業界毎の事例

2023/09/26

介護業界のM&A|最新事例や直近の動向

介護業界のM&A|最新事例や直近の動向

厚生労働省の発表によると、75歳以上の後期高齢者は2012年時点で1,511万人でした。しかし、今後団塊の世代の高齢化によって、2025年には2,179万人と約1.5倍まで増加し、5人に1人が後期高齢者になる試算となっています。そんな超高齢化社会を背景に、2005年以降年を追うごとに介護業の需要が増えており、今後も高齢者人口の増加とともに業界は更なるニーズの拡大が見込まれます。

また、需要が伸び続ける成長市場として判断されているため、異業種からの参入や、介護サービスの質を上げるために医療関係の企業とM&Aを行うことが多いという特徴があります。

実際、高齢者人口(65歳以上の人口)は2019年時点で3,588万人であり、総人口に占める割合は28.4%という結果で、いずれも過去最高の数字となりました。高齢者はこのまま増加し続け、2042年には3,935万人に達すると推定されています。

こうした高齢者の増加を背景に、介護業界は成長市場と判断され、異業種からの参入のためのM&Aが多いことや、既存事業の介護サービスの質を上げるために医療関係の法人とM&Aが行われることがあるという特徴があります。

高齢者が利用する介護業の代表的な施設に、介護付有料老人ホームが挙げられます。現在介護付有料老人ホームの82%の顧客が高齢者で、住宅型有料老人ホームでも73%を80歳以上が占めています。また、2016年の調査では有料老人ホームの在所者数は35万人となっていて、年々増加しています。

本記事では介護業界の定義や現状を簡単に説明したうえで、介護業界におけるM&Aの事例について紹介していきます。

また以下の記事では、医療・病院業界のM&Aにおいて抑えておくべきポイントやFUNDBOOKにいただいた相談例の一部を紹介しています。

▷関連記事:【2020年】医療・病院業界のM&A事例9選【最新版】

横山 朗
今回話を聞いたM&Aアドバイザー
横山 朗
外資系大手製薬会社出身。在職中にMBAを取得し、ヘルスケア領域の経営者に貢献すべく2016年株式会社日本M&Aセンターに入社。 医療・介護・ライフサイエンス分野専門のM&Aアドバイザーとして、50件以上のM&A成約に携わる。ヘルスケア分野の譲渡相談においては、チーム内で最多を誇り、M&Aのみならず親族承継など顧客に合わせたコンサルティングサービスも提供。セミナー講師依頼も多数。2021年にfundbookへ参画。
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介護業界とは?最新の業界動向を紹介

介護業界の業界定義

高齢者や障害者といった、日常生活に何らかの支援を必要としている人に対し、さまざまなサービスを提供するのが介護業です。老人福祉法第29条では、介護業のことを、「老人を入居させ、入浴、排せつ若しくは食事の介護、食事の提供又はその他の日常生活上必要な便宜であって厚生労働省令で定めるもの」と定義付けています。

また、総務省が規定している日本標準産業分類による業界定義は「特別養護老人ホーム」「介護老人保健施設」「通所・短期入所介護」「訪問介護」「認知症老人グループホーム」「有料老人ホーム」「その他の老人福祉、介護事業」となっています。

介護サービスの分類

代表的な介護サービスである有料老人ホームには、「介護付有料老人ホーム」「住宅型有料老人ホーム」「健康型有料老人ホーム」の3つがあります。

「介護付有料老人ホーム」は都道府県の指定(認可)を受けた有料老人ホームです。介護保険制度上では「特定施設(特定施設入居者生活介護)」というサービスに分類されます。

「住宅型有料老人ホーム」は主に民間企業が運営し、要介護者や自立(介護認定なし)・要支援状態の高齢者を受け入れている施設です。同様のサービスを提供するが、要認定を受けた方が入居できない老人ホームが「健康型有料老人ホーム」です。

その他にも、60歳以上の高齢者が食事や洗濯などの介護サービスを受けられる施設であるケアハウスや、自宅の生活が困難になった要介護の高齢者が入居できる、公的な介護保険施設の特別養護老人ホーム(特養)などがあります。

