起業を考える方、すでに事業を始めている方にとって「企業生存率」は興味深い数値ではないでしょうか。
日本における経営者の高齢化も、企業生存率に大きな影響を与える要因のひとつです。経営者の年齢と企業業績は逆相関の関係にあるなかで、M&Aを活用した事業継承にも関心が寄せられています。
自社の企業生存率を高めるためには、経営者自身が理解を深め、対策を講じることが必要です。
そこで本記事では、企業生存率の実態や事業を存続するためのポイントを解説します。
経営不振に陥る原因もご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
企業生存率とは
「企業生存率」とは、起業・開業した会社が廃業や倒産をすることなく、経営を継続または維持できる割合のことです。中小企業白書(2017年)によると、日本における企業生存率は、5年間で以下のように推移するとわかりました。
・起業後1年 95.3%
・2年 91.5%
・3年 88.1%
・4年 84.8%
・5年 81.7%
欧米諸国と比較した5年後の生存率データは、以下のとおりです。
【起業から5年後の生存率の国際比較】
・日本 :81.7%
・アメリカ:48.9%
・イギリス:42.3%
・ドイツ :40.2%
・フランス:44.5%
長期に渡り事業を継続している国内企業の割合は、欧米諸国と比べると高いといえるでしょう。しかし、会社を存続することは容易ではありません。
東京商⼯リサーチが行った『2022年 休廃業・解散企業 動向調査』によると、2022 年の休廃業・解散件数は 4万9,625 件です。過去5年間で大幅な休・廃業数とはいえませんが、前年比 からすると11.8%増となりました。
新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ情勢のように、想定外の事態によって業績が著しく悪化したとも考えられます。今後も、時代や経営環境の変化を見極めた臨機応変な対応が求められるでしょう。
起業後20年の生存率はどのくらい?
ここでは、起業してから20年後には、どのくらいの会社が残っているのか確認してみましょう。
前述にあるように、開業した企業の5年後の生存率は約80%ですので5社のうち1社が倒産・廃業する計算です。
感染症や世界情勢の影響に加え、国内では「2025年問題」も懸念されています。2025年には、第1次ベビーブームで生まれた方々が75歳以上になり、後期高齢者の人口が2,200万人に到達する予定です。
高齢者の人口増加に伴い、国内における中小企業経営者の高齢化も加速します。今後、後継者が見つからない企業が増加すれば、生存率はさらに減少すると予測できるでしょう。
また、日経ビジネスWeb版には「ベンチャー企業の生存率は、創業から5年後には15.0%、10年後6.3%、20年後0.3%と非常に厳しい現状」との記載があります。どちらの情報元も「日本全体の企業生存率」との観点から考えれば憶測に過ぎませんが、ひとつの指標となるでしょう。
企業が存続できない3つの原因
企業生存率とは、企業が一定期間内に存続し続ける確率のことを指しました。日本は、欧米各国に比べ企業生存率の下降は緩やかであるものの、存続できない原因は何なのでしょうか。
ここでは、企業が存続危機に陥る原因をご紹介します。
原因①資金繰り悪化
資金が不足すると、以下の支払いが滞ります。
・買掛金
・従業員への賃金
・税金
・社会保険
資金不足に陥ると支払いが滞るだけでなく、事業自体の運転資金も調達できなくなるでしょう。
最悪の場合、倒産へ至る場合もあります。資金不足になる原因として、以下のことが予測可能です。
・赤字経営が続いている
・売掛金の回収が遅い
・借入金の返済額が大きい
・在庫を抱えている
・資金管理ができていない
経営者の財務知識が乏しく、経営判断や資金配分を誤ることが要因と考えられます。
原因②人手不足・後継者不足
日本は少子高齢化の影響と働き方改革により、労働力不足と後継者不在の問題に直面しています。中小企業庁の資料から、70代以上の割合が年々増加しており経営陣の高齢化も進んでいることがわかります。
経営者の高齢化加速にも関わらず、引退を意識するであろう60〜80代の3〜5割が「後継者を見つけられていない」のです。人手不足・後継者不足の経営課題は、今後ますます深刻化していくことでしょう。
原因③経営者の能力不足
経営者の会社経営に関する能力不足も、存続危機をもたらす理由のひとつです。能力不足の場合、以下のような悪影響を及ぼします。
・組織力の低下
・ルーズなリスク管理によるトラブルの増加
・職場環境の悪化
・顧客へのサービス品質の低下
経営者に知識や経営戦略・リーダーシップがなければ、社員も目指すべき方向性がわかりません。
「会社にとって何が大切か」を考え、優先順位を明確にして戦略を練り、必要に応じて経費を投じることが重要です。
会社を生かすも殺すも、経営者の能力次第です。ひとつの判断がミスにつながり、会社の存続が困難になるケースもあります。
企業生存率を上げる8つのポイント
どうすれば、長く生き残れる企業になれるのでしょうか。ここでは、企業生存率を上げるポイントを8つご紹介します。
①資金を十分に確保する
十分な資金を確保してから会社を立ち上げることで、企業生存率を高められます。
開業資金を調達できていないにも関わらず「会社を立ち上げたい」という気持ちが先行し、起業することもあるでしょう。しかし、この行為は資金繰りの悪化につながりかねません。
