
焼肉屋業界は比較的参入障壁が低いこともあり、関連業界だけでなく異業種からの参入も多い業界です。
競争が激化する中、コスト高や価格転嫁の難しさなどによって廃業する店舗も増えており、業界再編に向けたM&Aが活発化しています。
本記事では、焼肉屋のM&A動向を解説する他、譲渡側・譲受側のメリット・デメリットや事例も紹介します。
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目次
焼肉屋業界の特徴
日本標準産業分類によると、焼肉屋の定義は「主として焼肉(自ら網で焼くもの)をその場所で飲食させる事業所」となっており、焼肉屋と他の飲食店とでは「消費者が自分で食材を焼いて食べる」という点が大きく異なります。
焼肉屋はその特性上、肉(素材)のおいしさが店舗の評価に直結する他、肉の部位によっては希少なものも含まれるため、安定的な仕入れ先や価格に見合った等級の肉を仕入れられるルートの確保が重要です。
また、2018年に食品衛生法が改正され、食品を扱う事業者は「HACCP」に則って衛生管理を行う必要があります※。そのため、焼肉屋もHACCPに準じて高度な管理を行います。
※ HACCP(ハサップ)とは、食品事業者自身が食中毒や異物混入などの危害要因を把握し、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で危害要因を除去・低減させるために、特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法のこと
焼肉屋業界の市場規模と動向
かつての焼肉屋は、客単価が5,000円を超えるような高級店を中心に展開されていましたが、1980年代~1990年代に差し掛かると安楽亭や牛角など客単価2,000円前後の低価格帯メニューを持つ企業が参入し、チェーン展開を進めました。その結果、ファミリー層や若者からの需要が増加し、焼肉屋業界の市場は急成長を続けました。
2001年に生じたBSE問題(牛海綿状脳症)※1などによって市場の成長は緩やかになったものの、2020年時点での市場規模は1兆2,000億円ともいわれており、焼肉屋は外食産業の中でも高い需要があります。
しかし、近年は円安・食材の高騰・人件費増大などの影響が大きく、増えた経費をメニューに価格転嫁できず倒産するケースが急増しています。
帝国データバンクによると、2024年の1月から9月までの倒産件数は39件となっており、2010年以降最多を更新しています※2。
※1 BSE(Bovine Spongiform Encephalopathy)は牛の病気の1つで、BSEプリオンという病原体に牛が感染すると、牛の脳組織がスポンジ状になり異常行動や運動失調などの症状が現れて最終的には死亡に至るとされる
※2出典:帝国データバンク「「焼肉店」の倒産動向(2024年1-9月)」
焼肉屋業界のM&A動向
焼肉屋を含む外食産業は参入障壁が低く他業種からの参入が多い業界のため、生き残るには消費者のライフスタイル・世帯構成の変化など多様なニーズへの対応が求められます。
しかし、中小規模の焼肉屋ではニーズの変化に対応できず競争力が低下するケースもあります。近年は経費の急増や価格転嫁の難しさによって経営難に陥る焼肉屋も多いです。
このような背景の中、生き残りや経営戦略の手段の1つとして大手傘下への会社譲渡や他社との資本提携など、M&Aを活用するケースが増加傾向にあります。
M&Aで焼肉屋を譲渡するメリット
近年、焼肉屋のM&Aは増加傾向にあります。以下ではM&Aを活用して焼肉屋を譲渡する際のメリットを紹介します。
後継者問題を解決できる
後継者不足は日本全体で大きな問題となっており、焼肉屋を含む外食産業においても例外ではありません。
帝国データバンクが発表した「全国「後継者不在率」動向調査(2024年)」の業種中分類別後継者不在率によると、2024年の飲食店の後継者不在率は58.5%であり、日本の約6割の飲食店は事業承継できる目途が立っていないという結果が出ています※。
後継者がいない場合でもM&Aによって譲受企業が経営を引き継ぐことで、長年経営してきた店舗を守ることができます。
※出典:帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2024年)」
売却益を得られる
M&Aで店舗を譲渡すると創業者は売却益を獲得するため、引退後の生活資金や別事業への運転資金を確保できます。
また、焼肉屋には調理器具・食器洗浄機・ロースターなどの様々な設備があり、廃業時はこのような設備を処分しなければいけません。さらに、賃貸物件の場合は原状回復を求められるケースが多いですが、M&Aで会社を売却できれば、廃業時の費用や手間を軽減できる可能性があります。
従業員の雇用・取引先を守ることができる
M&Aの手法によっても異なりますが、一般的なM&Aの場合、既存従業員や取引先は譲受企業に引き継がれるケースが多いです。
焼肉屋を廃業する場合、従業員が職を失ったり取引先に迷惑がかかったりなど影響も大きくなりますが、M&Aによって事業を継続できれば、従業員の雇用や取引先を守ることができます。
事業拡大が期待できる
M&Aを活用して焼肉屋を譲渡する場合、自社のノウハウや経営資源を残すことができます。また、M&Aによって大手企業の傘下に入ることができれば、譲受側のブランド力や販促力などのリソースを利用して事業拡大できる可能性もあります。
事業の存続だけでなく、自社の発展も期待できるのはM&Aならではのメリットでしょう。
M&Aで焼肉屋を譲受するメリット
M&Aは焼肉屋を譲受する側にも様々なメリットがあります。以下では焼肉屋をM&Aで譲受する際のメリットを紹介します。
人材不足解消につながる
