
M&Aシニアエキスパートは、M&A実務の専門的な知識やノウハウに関する民間資格です。中小企業の後継者不足問題や経営戦略の一環としてM&A件数が増加する中、円滑なM&Aをサポートし、人材育成に貢献する資格として運営されています。
本記事では、M&Aシニアエキスパートの概要、M&Aエキスパート認定制度の種類や試験内容、難易度を解説します。M&Aシニアエキスパートの資格を取得するメリットや注意点、取得する際の流れも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
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目次
M&Aシニアエキスパートとは
M&Aシニアエキスパートとは、一般社団法人金融財政事情研究会と株式会社日本M&Aセンターが共同で運営する「M&Aエキスパート認定制度」という民間資格のうちの1つです。 M&Aや事業承継に関する専門的・実践的な人材を育成し、中小企業の経営安定や持続的な成長を目的として運営されています。
M&Aシニアエキスパートを含む認定制度は、2012年に開始されました。中小企業の後継者不在問題が喫緊の課題となる中、M&Aや事業承継をサポートする人材の育成が欠かせません。M&Aエキスパート認定制度はM&Aや事業承継を学べる制度として広く認知され、2020年9月時点までの試験合格者は30,000人を超えています。
M&Aシニアエキスパートを含む認定資格の種類
M&Aエキスパート認定制度は、「M&Aシニアエキスパート」と「事業承継シニアエキスパート」、「事業承継・M&Aエキスパート」の3つの認定資格で構成されています。各認定資格の特徴を解説します。
M&Aシニアエキスパート
M&Aシニアエキスパートは、M&Aのマッチングから法務実務、企業評価まで、M&Aの実践的な実務に関する資格です。M&Aや事業承継を検討する企業に対して、経営課題や経営戦略を提案する力の育成にも役立ちます。幹部候補生の研修にも貢献する資格です。
M&Aシニアエキスパートを取得するためには、一定の条件が定められています。必要な資格は次のとおりです。
・事業承継・M&Aエキスパート認定者
・事業承継シニアエキスパート認定者
・弁護士・税理士・公認会計士・司法書士
・銀行・信用金庫・信用組合・証券会社・生命保険会社で法人営業経験が5年以上あり、現在も在籍中の方
・会計事務所などで5年以上の実務経験があり、現在も在籍中の方
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
・一般社団法人M&A仲介協会会員役職員
後述する事業承継・M&Aエキスパートや事業承継シニアエキスパートの認定資格保有者は、M&Aシニアエキスパート取得に必要な講義の受講が可能です。その他、弁護士や税理士などの士業、金融機関や会計事務所などの実務経験者が対象になっています。
事業承継シニアエキスパート
事業承継シニアエキスパートは、中小企業の事業承継から財産評価、相続税や贈与税などの関連税制まで、事業承継の実践的な実務に関する資格です。認定講座では青山財産ネットワークスの支援事例が活用されるなど、取得を通じて事業承継の実務スキルを学べる構成となっています。
事業承継シニアエキスパートの受講資格は次のとおりです。
・事業承継・M&Aエキスパート認定者
・弁護士・税理士・公認会計士・司法書士
・銀行・信用金庫・信用組合・証券会社・生命保険会社で法人営業経験が1年以上あり、現在も在籍中の方
・会計事務所などで1年以上の実務経験があり、現在も在籍中の方
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
M&Aシニアエキスパートと同様に認定資格や国家資格の保有、一定の実務経験が求められる認定資格です。
事業承継・M&Aエキスパート
事業承継・M&Aエキスパートは、事業承継やM&Aの基本的な知識が問われる資格です。M&A関連の基礎スキルを磨きたい方、都市銀行や地方銀行、会計事務所に在籍し、M&Aや事業承継に関する知識を得たい方を中心に取得されています。
