M&Aで買収を検討している企業があっても「本当に実行しても良いか」「リスクはないか」などの不安を抱えていないでしょうか。
M&Aを成功させるには、財務デューディリジェンス(財務DD)が重要な役割を果たすのです。そこで本記事では、財務デューディリジェンスとは何か・目的や流れをわかりやすく解説します。
財務デューディリジェンスのチェックリストや注意点もまとめていますので、M&Aを検討する方はぜひ参考にしてみてください。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
目次
財務デューディリジェンス(財務DD)とは
財務デューディリジェンス(財務DD)とは、M&Aを検討する際に、売り手企業の財務状況や財務リスクなどを詳細に把握する調査です。
企業を合併・買収するからには、経営のリスクが少ない上に、さらなる成長が見込めなければなりません。しかし、売り手企業が提出した書類だけでは、経営状態のすべてを把握できるとは限らないのです。提出書類を見て「黒字だから安心」と感じても、簿外債務のようなリスクが後から発覚する場合もあります。
財務デューディリジェンスを行うと、事前にリスクや成長の見込み部分を詳細に把握でき、M&Aを実行しても問題ないか把握できることになります。
財務デューディリジェンス(財務DD)の目的
ここでは、財務デューディリジェンスを行う主な目的をご紹介します。
【目的】
・契約する上でリスクがないか把握するため
・買収しても問題ないかの可否の判断や契約条件・買収価額を決定するため
・買収後スムーズな利益向上を目指すため
財務デューディリジェンスでは、買収後に影響の出そうなリスクを洗い出します。
財務デューディリジェンスを実施すれば、未払いの残業代・買掛金などの「簿外債務」が発覚する場合があります。M&A後に債務が発覚すると、買い手企業が債務整理をする必要があり、思わぬ資金繰りが発生します。
リスクを事前に把握できれば、買収価格から債務額を差し引く交渉をしたり、M&Aを見送ったりという対策ができるでしょう。
また、財務デューディリジェンスでは運転資本や設備投資にかかる資金の予測がつくので、買収後の事業計画を綿密に練ることが可能です。
財務デューディリジェンス(財務DD)の流れ
財務デューディリジェンスの主な流れは、以下のとおりです。
ここでは、財務デューディリジェンスの流れをひとつずつ解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
①専門家への依頼
はじめに、財務デューディリジェンスの依頼を公認会計士・税理士・M&A代理業者などの専門家に依頼します。ここでの注意点は、公認会計士・税理士に依頼する際は、M&Aの知識・経験が豊富な人を選ぶ必要があること。M&Aには専門的な知識を要しますので、経験不足だと調査に時間がかかる可能性があります。
M&Aの知識・経験に特化した専門家へ依頼ができると、買い手企業の意図を組みながら効率の良い調査が可能でしょう。専門家選びができたら、情報漏洩防止のために「秘密保持契約書」に署名し、調査を依頼します。
②調査内容の決定
財務デューディリジェンスを円滑に行うために、依頼前に調査内容を決定します。
調査には膨大な資料の確認やヒアリングが必要なので、闇雲な調査だと時間がかかるだけでなく、依頼料も跳ね上がります。効率の良い調査にするために、M&Aの目的を明確にし、目的を果たすために知るべきことを専門家と話し合いましょう。
③資料開示請求・調査
調査内容が決定したら売り手企業に資料開示請求を行い、売り手企業が必要な資料を用意できた時点で調査が始まります。
貸借対照表や損益計算書・会計方針など調査は多岐にわたるので、疑問が生じた際に専門家はQ&A表を作成し、売り手企業に回答を求めます。
回答があり次第、分析に取りかかり調査を再開する流れです。
調査が長くかかる場合は、買い手企業に調査内容の中間報告をし、買い手企業のフィードバックを踏まえて調査を再開します。
④経営陣へのヒアリング
調査で把握しきれない部分は、より正確な情報を得るため、経営陣へヒアリングを行います。ヒアリングを行うと、売り手企業の経営方針やリアルな経営状態を聞けるため、M&A後の企業の弱みや強み部分の分析ができます。
また、ヒアリングでは帳簿上でわからない今後のリスクを確認しましょう。
たとえば、身体に障がいを持つ従業員の条件付き雇用があり、M&A後に雇用形態が変わってしまった場合、その従業員が権利を求めて訴訟を起こす、といったような場合があります。訴訟が起きると資金や手間がかかり、買い手企業は労力を費やす羽目になります。
