震災復興事業や2021年東京五輪による繁忙期を迎えていた建材(建築資材)卸業界ですが、今後は国内の人口減少などを背景に建築需要の低下も見込まれています。そういった市場縮小や需要の変化を受け、建材卸業界ではM&Aが活発化しています。
本記事では、事業拡大を図るための手段のひとつであるM&Aに焦点を当てて、建材卸業界の最新の動向や事例を紹介していきます。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
建材卸業とは?
建材卸業とは、メーカーから資材を仕入れ、企業に販売する事業です。建材(壁・天井・屋根などの外装となる材料)、建設資材(木材・金属等)の卸売を営む企業で構成されています。顧客である工務店が地域密着型であることが多く、多種にわたる商品を各社に届けるため、卸売流通は多層構造になっています。
建材卸業界の特徴として、以下が挙げられます。
・取扱商品の品目が多岐にわたる
顧客のニーズによって様々な素材、形状の商品が存在するため、商品別の管理が比較的難しく、商品別の採算・在庫管理等に工数がかかります。それに伴い仕入先が多くなり、仕入先管理にも工数がかかります。
・商圏内顧客の利用が多いローカルビジネス
工務店やハウスメーカーが地域密着型であることが多いため、販売先が工務店となる建材卸業者も地域ごとに存在します。そのため、地域ごとの新設住宅着工数やリフォーム件数に市場が大きく左右されます。
・契約形態が複数存在する
一部の建材卸業者では加工を請け負っているため、以下のような契約形態が存在します。
購買契約:規格品や市販品を対象とする売買契約
製造委託契約:最終的な製品の仕様を指定して、製造を委託する契約
材工一式契約:建築資材と工事作業を、建材卸業者が手配する契約
・価格競争に陥りやすい
卸売業という性質上、加工を行わない企業は商品の付加価値による差別化が難しく、他社との価格競争に陥りやすい傾向があります。建材卸業の売上総利益率が低い傾向にあるのはそのためです。各社は価格以外にリードタイムの短縮やアフターサービス等で差別化を試みています。
建材卸業界の動向
・縮小傾向にある住宅向け建材市場
建材市場は納入先である建設会社・ハウスメーカー・工務店・ビルダーなどの建設業の動向に左右されます。特に住宅や非住宅建築物(オフィス・商業施設・公共インフラなど)の新設着工件数の変動は、建材卸業界の売上に大きな影響を与えます。
2021年までは東京五輪の開催に伴い、建築物の需要が増加傾向にありましたが、国内の人口減少などを背景に、新設住宅の着工戸数は中長期的に減少傾向にあります。
出典:居住用・非居住用建築物の市場規模予測(2022年)(矢野経済研究所)
新型コロナウイルスの影響も新設住宅需要にとってマイナス要因となりました。
リモートワークによる在宅時間の増加や住環境への関心の高まりなどを背景に、新設住宅需要が回復する動きも見られますが、短期的な影響に留まると考えられます。
新設住宅着工戸数の減少を受け、住宅向け建材の市場規模は中長期的に縮小していくことが予想される一方、非住宅建築物は分野により新設需要の動向やコロナ禍の影響が多少異なってはいますが、全体として市場規模は減少傾向にあり、今後は横ばいで推移するものと見られます。
・リフォーム関連市場・環境配慮型建材は成長見込み
新設住宅需要の中長期的な減少が見込まれる一方、住宅リフォーム市場の規模は微増〜横ばいで推移すると予想され、建材卸業界においても潜在的な需要開拓の余地があると見られます。
出典:住宅リフォーム市場に関する調査(2021年第4四半期及び2021年計)(矢野経済研究所)
また、ESG・SDGsに関する政策の進展と企業・消費者の意識の高まりにより、環境に配慮した建築物への需要が拡大しており、環境配慮型建材の市場が世界的に成長していくことが見込まれます。
リフォームと環境配慮型建材の需要には建材卸業とも大いに親和性・関連性があり、今後の成長が期待される分野です。
建材卸業界のM&A動向
近年、東京をはじめとした主要都市を中心に建材卸業界のM&Aが活発です。
ここではM&Aの目的別に、建材卸業界とM&Aの関係について確認していきます。
・既存事業の幅を拡大
建材卸業界では、より多様なニーズに対応する重要性が高まっており、幅広い建築資材を扱っている企業が有利になってきています。
