近年、消費者の健康志向やニーズの多様化に対応するために、食品業界では様々な商品の開発が進んでいます。また、将来的な人口減少による国内市場の縮小が予測される中で、企業はその対応に迫られています。
これらの課題に対応する手段として、食品業界ではM&Aが盛んに行われています。M&Aを活用して新たな商品ブランドを獲得したり、海外への販路拡大を行っていたりします。
本記事では、近年の食品業界の動向や市場規模、M&Aの特徴や実際の事例についてご紹介します。なお、本記事で扱う食品業界は食品製造業のことを指します。
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食品業界の概要
はじめに、食品業界の定義や特徴、市場規模などの基本情報を解説します。業界の全体像を押さえたうえで、M&Aが活用される背景を見ていきましょう。
食品業界の定義
総務省の日本標準産業分類によると、「食料品製造業」に含まれる業種は、1)畜産食料品や水産食料品などの製造、 2)野菜缶詰・果実缶詰・農産保存食料品の製造、3)調味料、糖類、動植物油脂などの製造、4)精穀、製粉およびでんぷん、ふくらし粉、イースト、こうじ、麦芽などの製造、5)パン、菓子、めん類、豆腐、油揚げ、冷凍調理食品、惣菜などの製造となっています。
食料品製造業は、これに清涼飲料や酒類の製造業を合わせることが一般的です。
食品業界の特徴
食品業界は、原材料の調達から製造、流通、小売まで多くの事業者が関わる多層的なサプライチェーンによって成り立っています。一次産業から販売までが連動しており、原料価格や需要の変化が業界全体に波及しやすい構造です。
また、食品業界は生産者と消費者をつなぐ役割を担い、国産農林水産物の重要な受け皿として安定供給を支えています。社会的基盤としての性格を持つため、食の安全性や品質管理に対する関心が高く、衛生管理やトレーサビリティの確保は重要な課題です。
さらに、少子高齢化や単身世帯の増加、健康志向の高まりなど、食生活の変化の影響を受けやすい点も特徴です。消費者ニーズの多様化に対応するため、新商品の開発や商品ラインアップの見直し、販売チャネルの拡充などが継続的に行われています。
食品業界の市場規模
農林水産省の「令和6年度 食品産業動態調査」によると、2022年の食品製造業の製造品出荷額等は38兆3,000億円であり、前年比15.9%増と大きく増加しました※。コロナ禍で落ち込んだ需要の持ち直しなどを背景に、出荷額は増加傾向を示しています。
しかし、他社との価格競争の激化や原材料価格の高騰などにより、中小企業にとっては厳しい状況が続いています。また、将来的にも少子高齢化や人口減少を背景に国内市場は縮小する見通しであり、大手企業は新たな市場を開拓するために海外への進出を図っています。

食品業界のM&A動向
食品業界では、競争環境の変化や後継者不足などを背景に、M&Aが活発に行われています。以下では、食品業界のM&Aの特徴や動向を解説します。
素材型企業と加工型企業でのM&A
食品業界の会社は、小麦や油、砂糖といった原料の供給を行う「素材型」の会社と、原料を加工してパン、調味料、冷凍食品といった「加工型」の会社に大別することができ、それぞれでM&Aの特徴が異なります。
素材型の会社は原材料費の高騰を受け、コストの削減やスケールメリットの享受を目的として再編が行われています。また、素材型の会社は他社との製品差別化が難しいため、原料を使った加工品を新しく製造するなどの多角化を目指してM&Aを実施するケースも多いです。
加工型の会社は、素材型の会社と同様に事業の多角化を進めているほか、大手企業は海外に進出するために、クロスボーダーM&Aを行うことも多く見られます。
事業承継・異業種参入を目的としたM&A
近年では経営者の高齢化や後継者不足を背景に、事業承継を目的としたM&Aが増加傾向です。例えば、中小の食品関連企業では、長年培ってきた事業やブランド、取引先との関係を維持する手段として、第三者への承継を選択するケースが見られます。
一方で、M&Aを活用した異業種からの食品業界への参入も進んでいます。健康志向の高まりや機能性食品市場の拡大を背景に、食品分野を新たな成長領域と位置付ける企業が増加しているためです。特に、健康食品を扱う会社や部門の譲り受けニーズが高まっています。
このように、食品業界では、様々な目的で多くのM&Aが実施されています。以下では、実際に食品業界で行われたM&Aの事例について解説していきます。
食品業界のM&A事例
食品業界では、事業承継や事業領域の拡張、海外展開、グループ再編など、様々な目的でM&Aが活用されています。以下では、近年公表された事例をもとに、企業がどのような狙いでM&Aを進めているのかを解説します。
株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスのグループ再編
2025年4月、株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスは、連結子会社である株式会社オーブンと株式会社細川食品の合併を取締役会で決議しました。
株式会社細川食品は、国産野菜を活用した製品開発力や加工技術に強みを持ち、株式会社オーブンは全国展開の販売ネットワークや製造工程の管理ノウハウを有しています。両社の経営資源の統合により、開発から製造・販売までの連携を強化する狙いです。
株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスでは、合併によって商品開発のスピード向上や品質管理体制の一体化を図り、グループ全体の競争力および成長基盤の強化につなげるとしています。
亀田製菓株式会社による株式会社マイセンの子会社化

