事業承継のことを相談したいと思っている方のなかには、どこに相談すればよいか迷っている方も多いのではないでしょうか。
銀行は金融機関として企業との取引が多く、事業承継の相談先にも選ばれやすい場所です。銀行側でも、事業承継の必要性の増加を受け、企業からの事業承継の相談を受け付けるところが増えています。
今回は、事業承継における銀行の立ち位置やメリット・デメリットを解説します。銀行で相談する際の流れや銀行以外の相談先も紹介しているため、事業承継でお悩みの方はぜひ参考にしてください。
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事業承継における銀行の立ち位置
事業承継は、近年多くの企業にとって喫緊の課題です。帝国データバンクに調査によると、中小企業や小規模事業者の経営者のうち、70歳を超える方が2025年には約245万人に達するといわれています。銀行を含む多くの機関でも、経営者の方が円滑に事業承継を進められるように対応が求められています。
特に銀行は融資や資金繰りの支援など企業と日常的に接しているため、経営者の相談相手の役割を担うことが多い存在です。
2016年に金融庁が公表した「金融仲介機能のベンチマーク」では、「事業承継支援先数」が選択ベンチマークの1つとして採用されており、事業承継に関する経営の相談や自社株の譲渡の相談、事業承継で必要となる資金の相談など、事業承継に関するさまざまな相談の相談先として、銀行は期待されています。
実際、地方銀行での事業承継に関する対応件数は、2012年の約10,000件から2019年の約40,000件超へと大幅に増加しました。「事業承継をどのように実施したらよいかわからない」「株の譲渡はどうすればよいのか」など事業承継に悩みをもつ経営者の方にとって、銀行は事業承継の窓口の1つとなっています。
事業承継について銀行に相談するメリット・デメリット
それでは、事業承継を銀行に相談するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。例えば、日頃から取引のある銀行の担当者であれば、事業承継という会社の経営の根幹に関わることも相談しやすいメリットがあります。
ただし、いくつかのデメリットもあるため、相談する前にメリットとデメリットの双方を把握しておくことが大切です。ここでは、銀行に事業承継するメリットとデメリットを紹介します。
●事業承継について銀行に相談するメリット
事業承継について銀行に相談するメリットには、主に以下のようなものがあります。
・経営や税金対策の相談ができる
・会社の経営状況を把握している
・相談料・着手金がない銀行が多い
それぞれのメリットを詳しく解説します。
経営や自社株評価などの相談ができる
銀行では多くの中小企業と取引を行う実績から、中小企業の経営や事業承継での自社株評価などについて、知識やノウハウを有している場合が多くなっています。その知識やノウハウを生かし、近年銀行では経営や自社株評価を含む事業承継のコンサルティングや支援サービスを実施している機関が増えています。
このようなサービスを利用すると、事業承継に関する経営の問題や自社株・事業用資産の評価額の概算算定など、事業承継に対する支援が受けられます。
また、法務・財務・税務などの専門的な部分、具体的な事業承継の実務に関しては、提携する弁護士や税理士、M&A仲介会社などの専門家を紹介してもらえるケースもあり、事業承継をより円滑に進めていくことが可能です。
会社の経営状況を把握している
日頃から取引のある銀行であれば、自社の経営状況や資産状況など、自社が置かれている状況を銀行側がおおまかに把握しているケースが多く存在します。決算書や財務諸表を提出し、自社の経営理念や今後の事業の展望などを細かく説明せずとも、事業承継について相談できる点は大きなメリットです。
このようなことからも、銀行は特に中小企業や小規模事業者における事業承継の相談先に選ばれやすくなっています。
また、自社の経営状況を把握している銀行への相談は、経営状況に応じた的確なアドバイスが受けられる可能性にもつながります。
特に銀行に融資を受けている場合は、事業承継の検討段階で銀行へ相談することで信頼関係の継続が期待でき、事業承継後に取引銀行と円滑な関係を築くことに役立ちます。
相談料・着手金がない銀行が多い
銀行によっては、相談料や着手金などの費用が発生しない場合が多い点もメリットです。特に、事業承継の初期的な相談を受ける地方銀行では、業務の一環として事業承継の相談を受ける場合があります。また、事業承継の啓発・相談事業として、事業承継セミナーや個別相談会を実施する銀行もあります。
