業界再編とは、業界内の勢力図が再度編成される出来事のことです。業界再編を行う方法にはM&Aや提携・経営統合などがあり、成長段階によって再編が起きやすいタイミングが異なります。
そこで今回は、業界再編について深く知るために、業界におけるライフサイクルや業界再編が起こるタイミングをご紹介します。業界再編を行うメリット・デメリットや事例にも触れますので、ぜひ参考にしてみてください。
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M&Aをご検討の方はもちろん、自社をもっと成長させたい方やIPOをご検討の方にもお役立ていただける資料ですので、ぜひご一読ください。
業界再編M&Aとは
業界再編とは、業界内の有力企業が合併・買収を繰り返し、業界構造を変化させながら新たなビジネスに挑戦すること。業界再編に用いられる主な手法は、以下のとおりです。
・M&A
・経営統合
自社企業の成長を図るなら、業界内の動向を観察し、必要であれば業界再編の流れに乗る選択肢も出るでしょう。業界再編時の対策次第で、大企業へと成長するか衰退するか、分かれ道となる可能性が高まります。
適切なタイミングで対応をするためにも、自社が属する業界の勢力図は常に把握しましょう。
業界再編に関する知識を得ることは、業界で生き残る大切な要素といえます。
業界における4つのライフサイクル
事業全体のライフサイクルを把握すれば、業界再編の起きやすい時期を知ることができます。
ライフサイクルとは、製品やサービスが世に出回り衰退するまでの流れのこと。
流れは4期にわけられるので、それぞれ解説します。
1.導入期
2.成長期
3.成熟期
4.衰退期
1.導入期
各企業のサービスや製品を市場に参入させるタイミングが、導入期です。導入期では認知度が低いため、需要もそれほど多くありません。よって、参入企業は以下の対策が必要です。
・顧客の獲得
・認知拡大を目的とした広報
企業数が増え、業界内におけるトップ10社のシェア率が10%を超えると、成長期へと移行します。
2.成長期
成長期は、企業成長の伸びしろが最も大きい時期です。市場での認知度上昇に比例して、利益も大幅に上がります。
一方で、後参入の企業も成長する時期であり、価格競争は避けられません。中小企業は生き残りをかけて、ホールディングス化を検討する時期でもあります。大企業であれば、中小企業の買収を検討するタイミングといえるでしょう。
成長期でM&Aを検討する場合、売却側の株価は高値となるケースが多く見受けられます。
この時期で再編を検討する主な業界は、以下のとおりです。
・IT
・建設・不動産
・医療・介護
・運送
企業価値が最も高い時期でもあるため、今後の成長を図る中小企業の経営者は、M&Aの選択も視野に入れましょう。
3.成熟期
成熟期には製品やサービスも世間に周知され、企業成長のスピードは緩やかになります。成長度合いをグラフで表すとすれば、成熟期はグラフの一番高い位置です。
この時期には大企業と中小企業の間に格差が生まれ、統合する企業も増えます。たとえば「地方で大きなマーケットシェアを誇っていた中小企業が大企業に統合され、全国チェーンの傘下として参入する」ということが生じます。
中小企業の価値は次第に下がる傾向にあるので、売却の価格も成長期よりは期待できないでしょう。
中小企業が事業存続に向けたM&Aを狙う場合は、成熟期が最後のタイミングといえます。
4.衰退期
業界内上位10社が、マーケットシェア率70%以上を占めた状態になれば衰退期に進みます。
衰退期には上位企業内で統合が行われるため、中小企業のM&Aはごくわずかです。
この時期のM&Aは、上位10社の中で行われることがほとんどでしょう。統合された上位企業と他企業の間には格差が広がり、上位4社のマーケットシェアが90%を超えた段階で、国内での事業再編は終了します。事業再編終了後、業界によっては海外展開や異業種参入が加速する事例もあります。
業界再編M&Aが発生するタイミング
事業再編が起こるタイミングには特徴があります。
1.好景気
2.不祥事
3.技術革新
4.規制改革
5.業界内のリーダー企業決定
6.異業種の新規参入
7.中堅企業・大手企業の統合
1.好景気
好景気であれば、多くの企業が事業規模の拡大を行います。なぜなら好景気の間は人々の消費行動が積極的になり、商品やサービスの売れ行きが向上するため。
企業としても商品が売れる間に事業を拡大して、より多くの利益を得たいと考えるでしょう。機会を見極めて経営基盤を固めることで、景気変動のリスクを減らせます。
2.不祥事
企業内で不祥事が起こると、売上や企業ブランドイメージの低下など不利益が生じます。業績が悪化すれば事業を存続できないため、他社に買収されることで会社の存続を図ることもあります。
不祥事によってイメージダウンしても、買収後の取り組み次第では回復も望めるでしょう。イメージ存続のためにも、業界編成によるM&A導入のタイミングは重要です。
3.技術革新
IT化や、新規の特許・特許切れなどによる業界構造の変化によりM&Aが行われるケースがあります。わかりやすく、Googleを例に挙げましょう。2013年2月に、Googleは株式会社フィジオスを買収しています。フィジオスは、東京大学で開発された物理シミュレーション技術を応用して、スマートフォンやタブレット向けのアプリ提供をしていた企業です。最新技術が大手企業の目に留まれば、M&Aによる企業成長を期待できます。
4.規制改革