2019年2月、亀田製菓株式会社は株式会社マイセンの株式のうち90%を取得して子会社化しました。
亀田製菓は「柿の種」や「ハッピーターン」などの米菓を製造、販売している会社です。一方のマイセンは、玄米パンやベジタリアンミートなどのグルテンフリー食品の製造販売を主に行う会社です。
近年は、アレルギー対応を含む健康志向の食品の需要は高まっており、亀田製菓は米菓以外の食品事業の強化を目的として子会社化を行いました。
具体的には玄米などを使った新商品の開発を進めるほか、販路や製造ノウハウなども両社で共有するとしています。
エア・ウォーター株式会社による株式会社元気の子会社化

2019年2月、エア・ウォーター株式会社が「熟成黒にんにく」を製造する株式会社元気の株式のうち63%を取得して子会社化しました。
エア・ウォーターは農業・食品事業のみならず、産業ガス事業や医療関連事業、エネルギー事業など幅広く事業を展開している会社です。農業・食品事業では、農産物の栽培、調達から食品の製造、販売に至るまで自社で一貫して展開しています。
元気は、国内で初めて「黒にんにく」を製造した会社であり、現在は青森産のにんにくを原料として、独自の製法により「熟成黒にんにく」を製造、販売しています。
エア・ウォーターは元気を子会社化することで、エア・ウォーターが持つ成果物の仲卸、小売事業とのシナジー効果が見込める他、青森産のにんにくの調達力を高め、健康食品分野の商品を新たに持つことができるということで、M&Aを実施しました。
また、エア・ウォーターは2018年12月に調理冷凍食品を全国のレストランやホテルに販売する株式会社見方を子会社化しており、M&Aを活用した食品事業の強化を図っています。
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フジッコ株式会社による株式会社フーズパレットの子会社化

2019年8月、フジッコ株式会社が株式会社フーズパレットの全株式を取得して子会社化しました。
フジッコは、塩こんぶの「ふじっ子」や煮豆の「おまめさん」で有名ですが、ヨーグルト製品や健康食品の素材も販売しています。フーズパレットは百貨店を中心に、「四陸(フォールー)」や「チャイナチューボー」といったブランドで中華惣菜を販売しています。
フジッコは惣菜製品が全売上の3割を占めていて、主力事業の1つと位置づけています。フーズパレットが持つブランド力や商品力と、フジッコが持つマーケティング力や販売力が合わさることで、事業拡大に繋げるとしています。
異業種によるM&A事例
食品業界では、事業承継や同業間の再編のほか、異業種企業による参入が進んでいます。特に、健康志向の高まりを背景に、医薬品や化粧品、ヘルスケア分野の企業が食品分野へと事業を拡大する流れが見られます。以下では、近年の主な事例を紹介します。
ロート製薬株式会社による株式会社おいしいプラスとの資本業務提携
2023年5月、ロート製薬株式会社は、冷凍宅配弁当を提供する株式会社おいしいプラスとの資本業務提携契約を締結しました。
ロート製薬株式会社は、「薬に頼りすぎない製薬会社」を目指し、エビデンスに基づく機能性食品や食品の開発に取り組んでいます。
一方、株式会社おいしいプラスは、「おいしい」と「健康」の両立を掲げ、低糖質・低塩分・自然由来に配慮した冷凍弁当やスイーツを展開する企業です。
今回の資本業務提携では、ロート製薬株式会社が有する機能性食品成分の知見や研究開発力を活かし、商品の共同開発や新たな価値創出を進めていくとしています。
小林製薬株式会社による株式会社梅丹本舗の買収

