M&Aと聞いてもまったく別世界の話のように聞こえてしまうかも知れませんが、実は私たちの身近にあるお店やサービスでおいても多く活用されています。例えばプロ野球球団やサッカーのクラブチームのようなスポーツの世界でも、非常に多くのM&Aが行われています。
この記事では皆さんもよく知っている球団やサッカークラブの買収事例を、その背景や目的、買収後の成果などにも触れて解説していきます。
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スポーツチームでM&Aが盛んな理由
スポーツチームでM&Aが盛んな理由としては、M&Aによって大きなシナジー効果*1が得られ、買収する企業と買収される球団の双方にとってより成長が見込めるためです。
買収する企業にとってM&Aは、自社の知名度向上やブランディングといった目的があります。成長中の企業は誰もが知っている球団やチームを買うことで知名度を上げ、さらなる成長を遂げることができます。また買収される球団やチームにとっても、買収企業が持つ集客力や、販売チャネル、経営ノウハウを手に入れることで、より効率的にお客様を動員することができるのです。
*1:シナジー効果とは、相乗効果や協働作用とも言われ、複数の事業が掛け合わされることによる、単純な足し算以上の効果のことです。
詳しくは以下の記事を参考にしてください。
▷関連記事:M&Aの成功を左右する「シナジー効果」とは。種類や事例と評価方法を紹介
プロ野球球団のM&A3選
日本のプロ野球球団は全部で12球団ですが、複数の球団がIT企業によって運営されています。野球は他のスポーツと比べても人気が高く、買収する企業は、球団の持つ圧倒的な知名度を求めて買収に踏み切りました。ここでは、プロ野球の球団のM&Aの事例についてご紹介します。
1.株式会社DENAによる横浜ベイスターズの買収
2011年、株式会社DeNAは株式会社東京放送ホールディングス及び株式会社BS-TBSから株式の一部を取得する形で、横浜ベイスターズの買収を行いました。買収後、DeNA社は自社が持つデータ分析やマーケティングの強みを生かしてユニークなイベントを多く行いました。具体的には女性に特化したイベントの開催やチケットの返金サービス、球場でのオリジナルフードの開発などです。
また2015年には横浜スタジアムを買収し、球団と球場を一体としたビジネスを展開することで観客動員数を増やしていきました。その結果、買収以前は赤字であった経営をわずか5年で黒字化することに成功し、更には球団自身の成績も向上、2016・2017年にはCS進出を果たすという好循環へとつなげることができました。
2.ソフトバンク株式会社による球界参入
2005年、ソフトバンク株式会社は経営不振であった株式会社ダイエーから当時の福岡ダイエーホークスを買収し、福岡ソフトバンクホークスが誕生しました。ソフトバンク社は2006年にボーダフォン日本法人を買収して携帯電話市場に本格参入しており、この球団買収により日本全国での知名度を獲得、全国的な携帯電話のマーケットシェアを拡大させました。
また2012年には莫大な球場使用料の削減を目的として、シンガポール政府不動産投資会社GICリアルエステートから、約870億円で本拠地球場である福岡Yahoo! JAPANドームを買収しました。買収後、球場での大迫力のビジョンの設置や多彩な座席の販売、全照明のLED化などを行い、2017年には史上2番目となる約253万人の来場者数を記録しました。
3.株式会社ZOZOによる球界参入表明
2018年7月、通販サイトのZOZOTOWNを運営する株式会社ZOZO(旧株式会社スタートトゥデイ)の前澤友作氏が、球界への参入を表明しました。同氏はすでに千葉ロッテマリーンズの本拠地であるマリンスタジアムの命名権を獲得しており、球団獲得に以前から興味があったようですが、今回本格的に参入する意思を明らかにしました。同氏は、同年10月7日に行われた会見でも、プロ野球球団の所有について少しずつ進んでいることを示唆しており、今後の展開に注目が集まっています。
サッカーチームのM&A
国内外問わず、多くのサッカーチームでも買収が行われています。企業の買収目的は知名度獲得のみならず、スポーツ分野への進出や地方活性化です。ここでは日本企業によるサッカーチームの買収についてご紹介します。
1.楽天株式会社によるヴィッセル神戸の買収
2004年にはプロ野球に参入して東北楽天ゴールデンイーグルスを設立し、野球業界でも大きな成功を収めてきた楽天株式会社ですが、2014年にJ1リーグクラブチームのヴィッセル神戸を運営する株式会社クリムゾンフットボールクラブを買収してJリーグにも参入しました。楽天グループのマーケティング展開や、東北楽天ゴールデンイーグルスの運営を通じて蓄積してきたプロスポーツ事業の経営ノウハウを活かして、ヴィッセル神戸の強化やホームタウンである神戸の活性化を図る目的です。
また、2018年からは世界的なサッカー選手であるアンドレス・イニエスタ選手を加入させており、大きな広告効果や世界的な企業ブランド力の向上を狙っています。楽天は現在プロ野球球団とJリーグサッカーチームの両方を保有していますが、2017年9月にはアメリカのプロバスケットボールチーム「ゴールデンステート・ウォリアーズ」とのパートナー契約を締結するなど、今後もさらにスポーツ事業に力を入れていくでしょう。
