M&Aでは、M&A会社に支払う成功報酬の計算でレーマン方式が採用されるケースが多くあります。
M&Aでは譲受企業の買収費用や買収に伴う税の支払いなど多くの費用が伴うため、費用の見積もりが欠かせません。
レーマン方式を知っておくとM&A会社の利用にかかる大まかな費用を事前に確認でき、とても便利です。
本記事ではレーマン方式の仕組みから基準額の種類、種類ごとのモデルケースを紹介します。
レーマン方式のメリットとデメリット、レーマン方式を採用する会社を活用するときのポイントも解説するので、これからM&Aを検討する経営者の方はぜひ参考にしてください。
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目次
M&Aのレーマン方式とは
レーマン方式とは、M&A仲介会社やM&Aアドバイザリーなど、M&Aの専門家に支払う成功報酬の計算で一般的に用いられている方式です。レーマン方式では、基準額(譲渡の対象となる資産額)に一定の手数料率をかけて計算されます。
計算式で表すと以下のとおりです。
・成功報酬 = 基準額 × 手数料率
上記のように、レーマン方式は成功報酬の金額をわかりやすい計算式で算出できる特徴があります。
M&Aのレーマン方式における基準額の種類と決め方
レーマン方式の基準額は、M&Aにより譲渡された資産額などが用いられます。
対象となる範囲は各M&A会社の規定や契約内容により変化するので、事前の確認が重要です。
一般的に、レーマン方式の基準額には以下の4つの種類があります。
・株式価値基準
・オーナー受取額基準
・企業価値基準
・移動総資産基準
それぞれについて以下で詳しくご紹介します。
▷株式価値基準
株式価値基準とは、M&Aで譲渡された株式の金額を基準額とする方法です。
M&Aでは譲渡企業から株式が譲受企業に譲渡される「株式譲渡」の手法がよく採用されますが、株式価値基準では譲渡された株式の金額をそのまま基準額とします。
株式価値基準は、基準額の決め方としては成功報酬が抑えられやすい側面があります。
▷オーナー受取額基準
オーナー受取額基準とは、譲渡された株式の金額に「役員借入金」などを加えて基準額とする方法です。
会社によっては、運転資金として会社が会社の経営者や親族からお金を借りているケースがあり、これを役員借入金と呼びます。一般的に、役員借入金はM&Aの際に会社の経営者へ返済される場合が多くなっています。
そのため、オーナー受取基準では役員借入金も基準額の範囲とし、報酬の対象としています。
▷企業価値基準
企業価値基準とは、譲渡された株式の金額に「有利子負債」を加えて基準額とする方法です。
有利子負債には、銀行からの借入金(銀行借入金)などがあります。会計的にみると、会社の価値を「株式の金額」と「有利子負債」で測るのは一定の妥当性がある方法です。
ただし、金融機関からの借入金の多い業種・業態の会社では成功報酬が大きくなってしまうデメリットがあります。
▷移動総資産基準
移動総資産基準とは、譲渡された株式の金額に負債総額(有利子負債にその他の負債などを加えたもの)を加えて基準額とする方法です。
有利子負債以外の負債には、買掛金や未払金などがあります。移動総資産基準は、M&A会社でも採用されている方法です。
モデルケースで見るM&Aのレーマン方式の計算法
レーマン方式で実際にどれくらいの成功報酬となるか知るために、モデルケースを参考に具体的な例を紹介します。
今回説明に使うモデルケースは以下のとおりです。
・譲渡された株式の金額が10億円の会社
・役員借入金が2億円
・銀行借入金が5億円
・買掛金や未払金などその他の負債が3億円
手数料率は、先述した一般的なケースを採用します。
また、前項で紹介した基準額を簡単に表でまとめると以下のようになります。
基準額の種類 | 対象となる範囲 |
---|---|
株式価値基準 | ・譲渡された株式の金額 |
