本記事では、SES業界の現状と課題、直近のSES業界のM&A事例についてわかりやすく解説いたします。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
SES業界について
SES(システムエンジニアリングサービス)とは、委託契約の一種で、ソフトウエアやシステムの開発・保守・運用などの特定の業務に対して技術者を派遣する技術支援サービスのことを指します。
SES契約は、「準委任契約」と呼ばれる契約形態であり、労働力に対して報酬が払われる契約のため、ソフトウエアやシステムの品質や納品状態についての責任は負いません。またSESの指揮命令権の所在が雇用する企業にあるため、派遣先はSESエンジニアに対して労務管理や指揮命令を行う権利はありません。
よって、エンジニアに対し残業や休日出勤を命じたり、細かい作業の指示を行ったりすることはできません。
SES契約と似ているものとして派遣契約がありますが、派遣契約は労務管理や指揮命令の権利が派遣先の企業にある点が異なります。
SES業界の現状
IT業界全体を通して、その市場規模は継続的に拡大し続けています。
矢野経済研究所の調査(2021年)によりますと、国内民間IT市場規模は2017年から継続的に拡大し、さらに2021年度以降における国内民間企業のIT市場規模についても、前年比2%前後で継続拡大すると見込まれています。
一方、IT人材の不足が懸念されており、経済産業省の試算(参考)によると、2030年までのIT人材の不足数を推計すると、将来的に40〜80万人の規模で不足が生じる懸念があることとされています。
経済産業省 商務情報政策局情報処理振興課参考資料より引用
SES業界の課題
SES業界の課題は主に下記の二点です。
・IT人材不足
・多重下請け構造
順番に解説していきます。
IT人材不足
先述したIT人材の不足において、SES事業が派遣するエンジニアについても同様に不足が懸念されています。小〜中規模のSES事業者においてはエンジニア不足が特に深刻なことから、案件の受注をセーブするなど事業活動への障壁も見受けられます。
多重下請け構造
多重下請け構造とは、顧客からシステム開発を受注する「元請け」業者がさらに別の会社に開発を依頼し、「一次請け」「二次請け」「三次請け」とピラミッド型に下請け会社が多層的に発生する状態を指します。
多重下請け構造については、SES事業において長年の課題となっています。
多重下請け構造が生じる理由は上流で受注した企業が開発時の人員配置のロスを削減するためなど様々ですが、下請け企業にとっては安価での受注案件を強いられることになるだけでなく、責任の所在が不明瞭になる・業務負荷の増大と労働環境の悪化が懸念される・市場競争力の低下を招くなど、SES業界全体にとっても解決が急がれる課題となっております。
SES業界のM&A動向
SES事業会社では事業の拡大・事業強化・人材確保などを目的とするM&Aが多く見受けられます。SES事業会社同士のM&Aにより人材不足と多重下請けの構造を解消し、事業のさらなる成長につなげるケースなどが多いです。
ここでは、SES業界のM&Aが活発化している理由について解説していきます。
人材不足
先述した通りIT業界では人材不足が深刻化しているため、エンジニアをはじめとした技術者が在籍するSES事業会社を買収し、人材確保を図ることが目的です。SES事業会社同士のM&Aに限らず、DX推進を目指している事業会社などとの異業種M&Aも活発に行われています。今後も人材不足が見込まれるSES業界において、人材確保の手段としてM&Aを活用するケースは今後も増えていく見込みです。
海外大手資本の日本への参入
海外の大手企業では、システム開発費用を抑えるために、システム開発・管理・運用の効率的などを目的に、日本のSES事業会社を買収するケースも多く見受けられます。
業界再編による同業者間のM&A
人材不足・多重下請け構造をはじめとした競争が激しいSES業界において、これらを解消するための同業間のM&Aも活発化しています。買い手にとっては人材やノウハウの確保による競争力の強化が期待できるだけでなく、売り手にとっては、受注の階層が今と同じか上流の会社の傘下に入ることで、労働環境や従業員待遇の改善が見込まれます。
SES業界のM&A最新8事例【2021-2022年事例】
