合併に反対する旨を通知した場合には、存続会社は効力発生日の前日までに、株主総会決議によって合併契約の承認を受けなければならないのです(法796条3項)。
合併契約にかかる承認に関連する株主総会決議
上記で見てきたように、合併契約の承認については原則として株主総会の特別決議が必要で、略式合併や簡易合併の際には例外的に株主総会決議が不要となります。
しかし、これらの例外の場合においても省略されるのは「合併契約」の「承認」にかかる株主総会決議であって、その他合併により存続会社に損失が生じる場合や、譲渡制限株式ではない株式を有していた消滅会社の株主に対し、合併の対価として存続会社の譲渡制限株式が交付される場合などの、株主に不利益が生じる場合においては、これらの株主にかかる株主総会決議が必要になるので注意が必要です。
消滅会社の場合
消滅会社が公開会社であり、かつ消滅会社の株主に対して交付する金銭などの全部または一部が譲渡制限株式である場合
この場合には消滅会社の株主総会の決議は特殊決議が必要となります(783条3項、324条3項2号)。これは譲渡制限のない株式を保有していた株主が、譲渡制限付の株式を対価として交付されることにより、流動性の低い(換価が困難な)株式の株主となるためです。
消滅会社が種類株式発行会社であり、かつ、譲渡制限が付されていない種類株式の株主に対して存続会社から交付される合併対価の全部または一部が、譲渡制限株式などである場合
この場合には当該譲渡制限株式などを割り当てられる種類の株式にかかる株主の種類株主総会の特殊決議が必要になります(783条3項、324条3項2号)。これは譲渡制限のなかった株式の株主であった者が、合併により譲渡制限株式などを交付されることにより、換価が難しくなるという不利益を被るからです。したがって、消滅会社の当該株主が最初から譲渡制限株式などにかかる株主であった場合には当該特殊決議は不要です。
存続会社の場合
また、存続会社が種類株式発行会社である場合において、合併対価として消滅会社の株主に交付する金銭などが存続会社の譲渡制限株式であるときは、定款に別段の定めがない場合、その種類の株式の株主を構成員とする種類株主総会の特殊決議が必要になります。
これは譲渡制限株式として他者が入ってくることを想定していないにも関わらず、合併の対価として交付されてしまうことで消滅会社の株主が、存続会社の当該譲渡制限株式の株主になってしまうためです。
合併時に必要な株主総会議事録の記載事項・注意点
株主総会の議事については法務省令の定めるところにより、議事録を作成しなければなりません(法318条1項、会社法施行規則72条)。議事録は書面または電磁的記録を持って作成することとされ、そこには株主総会が開催された日及び場所、株主総会の議事の経過の要領及びその結果などを記載または記録する必要があります。また、株式会社はこの議事録を10年間本店に、その写しを5年間は支店に備え置かなければなりません。
なお、旧商法では議長及び出席取締役は議事録に署名する必要がありましたが、会社法では議事録作成取締役の記名で足りることとなりました。ただし、取締役会非設置会社が株主総会で代表取締役を選定する場合はこの限りではありません。
また、議事録作成の真正さを担保することもあり、全国株懇連合会の平成20年の調査で87.6%の会社が、議長・出席取締役などが記名押印しているとの調査があります。特段の不都合がない限り、押印をしておくことで真正性の担保をしておくのが望ましいといえるでしょう。
議事録には通常、次のような事項を記載することになります。
1.株主総会が開催された日時及び場所(当該場所に存しない取締役などや株主が当該株主総会に出席をした場合における当該出席の方法を含みます)。
2.株主総会の議事の経過の要領及びその結果
3.次に掲げる規定により株主総会において述べられた意見または発言があるときは、その意見または発言の内容
a)会計参与などの選任などについての意見の陳述:法345条1項、2項(同条4項5項により準用される場合を含みます)
b)会計参与などの計算書類などの作成に関する事項にかかる意見の陳述:法377条1項
c)会計参与の報酬などにかかる意見の陳述:法379条3項
d)監査役の定款違反・不当な事項などにかかる調査の結果の報告:法384条
e)監査役の報酬などについての意見の陳述:法387条3項
f)監査の範囲を会計に関するものに限定された監査役の調査結果の報告:法389条3項
g)会計監査人の意見の陳述:法398条1項、2項
4.株主総会に出席した取締役などの氏名または名称
5.株主総会の議長が存するときは議長の氏名
6.議事録の作成にかかる職務を行った取締役の氏名
まとめ
以上で見てきたとおり、原則として合併契約の承認には株主総会の特別決議が必要です。その例外は当事会社の一方が他方の特別支配会社であったり(略式合併)、合併により存続会社の財産に大きな影響がない場合(簡易合併)など限定された場合であり、その例外においてもさらに株主総会決議を必要とする例外もあります。また、当事会社が種類株式を発行していたり、譲渡制限株式を発行していたりするときは、それらに対する対応も必要になります。
合併手続きの概要を押さえた上で、実際に実行する場合になにか見落としている点がないかなど、必要に応じて専門家にアドバイスを求めることも必要でしょう。
※この記事は執筆当時の法令等に基づいて記載しています。