少子高齢化が進み労働人口が減少する中で、組織再編を行い社会の変化に対応することは多くの会社にとって課題となっています。
組織再編において会社分割は有効な手段であり、会社分割の手法の一つである吸収分割も、社会の変化への対応策の一つとなり得ます。今回は吸収分割とはどのようなスキームをとるのか、図解を交えつつ解説していきます。
▷関連記事:M&Aで人口減少に対応する
上場企業に負けない 「高成長型企業」をつくる資金調達メソッド
本資料では自社をさらに成長させるために必要な資金力をアップする方法や、M&Aの最適なタイミングを解説しています。
・縮小する日本経済市場を生き抜くために必要な戦略とは?
・まず必要な資金力を増強させる仕組み
・成長企業のM&A事例4選
M&Aをご検討の方はもちろん、自社をもっと成長させたい方やIPOをご検討の方にもお役立ていただける資料ですので、ぜひご一読ください。
会社法で定められる会社分割の1つ「吸収分割」
会社分割とは、当該の会社がある事業に関して有している権利義務の一切またはその一部を、他の既存の会社または、新たに設立した会社に包括的に承継させるM&Aの手法の一つです。会社分割の一つである吸収分割は、既存の会社へ権利や債務などを包括的に承継することを指します。
会社法では、会社分割は次のように定義されています。「株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させることをいう。」(会社法2条29)
以下の吸収分割のスキーム図は、既存のX社がb事業の権利義務を、既存のY社に承継する場合です。
吸収分割と新設分割の違いは?
吸収分割も新設分割も会社分割の手法であり、包括的に事業を承継する点では同じです。ただし、吸収分割は既存の会社に承継することに対し、新設分割は承継する会社が既存ではなく、新たに設立した会社に承継する点が異なっています。新設分割では1つもしくは2つ以上の会社が、分割する事業に関する権利義務の一部または全てを新設する会社に承継します。つまり、既存のX社はb事業の権利義務を承継させるために、下図のようにY社を新たに設立します。また、吸収分割では対価として株式以外の財産も交付可能ですが、新設分割では対価は原則として株式を交付します。
▷関連記事:新設分割とは?実施する際の手続きやメリット、吸収分割との違いについて解説
吸収分割のメリットとデメリット
事業を包括的に承継する吸収分割を行うメリット・デメリットには以下のような例が挙げられます。
メリット1. 組織や株主関係の整理ができる
多くの事業を展開している場合や複数の部署が存在している場合、会社の事業や組織が複雑化していることがあります。そのように会社の事業や組織が複雑化している際は、吸収分割を行うことで会社を整理できます。
また多く株主が存在する会社では、株主によって注力したい事業が異なることがあります。その際、株主同士の意見が分かれるため会社の方針を決めにくいという状況が起きてしまいます。そのような場合、注力したい事業が異なる株主の関係に関しても吸収分割を行い事業を独立させることで、整理することができるのです。
メリット2. 不採算事業や成長性の低い部門を切り離すことが可能
収益性が低い事業や、今後の成長が見込めない事業を吸収分割によって切り離すことで、コストの削減や経営の効率化を図ることができます。また、M&Aにおいては株式譲渡など他の手法を行う前に、吸収分割を行い会社の採算事業など良い部分を残して事業承継をすることも可能です。
メリット3. 事業の効率化
不採算事業や成長性の低い事業を切り離すことで、会社の核となる事業の効率化が見込めます。事業の効率化が見込める理由は、経営資源や人材を集中して投入することが可能になるためです。
デメリット1. スケール(規模)メリットが減る
事業を切り離すため、会社全体の規模は当然、縮小されることになります。その場合、例えば吸収分割前は複数の事業で使用する商品を大量に仕入れることでディスカウントを受けていた場合、吸収分割によって規模が小さくなったことで、ディスカウントが受けられなくなることも考えられます。
デメリット2. 人材の流出の懸念
会社規模の縮小はスケールメリットが減ること以外にも、従業員の不安感やモチベーションの低下をもたらす要因にもなります。モチベーションの低下は退職の一因にもなり得ます。そのため、従業員の不安要素を取り除き、モチベーションを維持するための対策が必要です。
吸収分割の種類とは
吸収分割には、対価の支払い方で分類すると2種類あります。会社法制定前に物的分割と人的分割と呼称されていた分割方法です。会社法制定後も同様の分割を行うことが可能です。
この2つの違いは、会社分割で会社を分割する会社が承継した事業の対価を会社自身に割り当てるのか、株主に割り当てるのかどうかという点です。会社に割り当てる場合は物的分割、最終的に株主に割り当てる場合は人的分割といいます。
※2006年5月施行の新会社法では人的分割は廃止されました。ただし、実質的には新会社法においても人的分割と同様のスキームは行えます。会社分割を行う会社が事業を承継する会社から交付された株式について、全部取得条項付種類株式の取得対価、または剰余金の配当(現物配当)としてそのまま自社の株主に交付ができるためです。
たとえば、X社のb事業をY社の株式を対価として分割承継するケースについては下図のようになります。吸収分割によってX社のb事業はY社に承継され、X社はb事業分の対価をY社からY社株式で交付されます。つまり、X社がb事業を承継し、Y社から株式の交付を受けた状態になります。これが物的吸収分割です。
それに対して、X社から分割承継されたb事業の対価をX社の株主に交付する場合を人的吸収分割といいます。対価が株式の場合はX社の株主はY社の株主にもなります。
b事業が別会社であるY社に承継される点では合併と変わりませんが、X社が残りの事業を遂行する主体として残存する点において合併とは異なります。
まとめ
吸収分割は合併と異なり、実施後も会社としては存続するため、自社の独立性を維持したままM&Aを行うことができます。また、採算事業に特化して事業を継続できるなどのメリットがあり、組織再編に活かすことも可能です。今後、社会の変化に対応するために組織再編を検討する際の一つの選択肢に吸収分割はなり得ます。M&Aを検討する際や組織再編を考える際には吸収分割も検討してみることをお勧めします。