昨今、M&Aが経営戦略として行われるようになっています。M&Aを行う目的は企業によってさまざまですが、近年では「ブランドM&A」とも呼ばれる、ブランド力の譲受けを目的としたM&Aが注目されています。ブランドの譲受けを目的としたM&Aには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
本記事では、ブランド譲受けの動向や効果、成長戦略の視点からみたブランドM&Aの価値などについて、わかりやすく解説していきます。
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M&Aにおけるブランド譲受けの動向
特定の商品において、高いニーズや認知度を誇るブランドは、そのネームバリューの獲得を目的として、以前からM&Aの対象とされてきました。また、昨今では市場の成熟に伴い、ブランドを譲受けるM&Aが注目されるようになりました。
例えば、90年代に大塚ホールディングス株式会社が「クリスタルガイザー」を展開する米国の飲料水メーカーのクリスタルガイザーウォーターカンパニーに資本参加しました。
また、2015年には米国の香水化粧品大手コティが、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)より43のビューティー関連ブランドを譲受けました。この譲受けの対象には、ヘアケアの「ウエラ」やコスメブランドの「マックス ファクター」、「ドルチェ&ガッバーナ」「グッチ」の香水などの名だたるブランド名が連なります。
国内においても、アサヒグループホールディングス株式会社が味の素株式会社から2012年に「カルピス」を譲受けました。
こうした「ブランドM&A」が増えてきた背景には、どのような理由があるのでしょうか。
なぜ「ブランドを譲受けるM&A」を行うのか?
ブランドを譲受けるM&Aが盛んになってきた背景には、国内市場の成熟が大きな要因として挙げられます。一般的に市場が成熟すると新たなブランドを確立することは難しくなります。
例えば、飲料業界ではすでに地位を築いたブランドが多く、小売店ではロングセラー商品が売り場を大きく占めているため、新たなブランドを育成することは難しいといえます。上述の「カルピス」の例では、アサヒグループホールディングス社は、カルピスのブランド力を高く評価し、更なる拡大を行う目的で譲受けました。
また、成熟した国内市場から脱し更なる成長を図るために、海外進出をする際にもブランドを譲受けるM&Aが活用されます。多くの場合、海外市場において一からブランドを築くことは時間がかかる上、難しいといわれます。そこで、すでに特定の国や地域に高い認知度があるブランドを譲受けることで、時間を短縮してブランドを展開できるのです。
例をあげると、2014年にサントリーホールディングス株式会社がジムビームを展開する米国のビーム社を譲受けました。
また、他社のブランドをライセンス契約などで使用する際には、ライセンス契約の解除によってブランド名を使えなくなる可能性があります。
実際に、株式会社三陽商会は英アパレルブランド「バーバリー」とのライセンス契約が2014年5月に終了したことをもって、それまで国内で展開していた「バーバリー・ブルーレーベル」、「バーバリー・ブラック レーベル」はそれぞれバーバリーの名称を使うことができなくなり、「ブルーレーベル」、「ブラック レーベル」として展開することとなりました。
ブランドを譲受けることで、こうしたライセンス契約と異なり、自社での長期的・継続的なブランド醸成が見込めます。
では、実際にブランドの譲受けを実施した場合、どのような効果を見込むことができるのでしょうか。
ブランド譲受けは効果があるのか
ブランド譲受けによって見込める主だったメリットには、以下のようなものがあります。
販路の獲得
知名度の高いブランドを譲受けることによって、流通の準備や市場開拓にかける時間やコストの大幅な削減が見込めます。新規ブランドを成功させるためには綿密な計画はもちろんのこと、人材や製造ライン、市場の開拓などが重要です。ブランドを譲受けることで、既存の知名度や販路を活用できるため、効率的なブランド展開が見込めます。
既存ファンの獲得
ブランド譲受けのメリットには、そのブランドの既存ユーザーやファン層を獲得できる点にもあるでしょう。上記で挙げた効率的なブランド展開だけでなく、すでに購買意欲を持った顧客を譲受けによって獲得できるメリットは大きいといえます。また、譲受けたブランドのファン層へ、自社の別事業や製品を知ってもらえる可能性も高まります。
成長戦略におけるブランドの重要性と価値
最後に、企業の成長戦略におけるブランドの重要性についても見てみましょう。成長戦略という視点からブランドを見ることで、そもそもなぜブランドが大事か、という点についても明確化できます。
一般的に昭和や平成の初期にはテレビやパソコン、ゲームなど、これまでにない新しい製品に多くの人が価値を見出し、個別の商品のブランド力は非常に重視されていたわけではありませんでした。しかし、現在ではあらゆる市場が成熟し、多様な選択肢の中から1つの商品を選ぶ時代になりました。
こうした購買行動の変化に伴い、他の製品との差別化などによって商品にブランド力を持たせることが企業の成長戦略に有効になってきました。例えば、アパレル商品では衣服の耐久性や価格といった部分のみではなく、どこの企業の商品であるか、その商品に対するイメージがどのようであるかといった側面が重視されることも多々あります。
こうした「他の製品にない独自性」などを得ることは、一朝一夕には難しいものです。そのため、企業の成長戦略において、このブランド力をM&Aで短期に獲得できることは、非常に魅力的であるといえるでしょう。
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まとめ
M&Aにおいて、ブランド力を譲受けることを目的とした「ブランドM&A」が近年活発になってます。その理由としては、販路や既存のファンを獲得したりできるいったメリットが挙げられます。競合他社の製品との差別化を図り、競争力をつけるためにもブランドM&Aは有効といえるでしょう。