債権者保護手続きとは、会社の債権者の利益を保護する目的で、異議を述べる機会を与えるための手続きで、会社の合併・組織再編・会社の分割など、様々なケースで必要になります。
本記事では、債権者保護手続きの概要、実際の手続きの進め方や注意点を解説します。
▷関連記事:M&Aとは?M&Aの意味・流れ・手法など基本を分かりやすく【動画付】
企業価値100億円の企業の条件とは
・企業価値10億円と100億円の算出ロジックの違い
・業種ごとのEBITDA倍率の参考例
・企業価値100億円に到達するための条件
自社の成長を加速させたい方は是非ご一読ください!
債権者保護手続きとは
債権者の利害に影響を及ぼす可能性がある組織再編を行う場合、事前に公告・個別に催告し、債権者が異議を述べることができる一定の期間を確保しなければなりません。これを「債権者保護手続き」と言います。
債権者保護手続きは、自社の債権者の利益を保護する目的で行われるのが一般的です。
債権者は債務者との取引で、相手を信用して取引を行います。
その「信用」は、上場企業である、資本金が豊富にある、親会社が大企業で安心であるなど、何らかの条件に基づいて判断するでしょう。
しかし、その条件が取引後に急に変わってしまうと、債権者は取引に不安を感じてしまいます。
合併や分割など会社の状況が大幅に変わる場合、「債権者保護手続き」が債権者を保護してくれるのです。
債権者保護手続きが必要になるケース
債権者保護手続きが必要なケースはいくつかあります。
以下のタイミングで、債権者保護手続きを行うことを覚えておきましょう。
合併
合併とは、自社の事業を拡大する目的で行われる組織再編のことです。
2つ以上の複数の会社が1つの会社になります。
合併には、以下の2種類があります。
▷関連記事:M&Aにおける合併とは?意味や手続き、種類の違いを解説
・吸収合併
吸収合併は、他の会社を吸収する組織再編です。
吸収合併をする場合、吸収する会社(存続する会社)の債権者と消滅する会社の債権者の双方に、債権者保護手続きをしなければなりません。
存続する会社でも、吸収する相手次第では、財務状況や経営が悪化するリスクがあります。
そのため企業は、債権者に対して債務保護手続きをする必要があるのです。
・新設合併
新設合併は、新たに設立した会社に他の会社を合併させる組織再編です。
新設合併をする場合、合併する段階では新設会社の債権者は存在しないため、新設会社側の債権者保護手続きは必要ありません。
しかし、吸収されて消滅する会社の債権者に対しては、債務保護手続きが必要となります。
消滅する会社の債務は、新しく設立される会社に引き継がれるものの、債務が承継される新設会社の資産状況によっては、債権回収が困難になるリスクがあるためです。
会社分割
会社分割は、会社が一部の事業に関する権利義務の全部または一部を切り離して、他の会社に承継する組織再編のことです。
自社で扱っている事業をより成長させるための組織再編で、以下の2種類があります。
▷関連記事:会社分割とは?手続きの流れ・吸収分割と新設分割の期間や事業譲渡との違いを解説
・吸収分割
吸収分割は、自社で扱う事業を専門としている部門や部署を、人員も含めて他社へ吸収してもらう組織再編です。
採算が取れていない事業を、その事業を専門に扱っている優れた会社に引き継いでもらうために行います。
吸収分割では、分割する会社と承継する会社のそれぞれが債権者保護手続きを検討する必要があります。
分割する会社では、切り離す部門に関する資産が減少するためリスクにさらされます。
一方、吸収する会社では、事業規模を拡大できるメリットがあるものの、リスクも引き受けることになるので、どちらの会社も債権者保護手続きをしなければなりません。
・新設分割
新設分割とは、業績が好調の事業を運営している部門を、現在の会社とは別に新しい会社として新設するための組織再編です。
経営のスリム化や倒産リスクの分散化、業績のよい部門をより成長させる目的で行われます。
新設分割する場合、債権者にとっては資金力が弱い新設会社が債務者になることは不利益が生じる可能性があります。
そのため、新設分割をする際には、分割会社は債権者保護手続きをする必要があります。
新設される会社に関しては、債権者がいない状態なので、債権者保護手続きの必要はありません。
資本金・準備金の減少
資本金や準備金は、安定した経営に不可欠です。
資本金や準備金が減少してしまうと、会社財産が流出する可能性があるため、債務を抱えるリスクが高まります。
そうなると、会社経営に大きな影響を与える危険性があるでしょう。
資本金や準備金が減少する場合には、債権者に対して債権者保護手続きをしなければなりません。
ただし、以下の場合は会社財産が社外に流出するわけではないため、債権者保護手続きの必要はありません。
・取り崩した準備金の額の全部を、資本金に取り替えるケース
