業界毎の事例

2023/10/03

医療経営でさらなる成長を目指すために、経営課題を整理して選択と集中を

医療経営でさらなる成長を目指すために、経営課題を整理して選択と集中を

一般的な営利企業においては競争環境があるために、成長を目指すことが生き残りのために必須の要件となります。

現状維持を図るだけでは、競合他社や代替製品にどんどんシェアを奪われるためです。

一方、医療施設の経営においては、非営利という性格があるために、必ずしも営利企業と同一線上では語れませんが、現状維持を目指すだけでは衰退に向かう可能性が高いという点では似ています。その背景には、総医療費削減、人口減少などの環境要因、また、患者さんがインターネットを駆使して病院や医師を主体的に選ぶ時代になっているという要因などがあります。かつては、さほど経営努力をしなくても、自然に患者さんが増えていく時代もありました。

しかしそれは完全に過去の話です。現在では、集患の努力や経営成長への努力をないがしろにして、現状維持でよしとする医療経営では、中長期的に見れば、衰退への道を進んでいく可能性が高いのです。

そのような医療経営の環境下で、地域や患者さんのニーズにマッチした医療サービスの提供を続けるために、また、限られた経営資源の効率的活用という観点からからも、経営課題を的確に捉えて整理し、成長を目指していくことは、多かれ少なかれ、現代の医療経営者に求められる必須の要素であるともいえます。

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「これから」を検討する機会の多い医療業界

漠然と「経営改善をしよう」「成長や効率化を考えよう」といっても、なにからどう手をつければいいかよくわからないという経営者も多いでしょう。

その導きの糸となるものの1つが、診療報酬・介護報酬の改定です。診療報酬の改定は、国が、人口動態を見据えたあるべき医療・介護を実現できるような体制へと医療施設に変化を促すため行われるものという側面があります。このため、本来は、診療報酬の改定を受けて、医療施設・介護施設においても経営を見直し、将来に向けて収益性を高めていく経営改善などが行われるべきです。それはたとえば、病床機能の転換といった点に、端的に表されます。

診療報酬の改定は2年に1回、介護報酬の改定は3年に1回行われているため、介護事業にも携わる医療法人であれば、6年間のうちに概ね5回程度は、自然と今後の経営のあり方を検討すべき機会が訪れていることになります。せっかく、自院の経営を見直す機会として診療報酬・介護報酬改定が訪れるのですから、まずはその機会を逃さずに、自院の経営の点検・見直しができるとよいでしょう。

しかし、医療経営者が、診療などに忙殺され経営的な仕事に費やす時間が取りにくいこと、あるいは時間があっても経営環境分析や経営戦略策定、あるいは経営管理などの知見がさほどお持ちではないことなどから、そのような検討はあまり行われないのが現実です。

また、理想的には、経営課題の抽出や分析などの面で、医療経営者の右腕としてサポートする役割が期待される事務長や他の理事なども、やはり経営全般に関する知識が不足していたり、あるいは、知識はあっても経営者に積極的に進言できる環境が整えられていなかったりといった理由で、役割を果たせていないことが多いでしょう。

自院を取り巻く現状を正しく分析、理解して、その上で取り得る選択肢を整理するためには、医業経営全般に知見を持つ専門家に相談してみることも、非常に有効だと思われます。

選択と集中によるエリア集約戦略――限定したエリア内での成長を目指す

では、具体的にはどのような方向での経営改革が考えられるのでしょうか?

所在する地域や、診療科、自院の規模や業績などによっても異なるのですが、ここでは私たちが実際にご相談を受けてきた中での、典型的なパターンをご紹介しましょう。

1つ目は、地域包括ケアシステムへの対応を視野に入れた選択と集中です。

▼経営資源を集中させる

以前は、成長・拡大志向を持つ医療経営者の方は、本院のある県内の近隣エリアはもとより、隣県、あるいは場合によっては、かなり遠方のエリアにも医療施設を開業したり、M&Aで取得して運営したりすることがありました。

しかし、最初に述べたように、現在は放っておいても患者さんが増える時代ではありません。また、医師・看護師などのスタッフの人手不足問題や働き方改革の推進もあり、医療現場での労務管理も、よりきめ細やかに行う必要があります。

ところが、遠方にある医療施設は、どうしても経営者が日常的に目を届かせにくく、管理が甘くなりがちなので、経営成績も悪化してしまいがちです。そこで思い切って遠方の医療施設はM&A譲渡などによって切り離して、本院所在エリアに経営資源の集中を図るエリア集約戦略が採られるケースがあります。