資料では把握できない部分までヒアリングができると、合併や買収後のリスク軽減につながるでしょう。
⑤結果報告
ヒアリングをし調査内容をまとめ終わると、専門家から買い手企業へ結果報告が行われます。
その結果を踏まえて、買い手企業はM&Aを実施するかどうかを判断します。
専門家への依頼から結果報告までは、2週間から長くて1ヶ月を目安にしましょう。
財務デューディリジェンス(財務DD)のチェックリスト
財務デューディリジェンスで行う調査内容を事前に知ることで、M&Aの目的に沿った調査内容の決定が可能です。
財務デューディリジェンスの調査内容は多岐にわたりますが、ここでは以下のチェックリストに注目して紹介します。
貸借対照表
貸借対照表では、資金の調達源や使い道などから「売り手企業の資産状況」を読み取れます。貸借対照表は主に「資産・負債・純資産」に分けられます。
【資産】
・現預金
・売上債権
・棚卸資産
・有形・無形固定資産 など
【負債】
・仕入債務
・有利子負債
・退職給与引当金 など
【純資産】
財務デューディリジェンスでは、貸借対照表に挙げられた数値が実際に正しいかを分析します。帳簿上と実際の数値に差があれば間違った資産状況の把握になり、買収後に問題点が出る可能性があるため。
たとえば、資産の「現預金」項目に10万円の記載がある場合、財務デューディリジェンスでは預金が実在するかを調査します。
銀行残高を確認し、9万円しかない場合は帳簿との差が1万円発生するので、財務デューディリジェンス上では差額を記録します。
このように、貸借対照表の分析は数値のズレが明確になるので、売り手企業の資産状況をくみ取れます。
損益計算書
財務デューディリジェンスでは、損益計算書の分析を行い、売り手企業の「正常収益力」を把握します。正常収益力とは、経営上で発生するイレギュラーな支出を除いた、事業そのものが生み出す収益です。
正常収益力を把握できれば、買い手企業にどれほどの利益をもたらすか予測できますので、損益計算書の精査は欠かせません。
損益計算書の主な項目は、以下のとおりです。
【損益計算書の項目】
・売上高
・売上原価
・造原価
・販管費(販売費・一般管理費)
・営業外損益
・特別損益
たとえば、役員への退職金の支払いがある場合を想定しましょう。役員の退職金支払いは「特別損益」に入り、イレギュラーな支出と考え除外することで、正常収益力を割り出せます。このように、売り手企業の正常収益力を把握するには、損益計算書の分析が欠かせないのです。
財務デューディリジェンス(財務DD)を実施する際の注意点
注意点を守りながら財務デューディリジェンスが実施できると、自社へのリスク軽減になるだけでなく、より濃い内容の調査が可能になるでしょう。
ここでは、財務デューディリジェンスを行う際の注意点を紹介します。
情報漏洩には細心の注意を払う
財務デューディリジェンスをする際は、情報漏洩に細心の注意を払いましょう。財務デューディリジェンスの先には、企業の合併や買収という目的がありますが、例えば公開企業の場合、売り手企業の株主に合併や買収の情報が漏れると、株式を売りに出しかねません。
一斉に株式が売りに出れば、売り手企業の株価は暴落し、買い手企業は損する可能性が高くなります。
売り手企業の繁忙期は避ける
財務デューディリジェンスを実施の際は、売り手企業の繁忙期は避けましょう。財務デューディリジェンスによる資料開示請求があると、売り手企業は資料の作成に取り掛からなければなりません。
決算期のような繁忙期に財務デューディリジェンスが重なれば、資料作成にかける時間が取れず、内容が乱雑になりかねないのです。
できるだけ多くの情報を手に入れるためにも、売り手企業が対応可能な時期を選んで財務デューディリジェンスの依頼をしましょう。
まとめ
本記事では、財務デューディリジェンスの目的や流れを解説しました。
M&A後に自社企業のさらなる発展を目指すには、財務デューディリジェンスの実施が欠かせません。財務デューディリジェンスの調査内容は多岐にわたるので、全項目の調査を望めば、時間だけでなく依頼費用も増大します。
効率良く財務デューディリジェンスを行うには、まずM&Aの目的を明確にし、目的に合わせた調査を行いましょう。
目的に合う調査内容をご自身で調べるのは労力を要しますので、専門家と話し合いして決定するのがおすすめです。
調査依頼を検討する前に、財務デューディリジェンスの知識があると専門家との話し合いもスムーズになるでしょう。