2.RIZAPグループ株式会社による湘南ベルマーレ買収発表
2018年4月、RIZAPグループ株式会社はJ1リーグに所属する湘南ベルマーレを買収しました。湘南ベルマーレに3年間で10億円以上の投資を行い、チーム強化に尽力するだけでなく、多くのグループ会社を抱えるRIZAPグループ社独自のマーケティングのノウハウを活用して新たな観客やサポーターの獲得を狙うようです。
またRIZAPグループ社としてもトップアスリートを対象としたトレーニングメソッドの開発に本格的に取り組んでいき、そこで得られた技術や知見を一般の方向けのサービスや商品の開発へと繋げていくとしています。
3.株式会社サイバーエージェントによるFC町田ゼルビア買収
2018年10月、株式会社サイバーエージェントはJ2リーグで活動するFC町田ゼルビアを約11.4億円で買収することを発表しました。サイバーエージェント社は資金を投入してスタジアムなどのインフラを整備し、早急なJ1ライセンスの取得を目標としています。また自社のインターネットサービスを用いてサポーターへの情報提供や新たな客層の確保も目指しています。
サイバーエージェント社は知名度の向上はもちろん、Jリーグに参入することで自社が持つインターネットテレビ局「AbemaTV」のコンテンツの充実を図ることを目的としており、双方がシナジー効果を期待してのM&Aであると言えるでしょう。
4.株式会社DMMによるベルギーのサッカーチーム買収
株式会社DMMは動画サービスやゲームを主軸として事業を行っていますが、それ以外にも英会話や仮想通貨、競馬や競輪、エネルギー事業など、多岐に渡るサービスを提供しています。そんななか、2017年11月にベルギー1部リーグのサッカーチームSTVV(シント=トロイデンVV)の経営権を取得したことを発表しました。
DMM社は単に広報のためだけに企業を買収したわけではなく、サッカー事業から収益を得ることが可能だと判断し買収に踏み切ったとのことです。DMM社が持つネットワークや行動力を通じて日本選手の獲得や日本企業との連携を行い、チームの強化を進めていくことも考えているとのことです。世界のサッカーチームを日本の企業が買収することは珍しく、もしもこのサッカー事業で長期的に収益を獲得できれば、他の国内企業が海外サッカー市場へ参入することも増加していくかもしれません。
【専門家からのコメント】
スポーツチーム買収の目的としては、まずは広告宣伝が挙げられます。日本では、試合数と各種露出の多さから、サッカーよりも野球の方が買収の対象となる傾向にあります。M&Aをおこない、球団名に社名を入れることで、ニュース・新聞・インターネットサイト・ファンクラブ等を通じて、非常に大きな宣伝効果を期待できます。
また、このような球団やクラブチームの買収は、買収される球団にとっても良い面があります。それは買収した企業は自分たちの経営資源を利用して、球団やチームの経営改善を行って黒字化を図るということです。残念ながら、多くの球団やチームは親会社の資金面での援助がないと満足に経営できない状況にあります。特に近年は、球団の収入の柱であった放映権による収入も減少し、更に経営が苦しくなってきています。M&Aを通じて新たな親会社の経営資源・ノウハウを活かし、親会社の資金面での援助がなくても経営ができるスタンドアローンの状況とすることに成功している事例が出てきています。親会社は知名度が上がり、球団・チームはブランディング促進や集客力の拡大がみこめるということで、双方とも非常に大きいシナジー効果が生まれます。
以前は大企業がCSRの目的で実業団や自社のスポーツチームを持っていましたが、現在はそれらの大企業が経営難になった際に、他企業にチームを売却している事例が見受けられます。最近の事例だと株式会社DeNAによる東芝のバスケットボールチームの買収が挙げられます。
一方、球団の買収と球場・施設の命名権(ネーミングライツ)についての違いを感じる方もおられると思います。球団の買収にはPRや企業単体での利益化の目的がありますが、命名権獲得の目的は企業やブランドの広告活動に特化しています。
なお、命名権の売買は、球場・施設の運営側にとっては非常に重要です。多くの球場・施設は地方自治体によって運営されていますが、そのランニングコストは莫大であり、これを少しでも補うために命名権を売却しているのです。知名度を上げたい企業側とランニングコストをまかないたい地方自治体の双方にとってwin-winになります。
まとめ
近年IT業界の成長が著しく、多くのIT企業が続々とスポーツチームに参入しています。一見無関係に見える2つの業界も、スポーツチームがもつ知名度という強みと、IT業界がもつマーケティング、経営ノウハウ、ネットワークという強みが合わさることにより、大きく成長を遂げています。買収する企業側としても知名度が得られるだけでなく、球団やチームから大きな収益を上げることも可能なのです。
このように異なる業種間によるM&Aにおいても、お互いの長所を活かすことでシナジー効果を発生させることができます。今後、スポーツチームに限らず、大きな成長へと繋がる異業種間のM&Aも今後広がっていくのではないでしょうか。