事業承継・M&Aエキスパートの主な対象者は次のとおりです。
・金融業務3級保有者
・事業承継・M&Aコース合格者
・金融機関の渉外・融資担当者
・公認会計士・税理士
・M&A関連企業在籍者
他の2つの資格と異なり、事業承継・M&Aエキスパートに受験資格は定められていません。実務に就いたばかりの方でも受験が可能な資格です。
M&Aシニアエキスパートを含む認定資格の難易度
M&Aエキスパート認定制度の3つの資格は、それぞれ異なる難易度が設定されています。以下では、各資格の難易度を、試験全体の構成とともに解説します。
M&Aシニアエキスパート
M&Aシニアエキスパートは、中小企業のM&A実務の最難関とされる資格です。基礎的知識が確認される事業承継・M&Aエキスパート、事業承継の実務に関する事業承継シニアエキスパートよりも、難易度は高いとされています。
M&Aシニアエキスパートの試験は、講義の受講とCBT方式による認定試験の2部構成です。認定試験はWeb講義で取り扱われる内容に沿ったものであるため、Web講義の丁寧な受講と知識の定着、学んだ実務ノウハウを応用するための考え方の落とし込みが求められます。
事業承継シニアエキスパート
事業承継シニアエキスパートは事業承継・M&Aエキスパートの上位資格とされ、事業承継に関する最難関の資格です。財産評価や税制、法律などの理論的枠組みに加え、実践的な実務内容も問われることから、比較的難易度は高くなっています。
事業承継シニアエキスパートは、M&Aシニアエキスパート同様に講義とCBT方式による認定試験の2部構成です。試験はWeb講義の全講義視聴が条件であり、講義内容を中心とした内容が出題されます。
事業承継・M&Aエキスパート
事業承継・M&Aエキスパートでは、事業承継やM&Aの基本的な内容が問われます。「事業承継・M&Aコース試験問題集」や「事業承継入門講座(通信講座)」も提供されており、傾向と対策を立てやすい資格です。
事業承継・M&Aエキスパートの認定を受けると、M&Aシニアエキスパートや事業承継シニアエキスパートの受講資格が得られます。そのため、両資格の取得に向けたステップアップとして活用される場合もある資格です。
M&Aシニアエキスパートを含む認定資格の試験内容

M&Aエキスパート認定制度の各資格を取得するためには、認定試験の受験と合格基準の達成が必要です。各資格の試験内容を紹介します。
M&Aシニアエキスパート
M&Aシニアエキスパート試験はCBT方式(コンピューターを利用した方式)を採用しています。主な試験内容は次のとおりです※。
試験内容 | ・M&A実務・企業評価実務・M&Aの法務・会計・税務 |
試験時間 | 120分 |
出題形式 | CBT四答択一式50問 |
会場 | 全国共通のテストセンター |
合格基準 | 60%以上 |
学習方法 | Web講義または養成講座 |
試験結果は試験終了後すぐにわかり、受験者全員にスコアレポートが渡されます。不合格者は受験日の翌日から5日間経過後に再受験が可能です。
事業承継シニアエキスパート
事業承継シニアエキスパートはCBT方式を採用しており、全国に設置されたテストセンターで受験できます。主な試験内容は次のとおりです※。
試験内容 | ・相続税・贈与税の仕組み・財産評価・事業承継対策の手法・事業承継税制 |
試験時間 | 120分 |
出題形式 | CBT四答択一式50問 |
会場 | 全国共通のテストセンター |
合格基準 | 60%以上 |
学習方法 | Web講義 |
会場であるテストセンターの場所は、金融業務能力検定のマイページなどで確認できます。受験票は発行されないため、事前に日時や場所を正確に把握しましょう。
事業承継・M&Aエキスパート
事業承継・M&Aエキスパートは、Web講義や養成講座を受講せずに、試験のみの受験が可能です。主な試験内容は次のとおりです※。
試験内容 | ・事業承継関連税制など・事業承継関連法制など・M&A基礎知識・関連会計・M&A関連法制など・総合問題 |
