
中小企業は、世間一般で使われる「中小企業」という言葉の意味の他に、法律でも範囲が定められています。中小企業の法的な定義を知っておくと、中小企業向けの国の施策を活用する際に便利です。
本記事では、中小企業基本法が定める「中小企業」の定義を解説します。中小企業の範囲を把握する際の注意点や中小企業基本法の概要、中小企業が活用できる施策も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
中小企業とは?中小企業基本法での定義と範囲
中小企業とは、一般的に経営規模が中小規模の企業のことを指します。「中小企業基本法」では「中小企業者」として、「資本金の額又は出資の総額」「常時使用する従業員」を基準に下記のとおり定義されています。
業種分類 | 中小企業者(下記のいずれかを満たすこと) | |
資本金の額又は出資の総額 | 常時使用する従業員 | |
製造業その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
表のように、「業種」により中小企業者の基準となる資本金の額や従業員の数には違いがあります。例えば、資本金が2億円で常時使用する従業員が200人の企業の場合、卸売業では中小企業者として判定されませんが、製造業では中小企業者と判定されます。
なお、本記事内の「中小企業」という表記は、「中小企業者」と同義として扱います。
小規模企業者・個人事業主の定義と範囲
中小企業基本法では、「小規模企業者」についても定義されています。内容は下記のとおりです。
業種分類 | 常時使用する従業員 |
製造業その他 | 20人以下 |
卸売業 | 5人以下 |
小売業 | 5人以下 |
サービス業 | 5人以下 |
小規模企業者の定義は資本金に関する定めがなく、常時使用する従業員数により判定されます。
法律や制度により定義は異なる
中小企業基本法による定義は、国が実施する様々な中小企業政策の根拠となっています。先ほど説明した業種ごとの資本金や従業員数の基準を理解しておくと、補助金や助成金を利用する際に自社が対象となるかどうかの目安になります。
注意すべき点は、中小企業基本法で定義される「中小企業者」はあくまで原則的な範囲を示したものであるということです。法律や制度によって「中小企業」の範囲には違いがあります。
例えば、法人税の軽減税率が受けられる「中小企業者(等)」の定義は下記のとおりです。
・資本金1億円以下の普通法人(資本金5億円以上の法人の完全支配関係下にある法人は除く)
・人格のない社団等
・公益法人等
・協同組合等
また、中小企業などを対象とした事業再構築補助金では、「中小企業者」を下記のように細分化して定義しています。
業種分類 | 中小企業者(下記のいずれかを満たすこと) | |
資本金の額又は出資の総額 | 常時使用する従業員 | |
製造業・建設業・運輸業 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業(ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業を除く) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
ゴム製品製造業(自動車又は航空機用タイヤ及びチューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除く) | 3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業・情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
その他の業種(上記以外) | 3億円以下 | 300人以下 |
中小企業向けの各施策を活用する際は、施策ごとの中小企業者の定義を必ず確認しましょう。
中小企業定義の適用例と注意点
中小企業基本法に基づく定義は、様々な施策や支援を利用する際の重要な基準となりますが、適用にはいくつかの注意点があります。以下では、具体的なケースと留意事項を解説します。
1. 複数の事業を営む場合
企業が複数の事業を営んでいる場合、中小企業の判断は「主たる事業の業種」に基づいて行われます。主たる事業とは、売上高や従業員数が最も大きい事業を指します。このため、複数事業を営む企業は、主たる事業を特定することが重要です。
2. 資本金と従業員数のいずれかのみ基準を満たしている場合
中小企業基本法では、資本金または従業員数のいずれか一方が基準を満たしていれば、中小企業として判定されます。例えば、製造業で資本金が5億円の場合でも、従業員数が250人であれば中小企業に該当します。この柔軟な基準は、多様な企業形態に対応するためです。