2019年5月、小林製薬株式会社が株式会社梅丹本舗の全株式を取得して子会社化しました。
小林製薬は、「熱さまシート」や「のどぬ~るスプレー」といった商品で有名な、医薬品や医薬部外品を製造、販売する会社です。一方の梅丹本舗は、創業94年の老舗メーカーであり、「梅丹UG」や「古式梅肉エキス」といった健康食品を販売しています。
小林製薬は健康食品事業にも力を入れていて、食物繊維を簡単に摂取できる「イージーファイバー」や健康茶の「杜仲茶」をこれまでも譲り受けてきました。今回の子会社化も健康食品事業の強化の一環であり、小林製薬が保有するマーケティング力や販売力、研究開発力を活かして売上の拡大を目指すとしています。
塩野義製薬株式会社による宝ホールディングスの宝ヘルスケア株式会社の吸収合併と、タカラバイオ株式会社の健康食品事業の承継

2019年1月、塩野義製薬株式会社の子会社であるシオノギヘルスケア株式会社は、宝ヘルスケア株式会社の全株式を取得して吸収合併し、またタカラバイオ株式会社の健康食品事業を吸収分割によって承継しました。
塩野義製薬は医薬品業界では国内9位の売上であり、子会社であるシオノギヘルスケアは一般用医薬品を中心としたヘルスケア事業を展開しています。タカラバイオと宝ヘルスケアは宝ホールディングスの子会社であり、健康成分であるフコイダンを含む商品を開発、販売しています。
シオノギヘルスケアは、将来的にさらに加速すると見込まれる超高齢化社会に向けて、シニア層の健康増進に貢献する事業の強化を行なっています。宝ヘルスケアが販売するフコイダンを含む健康商品は、シニア層に支持されていて、今回のM&Aにより高齢者向けの健康食品事業を強化できるとしています。
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株式会社ユーグレナによる株式会社フックの子会社化

2018年4月、株式会社ユーグレナは、健康食品を販売する株式会社フックの全株式を約18億円で取得して完全子会社化しました。
子会社化の際、ユーグレナはフックの発行済株式の一部を取得し、その後ユーグレナを株式交換完全親会社、フックを株式交換完全子会社とする簡易株式交換により完全子会社化しました。
ユーグレナは、社名にもなっているユーグレナなどの微細藻類の研究開発やユーグレナを活用した食品、化粧品の製造、販売を行っています。フックは自社ECサイトを通じて、天然・自然由来の素材を使った健康食品やサプリメントを販売しています。
ユーグレナは、近年M&Aによる事業拡大に注力しており、2016年12月には機能性食品を販売する株式会社クロレラサプライを子会社化し、2019年6月には健康食品、化粧品などをオンライン専門で販売する株式会社MEJを子会社化しています。
この子会社化により、ユーグレナは、フックの主力顧客層である20〜30代の女性にも販路を拡大します。また、ユーグレナが持つマーケティング力や商品開発力、資金力とフックが持つブランド力を組み合わせることで、更なるヘルスケア事業の拡大が可能になるということでM&Aを実施しまし
た。
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クロスボーダーM&A事例
食品業界では、海外市場の開拓や生産体制の強化を目的として、国境を越えたM&Aが進められています。以下では、海外企業の取得を通じて事業基盤の拡大を図った事例を紹介します。
サッポロビール株式会社によるStone Brewing社の子会社化
2022年6月、サッポロビール株式会社は、子会社であるSapporo U.S.A.を通じてStone Brewing社の子会社化を決定しました。
Stone Brewing社はカリフォルニア州で創業したクラフトビールメーカーで、米国の東西に2つの醸造拠点を有しています。
サッポロビール株式会社は北米を海外事業の重要な基盤の1つと位置付けており、現地生産体制の獲得によって供給網の強化を図るとともに、これまでカナダやベトナムからの輸入に依存していた製品の物流コスト削減を目指します。
味の素株式会社による、アメリカの液体調味料会社モア・ザン・グルメ・ホールディングス社の株式取得

2019年8月、味の素株式会社は、子会社である味の素ヘルス・アンド・ニュートリション・ノースアメリカ社を通して、アメリカのモア・ザン・グルメ・ホールディングス社(以下MTG社)の株式のうち50.1%を約38億円で取得しました。
味の素は国内最大手の調味料メーカーであり、うま味調味料の「味の素」をはじめ、幅広い調味料や加工食品を販売しています。一方MTG社は肉や野菜を煮込んだだし汁であるブロス・ソースなどの液体調味料事業を展開しており、アメリカの生活者の嗜好や食生活に合わせた高価格帯の調味料
に強みを持っています。
味の素は、自社が持つ素材や調味料を組み合わせながら、MTG社が持つ加工食品メーカーや外食企業とのつながりを活用して、北米市場において販路を拡大していくとしています。
不二製油株式会社によるアメリカのBLOMMER CHOCOLATE COMPANY社の子会社化

