2026年4月1日から2026年6月15日までの建設業のM&A公表事例は累計11件ありました。その中から業界のトレンドとも言えるICTやBIM/CIM技術の獲得を目的とする事例を紹介します。
設計・建設コンサルを手掛ける譲渡企業×社会インフラサービスを手掛ける譲受企業
| 譲渡企業 | 譲受企業 | |
| 企業名 | 大鐘設計測量(株) | 日本エコシステム(株) |
| 事業内容 | 総合建設コンサルタント | ファシリティ事業、環境事業、交通インフラ事業 |
| 本社所在地 | 静岡県 | 愛知県 |
| 売上高 | 6億円 | 112億円 |
| HP | https://www.ogane.co.jp/ | https://www.jp-eco.co.jp/ |
| 資本金 | 1,000万円 | 10億円 |
高速道路の維持管理や設備点検などの社会インフラサービスを総合的に展開する日本エコシステムが、総合建設コンサルタントとして50年以上の実績を持つ大鐘測量設計の全株式を取得し、完全子会社化しました。
大鐘測量設計は長年の測量・設計業務の実績に加え、地上型3DレーザースキャナーやUAV(ドローン)を用いた最新の測量技術、点群データやVR/XRを活用した高度な3次元データ処理ノウハウにおいて優位性を有しています。
本件M&Aにより、日本エコシステムは一朝一夕には手に入らない「長年の建設コンサルタント業務のノウハウと建設DXの先進技術」を獲得しました。これにより、川上事業の強化や、既存のグループ傘下企業との連携による顧客基盤の相互活用や受注領域の拡大等を見込んでいます。
譲渡企業について
大鐘測量設計は、1963年(昭和38年)6月創業の静岡県島田市に本社を置く企業です。国土交通省や農林水産省、静岡県、島田市をはじめとする地方自治体や民間企業を主要取引先とし、測量及び建設・補償コンサルタント業務を行っています。
測量業務においては、基準点測量や水準測量といった伝統的な地上測量にとどまらず、UAV(ドローン)を用いた空中写真・レーザー測量や、地上型3Dレーザースキャナーを活用した三次元計測および点群データの作成・解析など、最新のICT技術を駆使したデジタル測量に大きな強みを持っています。
建設コンサルタントとしては、道路、河川、砂防、橋梁などの公共土木施設の基本計画や詳細設計、気候変動に対応した防災・減災対策、さらには都市計画や土地造成の設計まで幅広く手掛けています。
また、補償コンサルタントとして公共事業に伴う土地や建物の調査・評価を行うほか、先進技術を活かして3DデータによるVR/XRシミュレーション環境の提供や文化財のデジタルアーカイブ化も行っています。
譲受企業について
日本エコシステムは、1998年(平成10年)11月に設立された社会インフラサービス企業です。主力事業の一つである「交通インフラ事業」では、高速道路を中心とした自動車専用道路の維持管理をトータルサポートしています。これには、コンクリート構造物の劣化点検や電気通信設備・ETCの保守、交通管制などを行う「道路エンジニアリング業務」と、老朽化に伴う補修工事や事故・災害復旧、冬期の雪氷対策作業などを24時間365日体制で担う「道路メンテナンス業務」が含まれます。
また、地球環境の維持に直結する「環境事業」においては、排水浄化効率を促進させる製剤の研究開発・製造販売や、水循環システム・排水処理設備のコンサルティングから設計・施工、さらには産業用太陽光をはじめとする再生可能エネルギー発電設備の開発・保守等まで幅広く展開しています。
さらに「ファシリティ事業」では、公営競技場やネット投票サイト、AIを活用した競輪予想サービス等の運営受託といった公共サービスを支えるほか、空調・給排水衛生設備の施工や展示会等で使われる防炎合板の加工製造まで、人々の暮らしやビジネスを多角的にサポートする体制を整えています。
M&Aの目的・シナジー
・交通インフラ事業におけるエンジニアリングサービスの拡大、川上事業の強化
(建設コンサルタントにおける実績、3Dやドローン等を用いた先進的な測量ノウハウの獲得)
・既存グループ企業との連携による顧客の相互活用と受注範囲の拡大
・グループの垣根を超えたエンジニアの育成や資格取得の推進
総括
業界動向
近年、「i-Construction」の推進に伴い、国土交通省直轄の土木工事においてBIM/CIM(3次元モデル活用)が原則義務化されるなど、建設・インフラ業界では急速なDX化への対応が課題となっています。現状、BIM/CIMの原則義務化は国土交通省直轄の大規模工事に限定されていますが、その波は徐々に都道府県発注の工事にも広がりつつあります。そのため、今後、公共工事に関わる建設会社にとって、3次元データを使用できるか否かが、入札における重要なポイントの1つとなることが見込まれます。
