本記事の要約
① 全国で水道インフラの老朽化が進行し、更新に伴う公共案件が急増
② 一方、業界全体が「人手・資格者不足」に直面し、需給ギャップが拡大
③ 施工体制強化や大型案件獲得に向けた、M&A活用の有効性が増加
1 水道管の老朽化による、公共案件の増加
高度経済成長期に整備された水道インフラが法定耐用年数を迎え、全国的に更新需要が急増しています。これに伴い、各自治体では更新や耐震化を目的とした巨額の水道工事投資計画が相次いで発表されています。
強靭で持続可能な上下水道整備に向けた政府の方向性
令和7年1月に埼玉県八潮市で発生した下水道管破損による道路陥没事故等の教訓を踏まえ、事故発生時に社会的影響が大きい上下水道管路の老朽化対策を強化することが求められています。あわせて、能登半島地震の教訓や人口減少の進展を踏まえ、持続可能な上下水道サービスを維持するため、システムの分散化によるコンパクトなインフラ整備をはじめ、市町村域を超えた事業運営の一体化、料金の適正化、官民連携の推進が求められています。国としては、地方公共団体がこれらの取り組みを強力に推進できるよう、必要な制度整備を進めるとともに、財政支援やインセンティブの付与を行う方針です。

上下水道管路の経年化の現状と課題
全国の上下水道管路は耐用年数を超える老朽化が進んでおり、水道・下水道ともに「経年化率」の上昇が続いています。一方で、実際の「更新率」は低水準に留まっており、将来的な一括更新に必要なペースとの間に大きな乖離が存在します。このまま更新の遅れが続くと、20年後には管路の老朽化が急激に深刻化するため、老朽化対策の抜本的な加速が急務となっています。

〇水道管路:更新ペースが大幅に不足(20年後に経年化率71%へ)
令和5年度において、経年化率25.3%※1(更新延長:約18.8万km)に対し、更新率は0.61%(更新延長:約4,500km)と必要なペース※2(更新率:1.26% 更新延長:約9,400km)の半分にとどまり、現状のままでは20年後に71%が耐用年数を超える見込みです。
※1:全管路延長約74.6万kmに占める法定耐用年数(40年)を超えた延長約18.8万kmの割合
※2:法定耐用年数を超えた管路約18.8万kmを今後20年間(令和6~25年度)で更新する場合
〇下水道管路:更新率が0.13%と著しく停滞(20年後に経年化率42%へ)
令和5年度において、経年化率7.4%※3(更新延長:約4万km)に対し、更新率はわずか0.13%(更新延長:672km)と必要なペース※4(更新率:0.32% 更新延長:約1.6千km)を大幅に下回っており、20年後には経年化率が42%まで拡大すると予測されます。
※3:全管路延長約50万kmに占める標準耐用年数(50年)を超えた延長約4万kmの割合
※4:標準耐用年数を超えた管路約4万kmを今後25年間(令和6~30年度)で更新する場合
令和8年度の上下水道関係予算
(単位:百万円)
| 事業名 | 令和8年度予算額 | 令和7年度予算額 | 対前年度倍率 | |
| 上下水道 | 上下水道一体効率化・基盤強化推進事業費・上下水道一体での効率化・基盤強化に向けた取組を支援 | 3,913 | 3,600 | 1.09 |
| 上下水道一体効率化・基盤強化推進事業調査費等・国が自ら行う上下水道関係の技術実証事業等 | 2,813 | 2,809 | 1.00 | |
| 水道 | 水道施設整備費・計画的・集中的な耐震化・老朽化対策や水道事業の事業運営の一体化、安全で良質な給水を確保するための施設整備等の取組を支援 | 20,417 | 20,194 | 1.10 |
| 水道施設整備事業調査費・国が自ら行う水道関係の調査等 | 75 | 75 | 1.00 | |
| 下水道 | 下水道防災事業費・計画的・集中的な耐震化・老朽化対策や大規模な雨水処理施設の整備、河川事業と一体的に実施する事業等の取組を支援 | 122,250 | 102,250 | 1.20 |
| 下水道事業費・下水道事業の事業運営の一体化や温室効果ガス削減に資する事業PPP/PFI手法等を活用した事業、下水汚泥資源の肥料化等の取組を支援 | 9,836 | 8,564 | 1.15 | |
| 下水道事業調査費・国が自ら行う下水道関係の調査等 | 883 | 883 | 1.00 | |
| 合計 | 160,187 | 138,375 | 1.16 | |
〇令和8年度の予算総額は1,601億8,700万円となり、前年度(1,383億7,500万円)から約218億円増加しています。
〇このうち、下水道予算が前年度の約1,117億円から約1,330億円(19%増)へ急増しており、今回の上下水道予算増加の最大の要因となっています。
〇増加する下水道予算のうち、耐震化や老朽化対策、大規模な雨水処理施設の整備等の支援を目的とした「下水道防災事業費」がその大部分を占めており、対応を急務とする状況がうかがえます。
2 人手・資格者不足の深刻化
仕事はあるが、「受けきれない」ジレンマ

