個人M&Aとは、個人が譲受先となって実施される比較的小規模なM&Aのことです。起業したい若年層や退職金を利用するシニア層、副業が可能となった企業の会社員などを中心に、個人M&Aは広がりを見せています。
しかし、会社や事業を譲受するためには、譲受先の事業の理解や財務状況の確認など専門的な知識が必要です。個人M&Aに興味はあっても、「失敗してしまわないか」と不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、個人M&Aを考えていて失敗しないために準備をしておきたい方へ向け、個人M&Aにおける失敗事例や失敗しないために押さえておきたいポイントを解説します。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
個人M&Aの失敗事例
過去に行われた個人M&Aの事例を参考に、個人M&Aの仮想失敗事例として3つ紹介します。それぞれの事例について、会社や事業を譲受した流れや失敗の原因、成功するためのポイントを解説しています。事例の状況を具体的にイメージしながら、自身のM&Aの参考に活用してください。
●失敗事例1:ネイルサロンを譲受した女性の事例
譲渡会社 | 首都近郊、最寄り駅より徒歩1分の好立地にあるネイルサロン |
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譲受した個人 | 現在ネイルサロンに勤務していて、将来的な独立を考えている30代女性 |
事例の内容 | 条件交渉、基本合意とも問題なく進展し最終合意に至ったが、M&A成立後に簿外債務が発覚し、思わぬ損失を被ることに |
はじめに紹介するのは、ネイルサロンに勤務しており、独立のためにネイルサロンの譲受をしたAさんの事例です。
譲渡会社は2010年に開業し、10年以上の営業実績のあるネイルサロンで、立地条件が良く、経験のあるスタッフや多くのリピート客がおり、Aさんにとって魅力的に映りました。
ネイルサロンのオーナーの人柄もよく、問題なくM&Aが成立したのですが、実際にネイルサロンを経営し始めると思わぬトラブルが発生します。実は、最近導入したネイルの最新機器がリース契約となっており、多額の簿外債務があることが発覚したのです。Aさんは簿外債務があることを知らずにネイルサロンを譲受したため、思わぬ損失を被ることになりました。
失敗の原因
Aさんの失敗の大きな原因は、簿外債務の存在を知らず、財務状況をよく確認しなかった点にあります。簿外債務とは貸借対照表に計上されない債務のことです。
中小規模の会社ではリース取引の際に売買処理ではなく賃貸借処理を適用し、リース料の支払いの時点で費用計上することが多く存在します。そのため、表面的な確認ではリース債務の存在がわかりませんでした。また、Aさんが基本合意後にデューディリジェンスを実施しなかったことも失敗の要因です。
成功するためのポイント
M&Aを実施する際は、貸借対照表や損益計算書を十分に確認し、財務状況を精査することが大切です。特に、「退職給付引当金」や「リース債務」、「債務保証損失引当金」や「未払賞与」は簿外債務として問題となることが多い科目となります。
また、個人M&Aでも、デューディリジェンスの実施をおすすめします。範囲を狭めた簡易的なものでも構いません。デューディリジェンスを行って専門家の確認を経ることで、M&Aのリスク軽減が可能です。
▷関連記事:必ず確認しておきたい、貸借対照表に計上されない「簿外債務」とは
●失敗事例2:外構工事の施工会社を譲受した男性の事例
譲渡会社 | 地方で外構や外柵工事などのエクステリア工事を数十年続けてきた施工会社 |
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譲受した個人 | 地方へのIターンを考える大手ハウスメーカーの50代男性 |
事例の内容 | 男性は大手企業のノウハウを持ち、順調に経営が進むと思われたが、従業員が次々に退職してしまい、事業継続が困難となった |
2例目は、都内で大手ハウスメーカーに勤務しており、地方へのIターンのために現地の施工会社を譲受したBさんの事例です。
譲渡会社は黒字経営を続けているものの、後継者が不在のためM&Aによる事業承継を考えていました。Bさんは大手ハウスメーカーで外構や外柵、庭や駐車場などのエクステリア工事に関する業務に携わる実績を持っています。そのため、事業承継も順調にいくものと考えられていました。
しかし、実際はBさんの業務の進め方に従業員がついていけず、業務に熟練した従業員が次々に離職してしまい、事業継続が困難となってしまいました。
失敗の原因
Bさんの失敗の原因は、M&Aの成立やビジネスの成功だけを考え、従業員との関係構築に配慮しなかった点にあります。経営者の交代は、従業員にとっても自身のこれからの人生に影響を与えるほどの大きな問題です。いきなり今日からBさんが経営者であると言われても、簡単に受け入れられるものではありません。
また、大手企業と中小規模の会社では、企業風土も業務の進め方も根本的に異なります。Bさんは大手企業での業務の進め方をそのまま実行したため、従業員の心が次第に離れていき、失敗に至ってしまいました。
成功するためのポイント
個人M&Aの対象となる中小規模の会社において、従業員の人材的価値は高く、従業員の雇用継続はM&Aの成否にかかわる問題です。従業員の流出が発生しないよう、M&Aを進める段階から譲渡側・譲受側双方で協力して対応する必要があります。