そのため、建材卸業を営む企業同士がM&Aによって双方の商材の強みやサービスを補完しあうことで事業の幅を拡大し、多様化するニーズに対応する動きが想定されます。
例えば、外装材に強みのある会社が、内装材分野を強化したいと考えているケースを想定します。この場合、内装材に強みのある会社を買収し、傘下に迎えられれば、グループ事業として内装材分野の事業を強化できるのです。
このように、同業者間のM&Aによって事業内容や商圏を拡大するケースは、近年よく見られる傾向です。
・サプライチェーンの拡大
工事業や資材メーカーといった、サプライチェーンの上流・下流に位置する企業とのM&A事例も多く見られます。
サービスの差別化が難しい建材卸業では、今後も価格競争を避けるために垂直・水平両方での統合が進むと考えられています。
また先述のとおり、リフォーム関連市場や環境配慮型建材は今後成長が見込まれる領域です。そういった領域への足がかりとして、M&Aを活用しビジネスラインナップの拡大を見込むケースもあります。
上記は主に買い手側の目線ですが、売り手側の目的やメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
・取引先に対する交渉力の発揮
・特定取引先への依存度低下
・後継者不在問題の解消と従業員の雇用維持
・創業者利益の獲得
・売却益を用いた新規事業の展開や起業
・廃業、倒産の回避
建材卸業界のM&A事例
近年行われた建材卸業界でのM&A事例を見ていきましょう。
1.【2024年】JKホールディングス株式会社が太平洋建材株式会社を連結子会社化
JKホールディングスは、大阪府を拠点に内装材・外装材の販売事業を展開する太平洋建材株式会社の全発行済株式を取得し、連結子会社化することを発表しました。
JKホールディングスは、合板の製造・販売、木材の加工・販売、合板二次製品・建材、住設機器の卸売といった幅広い事業を展開しています。
今回の連結子会社化により、JKホールディングスグループの関西地区における基盤が拡充され、内装建材販売事業へ新たに視野を広げ、グループ全体で更なるサービスの提供を行っていくことを見込んでいます。
2.【2022年】株式会社ブルケン東日本が株式会社東洋住建の建材販売事業・建築工事業を譲受
JKホールディングスグループの一員である株式会社ブルケン東日本は、山形県を中心に建築資材販売事業と建築工事業を展開する株式会社東洋住建を譲り受けると発表しました。
株式会社ブルケン東日本は、仙台市を拠点に建築資材販売事業を展開する企業です。
東北エリアにおけるグループ基盤の拡充を目的とし、株式会社東洋住建の建築資材販売事業・建築工事業を譲受しました。
3.【2021年】フクヤ建設株式会社が株式会社成商を完全子会社化
高知県に本社を置き、注文住宅建築、リノベーション、オフィス・施設建築、宅地造成、不動産紹介などの事業を展開するフクヤ建設株式会社は、2021年12月に同じく高知県に所在する株式会社成商の全株式を取得し、完全子会社化しました。
譲渡企業の株式会社成商は、鉄鋼建材卸売や建築金物加工の事業を展開していましたが、後継者不在のため第三者への事業承継を検討していました。
住宅耐震化などで鋼材需要が高まる中、フクヤ建設株式会社は本M&Aによって譲渡企業の建材事業を取り込み、経営多角化を図ります。
4.【2021年】株式会社ダイキアクシスが株式会社アルミ工房萩尾を完全子会社化
2021年10月、株式会社ダイキアクシスは株式会社アルミ工房萩尾の株式の100%を取得し、完全子会社化しました。
株式会社ダイキアクシスは、水回り関係を中心とした住設機器を元請けのゼネコン・地場建築業者・ハウスメーカーに販売する住宅機器関連事業を主要事業の一つとしています。
株式会社アルミ工房萩尾との協業によって、水回り関係に加えて住宅サッシおよびエクステリア建材に関する提案を実施することが可能となり、より質の高い商材・サービスの提供とともにシナジー効果を見込んでいます。
5.【2021年】OCHIホールディングスが寺田株式会社を子会社化