試験時間 | 120分 |
出題形式 | 四答択一式30問、総合問題10題 |
会場 | 全国共通のテストセンター |
合格基準 | 総得点100点中、70点以上 |
学習方法 | 通信教育講座、試験問題集 |
事業承継・M&Aエキスパートの総問題数は40問であり、他の2つの試験と比較して出題数が少ないです。試験時間は120分で、合格基準は70点以上に設定されています。他の認定資格と比較すると合格基準の得点が高く、ケアレスミスを防ぐために丁寧な回答が求められます。
M&Aシニアエキスパートの資格を取得するメリット
M&Aシニアエキスパートの資格は、認定講座や試験のプロセスを経て取得することによって、様々なメリットが得られます。代表的なメリットを解説します。
M&Aの実務的な知識を身につけられる
M&Aシニアエキスパートの認定講座では、M&Aの総論、概要書の作成、マッチング、企業評価などM&A実務に関する具体的な知識を学べます。M&Aは譲渡企業と譲受企業を結び付け、法律・財務・税務の専門知識が必要となるため、実務的な知識を網羅的に学べる機会は貴重です。
M&Aの成約件数は、ここ10年で飛躍的に増加しました。一方で、M&Aを支援する人材は不足しています。M&A案件を取り扱うM&A専門業者、金融機関や会計事務所の担当者にとって、M&Aシニアエキスパートは有用な資格です。
M&Aに関する専門的知識を証明する
M&Aには、専門とする国家資格が現状ありません。M&Aシニアエキスパートの資格を取得すると、M&Aに関する高度な知識やノウハウを持つことを証明できます。クライアント獲得時に役立つ他、M&A業界への就職・転職にも活用できる資格です。
資格取得手当の支給を受けられる場合がある
M&A支援機関の企業の中には、M&Aエキスパート認定制度での資格取得に支援や手当の支給を行う企業が存在します。資格取得を支援する企業に在籍する方の場合、会社から支給されるお金をもとに自身のスキルアップを目指せます。
M&Aシニアエキスパート資格取得の流れ
M&Aシニアエキスパート資格は、受講者登録後、講義の受講と認定試験の受験を行います。資格取得の大まかな流れは次のとおりです。
1. 受講者登録
2. Web講義の受講申込み
3. Web講義の受講完了
4. 認定試験の申込み
5. 認定試験の受験、合格証の発行
受講者登録を行うと、検定サイトにマイページが作成されます。その後の講義の受講申込み、認定試験の申込みなどはマイページで手続きが可能です。
M&Aシニアエキスパート取得に関する注意点
M&Aシニアエキスパートは、M&Aに関する業務に役立つ資格です。取得する際は以下の点に注意しましょう。
受講料や受験料がかかる
M&Aシニアエキスパートでは、講義の受講と認定試験の受験それぞれに料金が必要です。
Web講義受講料 | 132,000円(税込) |
試験受験料 | 11,000円(税込) |
Web講義受講料と試験受験料を合計して、143,000円(税込)を支払います。Web講義受講料は講義の受講前、試験受験料は受験前に支払いが必要なため、覚えておきましょう。また、再受験する際は、改めて試験受験料11,000円(税込)を支払う必要があります。
Web講義には利用可能期間が定められている
Web講義の利用可能期間は、決済完了時点から13週間(91日間)です。期間内に受講を完了しないと、認定試験の受験に必要な修了証の発行を受けられないため注意が必要です。
まとめ
M&Aでは、譲渡企業と譲受企業のマッチング、条件合意、デューディリジェンスなど多くのプロセスを踏みます。民間資格であるM&Aシニアエキスパートは、講義と認定試験を通じて、M&Aに関する知識を網羅的に学べる点がメリットです。
M&Aの業務に関わる際、必ずしも国家資格を保有している必要はありません。しかし、専門資格を保有する事業者ほど、信頼度も高いといえるでしょう。fundbookには士業資格を持つ専門家の他、専門的知識が豊富なアドバイザーが在籍しています。M&Aや事業承継を検討している方は、ぜひfundbookにご相談ください。