事業承継で退職金を活用する方法は、後継者が事業を承継する際の税負担軽減や先代の経営者の退職後資金確保に役立つ手法です。ただし、支給を適切に行わないと、退職金を活用する効果が発揮されない場合もあります。
本記事では、事業承継で退職金を活用するとどのような効果があるのかを解説し、退職金の計算方法や税額算定の方法、資金準備の方法を紹介します。事業承継で退職金を活用するメリット・デメリットもまとめていますので、事業承継を検討している経営者の方は参考にしてください。
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目次
事業承継での退職金の活用方法とは?メリットやデメリットともに紹介
事業承継で退職金を活用する方法は、後継者が事業を承継する際の税負担軽減や先代の経営者の退職後資金確保に役立つ手法です。ただし、支給を適切に行わないと、退職金を活用する効果が発揮されない場合もあります。
本記事では、事業承継で退職金を活用するとどのような効果があるのかを解説し、退職金の計算方法や税額算定の方法、資金準備の方法を紹介します。事業承継で退職金を活用するメリット・デメリットもまとめていますので、事業承継を検討している経営者の方は参考にしてください。
退職金を活用した事業承継
事業承継では、経営者に役員退職金を支払い、事業承継で生じる税金対策を行うケースがあります。これは、ある程度まとまった金額の退職金を支給すると、会社のキャッシュを減少させることができ、自社株評価額を下げる効果が期待できるからです。事業承継の際の資産の承継で生じる相続税や贈与税は自社株評価額を基準とする場合があり、役員退職金の支払いの結果、税負担を軽減できる可能性があります。
また、自社株評価額を下げることができれば、株式を金銭で購入し資産を承継する場合にも、購入資金を軽減する効果があります。
退職金を活用した方法は、以上のような効果から多くの企業で採用されています。ただし、会社の経費として計上できる退職金には適正額があるなど、いくつかの注意点があるので、活用するときには慎重な対応が必要です。
退職金を支給する2つのタイミング
退職金は、経営者に支給するタイミングで「生前退職金」と「死亡退職金」の2つの種類があります。
種類 | 内容 |
---|---|
生前退職金 | 経営者が存命中に退職して受け取る退職金 |
死亡退職金 | 経営者が死亡したあとに、後継者や遺族が受け取る退職金 |
生前退職金と死亡退職金では、退職金の受給で生じる税金に違いがあります。
まず、生前退職金は経営者が生前に退職して受け取るため、退職金には所得税や住民税がかかります。退職金はまとまった金額となることが多いですが、退職後の老後資金として活用されることも多いことから、在任期間に応じた退職所得控除が設定されています。
なお、生前退職金を受け取ると経営者の資産が増え、相続の際には相続税負担が増加する側面があるので、生前に受け取るか死亡時に受け取るかは事前に検討しておくと良いでしょう。
一方、死亡退職金は経営者の死後に後継者や遺族が受給する性質のものです。したがって、退職金には相続税が課されます。死亡退職金には法定相続人の数に応じた非課税枠が設定されています。
退職金の計算方法
退職金の計算には「功績倍率」を用いた計算方法が一般的です。計算式は以下のようになります。
退職金額=最終報酬月額×勤続年数×功績倍率
最終報酬月額とは、経営者が退任したときの報酬月額です。勤続年数とは経営者として勤続した年数を指しています。また、功績倍率は経営者として在任中に会社に貢献した貢献度を倍率にしたもののことをいいます。
例えば、30年間社長として会社を経営し、最終報酬月額が200万円の方の場合、功績倍率による計算は以下のとおりです。功績倍率は3倍で算定しています。
200万円×30年×3倍=1億8,000万円
