設備工事業界では人材不足や後継者未定問題が懸念されており、その対策としてM&Aを検討・実施する企業が増えています。
本記事では、設備工事業界の動向や今後の課題について解説します。
業界内の事業別M&A事例もご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
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設備工事業とは
設備工事業は、電気や空調などの建築物に必要な設備工事を行う業種です。
電気や空調以外にも、給水・排水に関わる衛生工事業や、消火設備を管理する消防設備業があります。
建設工事は、総合建築会社であるゼネコンが一括して請け負った後に、各設備工事業へ振り分ける「一式請負工事」が一般的です。
一式請負工事以外の設備工事業への依頼方法は、以下の2つです。
- ・別途工事
- ・コストオン工事
別途工事とは、クライアントがゼネコンと設備工事業者へ分割して工事を依頼する方法です。
コストオン工事は、クライアントが事前に設備工事業者を決定し、費用を上乗せしてゼネコンに依頼する方法です。
電気や空調設備がなければ建築物として成り立たないので、建設業界において設備工事業は重要な位置付けです。
設備工事業界の動向
ここでは、設備工事業界の主である「電気工事業」と「空調設備業」の動向を解説します。
電気工事業界の動向
近年における電気工事業界の受注高は、大幅ではないものの増加傾向にあります。
日本電設工業協会「電気工事業の受注調査」の2017年(平成29年)と2021年(令和3年)を比較すると、受注高は約820億円増えています。
引用:電気工事業の受注調査(平成29年度-令和3年度・5年統計)
2018年と2019年は、東京オリンピックや都市再開発の影響で、工事受注数が一時的に増加しました。2020年には受注高が大きく減少しましたが、2021年には持ち直しています。
持ち直しの理由の1つに、IoT化の推進が挙げられます。現代は電気技術の発達により、手動で行う電気機器の操作がスマホ1つで可能な時代です。家電量販店に足を運ぶと、スマホで操作できるエアコンや照明をご覧になることがあると思います。家電機器のIoT化に伴い、通信環境の整備や設置工事の増加が予測できます。
電気設備や環境をよりよいものに変えるためにも、電気工事業のさらなる発展を期待できるでしょう。
空調設備業界の動向
空調設備業界に関しても、今後の売上高が上昇すると予測できます。
2015年から2020年にかけて空調設備業界は伸び悩んだものの、2021年の売上高は大幅に増加しています。
増加の背景には、2020年に流行した新型コロナウイルス感染症の影響があると考えられます。新型コロナウイルス感染症の流行により、人々の換気への意識が高まり、空調設備の整備が進んだことが大きな要因です。
業界動向リサーチが実施した、空調設備業界の大手である「ダイキンの売上高と利益率の推移」は以下のとおりです。
引用:空調業界の動向やランキング、シェアなど|業界動向リサーチ
新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年から2021年にかけて、売上高・利益率ともに増加しています。換気に注目が集まっている状況をうまく活用し、今後も家庭だけでなく、店舗やビルの空調設備需要が高まる見込みです。
設備工事業界の今後
現在、設備工事業界は2つの課題に直面しています。ここでは、設備工事業界の今後の動向を解説します。
人手不足
設備工事業界の動向で確認したとおり、今後は需要拡大が予想される一方で、業界内の人手不足が深刻な問題となっています。
総務省の「労働力調査」からわかるように、設備工事業界を含む建設業では55歳以上の労働者が増加傾向にあるのに対して、29歳以下は減少しています。
労働環境の改善を行い、若者の働きやすい環境づくりが今後の課題と言えるでしょう。
中小企業経営者の高齢化
今後の設備工事業は、経営者の高齢化が課題となります。
中小企業庁の資料では、2025年までに70歳に達する中小企業の経営者は、約245万人に上ると予測されており、その半数を占める約127万人が「後継者は未定」です。
国土交通省の「建設業構造実態調査(2019年度)」から、2つの工事業が後継者不足を課題に感じているとわかります。
後継者不足を課題に挙げている企業の割合 | |
電気工事事業 | 40.4% |
管工事業 | 42.3% |
後継者不足が深刻化すると廃業の可能性も高まるので、経営者は早めの対策が必要です。
