近年、機械業界は分野によって市場動向にばらつきがみられますが、業界としては今後も緩やかな増益傾向が見込まれています。しかし、国内外の政治や経済事情に影響されやすいため、先行きは不透明であるといわれています。
また、官民一体となってインフラの輸出促進を行っていることなどから、中東やアジアといった新興国を市場のターゲットにする動きが高まっています。
このような状況を受け、多くの企業がグローバル化を目的として海外の企業とのM&Aを行ったり、事業の強化、多角化を目的としてM&Aを行っています。
本記事では、機械業界の現状や市場動向について解説したうえで、機械業界で実際に行われたM&Aの事例についてご紹介していきます。
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機械業界の現状と市場動向
業界動向サーチによると、機械業界の2021年度の市場規模は28.4兆円となっており、前年比-2.4%と減少しています。市場規模の過去10年の推移を見ると、2018年までは業界全体としては増加傾向にありましたが、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、以降は減少に転じています。
※業界動向サーチより引用
機械業界は主に、「建設機械」「工作機械」「産業機械」「造船」の4つの分野に分けられます。また、日本企業による海外輸出が盛んなことから、それぞれ4つを海外需要と国内需要の2つの指標からみることができます。
国内では熟練労働者の減少や人件費の高騰、さらにはAIの急速な発展もあり、製造現場では人の手から高度な機械への置き換えや、IoT化が進みつつあります。
海外需要に目を向けると、2009年のリーマンショックの際に大きな影響を受けました。近年は回復傾向にありますが、2019年は米中の貿易摩擦の影響などもあり、減益となった分野もあります。
2020年の機械業界は前年比8.2%の減少でした。ジャンル別では、農業機械が同0.8%減、建設機械が7.4%減、造船重機が7.8%減、工作機械が8.9%の減少でした。2020年は各ジャンルともに新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、機械需要が減少。サプライチェーンも分断されるなど厳しい一年となりました。
建設機械はこれまで緩やかではありますが、販売台数・販売金額ともに増加傾向にありました。しかしながら、2020年には新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、販売台数、販売金額ともに減少に転じています。
工作機械については、経済産業省の生産動態統計年報によると、2020年の金属工作機械の販売金額は前年比32.0%減の7,615億円で、2年連続減少となっています。近年の工作機械業界は、世界的なスマホ需要の増加を背景に、2018年ごろまで成長を続けていましたが、近年はスマホ需要も落ち着き、減少傾向にあります。
農業機械については、近年ほぼ横ばいで推移しています。日本の農家においては、高齢化や後継者不足が進み、働き手不足が深刻な問題となっています。このようなことから、農業機械にも省人化や効率化が求められ、各社さまざまな機械の開発を行っています。
機械業界のM&A動向
近年、機械業界ではM&Aが活発化しています。その理由のひとつに、M&Aが譲受企業と譲渡企業のどちらにも、メリットがあることが広く知られるようになったことがあげられます。
例えば、譲受企業はサプライチェーンの中で自社が対応できることの幅を広げ、事業を強化することができます。また、譲渡企業は後継者問題の解決や、大手企業の傘下に入ることでブランド力が強化されたり、販売ノウハウの獲得ができたりといったメリットがあります。
製造業の中小企業では後継者問題に直面しており、株式会社帝国データバンクによると、2021年時点でその割合は53.7%にのぼっています。中小企業の後継者不足は社会問題となっており、機械業界においても今後M&Aがより活用されるとみられます。
また、新興国への進出や事業の拡大、多様化を目的として譲り受ける動きも盛んです。ヒト、モノ、カネの動きが活発になり海外進出のハードルが低くなる中で、多くの企業が国内のみならず海外に市場や成長を求めています。
人手不足解消という目的においては、優秀な人材を確保するためにM&Aをする以外にも、IoTの分野を強化し、サプライチェーンの中で人が行う作業を減らすことを目的とした動きもみられます。
IoT事業を取り込むことで機械単体の性能をあげるだけではなく、ソフトウェアやサービスの見直しやコスト削減による経営効率の改善など、多くのメリットがあげられます。
政治や経済事情が大きな影響を与える機械業界では、こうした外的要因に対応するための、事業基盤を強化することを目的としたM&Aの事例は多々あります。どのような目的で各企業がM&Aを行ったのかに注目して、実際の事例をみていきましょう。
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クボタ欧州機械統括子会社のクボタホールディングスヨーロッパB.V.による工場向け原材料供給機メーカーの独ブラベンダーテクノロジー社の買収
引用元:https://www.kubota.co.jp/news/2022/management-20220620.html
