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2023/09/15

持株会社による事業承継-流れやメリット、注意点

持株会社による事業承継-流れやメリット、注意点

事業承継にあたり承継スキームが多様化している中で、持株会社を活用したいという方もいるのではないでしょうか。
しかし、持株会社を活用した事業承継のやり方がわからないという方もいるはずです。持株会社を利用した事業承継には、節税効果や株式分散の防止など多くのメリットがある反面、活用する際に注意点もあります。

本記事では、持株会社を利用した事業承継の概要や流れを解説しています。また、メリットや注意点も紹介しているので、事業承継の実施を検討している方は参考にしてください。

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事業承継における基本的なスキームは3種類

事業承継における基本的なスキームは、主に3種類あります。

・相続による承継
・贈与による承継
・株式譲渡による承継

それでは各内容を解説していきます。

● 相続による承継

親族内承継(後継者が経営者の親族)の場合は、先代経営者が亡くなった後に自社の株式を相続によって承継し、事業を引き継ぐことが考えられますが、株式の相続と同時に多額の相続税を伴う可能性が高くなります。

相続税は現金で支払う必要がありますが、一般的に相続する自社株式は換金が難しいため、後継者は相続に伴う資金を用意しなければいけません。

後継者が十分な資金を確保している場合は問題ありませんが、そうでない場合は後継者の納税負担が大きくなってしまいますし、事業承継後の経営にも支障をきたす可能性があります。

また相続人が複数人いる場合は、他の相続人の遺留分を侵害してしまう可能性もあるため、スムーズに事業承継を実施できないケースがあることにも注意しなくてはいけません。

相続による事業承継は「争続」と言われることもあり、親族の間で問題が発生することも珍しくないので、慎重に実施する必要があります。あらかじめ相続者を遺言書に書き記しておくといった備えをしておくと良いでしょう。

● 贈与による承継

事業承継には、生前贈与を活用した方法もあります。生前贈与とは、先代経営者が存命のうちに後継者に無償で事業資産を承継する方法です。親族への承継の他、経営能力に優れた自社の従業員や外部の人間への承継があるので、後継者の選定ができるというメリットがあります。

しかし、相続による問題を解決できる可能性がある反面、事業資産の評価額に応じて多額の贈与税が発生する可能性があるため、事業承継に伴う後継者の負担が大きくなる傾向があります。

ただし、生前贈与では暦年課税贈与や相続時精算課税贈与などの制度を活用すれば納税負担を軽減できるので、覚えておくと良いでしょう。

● 株式譲渡による承継

株式譲渡による承継は、後継者に自社株式を譲渡し自社の経営権を承継する方法です。M&Aを活用した事業承継では、一般的に用いられるスキームです。

相続や贈与による事業承継では税金の支払いを承継する側の後継者が行うため、後継者にとっては大きな負担となるケースも珍しくありません。

しかし、株式譲渡では先代経営者が株式を譲渡して売却益を得ることになるため、相続や贈与による事業承継とは違い、先代経営者に納税の義務が生じます。そのため、後継者にとっては納税に対する負担がなくなります。

増加している持株会社を活用した事業承継とは

前述しているように、事業承継には相続、贈与、株式譲渡によるスキームがありますが、近年は持株会社を活用した事業承継も増えています。

持株会社とは、他の株式会社の株式を保有し、子会社化して支配下に置くことを目的に設立された会社を指しており、ホールディングスとも呼ばれています。持株会社は以下のように2種類に分けられます。

・事業持株会社:子会社の株式を保有し、自社でも事業活動を行っている会社
・純粋持株会社:子会社の株式の保有のみを目的とした会社で、事業活動は行わない

一般的に持株会社と言う場合は「純粋持株会社」を指しており、大企業に多く見られる形態です。

しかし、中小企業でも「後継者が持株会社を設立し、承継する会社の経営権を間接的に握ることができる」「後継者個人が株式を取得するわけではないため、後継者が事業承継に伴う課税を受けない」などの得られるメリットが多く、事業承継に活用されることが増えています。