地方銀行の多くで相談料や着手金が発生しないのは、地方銀行が事業承継の必要な企業の洗い出し、入り口的な役割を担っているためです。実際の手続きや事業承継の進行は、税理士やM&A仲介会社などの専門家が担うケースが多くなっています。
地方銀行は企業と専門家の橋渡しを担うことで、顧客の企業がスムーズに事業承継を行う支援ができ、紹介した専門家からは手数料収入を見込めます。
ただし、都市銀行や投資銀行など銀行自体で事業承継支援を行っている場合は、費用が発生するケースもあるためご注意ください。また、紹介された税理士やM&A仲介会社などの専門家に対しては別途費用が発生します。
●事業承継について銀行に相談するデメリット
次に、事業承継を銀行に相談するデメリットを紹介します。主なデメリットは以下のとおりです。
・承継先は銀行の顧客から選ばれることが多い
・実務は提携先のM&A仲介会社に任されることがある
各デメリットを項目ごとに解説します。
承継先は銀行の顧客から選ばれることが多い
事業承継の方法は主に親族内承継や従業員などへの親族外承継、M&Aによる第三者承継の3つの方法があり、近年では第三者承継での承継先のマッチングをサポートする銀行も増えてきました。
承継先のマッチング方法は銀行により異なりますが、多くの場合、銀行のもつネットワークから選ばれることになります。必然的に銀行の顧客であることが多く、承継先が限定される恐れがあります。
また、承継先に銀行が融資を行っている場合、銀行は承継先に有利となるように条件交渉を進める恐れもあり、利益相反のリスクが存在します。
実務は提携先のM&A仲介会社に任されることがある
先述のように、地方銀行などでは事業承継の入り口的な役割を果たしているケースが多く、実際の実務は提携先のM&A仲介会社や税理士などに任されることがあります。
これは、多くの地方銀行が事業承継に積極的な姿勢を示しているとはいえ、事業承継事業は地方銀行の本業ではないためです。
経営者の方や企業の状況によっては、M&A仲介会社や税理士などの専門家に先に相談するほうがメリットが多い場合があります。
事業承継について銀行に相談する流れ
次に、事業承継を銀行に相談する流れを見ていきましょう。以下は中小企業庁が公表している「事業承継ガイドライン」が示す事業承継の一般的な流れです。
<親族内・従業員承継>
ステップ1:事業承継に向けた準備の必要性の認識
ステップ2:経営状況・経営課題等の把握(見える化)
ステップ3:事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
ステップ4:事業承継計画策定
ステップ5:事業承継の実行
<第三者承継>
ステップ1:事業承継に向けた準備の必要性の認識
ステップ2:経営状況・経営課題等の把握(見える化)
ステップ3:事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
ステップ4:マッチング実施
ステップ5:M&Aの実行
(参考:中小企業庁「事業承継ガイドライン」
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf)
銀行への相談で多くなっているのは、ステップ1の「事業承継に向けた準備の必要性の認識」の段階での相談です。事業承継の初歩的な段階での相談であり、特に中小企業や小規模事業者とつながりの深い地方銀行では、経営者の方が事業承継に踏み出す窓口の1つとなっています。
ステップ2とステップ3は、事業承継計画策定への準備段階です。事業承継計画の策定支援は、銀行によりサービス提供の有無に違いがあります。先述のように事業承継コンサルティングや事業承継支援サービスを提供している銀行もあれば、専門家を紹介する形をとる銀行もあります。
ステップ4とステップ5は、事業承継を実施する段階です。地方銀行では、実際に事業承継を実施する段階まで至るケースはあまり多くありません。一方、都市銀行や投資銀行など事業承継やM&Aのサービスを提供している機関では、ステップ5まで対応しているところもあります。
上記のような状況を考慮すると、銀行に相談する場合は自身がどのような支援を求めているのか、事前に明確にしておくことが大切といえるでしょう。事業承継について知識がなく、気軽に相談したい場合などは、取引のある銀行への相談は重要な選択肢の1つです。
しかしながら、既に事業承継の必要性を認識している場合などは、専門家に相談するほうが適切なケースもあります。次項では、銀行以外の相談先をご紹介します。