オーナー受取額基準 | ・譲渡された株式の金額 ・役員借入金 |
企業価値基準 | ・譲渡された株式の金額 ・有利子負債(役員借入金や銀行借入金など) |
移動総資産基準 | ・譲渡された株式の金額 ・負債総額(役員借入金や銀行借入金、買掛金や未払い金など) |
基準額の種類ごとに、モデルケースの場合の成功報酬の例を紹介します。
なお、今回は役員借入金を有利子負債として計上しています。
▷株式価値基準
株式価値基準では、譲渡された株式の金額「10億円」が基準額となります。
レーマン方式では、基準額の金額に応じた部分に手数料率を以下のように乗じて成功報酬を計算します。
基準額と手数料率 | 計算式 | 成功報酬 |
---|---|---|
5億円以下の部分:5% | 5億円 × 5% | 2,500万円 |
5億円超10億円以下の部分:4% | 5億円 × 4% | 2,000万円 |
成功報酬の合計 | — | 4,500万円 |
上記のように、基準額の10億円を「5億円以下の部分」と「5億円超10億円以下の部分」に分け、それぞれに対応する手数料率をかけて計算します。
結果、今回のモデルケースの株式価値基準における成功報酬は4,500万円となります。
▷オーナー受取額基準
オーナー受取額基準では、譲渡された株式の金額10億円と役員借入金2億円の合計「12億円」が基準額となります。
今回のモデルケースにおける成功報酬の例は以下のとおりです。
基準額と手数料率 | 計算式 | 成功報酬 |
---|---|---|
5億円以下の部分:5% | 5億円 × 5% | 2,500万円 |
5億円超10億円以下の部分:4% | 5億円 × 4% | 2,000万円 |
10億円超50億円以下の部分:3% | 2億円 × 3% | 600万円 |
成功報酬の合計 | — | 5,100万円 |
オーナー受取額基準の成功報酬の例は5,100万円です。
株式価値基準に比べ、600万円増えていることがわかります。
▷企業価値基準
企業価値基準では、譲渡された株式の金額10億円と有利子負債7億円(役員借入金2億円と銀行借入金5億円)の合計「17億円」が基準額となります。
これまでの基準額と同じように計算してみましょう。
基準額と手数料率 | 計算式 | 成功報酬 |
---|---|---|
5億円以下の部分:5% | 5億円 × 5% | 2,500万円 |
5億円超10億円以下の部分:4% | 5億円 × 4% | 2,000万円 |
10億円超50億円以下の部分:3% | 7億円 × 3% | 2,100万円 |
成功報酬の合計 | — | 6,600万円 |
今回のモデルケースにおける企業価値基準の成功報酬例は6,600万円です。
同じ会社のM&Aでも、どの基準額を採用するかで成功報酬に違いが出ることがわかります。
▷移動総資産基準
最後は、移動総資産基準によるレーマン方式の計算です。
移動総資産基準では、譲渡された株式の金額10億円と有利子負債7億円にその他の負債3億円(買掛金や未払い金など)を合計した「20億円」が基準額となります。
基準額と手数料率 | 計算式 | 成功報酬 |
---|---|---|
5億円以下の部分:5% | 5億円 × 5% | 2,500万円 |
5億円超10億円以下の部分:4% | 5億円 × 4% | 2,000万円 |
10億円超50億円以下の部分:3% | 10億円 × 3% | 3,000万円 |
成功報酬の合計 | — | 7,500万円 |
移動総資産基準の成功報酬の例は7,500万円です。
なお、M&A会社のなかには成功報酬以外に着手金や月額報酬などを設定している場合もあります。
M&A会社に支払う手数料を計算するときには、別途費用の確認も必要です。
M&Aにおけるレーマン方式のメリット
M&Aの報酬計算にレーマン方式を採用している会社を選ぶ場合、いくつかのメリットがあります。
主なメリットは以下の2つです。