介護業界のM&A|最新事例や直近の動向

また、高齢者を支えるための制度「介護保険」が設けられています。この仕組みによって介護や支援が必要だと国から認定された人は少ない自己負担で介護サービスを受けることができます。

高齢者人口の増加によって業界のニーズは高まっています。要介護(要支援)認定者は2000年の218万人から2016年には622万人に増加し、およそ16年で約3倍になりました。10年後には800万人を超える”団塊の世代”が後期高齢者となる年齢を迎えるため、要介護者のさらなる増加が見込まれます。

介護が必要な高齢者の費用を給付する介護保険が始まったのは2000年からで、当時の介護業界は経営者の高齢化が問題となっていませんでした。しかし、2019年には保険制度開始から19年が経ち、経営者も徐々に高齢化し、譲渡を検討する経営者が増えています。

訪問介護または通所介護を行っている法人を対象にした2016年の日本政策金融公庫総合研究所の調査では、代表者の年齢で最も多いのが、60~69歳代だという結果が出ています。このように、今後介護業は経営者の高齢化に伴い、M&Aが増加する可能性があります。

また介護業は人材不足の業界として知られています。2017年の全業界の平均有効求人倍率は約1.5倍ですが、介護業界はその倍以上となる3.02倍でした。許認可が必要であるため、通所介護や介護施設を開業するには必要な人員を確保できていることが条件になります。

既に運営している施設においても、退職などによって欠員が出た場合は、迅速な採用が求められます。一定の人員が欠かせないことに加えて、業界として離職率が高いことも有効求人倍率を高くしている理由のひとつです。厚生労働省の調査によれば、介護職は業務にかかるストレスが大きいことなどから、全国の介護業の離職率は16.7%と全産業平均の15%よりも高いとしています。5~6人に1人が辞めていく状況のため、業界全体として、人材の定着、確保が欠かせません。

そのため、介護職員の就業形態は、非正規職員に大きく依存している状況です。厚生労働省が発表した「介護人材確保対策」によると、介護職員は非正規職員が全体の約40%を占めています。また、ホームヘルパーは正規社員がわずか約20%で、非正規職員は約77%とほぼ大半を占めている状態です。

しかし、職員全体の4割を占める非正規職員も、離職率が平均して高いという課題があります。公益財団法人介護労働安定センターの介護労働実態調査では、2018年次の非正規雇用の介護職員の離職率は20%で、正規雇用の職員の離職率を上回る数値となっています。介護サービスに従事する従業員の不足感も66.6%が不満を感じていると回答しており、介護業界の人手不足と密接に関わっています。

また介護業は求人募集が多い職種として知られています。2017年の全業界の平均有効求人倍率は約1.5倍ですが、介護業界はその倍以上となる3.02倍でした。加えて業務にかかるストレスが大きいという点も問題視されており、離職率は16.7%と全国平均の15%よりも高く、5~6人に1人が辞めていく状況で、現在人材不足が深刻な問題になっています。

そのため、介護職員の就業形態は、非正規職員に大きく依存している状況です。厚生労働省が発表した「介護人材確保対策」によると、介護職員は非正規職員が全体の約40%を占めています。またホームヘルパーは正規社員がわずか約20%で、非正規職員は約77%とほぼ大半を占めている状態です。年齢構成は30~40代が多数を占めますが、訪問介護員となると60代以上が約37%と、高齢者が高齢者を介護している現状もあります。

男女の高齢者に対して入浴や排泄といった身体的なサービスを行うため、女性の比率が高いことも特徴の一つです。実際に施設介護サービスの約74%、訪問介護サービスの約90%を女性が行っています。

▷関連記事:深刻化する人手不足。社会背景から考える原因と対策
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あの企業も介護業界に!?M&Aによる異業種からの参入

なぜ異業種からの参入が多いのか?

