
葬儀業界は高齢化を背景に成長を続け、M&Aも活発に実施されています。中小規模の事業者が多い葬儀業界では、エリアや営業拠点拡大に向けた同業者間のM&Aも盛んです。小規模化や簡素化による葬儀単価の減少、将来的な死亡数の減少も予想されており、経営の安定化に向けた戦略の実行が行われています。
本記事では、葬儀業界の概要や市場規模、葬儀業界で実施されるM&Aの動向を解説します。葬儀業界でM&Aを実施するメリットや注意点、実際の事例も紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
企業価値100億円の企業の条件とは

・企業価値10億円と100億円の算出ロジックの違い
・業種ごとのEBITDA倍率の参考例
・企業価値100億円に到達するための条件
自社の成長を加速させたい方は是非ご一読ください!
葬儀業界とは
葬儀業界とは、故人の遺体引き取りや搬送、葬儀の企画や運営など、葬儀に関するサービスを提供する業界です。遺体の処置や納棺、通夜・葬儀・告別式の会場の提供や火葬場の手配、葬儀当日の司会進行や参列者の案内など、亡くなった方が火葬されるまでの様々な支援を行います。
葬儀業の運営会社は多様です。各地域で長年事業を展開する葬儀専門の会社の他、冠婚葬祭互助会やJA(農業協同組合)、近年では小売業や鉄道業などからの参入も見られます。葬儀業には許認可制度がないことから、他業種からの参入ハードルが比較的低い点も特徴です。
葬儀業界の市場規模
経済産業省が公表した「特定サービス産業動態統計調査」によると、葬儀業界の2024年度売上高は6,114億7,000万円でした。前年比増減率は約2.8%、前々年比増減率は約8.3%と、若干の増加傾向で推移しています※。
2013年以降、葬儀業界の市場規模は緩やかな増加傾向が続いていましたが、新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年は、一度急激に市場規模が縮小しました。その後は回復傾向を見せているものの、新型コロナウイルス感染症拡大以前の水準には達していない状況です。
※出典:経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」
葬儀業界を取り巻く環境
葬儀業界の事業は、葬儀件数につながる死亡数の影響を受けます。1件当たりの葬儀単価も売上に直結する部分です。葬儀業界を取り巻く環境を詳しく解説します。
死亡数の増加

内閣府が公表した「令和6年版高齢社会白書」によると、超高齢化社会に突入した日本の死亡数は今後も増加が見込まれます※。2006年に108万人であった死亡数は、2022年には156万人に増加しました。死亡数の増加に伴って葬儀件数の増加が予想され、葬儀業に対する一定の需要が想定される状況です。
しかし、死亡率(人口1,000人当たりの死亡数)は2070年まで上昇する予想であるものの、死亡数自体のピークは2040年前後と想定されています※。そのため、2040年以降は、市場規模が減少に転じる可能性があります。
葬儀の小規模化と簡素化

葬儀業界の売上を考えるうえで、葬儀1件当たりの売上高は業績に影響を与える部分です。独立行政法人中小企業基盤整備機構が「特定サービス産業動態統計調査」を元に作成したデータによると、2022年の葬儀1件当たりの売上高は113.3万円でした※。
葬儀1件当たりの売上高が低下した背景には、葬儀の小規模化と簡素化が挙げられます。1990年代後半以降、価値観の多様化や個人化などを受け、葬儀の小規模化と簡素化が進んでいます。以前は多くの参列者を招いた一般葬が中心でしたが、近年は、近親者だけで行う家族葬や密葬を選択する方が増えてきました。
特に新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年以降、葬儀の小規模化と簡素化が進み、葬儀1件当たりの売上高は前年の134.5万円から117.5万円に減少しました※。通夜から初七日までを1日で済ませる一日葬(ワンデイセレモニー)、宗教儀式を実施しない直葬も増えており、参列者を限定した簡素化が進展しています。
葬儀業界の事業所数の増加
経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、葬儀業の事業所数は増加傾向にあります※。葬儀需要を見込み、多くの事業者が葬儀業界に参入している状況です。今後も葬儀の取扱件数の増加が見込まれるものの、競合事業者の増加に伴う競争の激化や1件当たりの葬儀単価の低下による売上減が予想されます。
※出典:経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」
葬儀業界のM&A動向

