倒産とは、法律上そのような語句の定義があるわけではなく、一般的には債務者が自ら負っている債務を返済できなくなった経済状態にあることをいいます。
一般的には、倒産とはさまざまな理由により事業が継続的に赤字を出すようになり、内部留保などを使い果たし、支払いなどができなくなるという経緯をたどるイメージが強いと思います。しかし、事業が黒字であるように見えるにもかかわらず、実質的に倒産状態になる場合もあります。これが黒字倒産といわれるものです。
本記事では、黒字倒産がどのようなものであるか、どのような原因により生じ、それを避けるためにはどうしたらよいのかといったことなどをみていきます。
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黒字倒産とは
倒産とは、一般的に債務者が自ら負っている債務を返済できなくなった状態であることはすでにみたとおりです。
では黒字倒産とはどういう意味かというと、倒産と同様に法律上定義がなされている語句ではないため、その意味も必ずしも一定ではありませんが、多くの場合、純資産が黒字(資産超過)の状態で倒産すること、または損益計算書上では黒字の状態であるにもかかわらず倒産することをいいます。
倒産件数は減少傾向
日本における倒産件数の動向をみると、東京商工リサーチによれば、2018年の企業倒産件数(負債総額1,000万円以上のものに限る)は8,235件、負債総額は1兆4,854億6,900万円であり、2009年から10年連続で前年を下回り、過去30年では1990年の6,488件、1989年の7,234件に次いで少ない水準であったとされています。
このように、現状の倒産件数は減少傾向にあります。
黒字倒産が起こる理由と赤字倒産との違い
黒字とは事業から利益が出ている状態です。対して、倒産とは債務を返済できなくなった状態です。事業から利益が出ている状態であるが、債務を返済できないということはどういうことなのでしょうか。
黒字倒産が起きる理由はキャッシュフロー
このような黒字倒産はどのようにして起きるのでしょうか。結論からいうと、黒字倒産は、会社内に現金が不足することによって生じます。つまり入金と出金のタイミングのズレによって生じるのです。
会社の収支をみるときには通常損益計算書をみます。これにはあるタイミングにおける会社の収支が現れます。
例えば、事業年度決算においては当該事業年度における会社の収支がわかります。この場合、損益計算書では当該期間に発生した収支が記載されます。ここで重要なのは、この損益計算書では当該売り上げが回収済みであるのか、支払いが完了しているのかは現れてこないということです。
黒字倒産の場合に気をつけるべきことは、キャッシュフローということになります。
キャッシュフローとは、キャッシュ(現金)のフロー(流れ)のことであり、現実の現金の入出金を把握するものです。
単純な事例でみてみましょう。①売掛金の回収は翌々月の末日、②買掛金の支払いは翌月末日の会社があるとします。
そこで、①10月1日に150万円の売り掛けが生じ、②10月5日に100万円の買い掛けが生じ、それ以外の取引は発生しなかったとします。
これを損益でみてみると、10月1日から10月31日までの収支は、売り上げが150万円で仕入れが100万円ですから、その他経費などを無視すると50万円の利益が上がっていることになります。
では次にキャッシュフローの観点から見てみると、10月末日に会社には50万円の現金しかなかったとすると、まず②10月5日の買掛金の支払いが11月末日にやってきます。
しかし、①10月1日の売掛金の回収は12月末日ですから、11月末日に会社にある現金は50万円だけであり、②100万円の買掛金の支払いができなくなってしまいます。
このように、数字上では利益が上がっているにもかかわらず、現金の不足により倒産してしまうことがあり得るのです。
黒字倒産と赤字倒産の違い
黒字倒産は、みてきたとおり損益計算などでは利益が出ているものの、現金が不足することにより、支払いが不能になり倒産してしまうことをいいます。他方で、もちろん損益計算書上でも利益が上がらず、収支のバランスが悪いことから支払いができなくなる倒産もあります。