なお、メリットについては後の項目で詳しく解説しているので、そちらを参照してください。

持株会社を活用した事業承継の流れ

持株会社を活用した事業承継の流れは以下のようになります。

・後継者が新会社を設立
・新会社で金融機関から融資を受ける
・借入れた資金で先代経営者から株式を譲受
・既存会社(子会社)の株式配当を原資として返済を行う

それでは各内容を詳しく見てみましょう。

① 後継者が新会社を設立

まずは承継する会社の株式を譲受するために、後継者が100%出資者となって持株会社を設立する必要があります。100%出資者となることで子会社(承継する会社)の議決権を後継者が承継できるため、持株会社を活用した事業承継では絶対条件となります。

② 新会社で金融機関から融資を受ける

承継する会社の株式を譲受しなければいけないため、まとまった資金が必要になります。資金調達には承継する会社からの株式による配当金を原資として、金融機関から融資を受けるのが一般的です。

個人では融資を受けづらい傾向がありますが、持株会社なら子会社となる会社の業績が悪くなければ融資を受けられる可能性高いです。

③ 借入れた資金で先代経営者から株式を譲受

調達した資金を使って先代経営者から株式を譲受し、承継する会社を子会社にします。後継者が100%出資の持株会社を通じて、間接的に子会社の経営権を握ることができます。

また承継する会社の株式を譲受するのは、設立した持株会社であって個人ではないため、後継者の納税義務を回避できるという後継者の負担軽減にも期待が持てます。

④ 既存会社(子会社)の株式配当を原資として返済を行う

持株会社を活用した事業承継後は、金融機関へ借入金の返済が必要になります。返済には承継した会社の株式配当を原資として返済を行うのが一般的です。

持株会社を活用した事業承継のメリット

持株会社を活用した事業承継には多くのメリットがあります。主なメリットには以下のようなことが挙げられるので、覚えておきましょう。

資金調達がしやすい
株式分散を防止できる
節税効果が期待できる
先代経営者は譲渡益を得られる

それでは各項目の内容を解説していきます。

● 資金調達がしやすい

事業承継では、後継者が多額の資金を用意しなければいけないケースが多くなります。

しかし持株会社なら後継者が個人ではなく会社になるので、金融機関からの融資を受けやすく、後継者にとっては資金調達がしやすいというメリットがあります。

融資を受ける際は、基本的に返済のための財源が明確になっている必要があります。持株会社の場合は、子会社からの配当金が原資となるので、返済のための明確な財源を提示することができます。そのため、金融機関も融資してくれる可能性が高いと言えます。

● 株式分散を防止できる

相続による事業承継では相続人が複数人いる場合に、後継者以外にも承継する会社の株式が分配されてしまう可能性があるというデメリットがあります。株式が分散してしまうと経営権が集約できなくなるため、事業承継後の会社の経営に影響し、混乱を招いてしまう危険性があります。

しかし、持株会社を活用した事業承継であれば、株式は持株会社が獲得するため、間接的に後継者に経営権が集約され、事業承継後の混乱を避けることに繋がります。

● 節税効果が期待できる

一般的に相続や贈与による事業承継では、相続税や贈与税が高額になる傾向があります。

構造こそ異なるものの、相続税と贈与税は累進課税で計算されるため、最大で55%の税率になります。そのため、承継する会社の事業資産によっては後継者にとって金銭的な負担が大きくなる場合があります。

一方、持株会社を活用した場合は先代経営者に譲渡益課税が生じるので、後継者に納税の義務がありません。また、譲渡益に対する課税は一律約20%となるので、場合によっては相続税や贈与税と比べて大幅な節税効果が期待できます。

● 先代経営者は譲渡益を得られる

先代経営者にとっては、株式の譲渡による売却益を得られるのも大きなメリットです。承継時に譲渡益を得られることで、先代経営者は老後やセカンドライフの資金を確保できます。