功績倍率の倍率が高くなればなるほど支給額は多くなりますが、あまり高すぎる倍率は税務調査の際に不当とみなされ、会社への経費計上が否認される恐れがあります。一般的には、経営者(社長)の功績倍率は2.5~3倍とされていますが、自社と同種の会社から事業規模の似ている会社のデータから算出し、役員退職金規定に採用するなどの手続きを検討する必要もあります。
退職金にかかる税金の算定
退職金にかかる税金は、先述のように支給のタイミングで変化します。生前退職金では、以下の計算式で課税所得金額を算出し、税率をかけて税額を算定します。
課税所得金額=(退職金―退職所得控除額)×1/2
退職所得控除額は勤続年数に応じて異なります。特に、勤続年数20年以下と20年超では計算式から変わるので注意しましょう。なお、勤続年数が5年以下の場合は、所得金額が1/2となる優遇措置を受けられません。課税所得金額の計算式では「1/2」が省略され、「退職金―退職所得控除額」となる点に注意してください。
一方、経営者が死亡してから3年以内に支給が確定した死亡退職金には相続税が課されます。死亡退職金には非課税限度額があり、支給された退職金のうち「500万円×法定相続人の数」の金額には相続税はかかりません。例えば、3,000万円の死亡退職金があり、配偶者と子ども1人の2人で相続した場合、3,000万円から1,000万円が差し引かれた2,000万円から、自分が相続した金額分の割合をかけた金額に相続税が課されます。
退職金を準備する方法
退職金は現金で支給するため、支給にかかる資金の準備が重要です。会社の経営が好調で、手元に十分なキャッシュがある場合は問題ありませんが、そうでない場合は事前の準備が必要となります。
退職金のための資金を準備する方法には、生命保険の活用があります。例えば、経営者を被保険者とし、会社を保険金の受取人とする法人向けの生命保険に加入しておくと、退職金のための資金を準備できます。生命保険には終身保険や長期平準定期保険などいくつかの種類があるので、月々の保険料や解約払戻金を考慮し、自社に合った保険を検討してみましょう。
その他、小規模企業共済への加入も有用です。小規模企業共済は、独立行政法人中小機構が提供する経営者のための退職金制度で、掛金を全て所得控除できる税制上のメリットがあります。
事業承継で退職金を活用するメリット
事業承継の際に退職金を支給する方法を活用すると、主に以下のようなメリットがあります。
・自社株の評価額を引き下げられる
・会社の利益を圧縮できる
・経営者の退職後の生活資金を準備できる
それぞれのメリットを詳しくご紹介します。
自社株の評価額を引き下げられる
役員退職金を活用する大きなメリットは、事業承継の際に自社株評価を引き下げられる点です。非上場企業の株式は、一般的に類似業種比準価額方式または純資産価額方式により評価されます。
類似業種比準価額方式では、純資産や利益、配当が株式評価に影響を与え、純資産価額方式では純資産の金額が株式評価に影響を与えます。
事業承継の際に退職金を支給すると、適正な額の退職金は損金として計上できるので、類似業種比準価額方式における「純資産」と「利益」、純資産価額方式での「純資産」を減額できます。特に退職金は金額も大きいので、純資産や利益の額を大幅に減額することが可能です。
自社株評価を引き下げられれば、事業承継で自社株を引き継いだ際の相続税や贈与税を減額でき、税負担を軽減できます。また、自社株を購入する際にも、購入価額を抑えられ後継者の資金負担が軽くなります。
会社の利益を圧縮できる
退職金は、退職金を支給した期の法人税対策にも有効です。適正な額の退職金は損金計上が可能で、会社のその期の利益を圧縮できるからです。
なお、役員退職金の損金算入時期は原則として退職金の金額が確定した日ですが、会社が実際に退職金を支払った事業年度に算入することも認められています。法人税の負担は会社の利益による部分が多いので、会社の利益が多くなる時期を見計らって退職金を支給する方法もあります。
経営者の退職後の生活資金を準備できる