株式会社エルテスによる株式会社GLOLINGの完全子会社化
-譲渡企業名/概要
株式会社GloLing/SES事業、受託開発事業、メインフレーム事業
-譲受企業名/概要
株式会社エルテス/ビッグデータ解析によるソリューション事業
-M&A実施時期
2022/3/18
-M&Aの目的・背景
不足するIT人材の確保
株式会社エイシルによる株式会社システムルートの子会社化
-譲渡企業名/概要
株式会社システムルート/システム開発、サポート
-譲受企業名/概要
株式会社エイシル/SES事業など
-M&A実施時期
2021/12/29
-M&Aの目的・背景
IT人材の不足を補い、地域の補完性も含め高いシナジー効果を生み出せると考えたため
株式会社 BRANDING ENGINEERによるTSRソリューションズ株式会社の子会社化
-譲渡企業名/概要
TSRソリューションズ株式会社/システムエンジニアリングサービス
-譲受企業名/概要
株式会社 Branding Engineer/ITを活用したサービス事業
-M&A実施時期
2022/02/25
-M&Aの目的・背景
ノウハウ、リソースを共有することで営業力や人材採用力の強化、顧客間口拡大等のシナジー実現を想定しており従来の取引企業との関係の維持、既存事業の継続的・安定的運営を行いながら、さらなる事業成長を目指すため
-M&A手法
株式譲渡
株式会社アステックコンサルティング株式会社インサイトの完全子会社化
-譲渡企業名/概要
株式会社インサイト/SES、受託システム開発・販売など
-譲受企業名/概要
株式会社アステックコンサルティング/コンサルティング事業
-M&A実施時期
2021/02/12
-M&Aの目的・背景
両社のシナジー効果が高いと考えられたため
-M&A手法
株式譲渡
株式会社カヤックによる株式会社アドアの子会社化
-譲渡企業名/概要
株式会社アドア/受託開発事業、SES事業など
-譲受企業名/概要
株式会社カヤック/コンテンツ開発事業
-M&A実施時期
2021/09/29
-M&Aの目的・背景
事業領域の拡充、両社における各事業の相乗効果発揮、競争力強化と企業価値向上
-M&A手法
株式譲渡
株式会社パワーソリューションズによる株式会社エグゼクションの買収
-譲渡企業名/概要
株式会社エグゼクション/システムエンジニアリングサービス事業
-譲受企業名/概要
株式会社パワーソリューションズ/⾦融機関に向けた業務コンサルティング・システムの受託開発など
-M&A実施時期
2021/04/09
-M&Aの目的・背景
M&Aによるノウハウの獲得によりより多くの人材確保や技術の向上による成長が期待できること、事業資産の効率的な運用の観点から
-M&A手法
株式譲渡
株式会社マイクロウェーブデジタルによる株式会社LLL(SES事業)の買収
-譲渡企業名/概要
株式会社LLL(SES事業のみ)/マーケティング、広告宣伝サービスの企画など
-譲受企業名/概要
株式会社マイクロウェーブデジタル/システム開発、エンジニアリングサービス業
-M&A実施時期
2020/12/14
-M&Aの目的・背景
IT分野の設計・開発・保守を強化する他、様々な分野での開発案件の強化のため
-M&A手法
事業譲渡
株式会社ISIDインターテクノロジーによるキャスレーコンサルティング株式会社(SES事業)の買収
-譲渡企業名/概要
キャスレーコンサルティング株式会社/CSV ・ ITコンサルティング事業Webシステム開発事業など
-譲受企業名/概要
株式会社ISIDインターテクノロジー/システム構築サービス
-M&A実施時期
2020/06/10
-M&Aの目的・背景
既存の取引先であった両社において中長期的な視点から成長戦略を鑑み、
M&Aによる事業成長の可能性と両社の理念の親和性が極めて高く、事業譲渡を通じてより大きな経済的価値と社会的価値を生み出せるとの判断し、M&A成約
-M&A手法
事業譲渡
まとめ
人材不足の解消・多重下請け構造の改革が求められるIT業界において、SES事業の買収は大きな注目を集めています。M&Aの需要が大きい業界のため、買手からよい条件を提示してもらえる可能性も高いです。また、M&Aにより経営者の利潤獲得だけでなく、従業員や労働環境の改善も期待できます。
fundbookにはSES業界の専門アドバイザーが多数在籍しています。
M&Aや経営戦略にお困りの方は、ぜひご相談ください。