3. 業種の判断に迷う場合
中小企業の定義を判断する際には、日本標準産業分類を参考にすることが推奨されますが、実際の事業内容と分類が異なる場合があります。例えば、製造小売業は小売業として分類されるケースが一般的です。事業内容が複数の業種にまたがる場合は、分類方法をよく確認する必要があります。
4. みなし大企業として扱う場合
中小企業に該当する資本金や従業員数であっても、大企業の子会社や関連会社は「みなし大企業」として扱われる場合があります。この場合、みなし大企業は、中小企業向けの施策や支援を受けることができません。例えば、資本金が1億円以下であっても、親会社が大企業である場合は中小企業に該当しないことがあります。
5. 個人事業主の場合
個人事業主の場合は資本金基準が適用されず、常時雇用する従業員数のみで判断されます。
例えば、製造業を営む個人事業主は、常時使用する従業員が20人以下であれば「小規模企業者」です。それ以上であれば、「中小企業者」として判定されます。
中小企業と大企業の違い
大企業に明確な定義はありませんが、一般的に資本金や従業員数が多く、規模の大きい企業のことを「大企業」と呼びます。中小企業基本法での「中小企業者」に該当しない企業が、逆説的に大企業といえます。
なお、会社法では、資本金が5億円以上、あるいは負債総額200億円以上の株式会社のことを「大会社」としています。
企業の数の比較
中小企業と大企業は、数が大きく異なります。中小企業庁において総務省と経済産業省が公表した「令和3年経済センサス-活動調査」を取りまとめた報告によると、2021年6月時点の大企業と中小企業・小規模事業者の合計は、337.5万者です。そのうち、中小企業・小規模事業者の総数は336.5万者で全体の99.7%を占めています。一方、大企業の総数は1万364者で、全体の0.3%にすぎません。
このように中小企業が圧倒的多数を占める一方で、大企業は規模の大きさを背景に特定の分野で強い影響力を持っています。次に、それぞれの経営特性について詳しく解説します。
経営特性
中小企業と大企業は、その規模の差に加え、経営の特性にも大きな違いがあります。以下では、それぞれの違いを紹介します。
中小企業の経営特性
中小企業は、経営者と現場の距離が近く密接な連携ができるため、市場の変化や顧客ニーズに対して素早い意思決定が可能です。
また、従業員一人ひとりが広い裁量を持って主体的に業務を遂行できる環境があり、ニッチな市場や特定分野での専門性を活かした競争力の構築が可能という強みがあります。
大企業の経営特性
大企業は、豊富な資金力を背景として大規模な設備投資や研究開発を行うことができます。大企業の確立されたブランド力は、新規取引先や顧客の獲得に大きな優位性をもたらします。さらに、複数事業展開によるリスク分散や、標準化された業務プロセスによる効率的な品質管理ができるのも強みです。
中小企業経営者には、こうした両者の特性を理解した上で、自社の強みである機動力と専門性を最大限に活用しながら、大企業の持つ効率性やリスク管理の手法を取り入れた経営戦略の策定が求められます。このバランスの取れたアプローチにより、持続的な競争力の向上につなげることができます。
中小企業基本法とは
中小企業基本法は、国の中小企業政策の基本理念や基本方針を定めた法律です。ここでは、中小企業基本法の概要や中小企業が利用できる施策を解説します。
中小企業基本法の概要
中小企業基本法は1963年に制定された法律です。制定当初は「大企業と中小企業との二重構造の問題に対応」「経済的・社会的制約による不利の是正」の2つの基本理念を柱としていました。1999年に中小企業基本法は抜本的に改正され、基本理念が「多様で活力ある中小企業の成長発展」へと変更されました。この基本理念は現在も維持されています。
中小企業基本法の政策の柱は、「経営の革新及び創業の促進」「中小企業の経営基盤の強化」「経済的社会的環境の変化への適応の円滑化」の3つの基本方針です。さらに、「資金の供給の円滑化及び自己資本の充実」とあわせ、中小企業に関する予算の概算要求や予算に基づく施策が行われています。
中小企業が利用できる国の施策
国は、中小企業基本法の理念実現のため、多種多様な中小企業施策を実施しています。例えば、「技術力の強化支援」に関する施策を取り上げただけでも、下記のとおり様々な施策があります(2023年度時点)。
- ・ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
- ・成長型中小企業等研究開発支援事業
- ・IT導入補助金
- ・SBIR 制度に基づく支援
- ・中小企業技術基盤強化税制(研究開発税制)