2022年6月、株式会社クボタは、欧州機械統括子会社のクボタホールディングスヨーロッパB.V.を通じて、「重量式フィーダ」の世界的メーカーBrabender Technologie GmbH &Co. KG(ドイツ)の全株式を取得し子会社化することを発表しました。
株式会社クボタは産業機械、建築材料、鉄管、産業用ディーゼルエンジンのメーカーであり、日本、中国、韓国を中心としたアジア地域で、主に樹脂製品の製造工程で使用される重量式フィーダを生産・販売してます。
ブラベンダーテクノロジー社は工場の製造工程で原材料の定流量供給に使用される「重量式フィーダ」の製造、販売において世界的なシェアを誇る企業です。
本M&Aにより、クボタ社は製品ラインナップの拡充、販売・サービスネットワークの相互活用でシナジーを発揮し、事業拡大を狙うだけでなく、両社が持つ豊富な原材料への対応ノウハウや高い技術力を活かした次世代型重量式フィーダの共同開発を進める方針です。
リックス子会社のリックステクノによるCEMの株式取得
引用元:https://contents.xj-storage.jp/xcontents/75250/e9c768db/21fc/4238/b4cf/44d22afed07e/140120220609575415.pdf
2022年6月、リックス株式会社の連結子会社であるリックステクノ株式会社は株式会社CEMの全株式を取得し、子会社化(リックス株式会社の孫会社化)の実施を発表しました。
リックス株式会社は 1907 年創業し、足袋の販売から始まり、地下足袋を官営八幡製鉄所に納めたのをきっかけに、鉄鋼業界をはじめとする各産業界にビジネスの場を広げている企業で、グループとして、鉄鋼、自動車、電子・半導体、ゴム・タイヤ、工作機械、高機能材、環境、紙パルプ業界向けに産業機械の製造・販売を行っているメーカー商社です。
株式会社CEMは石川県に拠点を置く、事業内容産業用機械の制御盤の製作、搬送機械の設計製作・調整、ソフト開発等を手がける会社です。
本M&Aにより、産業機械の製造における電装部分の内製化を実現できることで、リックスが課題としていた電装部分についての外注への傾斜を解決する見込みです。
横浜ゴムによる、スウェーデンTRELLEBORG WHEEL SYSTEMS HOLDINGの買収
引用元:https://www.y-yokohama.com/release/?id=3773&lang=ja
2022年3月、横浜ゴム株式会社はスウェーデンに本社を置く農業機械用や産業車両用タイヤなどの生産販売事業を展開するTrelleborg Wheel Systems Holding AB(以下、TWS)の全株式を取得することを発表しました。
本買収におけるTWSの企業価値は、約2,652億円(20億40百万ユーロ)です。
横浜ゴムは古河グループのタイヤ・ゴムメーカーで、タイヤ販売額シェアでトップ3位、世界では第8位を誇ります。
TWSは農業機械用が約60%、産業車両用が約20%、残りを建設車両用と二輪車用が占め、農業機械用、産業車両用タイヤにおいては世界トップクラスの商品力、ブランド力や技術力、サービス力を誇る企業です。また、それぞれの品種において小型から大型サイズまであらゆる車両に対応する商品ラインアップを保持しています。
TWSの買収によって、横浜ゴムの売上構成比におけるタイヤ消費財に偏った構成になっている課題を適正化し、また、タイヤ生産財事業のテーマである「商品ラインアップ」「コスト」「サービス」「DX」を強化する見込みです。
日工による宇部興機株式会社の子会社化
引用元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000081441.html
2022年3月、アスファルトプラントの製造販売を行う日工株式会社が、鋼構造物・産業機械の設計・製作・据付・設備保全を行う宇部興機株式会社の全株式を取得し、子会社化したことを発表しました。
日工グループは1919年に世界的商社であった鈴⽊商店関係者により創業され、 スコップなどの⼯具製作からはじまり、⽇本のインフラを⽀えるプラント機械メーカーとして事業展開を⾏っています。 アスファルトプラントの国内シェアは70%に上り、空港などの巨⼤インフラから⽣活道路までを支えています。
宇部興機株式会社は油圧配管工事、電力・自動車・化学・セメント・食品・薬品業界向けの設備機器製造やプラント工事をはじめ、水門・橋梁・上下水道等の社会インフラ設備工事に到るまで幅広い社会インフラ設備の製作、組立工事を請負う企業です。また、太陽光発電式LED街灯、生ごみや家畜排泄物などの有機性のエネルギー資源を発酵させたときに発生するバイオガスの生成・貯蔵タンク(ガスホルダー)の自社製品を展開し、環境分野での事業展開も積極的に推進しています。
本件により、両社の技術・ノウハウ等を共有することで、日工グループが注力している環境リサイクル事業に新たなシナジー効果を生み出し、日工グループの新規事業の拡大を進め企業価値の向上を進め、持続的な成長を図ります。
泉州電業による北越電研の子会社化
引用元:https://ssl4.eir-parts.net/doc/9824/tdnet/2091563/00.pdf
2022年3月、泉州電業株式会社は株式会社北越電研の株式を100%取得し、完全子会社化しました。
泉州電業株式会社はロボットケーブル・各種電線・ケーブルなどを取り扱う電線総合商社です。一方、北越電研は産業機械向け制御装置等の製造・販売を行う企業です。
