M&Aでは多額の資金が動くため、双方がより確実に、安全に取引が遂行されることを望みます。そんな時に活用できるのが、「エスクロー」です。「エスクロー」とは、物品などの売買において、信頼の置ける中立的な第三者が契約当事者の間に入り、代金決済等取引の安全性を確保するサービスのことです。
本記事では、エスクローに関する基礎知識や利用時のメリット・デメリットを解説します。エスクローの方法や事例についても触れていますので、利用を検討する方はぜひ参考にしてみてください。
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M&Aをご検討の方はもちろん、自社をもっと成長させたい方やIPOをご検討の方にもお役立ていただける資料ですので、ぜひご一読ください。
目次
エスクローとは
先述の通り、「エスクロー」とは、物品などの売買において、信頼の置ける中立的な第三者が契約当事者の間に入り、代金決済等取引の安全性を確保するサービスのことです。
商品売買に第三者が介入することで「支払い後に商品が届かない」「商品を渡しても代金が支払われない」というトラブルを防止できます。第三者の役割は、主に金融機関やエスクローを本業とする事業者が担うのが通例です。
昨今では、売手・買手が快く取引できるように、ネットショッピングにエスクロー決済を導入する企業も見受けられます。日常の買物だけでなく、M&Aや不動産取引のように膨大な資金が動く際にもエスクローを活用できると、リスクを軽減した取引につながります。
エスクローの仕組み
ここでは、一般的なエスクローの仕組みをご紹介します。
【エスクローの仕組み】
1.購入者と販売者が商品売買の契約を結ぶ
2.購入者→ エスクロー事業者に商品代金を渡す
3.エスクロー事業者 →販売者 に入金の報告
4.販売者 → 購入者に商品を渡す
5.購入者 → エスクロー事業者に商品受理の報告
6.エスクロー事業者 → 販売者に代金を支払う
上述のようにエスクロー事業者を挟む取引は、購入者の入金後に商品を受け渡す流れなので、販売者は確実に代金を回収できます。
購入者にとっても、商品が届かないというトラブル防止になるのです。
M&Aでエスクローが利用される理由
M&A成功のためには買収額だけではなく、譲渡企業の経営状況を把握するデューディリジェンスにも費用がかかるため、多額の資金を要します。さらに、合併や買収後に企業経営に影響を及ぼすリスクが発覚すれば、譲受企業は大きな損失を被るでしょう。
譲受企業は、多額の資金を投資するのですから、譲渡企業側の潜在リスクを洗い出したいはずです。そこでエスクローを利用することで、M&Aが完了した後に成就企業が入金する流れになるので、完了するまでに譲受企業側は入念なデューディリジェンスを実施できます。
譲渡企業にとっても、エスクロー事業者が譲渡額を保管するので入金額を確認でき、M&Aに対し疑念を感じにくくなるのです。M&Aは多額の資金が動くため、エスクローを利用すれば譲渡・譲受双方に安心かつ公正な取引を遂行できます。
M&Aにおけるエスクローのメリット
エスクローを利用したM&Aの実施は、譲渡・譲受双方にメリットがあります。
【エスクローのメリット】
・損害賠償金未払いの対策となる(譲受)
・M&A遂行後に確実に入金される(譲渡)
ここでは上記のメリットを解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
損害賠償金未払いの対策となる
エスクローを利用すると、譲受企業は損害賠償金未払いの対策ができます。
M&Aでは、譲受企業と譲渡企業で最終契約書を締結しますが、その中には損害賠償金を補償する旨が記載された「補償条項」があります。補償条項は、提出された情報の虚偽や過失が認められた場合、売手企業が買手に対し損害賠償金を支払うという旨の条項です。
ただし、損害賠償金の請求をしても譲渡企業側が全額支払える保証はないため、ここでエスクローを活用します。譲受企業は、損害賠償金の保険として資金をエスクロー事業者に預けることで、未払いが生じた際に預金額から得られるのです。
M&A遂行後に確実に入金される
エスクローを利用すると、譲渡企業にはM&A遂行後に確実に入金されます。
たとえ契約を締結していても、多額な取引のため、入金額を確認するまでは契約どおりの金額が支払われるか、譲渡企業には不安がつきものです。
