一昔前なら「ハゲタカ」のイメージなど、M&Aの実施に対してマイナスのイメージもありましたが、近年、日本企業のM&A件数は大幅に増え、多くの経営者の方にとって身近なものとなってきました。
それは、大手企業だけではありません。中小企業やベンチャー企業の経営者も、経営戦略の1つの手段としてM&Aを積極的に採用しています。
本記事では日本企業のM&Aについて、近年の動向や増加している要因、実際に行われたM&Aの成功事例や失敗事例を紹介します。M&Aを成功させるためのポイントも解説していますので、M&Aで自社譲渡や他社譲受を検討されている方はぜひご一読ください。
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年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
目次
日本企業のM&A件数は増加傾向にある
日本企業のM&Aはここ30年で飛躍的に増え、近年も増加傾向にあります。
2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大により一時前年を下回ることもありましたが、基本的に日本企業のM&A件数は右肩上がりに推移し、2021年は件数ベースで過去最多を更新しました。
以前のM&Aは一部企業に限定的に採用される経営手法でしたが、現在では多くの日本企業の経営戦略上欠かせないものとなりつつあります。
なお、2021年の日本企業M&Aの内訳をみていくと、日本企業同士のM&AであるIN-IN型が全体の約8割を占めています。日本企業が外国企業に対してM&Aを行うIN-OUT型、外国企業が日本企業に対してM&Aを行うOUT-IN型などのクロスボーダー案件は、全体の約2割にとどまる結果です。
日本企業のM&Aが増加する3つの要因
日本企業でM&Aが増加する要因には国の政策的要因や市場の要因などさまざまなものがあります。
ここでは、3つの要因に焦点をあて、M&Aが増加する背景にあるものを解説します。
▷国内の業界再編
日本では、市場が成長期から成熟期へと移行する状態にある業界を中心に、M&Aを利用した業界再編が活発に行われています。
典型的な例が、調剤薬局業界です。
調剤薬局業界は、高齢化の進展で薬の需要の高まりが想定されると同時に、医薬分業が進んだことを受け、市場規模・新規出店数ともに成長を続けてきました。
しかし、ここ数年は上位10社による統合が進み、市場全体における上位企業の寡占率は増加傾向にあります。
同様の傾向は、運送業界や介護業界などでもみられます。このような国内企業による業界再編に向けた統合が、日本企業のM&A件数を押し上げている一因です。
▷中小企業の事業承継
一方、中小企業に目を向けると、M&Aによる事業承継が増加しています。中小企業のオーナーには団塊の世代が多く、後継者に問題を抱えていることが原因の1つです。従来の家族型中小企業では、後継者は子どもあるいは親族から選ばれるケースが多数を占めていました。
しかし、近年では親族から後継者を選ぶことが難しくなっており、M&Aを利用した第三者への事業承継が増加しています。
また、新型コロナウイルス感染症の拡大を始め、ビジネス環境は目まぐるしく変化しています。環境変化の影響により財務状況が悪化する中小企業も少なくありません。
そのため、M&Aを利用して大手企業へと事業を譲渡するケースも多くなっています。
▷ベンチャー企業に対するM&Aの増加
ベンチャー企業に対するM&A件数の増加も、日本企業のM&A件数が増えている一因です。
大手企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)実現のため、最新のテクノロジーを有するIT系のベンチャー企業を買収するM&Aはその一例でしょう。M&Aの活用により、比較的短期間で自社の体制改革や新規事業の立ち上げが可能となります。
また、ベンチャー企業の資金調達の手段としてもM&Aは盛んに活用されています。M&Aを実施することにより、ベンチャー企業のオーナーは創業者利益を得られるためです。
日本企業のM&Aの成功事例
ここからは、日本企業におけるM&Aの具体的な事例を解説します。成功の定義は立場や状況により異なりますが、ここではM&Aの結果、事業に好影響が出ていると見受けられるものをピックアップし、紹介します。
▷山之内製薬と藤沢薬品の合併で誕生したアステラス製薬の事例
まずは、大手企業同士の業界再編の事例をみていきましょう。
2005年4月、山之内製薬株式会社と藤沢薬品工業株式会社が合併し、アステラス製薬が発足しました。合併の背景にあったのは、グローバル競争の激化や研究開発費の増大、国内における薬剤費抑制策などです。
山之内製薬と藤沢薬品は合併することによりスケールメリットを享受し、研究開発費の確保による競争力の強化を図りました。山之内製薬と藤沢薬品の合併は多くのシナジーを生み、医療用医薬品事業への経営資源の集中や「がん」領域への注力などを実施した結果、合併の8年後の2013年3月期には売上高1兆円を達成しました。
▷JR九州の株式会社萬坊に対する第三者割当増資引受の事例
次に紹介するのは、中小企業が関連するM&Aの事例です。
2019年11月、九州旅客鉄道株式会社(JR九州)は、株式会社萬坊が行う第三者割当増資をすべて引き受け、同社を子会社化することを取締役会で決議しました。萬坊は、佐賀県唐津市で活魚料理店と水産物加工品の事業を営む中小企業です。1985年に「いかしゅうまい」がヒットするなど順調に業績を伸ばしていましたが、1990年代に開始したフグ養殖業の業績が思わしくなく、債務超過に陥っていました。
そこで萬坊は、M&AによりJR九州の子会社となることを決断します。JR九州のグループ会社となった結果、JR九州の販売網の活用により販路が拡大し、増資によりインフラ設備の改修が可能となるなど、多大なメリットを受けています。