近年、「飲食業界」「保険業界」「不動産業界」などの異業種から介護業界に参入するために、M&Aが行われることが増えています。その理由のひとつに介護給付金の拡大があるといわれています。高齢者の生活資金源である介護保険給付金は、厚生労働省の発表によると、現在の団塊の世代が後期高齢者になる2025年には、2015年度の約2倍である21兆円まで拡大すると見込まれています。

給付金の拡大は、利用者に対する適切な介護サービスの確保を目的に実施されます。給付金により、介護の消費者である高齢者がより積極的に介護サービスを受けることが予想されるため、今後の介護市場の拡大に繋がると予想されています。

このように成長市場である介護業への参入は、縮小が見込まれる業界への参入に比べてメリットが多く、今後も増加していく可能性があります。
こうした異業種からのM&A事例を6つご紹介します。

1.損保ジャパン日本興亜ホールディングス株式会社による株式会社メッセージの買収

損害保険会社や生命保険会社を有する損保ジャパン日本興亜ホールディングス株式会社(以下、SOMPOホールディングス)は、2016年3月に株式会社メッセージを子会社化しました。

メッセージは「アミーユ」を筆頭に有料老人ホームを展開し、サービス付き高齢者向け住宅を主力にする企業です。

SOMPOホールディングスはメッセージを子会社化することで、自社が持つ広域なネットワークや潤沢な経営資源をメッセージの介護事業運営に直接的に投入して、介護サービスの更なる品質向上を狙っています。

また、SOMPOホールディングスが保有するリスク管理のノウハウを導入し、センサーやスマホなどのICT(情報通信技術)といったデジタル技術を活用することで、転倒などの事故の早期発見、医師との情報共有、介護ロボットによる負担軽減などを図りました。

SOMPOホールディングスは同年12月に居酒屋ワタミから「ワタミの介護」を買収しており、介護業界で首位のニチイ学館に次ぐ業界2位(売上高1108億円:2017年3月時点)に浮上しています。そのため今後も介護事業でのM&Aを積極的に行うと考えられます。

2.綜合警備保障株式会社(ALSOK)による株式会社ケアプラスの子会社化

セコム株式会社に次ぐ国内2位の警備会社である綜合警備保障株式会社(以下ALSOK)は、2018年6月に株式会社ケアプラスの全株式を取得する契約を締結しました。

ケアプラスは、在宅療養者向けに訪問医療マッサージを提供しており、専門的な技能を有するあん摩マッサージ指圧師の施術によって「まごころベルサービス」ブランドで事業展開する企業です。

ALSOKはケアプラスを子会社化することで、介護事業のみならず、ALSOKグループの高齢者向けサービスの充実と企業価値の向上を図りました。
2012年よりALSOKケア株式会社を設立し、介護業界に参入したALSOKは、業界トップシェアの緊急通報サービスや、24時間365日専門スタッフに相談できる「電話での健康相談」「特定保健指導」「在宅医療機器サポート」といった幅広いサービスで、高齢者の生活を安心・安全なものにしていくとしています。

3.ソニー・ライフケア株式会社による株式会社ゆうあいホールディングスの完全子会社化

ソニーフィナンシャルホールディングス(以下、ソニーFH)の子会社であるソニー・ライフケア株式会社は、2017年7月に株式会社ゆうあいホールディングスを完全子会社化しました。

ゆうあいホールディングスは、神奈川や東京に有料老人ホーム等、28拠点にて介護事業を展開している企業です。

ソニーグループは傘下のソニー生命を主軸に損保や金融業が成長し、電気事業の不振の間に突出した利益を生み出しています。ソニーFHは、ソニー・ライフケアの介護事業を損保事業、生保事業、銀行事業に次ぐ第4の柱と位置づけ、2014年4月の設立からM&Aにより時間とノウハウを吸収する戦略に出ています。

ゆうあいホールディングスを完全子会社化することで、介護付き有料老人ホームを運営する傘下のライフケアデザイン株式会社と双璧をなす陣営を組み、更なる介護事業への進出を図ります。

4.株式会社小僧寿しによる株式会社けあらぶの連結子会社化

飲食事業及び宅配事業を行う株式会社小僧寿しは、2016年6月に株式会社けあらぶが第三者割当増資により発行する株式を引き受け、同社を連結子会社化しました。

けあらぶは高齢者のコミュニティサイト「MATCHSTAR」や、介護業界初のスカウトサービスを行う逆求人サイト「SCOUT ME KAIGO」の運営など、介護者・福祉事業者の再生に取り組む企業です。

小僧寿しは、けあらぶを連結子会社化することで、「刻み食」「極刻み食」「ミキサー食」「ソフト食」といった介護食の開発を進めています。これにより、施設利用者の意見、要望を反映した介護食を提供しています。また、利用者に小僧寿しの強みでもある寿司の提供も行います。