主に西日本エリアにおいて、建材・住宅設備機器卸売を中心に建材加工事業、環境アメニティ事業(空調・冷熱機器や家庭用品の販売)、各種建設工事業などを展開する企業グループの持株会社であるOCHIホールディングス株式会社は、2021年10月に寺田株式会社を子会社化しました。
寺田株式会社は北海道・東北・関東・九州に拠点を置き、寝具・衣料品・タオルなどの繊維商品卸売事業を展開しています。
本M&Aによって、OCHIホールディングス株式会社は東日本地域での事業拡大や建材・住宅設備関連以外の事業の強化を見込み、住宅需要の変化に影響を受けにくい企業体質の確立を図ります。
6.【2021年】前田工繊が株式会社セブンケミカルを子会社化
土木・建築資材及び各種不織布を製造・販売する前田工繊株式会社は、2021年9月に株式会社セブンケミカルの株式を取得し、子会社化しました。
株式会社セブンケミカルは、1971年7月の設立以来、外壁用の防水材、保護・仕上げ材の製造・販売を展開しており、前田工繊グループのインフラ事業分野における構造物の補修・補強技術との相乗効果を発揮するとしています。
取扱製品の多様化を図るとともに、今後は建物の老朽化対策としてリフォーム工事の需要が緩やかに拡大していくことが見込まれることから、今回のM&Aに至りました。
7.【2021年】西武ホールディングスが建材卸を営む子会社を東和アークス株式会社に譲渡
株式会社西武ホールディングスは2021年7月、子会社で北関東・静岡を中心に建築材料と鉱物・金属材料を主とする製造・卸売業を営む西武建材株式の全株式を東和アークス株式会社に譲渡しました。
東和アークス株式会社は埼玉県下を事業基盤とし、建築材料等の製造・卸売事業を主力事業としており、株式会社西武ホールディングスのノンコア事業売却を通したグループ事業ポートフォリオ見直しの中で、本M&Aが成立しました。
8.【2021年】JKホールディングスが株式会社坂田建材を完全子会社化
株式会社坂田建材は、岩手県で建材・鋼材・住宅機器の販売、家電製品・OA機器の販売などの事業を展開している企業です。
本M&Aによって、JKホールディングス株式会社は岩手県内における拠点拡充、東北地区におけるグループの経営基盤の強化を図り、グループ事業のシナジー効果創出を目指します。
なお、株式会社坂田建材は自社が運営する板金の成形・加工事業を、株式会社協和へ譲渡する旨の契約も締結しています。
9.【2020年】渡辺パイプが株式会社トラスに出資
2020年12月、渡辺パイプ株式会社は建材選択クラウドサービス「truss」を運営する、株式会社トラスに出資しました。
渡辺パイプは株式会社トラスとの協業により、顧客である建築事業者に向けて生産性向上支援サービスの展開を推進するとしています。
出資を受けた株式会社トラスは本件での資金調達によって、開発体制と採用を強固にしていくとのことです。
10.【2020年】ヤマエ久野株式会社が株式会社鹿島技研を完全子会社化
ヤマエ久野株式会社は飲食関係商材や住宅用建材・機器の卸売業を展開する企業です。
自社の建材部門と譲渡企業である株式会社鹿島技研の建設事業との連携により、九州・関東地区における双方事業の更なる市場深耕と成長が図れるとしています。
本M&Aによるグループシナジーの追求、鋼製型枠・金物・鉄筋加工製造事業およびISベース柱脚事業への進出を目指し、事業領域の拡充を見込んでいます。
11.【2020年】株式会社岩田商会が小倉サンダイン株式会社を完全子会社化
2020年1月、株式会社岩田商会は化学品・建築分野において専門商社機能と施工機能を柱とする小倉サンダイン株式会社を完全子会社化しました。
岩田商会は自社事業と補完関係にある小倉サンダインの事業を取り込み、強固な経営体制の確立と更なる成長を図ります。
小倉サンダインの製品群、販売力・施工力は、岩田商会の化学品・樹脂・建材事業と補完関係にあり、より一層の相乗効果が期待できるとしています。
まとめ
建材卸業界の市場規模は全体的には縮小傾向にあります。一方、リフォームや環境関連では市場成長が見込まれています。
このような背景を基に、事業基盤・商圏の拡大や商材提案力向上、非建築分野の強化などを目的として、建材卸企業によるM&Aが盛んに行われており、今後さらにM&Aが活発化していくものと予想されます。
自社の既存事業だけではなく、関連業界や成長領域の最新情報やM&A動向をチェックしていくことが重要です。