- ・省エネ関連設備等の導入に対する支援
- ・CIP(技術研究組合)制度
- ・公設試験研究機関(公設試)
- ・グリーントランスフォーメーション関連融資事業
上記は中小企業施策のほんの一例です。「技術力の強化支援」の他にも、下記のような支援があり、それぞれに複数の施策があります。
- ・創業・ベンチャー支援
- ・経営革新支援新たな事業展開支援
- ・知的財産支援
- ・再生支援
- ・事業承継の支援
例えば、自社のDX化を図りたい企業は、IT活用促進資金やIT導入補助金、中小企業経営強化税制や中小企業共通EDIなどの活用が有効的です。また、経営の効率化を図りたい場合には、新たな事業活動を支援する融資制度や、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金、地域未来投資促進税制や販路開拓コーディネート事業などを活用するのも良いでしょう。
対象となるのは、冒頭で説明した「中小企業基本法で定義された中小企業者」のみです(一部範囲が異なるケースもあります)。自社の経営革新や事業展開を行う際に役立つ施策であるため、条件にあてはまる場合は活用を検討しましょう。
中小企業の今後の展望
中小企業を取り巻く環境は日々変化しており、安定して経営していくためには、変化する状況への迅速な対応が欠かせません。ここでは、中小企業の今後の課題を働き方改革やコロナ禍の影響などの視点から解説します。
中小企業における働き方改革
近年、国は働き方改革を進めており、毎年5日の年次有給休暇の取得義務化や時間外労働の上限規制、同一労働同一賃金の導入など、関連法の改正を順次進めています。
人材の確保や従業員の満足度・労働生産性向上を考えると、従業員の働く環境への配慮は今後さらに重要になっていくと考えられます。
ポストコロナ時代の経営戦略
新型コロナウイルス感染症は、全国の中小企業に多大な影響を与えました。売上が大幅に減少した企業もあり、財務改善は各企業の喫緊の課題です。本業の立て直しだけでなく、コロナ禍後のビジネス環境に対応し、新分野への進出や事業の転換を検討することも必要です。
なお、コロナ禍で中小企業の財務面を支えた「ゼロゼロ融資」の返済は2023年7月から始まり、2024年4月には返済開始のピークに達しました。その後、20204年6月末で「コロナ借換保証制度」は原則として終了しましたが、小規模事業者向けには「小口零細企業保証(全国小口)」を活用した、100%保証での借り換えが可能です。
また、政府は2024年7月以降、コロナ禍前の支援水準で経営改善や再生支援に重点を置いた資金繰り支援を基本とする方針を打ち出しています。
中小企業は、これらの新たな支援策を活用しつつ、自社の財務体質改善に取り組むことが重要となっています。
事業承継の動向
昨今、中小企業の経営者の高齢化により、事業承継の促進が課題となっています。中小企業庁は「事業承継5ヶ年計画」をはじめ、様々な対策を実施してきました。
この間、2018年は66%を超えていた後継者不在率は2022年に初めて60%を割り、2024年(速報値)では52.1%を記録しています(帝国データバンク調べ)。しかし、50%以上の企業で後継者が不在である状況には変わりないため、今後一層の事業承継の推進が求められています。
▷関連記事:事業承継とは?成功に向けたポイントや基礎知識を解説
まとめ
中小企業の定義は、企業が利用できる支援策や政策を決定づける重要な基準です。中小企業基本法では、業種ごとに資本金や従業員数の基準が定められており、まずは自社がこれらの定義に該当するかを正確に把握することが重要です。この定義に基づき、従来から企業規模に応じた様々な支援策が用意されています。
支援策例として、技術力向上を目指す「ものづくり補助金」や「IT導入補助金」、経営基盤の強化を支援する「経営革新支援」や「事業再構築補助金」、資金調達をサポートする「日本政策金融公庫による低利融資」などがあります。さらに、デジタル化支援や働き方改革関連の施策も、経営環境の変化に対応する上で欠かせません。
ポストコロナ時代の今、DXの推進や長期的な経営戦略の立案が求められています。また、変化する経営環境への対応に加え、経営者の高齢化を背景とした事業承継の準備も重要な課題です。中小企業の持続的発展には、これらの取り組みをバランスよく進めることが必要です。
現在、中小企業向け事業承継支援策は多く実施されており、M&Aを含む事業承継の必要性は今後ますます高まると予想されます。特に、専門的なサポートを活用することが、スムーズな事業承継を実現する上で重要な鍵となります。
fundbookには、事業承継やM&Aの経験・知識豊かなアドバイザーが在籍しています。事業承継やM&Aでお困りの際は、ぜひfundbookまでご相談ください。