同年9月には子会社のけあらぶが介護サポートサービス株式会社を買収し、サービス付き高齢者向け住宅事業を開始するなど、今後も活発に事業拡大していくでしょう。

5.野村不動産ホールディングス株式会社による株式会社JAPANライフデザインとの資本提携

野村証券系の不動産デベロッパーとして、マンション開発に強みを持つ野村不動産ホールディングス株式会社は、2017年3月に株式会社創生事業団との業務提携契約及び、創生事業団の100%子会社である株式会社JAPANライフデザインと資本提携を結び、株式の49%を取得しました。

創生事業団は、社会福祉法人も併せた14の法人で構成される創生会グループ 「グッドタイムアライアンス」の中核企業で、100床で大型とされる介護施設において、最大級である約5,000床の大型高齢者住宅や介護系施設の運営を行っています。

また、その子会社のJAPANライフデザインは現在「グッドタイムホーム」のブランドで、東京都調布市、品川区、大田区で3棟の介護付有料老人ホームを運営しています。

野村不動産ホールディングスは、2015年4月に100%子会社の野村不動産ウェルネス株式会社を立ち上げ、高齢者住宅事業への参入を表明しています。今回の業務提携契約及び資本提携契約によって、自社の持つマンション開発のノウハウを活かし、様々なニーズに応える高齢者住宅事業への更なる事業展開を図りました。

6.株式会社サン・ライフによる株式会社ノーマライズの有料老人ホーム「ビアホーム本厚木」の譲受

成人式やホテルの運営、結婚、葬儀を行う冠婚葬祭互助会の株式会社サン・ライフは2018年3月に株式会社ノーマライズが運営する住宅型有料老人ホーム「ビアホーム本厚木」を譲受しました。

サン・ライフは本業であるホテル・ブライダル業を展開しながら、2017年には計3軒の老人ホームを譲り受けるなど、積極的に自社のシニアライフ事業を拡大しています。また子会社の株式会社ザ・サンパワーや有限会社ホーマを通じて、居宅介護支援を中心に神奈川県、東京都八王子市で介護事業を営んでいます。

近年の葬儀業界の動向は、葬儀を簡素に行いたいという様々なニーズから、親しい関係者のみで火葬だけを行う「直葬」や、1日で通夜から葬儀、告別式まで全てを終わらせる「ワンデーセレモニー」など多様化しており、葬儀そのもののニーズが減少しているため、業界全体が圧迫されている背景があります。

そんな中、サン・ライフはビアホーム本厚木を買収することで、介護から葬儀、法要までのトータルライフサポートの実現を目指し、更なる介護事業の拡大を図りました。

介護業界内のM&A事例~2018~

1.株式会社ツクイによる株式会社ヒューマンライフ・マネジメントの株式取得

デイサービスをはじめとする通所介護サービスや人材派遣を行う株式会社ツクイは、2018年7月に株式会社ヒューマンライフ・マネジメントの株式取得を行いました。

ツクイはサービス付き高齢者向け住宅事業や有料老人ホームの他にも、介護用品インターネット通販サイト「介護のツクイ」や、福祉車両・福祉機器のリースを行う「株式会社ツクイキャピタル」など、介護への顧客だけでなく介護事業者に対しても幅広いサービスを展開している事業会社です。

ヒューマンライフ・マネジメントは在宅医療の支援や訪問看護を行っており、ヘルスケア分野や医療分野において、在宅医療で培った独自のリソースを保有しています。2016年度に行われたアジア最大級規模のベンチャー×大手企業サミット「第四回イノベーションリーダーサミット」では、人気上位100社に選ばれています。

ツクイは、ヒューマンライフ・マネジメントの株式取得によって訪問看護サービスの更なる拡大と、医療機関との連携を行い、業界1位のデイサービス事業の強化を図りました。

2.株式会社ソラストによる株式会社JAWAグループの買収

日本初の医療事務教育機関であり、関東、関西地区で介護サービスを提供する株式会社ソラストは、2018年10月に株式会社JAWAの全株式を買収しました。

JAWAは大阪府、愛媛県、兵庫県を中心に、高齢者や認知症の患者のためのグループホームを運営する企業です。高齢者本人の意思を尊重し、自立した生活、自己実現を可能にする地域福祉に力を入れています。子会社に老人ホームを展開する企業を複数保有しているが、介護マニュアルを完全に排除するなど、一人ひとりの要望に沿ったケアを行っています。