譲受企業の戦略
日本エコシステムによる大鐘測量設計の完全子会社化は、単なる規模拡大に留まらない戦略が存在します。長年蓄積された川上領域の実績・ノウハウや高度なデジタル技術は、専門人材の採用や育成に多くの時間とコストを要するほか、最新機器等への多額の投資が必要となります。日本エコシステムはM&Aという手段により、その時間を短縮し、即戦力となるノウハウ・技術・テクノロジーを手に入れることに成功しました。これらと日本エコシステムの強みである「高速道路のメンテナンスや点検」といった事業ノウハウを融合させることで、相乗効果を発揮し、両社の更なる成長が期待できます。
今後のM&Aのトレンド
人手不足や高齢化が深刻となり、デジタル化による効率化が急務となる建設業界において、今後は自社に不足しているデジタル技術や専門ノウハウを迅速に取り込む「技術補完型・DX型のM&A」が更に活発化するものと予想されます。今後の競争環境で有利な立場を築くための「企業の生き残り戦略」としてのM&Aは、今後ますます重要性が高まると考えられます。
成約事例一覧
2026年4月1日から2026年6月15日までの建設業のM&A公表事例は11件で、そのうち異なる工種の内製化や事業領域の拡大を目的としたM&Aが8件を占めています。
No | 時期 | 譲渡企業 | 譲受企業 | 目的 | |||||
| 企業名 | エリア | 業種 | 売上高(百万円) | 企業名 | エリア | 業種 | |||
| 1 | 4月 | 大鐘測量設計㈱ | 静岡 | 建設コンサル・測量 | 600 | 日本エコシステム㈱ | 愛知 | ファシリティ・環境・交通インフラ | 社会インフラ事業のさらなる拡大とシナジー創出を図るという目的でM&Aを実施。 |
| 2 | 4月 | ヤマエグループホールディングス㈱ | 福岡 | 総合商社 | 3,723 | ㈱マイライフプランニング | 東京 | 不動産売買 | 事業ポートフォリオの変革による事業多角化、エリア拡大、マイライフグループのさらなる事業成長を図るという目的でM&Aを実施。 |
| 3 | 5月 | ㈱ノーリミット | 大阪 | 大規模メンテナンス・改修 | – | ㈱ヤマヒサ | 大阪 | 総合リフォーム | 大型建設案件や大規模メンテナンス工事への本格参入により、住まいのトータルソリューション体制をさらに強化するという目的でのM&Aを実施。 |
| 4 | 5月 | ㈱JFDエンジニアリング | 大阪 | 地盤改良 | 2,208 | 岩水開発㈱ | 岡山 | 地盤改良 | 地方から全国への事業エリア拡大、基盤技術の獲得による施工体制の強化を図るという目的で事業譲受実施。 |
| 5 | 5月 | ユナイテッド・ホームズ社 | 米国 | ハウスメーカー | – | 大和ハウス工業㈱ | 大阪 | 住宅メーカー | 成長著しい海外市場でのシェア拡大、グローバルな事業成長を加速させるという目的でM&Aを実施。 |
| 6 | 5月 | ㈱THE グローバル社 | 東京 | 不動産・建設 | 47,319 | 大東建託㈱ | 東京 | 建設・不動産 | 不動産開発事業のさらなる拡大と、首都圏におけるアセット(資産)の拡充を図るという目的で公開買付け(M&A)を実施。 |
| 7 | 5月 | ㈱ハウテック | 福岡 | 建築 | 250 | 橋本創業HD㈱ | 東京 | 不動産 | 譲渡企業の「技術」と譲受グループの「事業ネットワーク・データ」の連携を強化し、新たなシナジーを創出する目的でM&Aを実施。 |
| 8 | 5月 | ㈱アイワ | 神奈川 | 電気通信工事 | 667 | ㈱ファイバーゲート | 北海道 | Wi-Fiソリューション・エネルギー | 施工体制を強化し、関東エリアにおける事業基盤の拡充を図るという目的で事業譲受を実施。 |
| 9 | 5月 | 中部電気工業㈱ | 岐阜 | 架空送電線工事 | – | 住友電設㈱ | 東京 | 電気工事 | 電力インフラ整備事業の充実を図り、地域社会への安定した電力供給に貢献する目的でM&Aを実施。 |
| 10 | 6月 | 南澤建設㈱ | 群馬 | 土木・建築 | 1,118 | ホクブ㈱ | 群馬 | 土木・とび | 市場環境の変化に柔軟に対応し、グループ全体の経営効率の向上と競争力の強化を目指す目的でM&Aを実施。 |
| 11 | 6月 | トゥモローズウェイ㈱ | 長野県 | 太陽光発電設備の施工・販売 | 412 | 神稲建設㈱ | 長野 | 総合建設 | 両社の専門性と建設分野の知見を組み合わせ、太陽光発電関連設備の提案体制を整えることで、多様なニーズに対応する目的でM&Aを実施。 |