事業承継時の退職金支給は、事業を譲渡する経営者にもメリットがあります。事業を後継者に引継ぎ、リタイアするタイミングでまとまった金額の退職金を受け取れれば、経営者は退職後の生活資金や老後資金の準備が可能です。「老後2,000万円問題」の例からも、退職後の生活には相応の資金が必要となります。事業承継時の退職金の活用は、事業を引き継ぐ後継者や会社の税負担軽減だけでなく、経営者にもメリットのある方法です。
事業承継で退職金を活用するデメリット
ここまで紹介してきたように、事業承継時で退職金を活用するとさまざまなメリットがあります。しかし、デメリットや注意すべき点があるのも事実です。主なデメリット・注意点には以下のようなものがあります。
・現金での資金調達が必要となる
・引退後の経営者は干渉できない
・損金算入で否認される可能性がある
それぞれの内容を以下で見ていきましょう。
現金での資金調達が必要となる
退職金は現金での支給となるため、計画的に準備する必要があります。もし、何も準備していない状態で退職金を支給すると、その期の決算が赤字となる可能性があります。また、万が一経営者が突然死亡してしまった場合、対応に追われトラブルとなってしまう状況も否定できません。
先述のように退職金の資金準備には生命保険や小規模企業共済制度などの活用があります。どちらも積立が必要な制度なので、早い段階から検討を行い、計画的に積み立てていきましょう。なお、退職金積立でかかった費用は損金として計上できる場合もあるため、継続的な法人税対策にもなります。
引退後の経営者は干渉できない
事業承継で退職金を活用する場合、「退職金の損金算入が認められるか」がとても重要です。もし、税務調査で損金算入が否認されれば、税金の支払いが求められる場合があります。
退職金の要件には「退職の事実はあるか」という点があり、もし、税務署から退職の事実がないと指摘された場合、問題となる可能性があります。そのため、退職後はできるだけ経営に関与せず、経営から手を引くのが賢明です。
損金算入で否認される可能性がある
退職の事実以外にも、役員退職金の損金算入ではいくつかの注意すべき点があります。主な注意点は以下のとおりです。
・株主総会などで退職金の金額を決議しているか
・退職金の金額に妥当性はあるか
・退職金の損金算入時期は適切になっているか
上記の注意点に留意し、退職金の支給手続きを適正に行いましょう。例えば、退職金の金額を決議した株主総会の議事録を作成しておくと、税務署に証明を求められたときの説明がしやすくなります。
なお、上記の注意点はあくまで留意すべきところの概要をまとめたにすぎません。実際には個別に確認すべき点が生じることも多いので、税理士など専門家への相談も重要です。
退職金を活用した事業承継のポイント
最後に、事業承継で退職金を活用するときの確認すべきこと、やるべきことを紹介します。退職金活用の主なチェックポイントは以下のとおりです。
・退職金支給のための資金は準備できているか
・退職金の支給金額は適正か
・退職金はどのタイミングで支給するか(生前退職金か死亡退職金か)
・退職金の損金算入要件は満たしているか
事業承継での退職金の活用は、生命保険や共済制度での積み立てから考えると、長いスパンに渡るものです。できるだけ早期に着手し、建設的に進めていきましょう。
まとめ
事業承継時に退職金を支給すると、自社株評価を引き下げる、当期利益が圧縮され法人税対策となる、経営者の退職後の生活資金を確保できるなどさまざまなメリットがあります。
一方、適正な方法で退職金が支払われなかった場合、税務調査で損金算入を否認されるリスクがあります。退職金は一般的に功績倍率による算出が行われているので、適正な範囲内で金額を設定しましょう。また、株式総会での決議や損金算入時期も重要な項目です。
事業承継を円滑に進めるためには、今回ご紹介した退職金を活用する方法など、税務・財務・労務などの専門的な知識が必要となります。fundbookでは、経験豊富で専門知識を有するアドバイザーが事業承継やM&Aの進行をサポートします。事業承継で不明な点があるときは、お気軽に弊社までご相談ください。