そこでエスクローを利用すれば、買手からの入金を確認してからM&Aを実行できるので、入金額に誤差が生じません。これまでにM&A実績のない譲受企業だとしても、入金を可視化できて信頼性が生まれるので、安心してM&A実施に取り組めるでしょう。
M&Aにおけるエスクローのデメリット
エスクローの利用には、手数料がかかります。費用の相場はエスクロー事業者によって異なりますが、取引価格の約1〜2%と考えるとよいでしょう。
M&Aに予算を多くかけられない場合は、エスクローの利用を見合わせる必要性があります。その際は、M&A後にリスクを負わないためにも、契約内容を詳細に決める、デューディリジェンスを綿密に実施するなどの対策をとりましょう。
エスクローの方法
エスクローの主な方法は「信託契約」と「銀行口座」の2種類となります。それぞれの概要を解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
信託契約
買手はエスクロー事業者に、買収や合併にかかる資金を信託し、管理してもらう方法が「信託契約」です。買収額だけでなく、損害賠償金として預ける資金も信託として扱えます。
信託契約の流れは以下のとおりです。
【信託契約の流れ】
1.譲受企業とエスクロー事業者が信託契約を結ぶ
2.資金を「信託財産」としてエスクロー事業者に預ける
3.エスクロー事業者は信託財産を管理・運用する
4.信託契約の条件を満たせば、譲渡企業に信託財産を渡す
万が一、エスクロー事業者が倒産した場合でも、信託法第34条で「信託財産と事業者の資産は区別する」ということが義務付けられているため、資金は返金されます。
信託契約が可能だとM&A実施に安心感を持てますが、契約に至るまでは確認事項が多数ありますので長期化を想定しましょう。
銀行口座
エスクローには、信託契約のほかに「銀行口座」を利用する方法があります。銀行口座を利用したエスクローの流れは、以下のとおりです。
【銀行口座の流れ】
1.譲渡企業・譲受企業・エスクロー事業者いずれかの名義で口座を開設する
2.譲受企業は買収額を口座に入金する
3.エスクロー事業者が口座を運用・管理する
4.契約の条件を果たせば、譲渡企業に買収額を渡す
銀行口座を利用したエスクローは、信託契約ほど長期化しない利点があるので、M&A実施を円滑に行う場合に活用できます。しかし、運用期間中にエスクロー事業者が倒産した場合、入金額の保証がない可能性がある点を視野に入れましょう。
エスクローの利用事例
ここでは、M&A実施時にエスクローを利用する事例をご紹介します。
利用事例を知って、エスクローを正しく活用できるようにしておきましょう。
アーンアウト条項の締結で利用する
M&Aは多額の資金がかかるので、支払い額を条件付きで分割する「アーンアウト」を用いる場合があります。アーンアウト条項では「買手企業は買収額の一部を支払い、残りの額を譲渡企業が売上のような目標を達成した際に支払う」という締結が可能です。
M&A後に譲渡企業側の影響で譲受企業が経営不振に陥れば、M&Aで多額の資金を支出しているので、膨大な損失が生じます。そこで費用損失のリスク回避のために、アーンアウトとエスクローを併用するのです。
エスクロー事業者が、譲渡企業の目標達成までは資金を保管してくれるので、その間成就企業は譲渡企業の経営状況を慎重に検討できます。譲渡企業にとっても、入金されたかどうか確認可能なので、目標達成までの経営に専念できるでしょう。アーンアウトとエスクローが併用できると、譲受企業・譲渡企業双方にとって安全性のあるM&A実施につながります。
買収対象が複数存在する場合に利用する
譲渡企業が複数存在し、M&Aに難航を示す場合には、エスクローを活用すると良いでしょう。エスクロー口座を利用した支払い方法には、一括だけでなく分割の選択が可能です。
M&Aの手法には「事業譲渡」がありますが、チェーン店のように譲渡対象が複数存在する場合、各店舗と契約を行わなければなりません。エスクローの支払い方法を一括で選択すると、1つの店舗が譲渡に賛同しなければM&Aが完了しないのです。
分割払いを選択して、契約が完了した店舗から支払いを終えると、M&Aがスムーズになるでしょう。
まとめ
今回は、M&A実施時にエスクローを利用するメリット・デメリットを解説しました。
エスクロー利用にかかる資金は取引額が多くなるほど増大しますが、M&A後のリスク回避には大いに役立ちます。
M&Aを成功へ導くには、リスク軽減が必須となりますので、エスクローの利用を検討するのも良い手段と言えるでしょう。