葬儀業界を取り巻く環境の変化を受け、葬儀業界では経営戦略の一環としてM&Aの実施が盛んです。葬儀業界のM&Aの動向を解説します。
新規参入に伴うM&A
先述のように葬儀業は許認可制度ではないため、許認可による制約がありません。葬儀の手配ができれば実施が可能であり、大規模な設備投資や土地の取得が必要ないことから、参入のハードルが低い状況です。
そのため、他業種からの参入が増えています。例えば、大手小売業のイオン株式会社はその一例です。近年では、ホテル内にある宴会場やホールを利用した「ホテル葬」も見られるようになりました。他業種からの参入の増加に伴い、M&Aで葬儀会社を取得するケースが増加しています。
M&Aを活用した業界再編
葬儀業界は今後しばらくは市場の成長が見込まれるものの、2040年以降は死亡者数の減少が予想され、葬儀件数の減少する流れも想定されています。
葬儀業の将来にわたって安定的な経営の実現を考えると、M&Aを活用した業界再編によって経営資源の集約化を図る戦略は、1つの有効的な手段です。葬儀業界では市場を寡占する大手事業者が存在せず、中小規模の事業者が多い点も今後の業界再編が予想される要因です。
その他、葬儀会社による関連事業へのM&A(葬儀で出される弁当の製造事業や霊園管理事業など)も実施されています。
葬儀業界のM&Aのメリット
葬儀業界でのM&Aは、譲受企業と譲渡企業の双方にメリットをもたらします。主なメリットは次のとおりです。
・経営資源やノウハウを引き継げる
・競争力を高められる
・後継者問題を解消できる
・事業を継続できる
譲受企業側では、経営資源やノウハウなど、葬儀に関するリソースを引き継げる点が大きなメリットです。エリア拡大や人材の確保、葬儀会館の引き継ぎなどにより経営基盤を強化し、競争力を高められます。
譲渡企業側の最大のメリットは、M&Aによって後継者問題を解決できる点です。後継者不在の問題は、葬儀業界を含む多くの中小企業の課題です。M&Aで他の企業に事業を引き継ぐことができれば、後継者問題の解決につながるうえ、事業の継続により従業員の雇用を維持できます。
葬儀業界のM&Aの注意点
葬儀業界のM&Aは複数のメリットがある一方、いくつかの注意点が存在します。主な注意点は次のとおりです。
・シナジー効果が生じない場合がある
・従業員が離職するリスクがある
・譲受先が見つからない場合がある
・希望する条件で譲渡できない可能性がある
譲受企業側では、期待したシナジー効果が生じない、従業員が不満を抱き離職するリスクがある点などに注意が必要です。M&Aは成約がゴールではなく、その後の統合過程が鍵を握ります。シナジー効果を得られる業務統合や譲渡側従業員への丁寧な説明が求められます。
譲渡企業側では、譲受先が見つからない可能性がある点が課題です。場合によっては、希望条件(譲渡価格や従業員の待遇など)で譲渡できないこともあります。
譲受企業とのマッチングはM&Aの重要なプロセスであるため、M&A仲介会社を始めとする専門家の支援を受けながら、慎重に選定しましょう。
葬儀業界のM&A事例
葬儀業界では、営業拠点の拡大や経営基盤の強化などを目的に多くのM&Aが実施されています。葬儀業界のM&A事例を紹介します。
株式会社ティアによる八光殿グループと株式会社東海典礼の子会社化
2023年11月、株式会社ティアは日本産業推進機構グループを通じて、八光殿ホールディングス株式会社と株式会社東海典礼の株式を取得し、子会社化しました。
株式会社ティアは全国で150会館以上の葬儀会館を持つ企業です。大阪府八尾市を中心に葬儀会館を展開する八光殿ホールディングス株式会社、愛知県豊川市を中心に葬儀施設を保有する株式会社東海典礼の取得により、葬祭サービスの全国展開を図る予定です。
こころネット株式会社による喜月堂ホールディングス株式会社の子会社化
2023年7月、こころネット株式会社は喜月堂ホールディングス株式会社の株式を取得し、子会社化しました。
こころネット株式会社は、葬祭事業を中心に石材事業や生花事業などの関連事業を幅広く展開する企業です。葬祭事業の子会社3社を保有する喜月堂ホールディングス株式会社の取得により、エリア拡大とシナジー効果の獲得を目指します。
ライフエンディングテクノロジーズ株式会社による株式会社DMMファイナンシャルサービスの事業譲渡
2022年7月、ライフエンディングテクノロジーズ株式会社は株式会社DMMファイナンシャルサービスの主なサービスを事業承継しました。
株式会社DMMファイナンシャルサービスは、葬儀関連プラットフォーム「DMMのお葬式」を運営していた企業です。ライフエンディングテクノロジーズ株式会社が運営する「やさしいお葬式」の統合により、対応サービスの拡充やシナジー効果の創出を図ります。
まとめ
超高齢化社会への突入とそれに伴う葬儀件数の増加を受け、葬儀業界は一定の市場規模を有する業界です。経営の多角化を目指した他業種からのM&A、将来的な葬儀件数の減少を見越した同業種間の業界再編が進んでおり、M&Aの件数も増加しています。
葬儀業界でのM&Aは、譲渡企業と譲受企業の双方にメリットをもたらします。反面、注意点や課題もあるため、M&Aの経験豊富な専門家のサポートを受けつつ、準備を行いましょう。
fundbookでは、M&Aにおいて専門的な知識を有したアドバイザーが進行を支援します。M&Aを検討する企業の方は、ぜひfundbookにご相談ください。