なぜなら、不測の事態に陥ったときにすぐ資金調達ができるとは限らないからです。
負のスパイラルを避けるためにも、起業前に資金計画を立てることから始めましょう。「費用は自己資金で賄えるのか」「借入が必要なのか」を判断して、詳しい内訳を割り出すことが大切です。
②無駄なコストを削減する
余計なコストを抑えながら、資金繰りや業績の改善を行うことも重要。
コストは「見えるもの」と「見えないもの」の2つにわけられます。
【見えるコスト】
・固定費
・人件費
・通信費 など
【見えないコスト】
・業務時間
・作業量
『企業の利益=売上−コスト』であるため、売上額が変わらなくてもコスト削減により、利益を上げることもあります。見えるコストだけに注力せず、業務の効率化や改善を進めて見えない部分の削減も意識するとよいでしょう。
適切な削減により、以下の効果を期待できます。
・業務の効率化
・労働生産性の強化
・社内環境の活発化
・企業価値の向上
売上に必要な費用は削らず、不必要な経費や時間を見直して、企業利益を増やしましょう。
③万が一のリスクに備えておく
ビジネスが思いのほか上手くいったからといって、油断は禁物です。「今後も必ず成功する」という保証は、どこにもありません。
経営者自身の病気やケガにより、事業を継続できないことも考えられます。万が一に備え、以下のような制度の活用も検討するとよいでしょう。
・経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)
・事業保障資金
・経営者保険
経営セーフティ共済とは、取引先事業者の倒産による連鎖倒産や経営難に陥るリスクに備える中小企業庁管轄の保証制度です。取引先の倒産でなくても、急に資金が必要になった場合も借入が可能です。
事業保障資金、経営者保険は、経営者の万が一に備え事業存続に必要な資金を確保するための法人向け保険商品です。会社を長く存続させるためには、こうしたリスクを想定した「備え」に対する知識が必要です。
④後継者への事業承継を早期に進める
前項で、企業が存続できない原因のひとつに「後継者不足」を挙げました。後継者に引き継いでいかなければ、会社は存続できません。
次世代へスムーズにバトンを渡すためには、後継者探しや育成のプロに相談するのもよいでしょう。
【後継者を見つける手段の例】
・M&A
・事業承継・引継ぎセンターへの相談 など
後継者探しや育成には時間がかかるため、早めの対策が必要です。
⑤社会貢献度の高い事業を展開する
自社の収益を追求するだけでは、長期的に生き残れません。近年、企業による社会貢献活動が注目を集め、社会に独自の価値を提供できているか否かが問われています。
社会貢献活動を意識した事業を行うことで、得られる効果は以下のとおりです。
・企業価値やブランドイメージがよくなる
・投資家に社会的な取り組みをアピールできる
・顧客やファンが増える
・優秀な人材を確保できる
・仕事への意欲や生産性の向上につながる
・顧客の声が直接届き、改善点や新たなアイデアが見つかる
社会貢献度の高い事業展開を目指すことで、必然的に顧客や社員に選ばれ続ける企業へと成長できるでしょう。
⑥新たな価値を取り入れる
自社を長く存続させるためには、重要な柱部分は変えず、時代に合わせて商品や企業の状態を変化させることも必要不可欠です。消費者ニーズの推移に常にアンテナを張り、新たな価値を事業に取り入れている会社は、将来的な成長期待値も高いでしょう。
「今何が求められているのか」「どのように役立てるのか」と、自社の役割を見極めて企業を拡大させる努力が必要です。
⑦売掛金をあらかじめ現金化しておく
売掛金の現金化は、経営不振から脱却する対策のひとつです。
売掛金(売掛債務)を売却して、現金化する資金調達方法を「ファクタリング」といいます。
予定の入金日よりも早く資金回収できることがメリットですが、利用にはデメリットも。
メリット | デメリット |
・最短即日で資金調達できる ・審査のハードルが低い ・売掛先が倒産しても責任を負わなくてよい ・保証人や担保 ・返済義務はない | ・手数料がかかる ・売掛金が目減りする ・債権譲渡登録が求められる場合がある ・売掛先と取引する際に懸念される |
上記で挙げた点をきちんと理解したうえで、慎重に検討することが必要です。
⑧M&Aを有効活用する
M&Aを活用するのも、企業生存率を高めるポイントのひとつです。M&Aの実施は、今後国内の中小企業で懸念される「後継者不足の問題」を解決できます。後継者が見つかれば、黒字廃業をする企業を減らせるでしょう。
さらに、M&Aによる会社売却は、売上アップやコストダウンなど、買い手と売り手の双方で事業上のシナジー効果が期待できます。業績悪化の解決や、事業のさらなる発展につながるでしょう。
M&Aは国も推奨する手段であるため、企業存続を図る経営者はぜひ検討してみてください。
まとめ
今回は、企業生存率の実態や企業存続へのポイントを解説しました。企業が存続できない原因には「資金繰り悪化・人手不足・後継者不足・経営者の能力不足」が挙げられます。
企業経営者には、自社を長く存続するための正しい知識と市場動向への敏感な対応力が求められるでしょう。知識や経験が豊富だからといって、やがて来る後継者問題の解決は容易ではありません。
企業をできるだけ長く存続させるために、時代の流れに伴った対策が必要です。