例えば、M&Aでは従業員への配慮として、従業員の雇用維持や待遇維持を契約書に盛り込むのが一般的です。また、早期の段階で従業員へ説明会を開く、従業員とのコミュニケーションを密にするなど、従業員に対して細やかな配慮をすることが重要となります。
●失敗事例3:レンタルスペースを譲受した男性の事例
譲渡会社 | 設備、内装の整ったレンタルスペース |
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譲受した個人 | 副業的な収入を考える大手企業勤務の30代男性 |
事例の内容 | レンタルスペースであれば経営も簡単ではないかと考えていたが、特殊な事業形態を上手く引き継げず、顧客を失ってしまった |
3例目は、所属する企業で副業が解禁されたことを受け、レンタルスペースを譲受したCさんの事例です。
譲渡側の経営者によると、リピーターの顧客も多く、掃除を外注しさえすれば経営にかかる労力はほとんどかからないということでした。実際のところ、レンタルスペースはTCG(トレーディングカードゲーム)特化型という特殊な事業形態で運営されており、顧客はTCGに関するさまざまな備品やグッズにも魅力を感じ、当該レンタルスペースを利用していました。
CさんはTCGに関する知識がなく、顧客のニーズに応えることができなかったため、顧客を失い、希望する売上を達成できませんでした。
失敗の原因
Cさんの失敗の原因は、譲受した事業に対する理解が足りず、その事業が収益を生み出すビジネスモデルを把握していなかった点にあります。今回の事例では、レンタルスペースの収益はTCGファンのリピーターに大きく依存しています。顧客のニーズに対応するためには、TCGへの理解や情報発信、TCGに関する最新の備品・グッズの購入などが必要でしょう。
譲渡側の経営者の話をそのまま受け取り、事業への理解を深めることなく譲受したCさんは、結果的に事業の失敗に至ってしまいました。
成功するためのポイント
個人M&Aで事業を譲受する場合、対象事業のビジネスモデルを理解することはとても重要です。譲受事業のビジネスフロー、事業の中身、収益が生まれる仕組みを事前に調査する必要があります。
ビジネスモデルを理解するためには、対象事業のみを把握するだけでは不十分です。どのような仕入先や取引先があり、どのような顧客が利用しているのか、事業を総合的に理解することが重要となります。なお、必要に応じてビジネスデューディリジェンスを実施するなど、専門家の助けを借りる選択肢もあります。
個人M&Aで失敗しないために押さえておきたいポイント
個人M&Aで失敗しないためには、どのような点について配慮すればよいのでしょうか。今回紹介した事例を踏まえ、3つの視点から押さえておきたいポイントを解説します。
●信頼関係の構築が極めて重要
M&Aでは、会社や事業そのものだけでなく、従業員や役員など、人的資源も同時に引き継ぎます。特に事業が小さければ小さいほど、事業における人的資源の価値は大きな割合を占めます。したがって、取引先との関係も含め、従業員との信頼関係の構築は極めて重要です。前経営者とも、事業の引継ぎや経営へのアドバイスなど十分にコミュニケーションをとることをおすすめします。
●財務状況を詳細まで確認
M&Aで会社や事業を譲受する際には、譲受する会社・事業の財務状況の詳細な確認は必須です。会社の資産や負債を把握できる「貸借対照表」、会社の利益が記載されている「損益計算書」、会社が持つキャッシュの流れを確認できる「キャッシュフロー計算書」を細部まで調査し、どのような財務状況にあるか事前に確認しておきましょう。
●将来的なビジョンの策定
M&Aは会社や事業を譲受して終わりではありません。M&Aの成約は言わばスタート地点であり、会社や事業を譲受した後の経営が大切です。今後の経営方針や事業を遂行する体制など将来的なビジョンを早期に策定し、従業員とも共有して経営を進めていく必要があります。
個人M&Aでわからないことは専門家に相談
ここまで解説してきたように、M&Aにはさまざまな注意点があり、場合によっては失敗に至ってしまうケースも存在します。特に比較的小規模な事業が対象となる個人M&Aでは、貸借対照表や損益計算書などの財務状況を示す書類の作成が不十分である事業者も多く、情報が不足してしまう場合もあります。
個人M&Aでわからないことがある場合には、M&Aの専門家に相談することも選択肢の1つです。M&Aサポートのサービスを提供する会社には、M&A仲介会社があります。M&A仲介会社では、M&Aの初期的な悩みから相談にのってもらえ、M&Aアドバイザーの協力のもと自身の希望する条件に適したM&Aを実施できます。
▷関連記事:M&Aアドバイザーとは?業務内容と手数料、その必要性について
まとめ
個人M&Aを実施する際には、事業を譲受するときにどこにリスクが存在し、どのような点に注意しなければならないか、事前の把握が重要です。
今回は、3つの事例について、その失敗の原因と成功するためのポイントを解説しました。簿外債務の存在や従業員との関係構築、ビジネスモデルの理解など、M&Aを実施するには配慮すべき課題が複数存在します。
もし個人M&Aを検討しているなら、一度fundbookまでご相談ください。fundbookではM&Aの豊富な経験を持つM&Aアドバイザーのもと、M&Aの方針から成約まで一貫したサポートを行っています。M&Aの初期的な相談は無料で実施していますので、ご気軽にお問い合わせください。