昨今、事業を承継したいが後継者が見当たらず、事業を存続させることが難しいと今後の行く末を悩んでいる企業は全国にたくさんあります。
そのような状況をうけ、M&Aの手法の一つである合併が事業の継続や取引先、従業員の雇用を守るための手段として注目を集めています。
合併には、「新設合併」と「吸収合併」があります。実務においては、新設合併は事業に必要な許認可の取得など手続きが複雑になるため、吸収合併が多く活用されています。
すべての事業や権利義務、債務を承継してくれる吸収合併を進めるうえで、基礎知識として知っておくべきポイントは数多く挙げられます。
あらかじめそれらのポイントに対しての理解を深めることで、専門家に相談する際にもスムーズなやり取りができるでしょう。ここでは、吸収合併の際に必要となる知識である「のれん」について説明します。
なお、本記事においては、吸収合併を行った後に存続する会社を合併会社、吸収合併を行った後に消滅する会社を被合併会社とします。
上場企業に負けない 「高成長型企業」をつくる資金調達メソッド
本資料では自社をさらに成長させるために必要な資金力をアップする方法や、M&Aの最適なタイミングを解説しています。
・縮小する日本経済市場を生き抜くために必要な戦略とは?
・まず必要な資金力を増強させる仕組み
・成長企業のM&A事例4選
M&Aをご検討の方はもちろん、自社をもっと成長させたい方やIPOをご検討の方にもお役立ていただける資料ですので、ぜひご一読ください。
合併時に発生する「のれん」とは?超過収益力がポイント
合併を行う際の譲渡金額を算定する上で重要な「のれん」とは、事業を承継する「合併会社」が、「被合併会社」の資産額を上回って支払ったプレミアム分の差額を指します。
例えば、合併時に「合併会社」が純資産20億円の「被合併会社」を25億円で譲り受けたとします。「被合併会社」の有する純資産に対して5億円もプレミアム分を上乗せして譲り受けたのでしょうか。
これは単純に簿価(帳簿価額)では計れない、「被合併会社」のブランド力や技術力、人材資源などの無形固定資産を加味して算出した価額(買収金額)であり、この差額がのれんということになります。そのため、のれんは超過収益力と説明されることもあります。
つまり、吸収合併によりその後の相乗効果(シナジー)が生み出せるかを見定めることが、合併会社にとっての重要な指標であり、双方の債権者の理解を得るためにも大きなポイントとなります。
合併時に「のれん」として計上される項目
それでは、一般的にのれんは「被合併会社」のどのような要素が対象となるのかを解説していきます。
のれんとして計上されるものに関して明確な取り決めはありませんが、主に以下のような項目がのれんとして扱われます。
- ブランド
業界や社会において、会社の知名度や社会的信用など有するブランド力に対する評価
- 技術力・独自性・優位性
会社の有する技術力やノウハウ、独自性、優位性に対する評価
- 人的資源
所属する個々の従業員の質に対する評価
- 顧客網・営業力
取引先や営業力、営業チャネルに対する評価
- 経営組織
職能別組織や事業部制組織、マトリックス組織に対する評価
- その他
営業所や支店、ロジスティクス拠点、それらの立地などに対する評価
主に上記の項目を算定してのれんとして資産計上します。こののれんは20年以内で償却期間を定め、均等償却(定額法)により処理します。つまり、のれんが5億円で5年償却とすると、1年で1億円ずつ、5年で償却することになります。
しかしながら、のれんの性質上、将来にわたり、少なくとも償却期間内の資産価値が約束されるものではないことについて認識を高めるべきでしょう。
合併に伴う「負ののれん」の問題点
先述の通り、多くの場合においてのれんとは合併後のシナジー効果を期待して、無形固定資産に対して支払うプラスの差額を言いますが、必ずしもプラスとは限りません。
被合併会社の取得額が被合併会社の純資産額よりもマイナスに働く場合に発生する差額を「負ののれん」と呼びます。
「負ののれん」とは?合併後の経営悪化を招く原因にも
会社の経営状態を悪化させる原因として、考えるべき負ののれんについて掘り下げていきます。
負ののれんとは、譲受金額が純資産額を下回った際の差額を指します。一般的に負ののれんが発生するケースは、不採算事業から撤廃するときなどです。吸収合併において負ののれんが発生する場合は、純資産額よりも少ない株式しか受け取れないため、被合併会社の株主は損をしているように思えます。
合併は、負ののれんが発生していても実施可能です。しかし、負ののれんが発生する状態で合併を行うメリットはあるのでしょうか。
前述の通り、一般的に合併は、将来的に利益が生まれるとの判断で、のれんによる超過収益を期待して行われます。合併時点では無形資産に対する評価により負ののれんが発生する場合でも、中長期的な目線で合併される前よりも株式の配当や市場価値が上がるということを期待するケースがあるためです。
価値に対する不確定要素が大きい
のれんは、試算する人によって評価が大きく変わります。専門知識を持ち、合併に精通した経験豊富な専門家でも読み切れない不特定要素が企業経営には多分にあり、のれんをいくらに設定するかは悩ましいところです。
例えば、技術力を評価された技術チームスタッフが合併により一斉に退社してしまった、もしくは合併を行うことによってブランド力が失われてしまったといったケースが考えられるため、負ののれんの発生による影響を完全に防ぐことは至難の業といえるでしょう。
経営者の裁量で決まるのれんの減損
合併の手続きに精通した専門家でも、のれんの評価は分かれるところですが、合併後ののれんの資産価値はどのようにして、誰が判断するのでしょうか。人的な損失や思いがけない競合の台頭により、当初見込んでいた技術的な優位性が失われるなど、さまざまなケースが考えられます。
実際のところ、企業の経営状態を健全化するためには、のれんの資産価値の見直しが重要です。無形固定資産とはいえ、のれんがそれだけの価値を出していないと判断した時点で、速やかに「減損」処理を行うことが、企業価値を高めることに繋がります。
当初の合併計画時に想定したのれんから、合併後の実績や相乗効果が大きく異なった場合は、原因を分析し改善・成長に向けた軌道修正を図る必要があります。国際財務報告基準(IFRS)を採用している場合には、均等償却ではなく資産価値を算定する「減損テスト」を毎期実施し、損失処理を行う必要があります。
合併後は当初より実績と見込みのギャップを冷静に見極め、過大評価はなかったか、本来被合併会社が有していた、それぞれの価値を測定・検証する必要性を認識しましょう。
まとめ
合併を行う際の、のれんについて解説してきました。合併そのものが合併会社、被合併会社の双方にとってメリットのある相乗効果(シナジー)が得られるかが、合併を行う上で大変重要な見極めのポイントとなります。被合併会社の持つ無形固定資産をどのように評価するかは、専門家であっても非常に難しい判断です。
のれんが負ののれんにならないように、過大な評価をしないことは重要といえるでしょう。のれんの評価方法など不明点があればM&Aアドバイザーなどの専門家に相談し、のれんの適正な決断をすることが合併の成功の鍵となります。