現金が不足し支払いができなくなる原因はさまざまな要因が絡み合うことも多いため、必ずしも黒字倒産、赤字倒産と分別することは難しいかもしれません。しかし、黒字倒産の原因などを理解することにより、突発的に現金が不足して支払いができなくなるリスクを回避することができます。
黒字倒産の事例
東京商工リサーチによれば、2018年の倒産企業のうち、当期純損失を計上していた企業の割合は52.2%であったようです。つまり、残りの47.8%の中にはいわゆる黒字倒産も含まれることになります。
株式会社アーバンコーポレイション
黒字倒産の事例としては、株式会社アーバンコーポレイション(以下「アーバンコーポレイション」)がよく挙げられます。アーバンコーポレイションは、広島に本社を置く不動産会社でした。
同社は売上高も経常利益も一定の成長をしていたものの、販売が行き詰まりつつある状況においても仕入れを継続した結果、在庫が増加し資金が滞留していたところ、追加融資が途絶えたことで黒字倒産となりました。
ここで問題となるのは、在庫です。損益計算書では、商品の原価(仕入れ)は当該商品が売れたときに計上されます。仕入れたけれども売れていない商品は在庫として貸借対照表に記載されます。
つまり、損益計算書上では売れていない在庫は原価として計上されていないため、在庫を仕入れた金額が反映されていないのです。
そうなると、現実は利益を超える分の在庫を仕入れて現金は流出しているが、損益計算書では売れた商品とその原価だけをみているので利益は出ていることになる、という事態が生じるのです。
江守グループホールディングス株式会社
また、江守グループホールディングス株式会社(以下「江守HD」)も黒字倒産の事例として挙げられることが多いです。江守HDは、福井県に本社を置く卸売り商社でした。
同社は、黒字倒産により民事再生を申し立てるまで5期連続で黒字決算でした。しかしその実態は、キャッシュフローでは営業キャッシュフローが5期連続でマイナスの状態でした。
また中国の取引先の資金繰りが悪化し、中国子会社が当該中国取引先に対する売掛債権の回収や取引継続が困難であるにもかかわらず、架空取引による粉飾を行っていました。
これにより多額の売掛金が回収不能となり、一転して債務超過に陥ったのです。スポンサーなどを模索したものの結局、自主再建を諦め民事再生を申し立てたという経緯です。
黒字倒産を防ぐ3つのポイント
それではこのような黒字倒産を防止するためには、どのような点に留意しておくべきでしょうか。
ポイント1 入金のタイミングを早める
黒字倒産が現実の入金と出金のズレから生じることから、現実の入金を早めることで、黒字倒産のリスクを大幅に減少させることができます。
ポイント2 入金から支払いまでの期間を延ばす
これも黒字倒産が現実の入金と出金のズレから生じるため、入金のタイミングを早めることとあわせて、支払いを後ろ倒しにすることで黒字倒産の危険を回避することができます。
売上の立つ可能性が十分に見込まれるなどの信用が高ければ、仕入れ先と交渉することも可能と考えられます。
ポイント3 無駄な仕入れ・在庫を減らす
アーバンコーポレイションの事例でもあったように、過度の在庫を仕入れてしまうと、売上げが予想よりも上がらなかったときにはキャッシュアウトだけが生じてしまい、現金が不足して黒字倒産する可能性があるためです。
また、過剰在庫は在庫の価値が時間経過で劣化することもあり得るため、注意が必要です。
まとめ
黒字倒産とは、損益計算書では利益が出ているにもかかわらず、現金の不足により支払いができなくなってしまうことです。そのため、利益だけではなく現実の支払い状況など現金の収支をしっかり把握しておくことが重要です。
そのためにもキャッシュフローなどにかかる知識を得たり、必要に応じて税理士や会計士、弁護士などに相談して事業の改善を早めにしておくべきでしょう。
また、黒字倒産を含め倒産などの懸念がある場合、それを回避するために、M&Aによる会社や事業の譲渡を検討することも必要でしょう。
※この記事は執筆当時の法令等に基づいて記載しています。
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