・M&Aにおける手数料などの経費が事前に把握できる
・報酬体系が公平
各メリットの詳細を解説します。
▷M&Aにおける手数料などの経費が事前に把握できる
レーマン方式は基準額に料率をかけて比較的簡単に計算できるので、事前に手数料などの経費を把握できる点は大きなメリットです。
先述のように、M&A会社によっては着手金や月額報酬など別途費用が求められる場合も多くありますが、レーマン方式による成功報酬制の会社であれば、大まかな手数料を確認しやすく、M&Aの計画も立てやすくなります。
▷報酬体系が公平
レーマン方式は基準額に応じて料率を変化させており、大企業であっても中小企業であっても不公平が起こりにくい報酬体系となっています。
一般的に、M&A会社から提供されるサービスは、企業の規模にかかわらず同様のものです。そのため、一定の手数料率で計算する方法の場合は、大企業ほど手数料が嵩んでしまうケースがあります。
一方、報酬体系を固定額としてしまうと、規模の小さい企業で不公平感が出てしまいます。これは、同じ業務内容であっても、規模が大きいほど業務量が増えるためです。
そのため、M&Aの案件規模に応じて手数料率が逓減していくレーマン方式が多く採用されています。
M&Aにおけるレーマン方式のデメリット
レーマン方式のデメリットは、小規模のM&Aの場合で手数料負担が大きくなるケースがある点です。M&Aでは、規模の大小に関わらず、一定の業務が必要となります。
例えば、M&Aの戦略策定やマッチング、弁護士や税理士などの専門家紹介などにかかる業務は小規模M&Aでも発生し、かかる費用は変わりません。
そのため、M&A会社によっては最低報酬金額を定めているところも多くなっています。
レーマン方式でM&Aを成功させるポイント
レーマン方式はM&Aにかかる手数料を把握しやすく、比較的公平性が保たれた報酬体系です。
ただし、同じレーマン方式を採用しているM&A会社であっても、詳細では異なる場合があります。
ここでは、レーマン方式を採用するM&A会社を活用する際に、M&Aを成功裏に進めるためのポイントを紹介します。
▷基準額により手数料の金額が変わる点に配慮する
モデルケースの部分で紹介したように、レーマン方式は基準額により手数料の金額が変わります。
また、成功報酬の他にも、着手金や月額報酬、中間報酬など別途費用を設定しているM&A会社も多く存在するので、M&Aの費用を見積もる場合には、契約内容の詳細を確認しておきましょう。
▷成功報酬の「最低保証額」を確認する
レーマン方式を採用しているM&A会社では、最低保証額を設定している場合があります。
先述のように、小規模なM&A案件であってもM&A会社が提供するサービスの項目にはあまり違いがなく、一定の費用がかかるためです。株式価額が5億円を下回るようなケースでは、最低保証額の有無を確認しておくと良いでしょう。
▷消費税を確認する
M&A会社に支払う成功報酬には、消費税がかかるので注意してください。
例えば、500万円の成功報酬を支払う場合、10%(2022年時点)が課税されて総額550万円を支払うことになります。
成功報酬を見積もる場合には、レーマン方式で算出した金額に消費税分を加算して予算を計上するようにしましょう。
▷契約書の詳細を確認する
同じレーマン方式が採用されているM&A会社でも、適用されるレーマン方式の手数料率や基準額の範囲、最低保証額の設定などには違いがあります。
月額費用、着手金などの別途費用が設定されている会社もあるので、契約書は詳細まで確認することをおすすめします。
まとめ
レーマン方式とは多くのM&A会社が採用している成功報酬の算定方式です。
成功報酬の計算がしやすく、事前に大まかな費用を把握できるメリットがあります。また、報酬体系が比較的公平な点も利点です。
ただし、M&A会社の報酬体系は各会社で詳細が異なり、着手金や月額報酬が設定されている場合や基準額が異なる場合もあるので、事前の確認が大切です。