従業員や第三者への事業承継では譲渡益を得ることも可能ですが、相続や贈与による親族内承継では基本的に譲渡益を得られません。

持株会社を活用した事業承継の注意点

持株会社を活用した事業承継にはメリットがある反面、デメリットもあるのできちんと把握しておきましょう。主なデメリットは以下になります。

・資金調達・返済が必要
・譲渡益に税金がかかる
・税務署から指摘される可能性がある

それでは各項目を解説していきます。

● 資金調達・返済が必要

持株会社による事業承継では承継する会社の株式の譲受が必要になります。そのため、後継者に十分な資金がある場合を除いて、新会社設立後に資金調達を行うことになります。

一般的に資金調達は金融機関から融資を受けることが多いですが、融資を受けるということは返済をしなければいけないということです。後継者個人に借金が発生するわけではありませんが、会社として負債を抱えることになるので考慮すべき問題と言えます。
当然ながら利息も発生しますので、税金対策をした結果税金以上の利息を払うことになる可能性に留意して計画を立てましょう。

また返済は子会社化する会社の配当金が財源となるため、子会社の経営状況が良好であれば問題ありませんが、悪化してしまうと返済計画に問題が生じる可能性があることを覚えておきましょう。そのため、持株会社の事業承継では専門家の分析・意見を参考に、資金調達や返済計画の妥当性を考える必要があります。

● 譲渡益に税金がかかる

持株会社を活用した事業承継では、相続や贈与のように後継者に納税の義務は生じませんが、先代経営者には譲渡益に対する課税が発生します。

前述しているように、譲渡益課税の税率は約20%となるため、承継する事業資産の価値によっては相続や贈与のほうが税率は低くなることもあります。そのため、事業承継の際は税率も考慮したうえで承継方法を検討すると良いでしょう。


● 税務署から指摘される可能性がある

節税対策目的のみで持株会社を活用した事業承継を行うと、税務署から税務上の問題を指摘される可能性があります。事業承継を行うにあたって税務署を納得させられる理由がない場合は、追徴課税を納めなければいけないこともあるので注意が必要です。

持株会社を活用して事業承継を実施する際は、株式分散の防止や資金調達の観点など、このスキームを選択した合理的な理由を税務署に説明できるようにしておきましょう。もし個人での判断が難しい場合は、専門家への相談をおすすめします。

持株会社を活用した事業承継で覚えておきたいこと

前述しているように、一般的に持株会社は純粋持株会社を指すため、収益性が少ないです。そのため、持株会社を利用して事業承継を実施した場合、子会社となる会社の株価は下がる可能性が高くなります。

承継する会社が収益性の高い会社であっても、収益性の少ない会社(持株会社)の子会社となることで、株価は引き下げられます。したがって、株価が引き下げられることで、子会社の株式の株価上昇を抑制できる効果が期待できます。
この場合、株式保有特定会社などに該当する場合、評価額は抑制できないので確認が必要です。
また非上場株式の純資産価額(相続税評価額)を計算する場合、その会社の資産で含み益があるものについては、含み益の37%を控除できるので、長期的な法人税の節税効果も見込めます。

このように持株会社を利用した事業承継では、承継後の税金負担も軽減できる可能性が高くなることを把握しておくと良いでしょう。

まとめ

事業承継の主な方法には、相続、贈与、株式譲渡の3つのスキームがあります。近年は事業承継の方法も多様化しており、これらの他に持株会社を活用した事業承継も増加しています。

持株会社を活用した事業承継では、株式分散の防止や節税効果などが期待できるだけではなく、先代経営者が譲渡益を得られるというメリットがあります。また後継者にとっては、相続税や贈与税の納税義務を避けられるため、負担を軽減できる点も魅力でしょう。

ただし、持株会社を活用した事業承継には注意点もあるので、円滑に事業承継を実施したいのであれば専門家のサポートを受けることをおすすめします。

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