事業承継について相談できる銀行以外の場所
銀行以外で事業承継を相談できる場所には、以下のようなところがあります。
・専門のM&Aアドバイザー・コンサルティング
・弁護士
・税理士
・公認会計士
・公的機関
それぞれの内容を以下でご紹介します。
●専門のM&Aアドバイザー・コンサルティング
事業承継の初歩的な相談から事業承継の実施まで、総合的なサポートを受けたい経営者の方には、専門のM&Aアドバイザーが在籍するM&A仲介会社やコンサルティングがおすすめです。
専門のM&Aアドバイザーは事業承継やM&Aに関する知識や実績が豊富です。銀行と異なり、事業承継の進行をトータルで支援します。
また、近年では子どもや親族、従業員に後継者が見つからず、M&Aによる第三者への承継が増えてきました。専門のM&Aアドバイザーなら、親族や従業員への事業承継だけでなく、適切な第三者とのマッチングや条件交渉、M&Aに必要なデューディリジェンスのサポートなど、さまざまな支援を受けることができます。
●弁護士
弁護士は法律の専門家として、株主や金融機関、取引先や利害関係者との調整に大きな役割を果たします。例えば、後継者が事業承継後の経営を安定的に行えるよう、「自社株を集中して承継させる」「遺留分を活用する」「議決権のない株式を活用する」などの対策も、弁護士に相談するとより円滑に進めることができます。
また、第三者承継でM&Aを活用する場合には、M&A実施における法律的なリスクの検討や、基本合意書・最終合意書などの作成の支援が受けられます。事業承継にあたり、法律的なサポートを受けたい場合に頼りとなる存在です。
税理士資格を併せて所持している弁護士も珍しくありませんので、知識と資格があり、事業承継を得意とする弁護士に相談するとよいでしょう。
●税理士
税理士は中小企業と顧問契約を結んでいる場合が多く、銀行と並んで相談先に選ばれることの多い専門家です。
特に、税理士は税務に関して強みをもち、事業承継税制の活用や相続税対策など、税金面での支援が受けられます。また、税務のみならず、会社の将来のことや後継者に関すること、経営全体に関することなど多岐にわたる事柄について相談を受け付けている点もメリットです。
近年、顧問税理士のネットワークによるマッチングサイト「担い手探しナビ」が設置され、第三者承継の承継先探しにも着手しています。
●公認会計士
公認会計士に相談すると、会計や監査など財務の専門的な立場からのアドバイスが受けられます。具体的には、自社の経営状況の見える化のための財務諸表監査やコンサルティング業務、事業承継課題の洗い出しのための財産承継支援や税務対策などです。
その他、事業承継に向けた経営改善では、本業の競争力強化や経営体制の検討などのアドバイスが期待できます。ポスト事業承継に向けた適正な会計の導入や新規事業の開拓支援など、事業承継やM&Aの幅広いサポートも見込め、経営全体に関する支援が受けられる専門家です。
●公的機関
国は中小企業の事業承継への取り組みとして、さまざまな公的支援を展開しています。例えば以下のような場所で、事業承継の相談を受け付けています。
・事業承継・引継ぎ支援センター
・中小企業再生支援協議会
・よろず支援拠点
事業承継・引継ぎ支援センターは、全国に設置されている公的な事業承継の相談窓口です。親族内承継支援や第三者承継支援、後継者不在の経営者の方と創業を考える起業家の方をマッチングする「後継者人材バンク」などのサービスを提供しています。
中小企業再生支援協議会では、借入金などで経営に困難を抱えた中小企業の方の支援を行っています。事業承継とともに、経営状況に悩みを抱えている方に適した相談先です。
その他にも、中小企業や小規模事業者の経営相談を受け付けている「よろず支援拠点」、各都道府県の商工会議所・商工会や地方自治体にも、経営相談の窓口が設置されている場合があります。自社の状況に合わせ、相談先を選択してください。
まとめ
銀行は企業と日常的に取引があり、事業承継の相談先として選ばれることの多い場所です。近年、特に地方銀行への事業承継相談件数は増加しています。
事業承継を銀行に相談すると、経営や自社株評価などの相談ができ、経営状況に基づいたアドバイスが受けられるなど、いくつかのメリットがあります。ただし、事業承継計画の策定や事業承継の実施など、事業承継の実務については、専門家を紹介されるケースも多い状況です。
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