日本企業のM&Aが赤字に繋がった事例
次に、M&Aを実施した結果として営業赤字が出てしまったり、当初の予測通りとはならなかったりした事例を3つ紹介します。
▷セブン&アイ・ホールディングスによるニッセンの買収の事例
2016年8月、株式会社セブン&アイ・ホールディングスおよびその子会社である株式会社セブン&アイ・ネットメディアは、株式交換により株式会社ニッセンホールディングスを完全子会社としたことを発表しました。
セブン&アイとニッセンは以前から資本業務提携を実施し競合他社との差別化を図っていましたが、ニッセンの収益が悪化し債務超過となる見込みがあったため、ニッセン側が事業と財務の両面からの経営支援をセブン&アイ側に要請し実現したM&Aです。ニッセンのカタログ通販事業はユニクロやしまむらなどのファストファッション、そしてネット通販の隆盛におされ、M&A後も売上高が減少しています。
結果、2021年2月期の連結決算でも、ニッセンに関する事業は営業赤字となっています。
▷DENAによるIEMOおよびペロリの買収の事例
2014年10月、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)はキュレーションプラットフォームを運営するiemo株式会社と株式会社ペロリの2つの中小企業を買収し子会社化したと発表しました。
DeNAはIT事業を中心に成長を遂げた企業です。住まい・インテリア分野に特化したキュレーションプラットフォームをもつiemoと、女性向けファッションに強みのあるキュレーションプラットフォームをもつペロリを買収することで、キュレーションメディア事業を拡大し新たな収益事業の確立を企図していました。
しかし、M&A実施から2年後の2016年、思わぬ事態が発生します。運営する健康情報サイト「WELQ(ウェルク)」で、掲載記事に医学的根拠のない内容が多く記載されていることが発覚したのです。
また、MERY(ペロリ運営)は画像盗用などの著作権侵害が常態化しており、それぞれ別の事情から閉鎖に追い込まれています。問題発覚後、DeNAの株価は2営業日連続で下落するなどの影響が生じ、最終的には守安功社長が謝罪会見を行う事態にまで進展しています。
▷グリーによるポケラボの買収の事例
2012年10月、グリー株式会社は戦略的業務提携を目的として、モバイルソーシャルゲーム事業を運営するベンチャー企業の株式会社ポケラボの株式を100%取得すると発表しました。
ポケラボは「やきゅとも!」や「サムライ戦記」などの人気ゲームを開発してきた実績をもつ企業です。その他にも「運命のランクバトル」や「三国INFINITY」など、App Storeランキングで上位に食い込む魅力的なモバイルソーシャルゲームを提供していました。
ゲーム事業を運営するグリーは、ポケラボのコンテンツ開発力を獲得し、自社の技術やノウハウとのシナジー効果を期待してM&Aに踏み切っています。 買収当初、売上高は順調に推移していましたが、ポケラボの業績は徐々に低迷し、2015年6月通期の連結決算では、ポケラボ株式の評価損として130億円を計上する結果となりました。
事例に学ぶ日本企業がM&Aを成功させるポイント
最後に、事例を踏まえたM&Aのポイントを解説します。M&Aにより自社譲渡あるいは他社買収を実施する際の参考にお役立てください。
▷M&Aによるシナジー効果を慎重に検討する
M&Aを実施する際には、M&Aでの事業連携や協業により、どのようなシナジー効果が得られるか慎重に検討することが重要です。
例えばアステラス製薬のケースでは、合併により多くの経営資源の獲得や研究開発費の捻出に成功し、その資源を新薬開発に重点的に配分した結果、「がん領域」という新たな収益の柱を獲得しました。
一方、セブン&アイとニッセンのように、当初期待していたシナジー効果が得られず、業績不振となる場合もあります。M&Aは成約がゴールではありません。販売シナジーや生産シナジー、投資シナジーや経営シナジーなどさまざまな視点からどのようなシナジーが得られるか事前に吟味する必要があります。
▷デューディリジェンスを徹底して行う
M&Aを実施する際には、得られる経営資源やシナジーの検討だけでなく、デューディリジェンスによる徹底したリスク管理も大切です。財務デューディリジェンスを慎重に行わなかったため、M&A成約後に簿外債務や偶発債務が発覚するケースなどは多く耳にする話です。
デューディリジェンスはM&A候補企業の資産価値を測り、リスクの調査をする重要な作業となります。必要に応じて、財務・法務・税務・事業・人事など包括的なデューディリジェンスを実施しましょう。
▷M&Aの専門家のサポートを検討する
上記のように、M&Aを実施する際にはシナジー効果の多角的な分析や最適なデューディリジェンスの実施など、専門的な知識を要します。
財務・税務・法務・労務などさまざまな分野の実務・知識が必要なため、当事者のみでM&Aを円滑に進めるのは容易なことではありません。
もし、M&Aで不明な点、困っている点などある場合は、M&A仲介会社やM&AアドバイザリーなどM&Aの専門家のサポート依頼を検討することも1つの手段です。
まとめ
日本企業のM&A件数は30年前にくらべ約8倍に達しており、右肩上がりに増加しています。理由は、日本の複数の業界で業界再編をにらんだ統合が進んでいること、中小企業において事業承継が増加していることなどが挙げられます。
M&Aは譲渡企業・譲受企業がそれぞれにさまざまな事情を抱えているため、一様ではありません。円滑に進めていくためには、財務・法務・税務などの専門的な知識も必要です。
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