2019年1月、不二製油株式会社がアメリカの業務用チョコレート製造会社であるBlommer Chocolate Company社(以下Blommer社)の全株式を約848億円で取得して子会社化しました。
不二製油は植物性油脂、業務用チョコレート、乳化・発酵素材、大豆加工素材の4事業を展開しており、2025年時点で業務用チョコレート業界では世界第3位となっています。Blommer社は業務用チョコレート業界では北米最大手であり、北米を中心に世界の菓子会社に対してチョコレートやココア豆を販売しています。
不二製油は、これまでもブラジルやマレーシア、オーストラリアの業務用チョコレートメーカーとのM&Aを行って、業務用チョコレート事業を拡大しています。子会社化により、不二製油は世界第3位の業務用チョコレートメーカーとなり、チョコレートの売上高も約800億円から約3,000億円規模へと拡大しました(2025年時点)。
不二製油は、自社が持つ油脂技術をBlommer社に導入するほか、原料調達を一本化してチョコレート事業を強化するとしています。また、不二製油の油脂などの他の商品もBlommer社が持つ販売網を活用して、北米での販売拡大に繋げる見込みです。
山崎製パン株式会社によるアメリカのBakewise Brands社の子会社化

2016年7月、山崎製パン株式会社はアメリカのBakewise Brandes社の全株式を取得して子会社化しました。
山崎製パンは、国内のパン業界国内のパン業界で高いシェアを有しており、食パンや菓子パン、和菓子なども販売しています。また2006年7月には菓子メーカーの株式会社東ハトを172億円で子会社化しており、製菓事業も展開しています。
Bakewise Brandes社は、ニューヨーク州に拠点を構え、ベーグルを製造してニューヨークなどアメリカ東部を中心に量販店で販売しています。また、手作りに近い食感のパンを製造し、ホテルやレストラン向けに販売するTom Cat Bakery社を子会社として保有しています。
山崎製パンは、Bakewise Brandes社のベーグル事業とTom Cat Bakery社のパン事業を子会社化することで、アメリカでの事業規模の拡大を目指しています。また、両社が持つ製パン技術を日本での商品開発に生かすとしています。
アサヒグループホールディングス株式会社によるイギリスのFULLER, SMITH & TURNER P.L.C.社のビール・サイダー事業取得

2019年4月、アサヒグループホールディングス株式会社は、子会社のAsahi Europe Ltd.社を通して、イギリスのFuller, Smith & Turner P.L.C.社(以下Fuller’s 社)のビール・サイダー事業を約370億円で取得しました。
アサヒグループホールディングスは、ビール業界において国内トップの市場シェアを占めていて、「スーパードライ」などのブランドで知られています。Fuller’s社は、ロンドンを中心に高い認知度を誇るビールブランドの「London Pride」や「Frontier」、サイダーのブランドである「Cornish gold cider」などを保有しています。
アサヒグループホールディングスは、2016年にイタリアの「Peroni」やオランダの「Grolsch」といったビールブランド、イギリスの酒類販売会社を譲り受けていて、2017年には中東の5ヶ国のビール事業会社を譲り受けるなど、積極的に海外M&Aを行っています。
今回のM&AにおいてもFuller’s 社が持つ海外ブランドを獲得しており、高級ビールのブランドを軸として欧州事業を強化するとしています。また、Fuller’s 社はロンドンを中心として380軒以上のパブやホテルを有しており、元よりアサヒグループが保有している「スーパードライ」などのブランドの販路を拡大する予定です。
さらに、2019年7月には、Anheuser-Busch InBev SA/NV グループのオーストラリア事業であるCUB事業を約1兆2,096億円で譲り受けることを発表しており、今後もクロスボーダーM&Aを積極的に行っていくとみられます。
▷参考:成約事例 | fundbook(ファンドブック )M&A仲介サービス
まとめ
食品業界では、事業強化や事業の多角化、海外進出やブランド獲得など、様々な目的で多くのM&Aが実施されています。また、異業種の企業が日本国内の高齢化に備えて、健康食品部門の会社を譲り受けるケースもみられます。
現在の収益を伸ばしたい、または将来的な市場規模縮小に対応したいと考えている企業にとって、M&Aは有力な選択肢といえるのではないでしょうか。
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