本件により、泉州電業グループでは電線の販売を中核とした技術商社として、多様化するユーザーニーズに応えるべく、従来の電線販売に留まらず関連する制御装置等の受注・販売の更なる推進を図ります。
渡辺パイプによる中村機械工具の子会社化
引用元:https://www.sedia-system.co.jp/news/9942
2021年10月、渡辺パイプは中村機械工具株式会社の全株式を譲り受け、グループ傘下入りしたことを公表しました。
渡辺パイプは、水と住まいの専門商社と農業総合メーカーを展開しています。水、住まい、農業、あらゆる生活インフラをつなぎ、元気で快適な生活環境を提案する企業です。
中村機械工具株式会社は、機械工具・配管機材・機械等の販売を行っております。
美濃窯業による岩佐機械工業の買収
引用元:https://www.nihon-ma.co.jp/news/20211012_5356-3/
2021年10月、美濃窯業株式会社は、岩佐機械工業株式会社の全株式を取得し、子会社化することを発表しました。
美濃窯業は、耐火物および耐火材料の製造販売、工業窯炉および付帯品の設計・製作・施工・販売、熱処理・自動化プラントの設計・建設、建築材料および舗装用材の製造・施工・販売、工業用セラミックス製品の製造販売事業を展開しています。
一方、岩佐機械工業は、ロータリーキルン・ロータリークーラーなどを主体とした装置のエンジニアリング、設計製作を行う企業です。
本により、美濃窯業はグループにおいて、さらなる事業基盤の強化と拡大を実現し、顧客ニーズに応える「最高の品質」の体制構築を図るとともに、一層の競争力・収益力・成長力の向上を図ります。
サイネックスによるマルヤマ歯科商店の買収
引用元:https://ssl4.eir-parts.net/doc/2376/tdnet/2003179/00.pdf
2021年7月、株式会社サイネックスは、有限会社マルヤマ歯科商店の全株式を取得して子会社化することを発表しました。
サイネックスはインターネット広告・地域情報サイトの運営、無料電話帳の発行・配布等を展開する企業です。地域社会への貢献という経営理念の実現のため、地方自治体や地域事業者のパートナーとして、広報やプロモーションの提供により地方創生支援事業に取り組んでいます。
マルヤマ歯科商店は、歯科医師、歯科技工士、歯科衛生士への、歯科医療機械器具・歯科材料の販売をはじめ、歯科医新規開業プランニングやアフターサービスなどをおこなっております。
本件により、サイネックスグループのヘルスケア事業の中核企業としてヘルスケア事業の強化をはかり、地域の皆様の健康寿命を延伸することによって地方創生に貢献する狙いです。
MINEZAWAによるリークフリーの買収
引用元:https://www.minezawa.co.jp/topics20210401-2/
2021年4月、株式会社MINEZAWAは、株式会社リークフリーの全株式を取得し、子会社化したことを発表しました。
MINEZAWAは、工具、配管、 工場設備・機器、OA機器販売をはじめものづくりに関わるあらゆる事業を展開する企業です。
一方、株式会社リークフリーは、2003年4月に米国チェスタートン社の関東地区代理店として設立以来、シール業界での豊富な経験と知識を有してチェスタートン社の製品を多く販売しています。
今回の株式取得により、MINEZAWAグループの商品・サービス及び顧客基盤の拡大を見込むだけでなく、リークフリーに在籍する経験豊富な人材とのグループ間の交流を通じて、お客様により一層満足いただけるサービスの提供を図ります。
ワキタによるグランドアースと九州機械センターの買収
引用元:https://contents.xj-storage.jp/xcontents/81250/3e1b3f4b/55aa/4bcb/9194/910b7f0b58d5/140120210326485297.pdf
2021年3月 、株式会社ワキタは株式会社グランドアース及び株式会社九州機械センターの株式をそれぞれ 90%取得し、子会社とすることを決定しました。
ワキタは土木・建設機械の販売及び賃貸等を主力事業として全国展開しています。
株式会社グランドアースは、福岡県粕屋郡に本社を置き、九州北部地区の建設会社を対象として、土木・建設機械の賃貸等の事業を展開しています。
株式会社九州機械センターは、同じく福岡県粕屋郡に本社を置き、九州北部地区の建設会社を対象として、土木・建設機械の販売等の事業を行っております。
本件により、九州北部地区における建機事業の業容拡大や既存拠点とのシナジー効果を見込んでいます。
まとめ
機械業界では、事業規模に関係なくM&Aが行われています。規模の大きい大企業ほど世界情勢の影響を大きく受けるため、政治や経済などの動向を見極めながらM&Aを検討する必要があります。
また、地方の中小企業などは後継者不在に直面していることもあり、事業継承の手段としてM&Aが選択肢のひとつになっています。その他にも、優れた技術を持つ会社が販売に強い専門商社の傘下となるように、川上から川下までの流れを統一し業績を伸ばそうとする動きがみられます。
機械業界のM&Aは、譲渡企業・譲受企業の双方に大きなメリットがあります。ただし、世界情勢や景気の動向といった影響が出やすい業界だけに、M&Aの相手やタイミングについては、M&Aの専門アドバイザーなどの専門家を交えて検討することをお勧めします。