焼肉屋を含む外食産業は離職率が高い傾向にあり、他業種に比べて人材不足が深刻です。新たに従業員を雇用する場合は採用・育成コストがかかりますが、コストに見合う効果を必ずしも得られるとは限りません。
M&Aを活用すれば譲渡側の既存従業員をそのまま雇用できるため、焼肉屋の業務に必要な知識や経験を持つ人材を確保することが可能です。
既存設備・仕入れルートを引き継ぐことができる
焼肉屋の運営にはロースターや煙を吸い込むダクトなどの専門設備が必要ですが、専門設備は導入コストが高額な場合が多いです。
M&Aでは譲渡側の資産を引き継ぐことができるため、専門設備の導入コストを削減できます。さらに、譲り受ける店舗によっては競争率の高い人気の立地を確保できる可能性もあるでしょう。
なお、焼肉屋として高い評価を得るには肉の品質がとても重要です。高品質の食材を仕入れるルートをゼロから構築するには時間と手間がかかりますが、M&Aで既存の焼肉屋を譲受できれば、食材の仕入ルートも同時に確保できる場合があります。
その他、焼肉屋の営業には許認可や届出が必要ですが、このような手続きの手間も軽減できます。
譲渡企業の技術・ノウハウを継承できる
焼肉屋を運営するにはHACCPに沿った衛生管理が必要になる他、消費者ニーズに対応した調理法やメニュー作りも大切です。
M&Aを活用すると新規参入するケースでも譲渡側が培ってきた技術やノウハウを継承できるため、管理体制やメニュー作りをゼロから行う手間とコストを削減できます。
焼肉屋業界のM&Aを成功させるポイント

焼肉屋のM&Aを成功させるには、ポイントを把握しておくことが大切です。
以下では「譲渡側」「譲受」「譲渡側・譲受側共通」の3つに分けてM&Aを成功させるポイントを紹介します。
【譲渡側】自社の強みを洗い出す
譲渡側は自社の強みを洗い出し、譲受側に対してシナジー効果を説明できる状態を作っておきましょう。
譲受側にとっては、M&A後のシナジー効果がどれほど得られるかという点がM&A実施を決断する重要な要素になります。大きなシナジー効果が得られると評価されると、M&Aがスムーズに進みやすくなり譲渡価額も上がりやすいため、自社のアピールポイントを入念に整理しておきましょう。
【譲受側】引き継ぐ仕入先の契約内容を確認する
譲受側は、M&Aによって引き継ぐ仕入先の契約内容を確認しておきましょう。
譲渡側と仕入先との契約には、チェンジオブコントロール条項が盛り込まれている場合があります。チェンジオブコントロール条項とは、経営権や支配権に変化があった場合に契約内容に何らかの制限がかかるとする条項です。
チェンジオブコントロール条項が盛り込まれている場合は、M&A後に取引が中止される可能性があり、優良な仕入れルートが失われてしまいます。そのような事態を招かないためにも事前に仕入先に了承を得るなどの対応を行うことが大切です。
M&Aを検討する際は、引き継ぐ仕入先の契約内容を入念に確認しておきましょう。
【譲渡側・譲受側共通】専門家のサポートを受ける
M&Aの成約までには様々な工程と手続きが必要な他、自社の希望に沿った相手選びを行う必要があります。
また、M&Aを検討する際は税金・法律・経営面など多角的な視点が必要です。そのため、税務・法務など専門性の高い幅広い知識が必要になります。
自社のみでM&Aを成功させるのは難しいケースが多いため、譲渡側・譲受側に関わらず、M&A仲介会社などの専門家によるサポートを受けながら進めることをおすすめします。
焼肉屋業界のM&A事例
以下では焼肉屋業界のM&A事例を2つ紹介します。M&Aのイメージを掴むための参考にしてください。
株式会社あみやき亭による株式会社ニュールックの子会社化
2023年3月、株式会社あみやき亭は、株式会社ニュールックの全株式を取得し子会社化することを発表しました。
あみやき亭は、焼肉業態の「あみやき亭」・焼鳥業態の「元祖やきとり家美濃路」・レストラン業態の「感動の肉と米」などを展開しており、低価格帯で肉料理を提供する企業です。
一方、ニュールックは、横浜市エリアを中心に焼肉・ホルモン・焼鳥業態などの直営店を19店舗、フランチャイズ店を9店舗展開する企業です。
今回のM&Aによって株式会社あみやき亭は、自社グループの出店が少ない横浜エリアでの営業力強化を行い、ニュールックの得意分野をグループに取り入れた商品開発力の強化を目指しています。
チムニー株式会社による株式会社シーズライフの吸収合併
2023年2月、チムニー株式会社は、株式会社シーズライフをM&Aによって吸収合併することを発表しました。
チムニーは、「はなの舞」や「さかなや道場」などの居酒屋を中心に事業展開する外食企業です。一方、シーズライフは「焼肉牛星」を展開する企業で、2019年にチムニー株式会社の子会社となっています。
チムニーは、M&Aによってシーズライフが運営する「焼肉牛星」をグループ店舗とし、業態特性を活かした店舗展開を目指しています。
なお、今回の吸収合併でチムニーが存続会社となり、シーズライフは消滅会社となりました。
まとめ
焼肉屋業界は、外食産業の中でも高い需要があり市場規模が大きい業界です。しかし、近年はコスト高や価格転嫁が難しいなどの理由によって、経営状況が厳しい店舗も増えています。
このような背景の中、生き残りや経営戦略の1つとしてM&Aが活用されており、今後も増加が見込まれます。
M&Aの成約までには、様々な工程と手続きが必要な他、税務・法務などの専門的な知識も必要です。そのため、M&Aを成功させるにはM&Aの経験が豊富な信頼できる専門家のサポートが重要となります。
fundbookでは、M&Aにおいて各業界に精通した専門チームが丁寧に対応し、士業専門家による万全のサポート体制を敷いています。M&Aを検討する方は、ぜひfundbookにご相談ください。