この場合、直接的な効果として得られるのは、人材の管理や移動などのマネジメント面や集患面での効率化、コスト削減などです。

▼「売ること」だけではなく、「買うこと」も視野に入れた資源配分を考える

それ以外にも、遠方の医療施設を切り離したことにより余裕のできた経営資源により、エリア内において自院に不足している機能を持つ施設をM&A買収によって取り入れていくこともエリア集約戦略に含まれます。

その際に意識されるのが、地域包括ケアシステムへの対応です。地域包括ケアシステムは、高齢者が人生の最期まで地域社会で生活できるように、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステムを、市町村、都道府県の実情に応じて構築するというコンセプトです。そこで、医療経営においても、単に医療機能のみを提供するのではなく、介護や予防などの機能もあわせて総合的に提供するという「地域内での機能の拡大」戦略が考えられます。

しかし、機能拡大をするためには、相応の資金や人材などの経営資源が必要です。そこでたとえば、本院のエリア外にある病院は売却する一方で、エリア内にある有料老人ホームやグループホームを買収するという形で、経営資源の再配置を図ります。

医療施設を選択・集中するエリア集約戦略を採ることで、広域での施設拡大を図るよりも、安定的に経営を成長させていける可能性があります。

地理的拡大から、時間的拡大=LTV(ライフタイムバリュー)という考え方へ

拡大志向の強い医療経営者の方にとっては、地域を限定したエリア集約型の経営体制にすると、成長拡大に限界が生じるのではないかと感じられるかもしれません。たしかに広い日本の中の一部でしか経営展開しないという意味ではその通りです。

しかし、医療経営の拡大は、なにも地理的な面だけに限りません。時間的な拡大という方向もあります。それは、医療や介護、その他のヘルスケア周辺サービスを「一気通貫」で提供できるグループ体制を構築することです。社会全体で人口が減少し、患者さんが減っていく中、1人の患者さんに対し、グループ内でさまざまなサービスを提供できる体制を構築し、その患者さんに対する医療や介護、その他の関連サービスをグループ内で完結できる、いわば「囲い込み」のシステムを作り上げようとする医療施設が増えているのです。

この戦略は、一般の事業会社でいうところの「ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)」を最大化させていこうという戦略と似た考え方といえます。やや大袈裟にいえば、「ゆりかごから墓場まで」(産婦人科から葬儀事業まで)、同一の医療施設グループでサポートを行うことで、グループ全体としてマーケティングコストを抑えて、収益性を高めていこうとする発想です。

業務提携という戦略

地域包括ケアシステムに対応した、あるいはライフタイムバリュー増大を考えた、複数機能を自社で保有して提供していこうとする成長戦略は、相応の経営資源が必要であり、また拡大に伴なって、経営リスクも増大します。同種の医療施設を複数経営するより、多角化により異なる事業を経営する方が、経営の難易度は高くなるのです。

また、医療法上、医療法人が本来業務または附帯業務として経営できる業務の範囲は限定されています。そこで、いきなり自法人内に医療以外の業務機能を多数取り込もうとするのではなく、他者との連携からはじめるという方法もあります。たとえば、エリア内にある特定の訪問看護ステーションと業務提携をして、自院の医師が在宅診療をしたお宅の患者さんに、必要があればその訪問看護ステーションを紹介するという形です。もちろん、その訪問看護ステーションが入っているお宅で医療行為の必要が生じた場合は、自院に繋いでもらいます。

このような提携にはもちろん営業上のメリットもありますが、それだけに留とどまりません。日常的な看護と、医療との間で情報連携し看護・医療方針を共有することにより、より質が高い看護・医療サービスを患者さんに提供できるようになります。そうして患者さんの満足度が高まれば、口コミなどを通じてさらなる集客につながるという好循環を生むのです。

▼業務提携からスタートして将来のM&Aという流れも

M&Aで他の病院、あるいは、医療以外の機能を自グループ内に取り込むことには、効率化という点などのメリットもあります。

反面、M&Aをしても、それまでの文化の違いなどから、うまく経営統合ができなかったり、事前に思っていたほど効率化できなかったりすることもあります。

そこで、まずは「業務提携」といった形でのゆるい結合からスタートして、それで効果が出るようであれば、将来的にM&Aでの統合を図るというのは、良い方法です。もし仮に提携が失敗したときにはそれを解消することは比較的簡単ですし、経済的なダメージもM&Aの失敗に比べればはるかに小さく済みます。M&Aによる譲渡を検討する場合でも、譲受け(買収)を検討する場合でも、0か100かの選択ではなく、業務提携などの中間的な方法など必ず他の方法も視野に入れ、検討するのがいいでしょう。

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