ソラストによるタブレット端末を利用した訪問介護支援システム「TPO-Cafe」による取り組みは、介護サービスに関するシステムで初めて「ITビジネス賞(平成30年度)」を受賞しています。また医療関連受託事業として独自に「病院IT支援サービス推進室」を持ち、データ活用及び病院経営のサポートを行うなど、より良い医療の実践にむけて事業を展開しています。

ソラストは、今回の買収によって自社の展開する通所在宅サービスに、JAWAの保有する施設系サービスを取り入れることで、地域トータルケアを実現し、介護利用者の幅広いニーズへの柔軟な対応を図りました。

3.株式会社ユニマット リタイアメント・コミュニティによる株式会社ホームライク湘南の買収

サービス付き高齢者向け住宅事業を主に運営する株式会社ユニマット リタイアメント・コミュニティ(以下、ユニマット)は、2018年11月に株式会社ホームライク湘南を完全子会社化しました。

ホームライク湘南は、神奈川県茅ヶ崎市で「グループホーム茅ヶ崎」を運営しながら教育・職場環境の整備や、介護人材の育成にも尽力する介護サービス企業です。

ユニマットは、2018年10月からソフトバンクロボティクス株式会社及びソフトバンク株式会社と合同で、介護施設における人型ロボット「Pepper」の活用に向けた実験を実施するなど、介護事業へのロボット導入を先進的に行う企業です。

またユニマットは高齢者住宅の新規開設と統廃合を得意とするため、今後も施設介護企業とのM&Aを行い、事業を拡大していくでしょう。ユニマットはホームライクを完全子会社化することで、「グループホーム茅ヶ崎」と連携し、既存拠点との職場環境の関係向上や、人材育成のノウハウを共有する狙いです。

中国に進出した日本の介護サービス

一人っ子政策が長く続いた中国は、将来的に介護を必要とする高齢者の割合が一気に高まることが予想されています。また、日本の介護に比べ、認知症ケアやリハビリ事業が発展途上であり、こうした背景から中国の介護市場に進出する日本の介護事業会社が増えています。そんな中国への海外進出を行った介護企業のM&A事例をご紹介します。

1.株式会社ニチイ学館による中国 西安海鑫家政清潔工程有限公司の子会社化

医療・介護・教育関連事業を展開する介護業界最大手の株式会社ニチイ学館は、2016年3月、海外子会社である「日醫香港有限公司」を通じて「西安 海鑫家政清潔工程有限公司(以下、西安海鑫)」を子会社化しました。

西安海鑫は清掃や家政サービスを展開しながら、傘下に職業訓練学校を保有し、人材養成にも取り組む、地域での高い信頼を誇る事業法人です。

ニチイ学館は、一人っ子政策が長く続き将来的に介護の需要が高まると予測される中国へ、認知症ケア、リハビリケアといった日本の介護モデルの輸出を行っています。今回の西安海鑫の子会社化によって、中国西北地域における中心都市の西安市に強固な事業基盤の確保を図りました。

ニチイ学館は、日本で培ってきたノウハウ・強みを活かし、中国における介護サービスの展開や、国際化社会に対応できるグローバル人材の養成支援など、世界に向けてサービスを発信していきます。また、海外の優れたサービスや知見を国内事業へ反映し、より良いサービスの相互共有に活かしていく狙いがあります。

▷関連記事:中国企業とのM&Aの特徴と注意点とは?