・累積赤字の穴埋め(資本の欠損填補)するために資本金を取り崩すケース
債権者保護手続きを省略できるケース
次に、債権者保護手続きを省略できるケースをまとめます。
・会社分割で債務の移転がない場合
会社分割において債務の移転がなければ、債務者が変わることはありません。
そのため、債権者は分割会社へ債務の弁済をしてもらいます。
分割会社は会社全体の資産や負債額は変動しないため、債権者への影響は特にありません。
・会社分割で従来の債務者へ請求できる場合
会社分割で債務は移転するものの、元の分割会社へ債務の弁済を請求できるケースでは、債権者保護手続きは不要です。
債権者側からすると、弁済してもらえるかどうかが重要であり、債務者が変わったとしても元の債務者へ弁済請求ができる状況であれば、リスクは発生しません。
・株式交換・株式移転の場合
株式交換は、すでに存在している会社を対象にして、その会社の発行済み株式の全てを既存の会社に取得させることです。
また、株式移転はすでに存在している株式会社を対象にして、その会社の発行済み株式の全てを、新たに設立する会社に取得させることです。
どちらの場合も株主が変更するだけなので、債権者保護手続きは原則不要です。
▷関連記事:株式交換と株式移転の違いとは?メリットや事例、手続きを解説【図解付き】
債権者保護手続きの進め方
ここでは、債権者保護手続きの進め方をまとめます。
おおよそ、以下の流れに沿って進めていくことを覚えておきましょう。
① 官報広告への掲載
官報公告とは、法令上の義務に基づいて、債権者や取引先に対して重大な影響を及ぼす事項が決定した際に、官報を通じて公的に知らせることです。
組織再編に関する内容、組織再編に関わる会社の商号や住所、計算書類に関する事項、資本金額・負債額の変動額、債権者が一定期間内に異議を述べることができる旨などを、官報公告に掲載します。
② 債権者への個別催告
官報公告への掲載が完了後、知れたる債権者へ個別の催告をします。
知れたる債権者とは、会社間の組織再編に関わる債権者のことです。
催告の方法としては、普通郵便によるハガキや封書のケースが一般的となっています。
催告する内容は定められていないものの、官報公告と同じものが用いられることが多いでしょう。
知れたる債権者への個別催告は、催告期間を1ヶ月以上取らなければいけません。
③ 意義を申し立てた債権者への弁済
債権者が、官報公告や個別催告に対して異議申し立てを行った場合、会社は弁済を行わなければいけません。
弁済する方法は以下の通りです。
・会社が債務を弁済する
・債務に相当する担保を提供する
・債務の弁済を行うため、信託会社に債務相当額の財産を信託する
官報公告や個別催告から、1ヶ月を超える一定期間内に異議申し立てがなかった場合には、債権者から承認されたものとみなされます。
④ 組織再編の登記
債権者保護手続きの完了後、組織再編の登記を行います。
組織再編の登記は法務局での申請になり、申請時には債権者保護手続きにおける官報公告や、個別催告をした事実を証明する書面を添付しなければなりません。
債権者保護手続きが完了していないのに、組織再編の書類を作成してしまうと、全てがやり直しになってしまうので注意しましょう。
債権者保護手続きの注意点
ここでは、債権者保護手続きをする際に、注意しておきたい点をまとめます。
手続きの完了後に組織再編を行う
先ほどお話した通り、組織再編の登記をする際には、債権者保護手続きが全て完了したことを証明する書類の提出が必須です。
債権者保護手続きが完了する前に組織再編の登記を行ってしまうと、組織再編のための手続きを始めからやり直さなければなりません。
手続きが完了した後に、組織再編を行うようにしましょう。
1ヶ月以上の異議申し立て期間を確保する
債権者保護手続きを適正に行うためには、官報公告の掲載から1ヶ月以上の異議申し立て期間を確保しなければなりません。
日数を間違えてしまうと、債権者保護手続きをやり直す必要があります。
また、組織再編行為自体が無効になってしまう可能性もあるのです。
官報公告を掲載する際には、異議申し立て期間を十分に設けて、日数が1ヶ月を切らないように注意しましょう。
債権者への個別催告に漏れがないよう確認する
催告者への個別催告をする際には、債権者に漏れがないように気を付けなければなりません。
個別催告の対象である催告者が、催告を受けていなかった場合、その債権者は組織再編に対して訴訟を起こすことができます。
債権者に対する個別催告は、該当する全ての債権者に行うようにしっかりと確認する必要があります。
まとめ
今回は債権者保護手続きの概要、手続きの進め方や注意点をまとめました。
組織再編の際に行われる債権者保護手続きですが、条件によっては不要になるケースもあります。
債権者保護手続きを正確に行わなければ、組織再編が無効になってしまう危険性もあるので、十分に手続き方法を理解しておく必要があるでしょう。