設備工事業界内でのM&A
人材不足や後継者不在が原因で事業の先行き不安を抱える設備工事会社にとって、M&Aは有効な経営手段の1つとなり得ます。
M&Aにより、人材不足や後継者不在の解消以外に下記の効果が期待できます。
- ・顧客の拡大
- ・実施できる工事の種類拡大
- ・雇用の確保
たとえば、電気工事会社と空調工事会社がM&Aによって統合されれば、扱える工事の種類が増えます。工事の種類が増えたことで受注できる工事幅が広がり、雇用する人材の種類も増えるでしょう。その結果、人材を豊富に確保した上で工事の受注数が安定し、事業のさらなる躍進へつながります。
設備工事業界のM&A事例
ここからは、2つの設備工事業にわけてM&A事例をご紹介します。
各事業のM&A事例を知ることで事業拡大の可能性を見出せるので、ぜひ参考にしてみてください。
電気工事業のM&A事例
①「フジクラエンジニアリング」と「きんでん」
2021年6月2日、「株式会社きんでん」は「株式会社フジクラエンジニアリング」の株を全取得し、完全子会社化を果たしました。
両企業の事業内容は、以下のとおりです。
社名 | 主な事業 | 事業内容 |
きんでん | ・総合設備工事 ・電気設備工事 ・空調設備工事 | ・設計 ・構築 ・整備 |
フジクラエンジニアリング | ・電力エンジニアリング事業・通信エンジニアリング事業 | ・設計 ・機材調達 ・施工 |
M&Aの目的は、再生可能エネルギー関連工事への進出や、情報通信事業の発展に伴う「事業の拡大」です。きんでんは、自社企業にはない事業へと算入できたため、企業拡大に成功したと考えられます。
②「親和電気」と「サコス」のM&A
2021年1月25日、「サコス株式会社」は「親和電気株式会社」の全株式を取得し、連結子会社化を果たしました。
両企業のM&A目的は、「新たな需要の創造」です。
社名 | 主な事業 | 事業内容 |
サコス | ・レンタル、リース事業 ・中古建設機械買取販売事業 ・システムソリューション事業 | ・機材のレンタル ・輸出入・販売 |
親和電気興業 | ・電気設備工事 | ・ヒアリング、プランニング ・見積、設計 ・施工管理・アフターフォロー |
両企業が協力することで電気設備工事での事業幅が広がるので、レンタル事業の拡大が期待できます。
レンタル事業と電気設備工事業の組み合わせによって、設備工事以外の事業への拡大を示す事例と言えるでしょう。
空調設備業のM&A事例
①「稲葉電気興業」と「ライクス」
2022年5月30日、「稲葉電気興業株式会社」は「株式会社ライクス」のグループ会社となりました。
2社の主な事業内容は下記のとおりです。
社名 | 主な事業 | 事業内容 |
ライクス | ・総合設備業工事業(ガス設備、空調設備、排水、電気) ・リフォーム事業 | ・設計 ・施工 ・修理 ・リフォーム ・清掃 |
稲葉電気興業 | ・総合設備工事業(電気、電気通信、防災施設、空調設備) | ・計画提案 ・設計 ・施工 ・管理 |
同じ事業をもつ2社のM&Aは、総合設備業工事業の業績拡大を目的に行われました。
特に、稲葉電気興業の強みである電気工事事業の領域を強化することで、総合設備工事事業の促進を目指しています。
②「Nicomac社」と「株式会社大気社」
2020年7月22日、「株式会社大気社」はクリーンルーム向けのパネル製造・販売を行うインドの「Nicomac社」に出資し、子会社化しました。
主な事業 | 事業内容 | |
株式会社大気社 | ・機械器具設置工事業 ・建築工事業・設備工事業 | ・空調、電気、消防設備の設置 ・クリーンルーム、関連機器装置 ・建築工事の設計、施工、監理 |
Nicomac社 | ・クリーンルームの製造事業 ・パネル製造、販売事業 | ・パネル製造、販売 |
両企業のM&A目的は、経済成長が見込まれるインド市場へのグローバル展開と、クリーンルーム建設市場の拡大です。
Nicomac社のパネル製造技術に、大気社の技術を組み合わせれば、Nicomac社の保有する顧客への新しいアプローチができます。
グローバル化を目的とした設備工事業界M&A事例の1つです。
まとめ
本記事では、設備工事業界の動向や今後の課題、M&Aの事例について解説しました。
設備工事は建設工事には欠かせない事業なので、今後も建設工事が活況である限り、需要が増え続けるでしょう。
一方で、設備工事業では人材不足や後継者不足が深刻化しており、中小企業は事業拡大や業績維持を目的にM&Aをする事例が見受けられます。
事業の今後を考えてM&Aを検討している場合は、一度、専門家に相談してみましょう。