2.株式会社ケアサービスによる上海保原健康管理諮詢有限公司の設立

介護からエンゼルケア*1まで、一貫したサービスを提供している株式会社ケアサービスは、2017年11月、介護施設の経営やコンサルティングを手掛ける合弁会社、上海保原健康管理諮詢有限公司を、株式会社リブラと上海金盛隆養老服務有限公司(以下、上海金盛隆)の共同出資により設立しました。

ケアサービスは、2015年に上海福原護理服務有限公司(以下、上海ケアサービス)を設立し、中国で介護サービスやエンゼルケア事業を展開しています。

共同出資した上海金盛隆は、日本における有料老人ホームにあたる「養老院」の運営や介護サービス業を行っており、他社との差別化を図るため、サービス面の強化を模索していました。

ケアサービスは、今回の合弁会社設立によって、核家族化が進み高齢者の介護が問題になる中国都市部において、運営からスタッフ育成、経営管理に至るまでの養老院経営モデルを作り上げ、

長期的な観点から中国介護NO.1ブランドの構築を図りました。

また、上海ケアサービスは2017年9月より上海の国営葬儀場である上海市奉賢区殯儀館にてエンゼルケアサービスを提供しており、上海において同社がエンゼルケアサービスを提供する葬儀場は 3か所となりました。

*1 エンゼルケア:逝去後に行う死後処置(清拭など)と死化粧の総称

3.株式会社学研ホールディングスによるメディカル・ケア・サービス株式会社の子会社化

教育関連事業と出版事業を行う株式会社学研ホールディングスは、2018年9月にメディカル・ケア・サービス株式会社(以下MCS)を子会社化しました。

MCSは、認知症介護を重要課題と位置付け、グループホームや有料老人ホームを展開する、居室数日本一のグループホーム事業会社です。2014年から中国、2018年からマレーシアに進出し、事業を拡大しています。

学研ホールディングスは子会社に在宅介護サービス・配食サービス・認知症予防教室を提供する株式会社学研ココファンを保有しています。学研ココファンでは比較的健康な高齢者が対象のサービス付き高齢者住宅が事業の軸になっており、認知症ケアが手薄な状況にありました。

そこで学研ホールディングスはMCSを子会社化することで、サービス付き高齢者向け住宅事業と認知症ケアとの関連性を高めました。認知症の予防から緩和まで対応するケアシステムを形成し、アジア各地の展開も視野に入れています。主な進出先の中国において認知症患者向けのサービスを展開する狙いです。

専門家からのコメント

近年介護業界における人材不足は深刻で、高齢者は増える一方、多くの介護施設では介護スタッフが不足している状況となっています。そのため、人手不足を解消するために各社が多額の広告費や紹介会社を活用した採用コストを使い、人材確保を行っている状態です。ただし、ブランド力や資本力、人材への給与などをかけられる体力のある大手企業やグループに人材が集まりやすく、中小企業にとってはコストをかけつつも採用が難しくなっており、切迫した状況の企業も少なくありません。
 
そのような業界環境において、今回紹介した事例のように異業種の大手企業による介護業界への新規参入が増えており、益々の競争激化が予想されています。例をあげると、人手不足を補う「人材業界」や利用者の人生の最後をケアする「葬儀業界」、介護利用者専用の食事を開発・準備する「食品卸」、葬儀に献花・供花を提供する「花屋」など幅広い業界からの参入が相次いでいます。
 
この理由として、自社の専門分野を活用できること、訪問介護やデイサービスは設備投資費や人材費以外に必要な投資コストが無いということから、参入障壁が高くない点があげられます。今後業界全体として成長が見込まれる中で、異業種からの参入ニーズはますます高まっています。

一方、介護利用者はどこの介護施設でもいいという人は少なく、自宅の近くにあり、評判もよく地域に愛されている施設に入居したいという要望が増加しています。そのため、新しいエリアへの参入を図る譲受企業からも、地域に愛される企業を譲り受けたいという相談を多くいただきます。

そのような状況の中で、業界再編に対応する選択肢の一つとして、M&Aを選択する企業も増加しています。M&Aを検討される経営者様は、地域と深い関りを持ち、地域住民からも入居者からも愛されるような会社・サービスを作るように、これまで以上に心がけて経営にあたる必要があります。

まとめ

日本の超高齢社会と切り離すことの出来ない介護業界。成長産業である一方、10年後には団塊の世代が後期高齢者となるため、介護業界の課題点である人材確保の早期解決が求められます。

今後はM&Aを活用し、介護事業会社が経営資源と共に人材を確保したり、異業種がM&Aによって介護業界に続々と参入することが考えられるでしょう。寿命や健康状態が時代によって変化する、高齢者のこれからのニーズを考えることが、次世代の介護業界のビジネスのヒントになるかもしれません。

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