「案件の引き合いは多いが、現場を回せる職人が足りず断らざるを得ない…」
「施工管理技士などの有資格者が高齢化しており、今後の入札参加条件を満たせるか不安だ…」
「公共案件の元請けに参入したいが、実績も人員も足りない…」
建設業における就業者数・技能者数の推移
建設業における就業者数および現場を直接担う建設技能者数は、長期的な減少傾向が続いています。特に施工の要となる建設技能者数は、2006年の約385万人から減少の一途をたどり、2025年にはついに300万人を割り込む約296万人にまで落ち込んでいます。水道管などのインフラ更新需要(案件)が急増する一方で、現場の受け皿となる民間企業の「職人不足」が深刻なボトルネックとなっている現状が浮き彫りとなっています。

〇就業者全体で約80万人の規模縮小
技能者だけでなく建設業全体の就業者数も、2006年の約560万人から2025年には約480万人へと落ち込んでおり、業界全体の担い手が減少しています。
〇「受注機会のロス」が常態化
工事案件(需要)が豊富にあるにもかかわらず、民間側の施工体制(供給)が追いつかないため、「職人がおらず新規案件を断らざるを得ない」という機会損失が発生しています。
〇現場の技術継承・世代交代への影響
現場を動かす絶対数が減ったことで、若手への施工技術の指導や資格取得をサポートする余力が奪われ、高齢化が進む中での技術継承が大きな課題となっています。
3 M&A活用事例
M&A事例紹介① 安藤建設株式会社×株式会社インフラプラス(2019年)
本事例は、兵庫県姫路市を拠点に広域で水道インフラ整備や水道DXを展開するインフラプラスが、神戸市で長年の実績を持つ水道工事会社である安藤建設を譲受した戦略的M&Aです。水道法改正やインフラ老朽化に伴う更新需要の拡大を見据え、安藤建設の持つ地域に根ざした施工技術・実績と、インフラプラスの持つDX推進力および広域ネットワークを統合しました。急増する建設需要への対応力を強化するとともに、業界のDX化を先取りすることを目的として実施された事例です。
| 譲渡企業 | 譲受企業 | ||
| 商号 | 安藤建設株式会社 | 商号 | 株式会社インフラプラス |
| 本社所在地 | 兵庫県神戸市 | 本社所在地 | 兵庫県姫路市 |
| 設立 | 1990年11月 | 資本金 | 1億円 |
| 資本金 | 2,000万円 | 事業拠点 | 東京都/大阪府/兵庫県/岡山県 |
| 事業内容 | 水道工事業 | 事業内容 | 建設業/一般労働者派遣事業/倉庫業/小売電気事業者/有料職業紹介事業 |
| 上場区分 | 未上場 | 上場区分 | 未上場 |
〇当時、神戸市が策定した「神戸水道ビジョン 2025」及び「中期経営計画 2019」が発表されていました。
〇この中で、高度経済成長期に整備された配水管の老朽化に伴う更新需要の増大が、行政方針のなかで明示されていました。
〇激甚化する災害や気候変動への対応として、インフラ再構築のための工事需要が中長期的に見込まれる状況でした。
M&A事例紹介② 須藤工業株式会社×株式会社橋本組(2026年)
本事例は、静岡県を中心に総合建設業を展開する橋本組が、首都圏で水道用鋼管や水管橋の設計・製造から施工までを一貫して手掛ける須藤工業をグループ化した取り組みです。国土強靱化に伴う整備需要を見据え、須藤工業が有する高度な「設計・製造機能」と、橋本組が培ってきた「施工管理力」を融合させることで、グループ内の供給体制強化を実現しました。サプライチェーンの強化と対応領域の拡大を目的として実施された事例です。
| 譲渡企業 | 譲受企業 | ||
| 商号 | 須藤工業株式会社 | 商号 | 株式会社橋本組 |
| 本社所在地 | 神奈川県横浜市 | 本社所在地 | 静岡県焼津市 |
| 設立 | 1961年7月 | 資本金 | 5,000万円 |
| 資本金 | 7,500万円 | 事業拠点 | 静岡県/東京都/千葉県/沖縄県 |
| 事業内容 | 水道用鋼管や水管橋の設計・製造・施工 | 事業内容 | 総合建設業 |
| 上場区分 | 未上場 | 上場区分 | 未上場 |
〇高度経済成長期に整備された水道インフラの老朽化が進む一方で、施設の更新工事が十分に追いついていませんでした。
〇法定耐用年数(40年)を超える水道管路の割合が全国的に上昇するなか、実際の管路更新率は低下傾向にありました。
〇須藤工業の主要事業エリアである東京都や神奈川県は全国有数の管路延長を抱えており、特に神奈川県では管路の経年化率が全国平均を上回るなど、極めて高い更新需要が存在していました。
成長戦略と経営課題解決の選択肢として
本事例のように、高まる水道インフラの更新需要をビジネスチャンスと捉え、自社の業績拡大につなげるためにM&Aを活用することは有効な手段となります。M&Aは事業承継への対応策としてはもちろんのこと、施工体制の強化や受注能力の拡大を目指す企業にとっても、有力な経営戦略の1つとなり得ます。