法の改正や税制の改革など、国の取り組みによって業界再編が行われることもあります。たとえば、2017年に行われた太陽光発電業界におけるFIT法の改正があります。「売電権利のみ」「メンテナンス事業なし」への規制が厳しくなったため、改善できない企業はM&Aを選択しています。業界再編の動向には、国や政府の取り組みにまで目を向ける必要があるでしょう。
5.業界内のリーダー企業決定
成長期の段階では、業界のリーダーとして統率する企業が現れる可能性があります。中小企業がリーダー的存在の企業の考えに賛同し、M&Aを進めれば、業界再編の動きが活発になるでしょう。業界内で成長速度の速い企業は、将来のリーダーになる可能性を加味し、動向を把握しておく必要があります。
6.異業種の新規参入
市場拡大を狙って業界への参入ハードルを下げると、異業種(関連業種)の動きが活発になります。
たとえばドラッグストア業界は、改正薬事法施行によりコンビニやスーパーなどの異業種からの新規参入が増加し、事業再編が加速しました。異業種の参入は、上記で紹介した規制改革もきっかけの一つになります。
7.中堅企業・大手企業の統合
業界内で大きなシェア率を誇る上位企業同士が統合すると、業界再編が活発になることもあります。また、中堅企業同士の統合により上位の企業を脅かす存在になった場合も同様です。
理由としては、企業競争に対抗するための手段としてM&Aが加速するからです。一つのM&Aがきっかけで、業界再編に繋がる可能性があることを理解しておきましょう。
業界再編M&Aのメリット・デメリット
業界再編は、譲受・譲渡企業の両方にメリットとデメリットがあります。下記に両者の特徴をまとめました。
メリット | デメリット | |
譲受企業側(買手) | ・時間とリスクの削減 ・業界内でのシェア率の向上 | ・株価の下落・売上の低下 |
譲渡企業側(売手) | ・自社の存続・経営基盤の安定 | ・従業員の離職 |
譲受企業(買手)としては、同業界の企業を取り込めるため時間とリスクの削減ができます。
たとえば、都内で事業を行う大企業が、地方でシェアを伸ばす同業界の企業を買収するとしましょう。
買収により、進出エリアに人材を割く手間が省けます。譲渡企業の顧客を保持できるので、さらなる事業拡大も期待できるはずです。
買収のメリットは大きいものの、譲渡企業の経営状況や負債内容は細かく調査しましょう。少ない情報での買収は、リスクを抱える可能性があります。買い取った企業に負債があれば資産がなくなるだけでなく、株価暴落の危機にまで追い込まれかねません。
譲渡企業(売手)にとっては「会社がなくなる=デメリット」と感じることもあるでしょう。しかし、譲渡によって自社が存続すれば、従業員を守れます。
また、M&Aにより「経営基盤が安定=株価が安定」すれば、株主へのメリットにもなります。
対してデメリットは、企業トップ変更への不満から生じる従業員の離職。
M&A実施の際には、統合後に大量離職が起こらないように従業員のケアを行うことも大切です。
業界再編M&Aの起こりやすい業界
業界再編におけるM&Aの取り組みは、前述で紹介した「業界のライフサイクル」における成長期や成熟期で盛んです。2023年現在、成長期や成熟期にM&Aを実施する主な業界は、下記のように考えられます。
・IT業界
・建設業界
・設備工事業界
・介護業界
・運輸業界
・ドラッグストア業界
該当する業界の多くは、人材不足が懸念されています。業界の成長速度が早く、需要と供給のバランスが取れていないのが要因です。人材不足や成長速度は、業界再編が盛んである成長期に多くみられることから、業界の成長段階である証拠といえるでしょう。
業界再編M&Aの事例
ここからは、業界再編のためにM&Aを行った2社の事例を紹介します。
【建設業界】前田工繊株式会社と株式会社セブンケミカル
前田工繊株式会社は東京都港区に本社を構え、土木・建築資材や寝具、マスクなどに使われる不織布を製造・販売する企業です。建設業界でのシェア拡大を目指すため、外壁用の防水材や仕上げ材の製造・販売を行う「株式会社セブンケミカル」を子会社化しました。
建設業界は新規建築数の増加とともに、建物の老朽化対策としてリフォーム工事の需要が緩やかに拡大しています。そこで前田工繊は、業界再編M&Aを実行しました。
セブンケミカルの防水材や仕上げ材の防水、防汚、防滑、遮熱機能を取り込み、さらなるシェア拡大を図ったのです。
【ドラッグストア業界】ココカラファインとマツモトキヨシ
近年でのドラッグストア業界は成熟期に入っており、大企業同士の企業統合が増加傾向に。統合企業の代表例として、全国に1,000店舗以上を展開するマツモトキヨシが挙げられます。
商品の共同開発や販促戦略のデジタル化などで他社との差別化を図るため、同業界の「ココカラファイン」と経営統合しました。差別化戦略の内容は、以下のとおり。
・商品の共同開発
・販促戦略のデジタル化
ドラッグストア業界は、コロナ禍によるインバウンド需要の低下により、売上の低下が顕著でした。その中で、マツモトキヨシとココカラファインは、経営統合により店舗数を拡大。店舗数では、業界1位(2022年3月時点)となりました。
まとめ
今回は業界再編に関して、業界全体のライフサイクルを踏まえた動向やメリット・デメリットをご紹介しました。業界再編はライフサイクルの変動に伴うため、頻繁にM&Aや企業統合が行われます。
機会を逃さないためにも、業界のライフサイクルの把握は重要です。業界再編の流れに負けないためには、何かしらの対策が必要となります。対策の一つとしてM&Aがありますので、企業成長を図る際に利用するとよいでしょう。