経営・ビジネス

2023/09/14

分離課税とは?対象となる所得の種類や総合課税との違い

分離課税とは?対象となる所得の種類や総合課税との違い

個人の所得にかかる税金である所得税は、所得が増えるほど税率が高くなることはよく知られています。
では、申告納税制度を採用している日本で、2つの課税方式が適用されていることはご存知でしょうか。

今回はその2つの中の、“分離課税”について解説します。もう一方の総合課税との違いやメリット・デメリット、そして対象となる所得と計算方法まで解説しますので、所得の区分に迷った際はぜひご活用ください。

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分離課税の基本概要

そもそも、分離課税とはどのような仕組みのことなのでしょうか。ここでは、分離課税の基本概要を説明します。

▷分離課税とは?

他の所得とは合算せずに、特定の所得において独自の税率(計算方法)で計算し、税を割り出すことを分離課税と言います。
例えば、退職時に支払われる退職所得は分離課税の対象となりますが、これを合算してしまうと納税額は莫大になってしまう可能性があります。そこで税負担を軽減する目的で、他の所得とは分けて税金を収めるのが、分離課税の仕組みです。

▷分離課税と総合課税の違い

所得金額を合計して課税所得を計算するのが、総合課税となります。
合算せずに税を割り出す分離所得とは違い、給与所得や不動産所得といった所得税について、合算に課税されるところが相違点です。

分離課税の種類と特定口座について

分離課税制度には“申告分離課税”と、“源泉分離課税”の2つに分けられます。
一見、複雑に思えるかもしれませんが、双方の違いはいたってシンプルです。また、上場株式等の配当所得のある方は“特定口座”の存在も知っておくと便利です。

▷申告分離課税

他の所得とは分けて税額を計算した上で、確定申告により納税をする課税方式を言い、山林所得や土地建物等の譲渡所得・退職所得が該当します。
例外として上場株式等の配当所得については、総合課税と申告不要の申告分離課税との選択が可能となります。

さらにこの上場株式等についての申告手続きを簡素化するために設けられたのが「特定口座」です。一般口座では、自分自身で損益の計算をした上で確定申告を行う必要がありますが、“源泉徴収あり”の特定口座にすることで、確定申告の手続きや、損益計算といった負担が軽減されます。
ただし、一般の給与所得者のような確定申告の義務がない方であっても、所得税が源泉徴収されてしまうデメリットがあるため、その点に留意してください。

▷源泉分離課税

支払いをする側が先に所得税を控除するため、給与の受領時には、所得税が納税済になった状態になります。
現在の源泉分離課税の税率は20.315%となり、内訳は所得税が15.315%・住民税が5%です。
これにあわせて、基準所得税の2.1%が“復興特別所得税”として、納税者全てに課せられます。これは東日本大震災からの復興に用いられるため、2037年まで実施されている税金です。確定申告をする方は所得税だけでなく、復興特別所得税も申告する必要があります。

▷分離課税のメリット

分離課税にする最大のメリットは、所得税を抑えられることにあります。
収入が多くなるほど所得税が高くなる“累進課税”と違い、収入に応じて高い税金を払う必要がなくなるため、所得が高い方にとって負担軽減となるでしょう。

また、株式の譲渡所得については、損失分を3年の間繰り越すことのできる“繰り越し控除”が認められています。株式等を分離課税にしているのは、株取引を活発化させたいという、政策の実現に向けての策であるという見方も考えられます。

▷分離課税のデメリット

所得税を抑えられる反面、株式といった譲渡以外の所得と、他の所得との損益通算はできません。
損益通算を用いることができる損失所得は事業・不動産・譲渡・山林所得の4つに限定されているため、制度自体が少々複雑に感じられます。また、分離課税の対象になる所得の計算方法は、それぞれ異なります。確定申告の際の計算が面倒ではありますが、その分の利点は大きいでしょう。

分離課税の対象になる所得と計算方法

分離課税とは?対象となる所得の種類や総合課税との違い

分離課税の対象となる、代表的な所得の種類を7つ紹介します。
それぞれの計算方法も説明しますので、確定申告の際の参考にしてください。

▷譲渡所得

譲渡所得とは、資産を売却することによって得た所得を指し、土地や建物、株式からゴルフ会員権などといった項目までが含まれます。売却した金額から“取得費”と“譲渡費用”を差し引くのが計算方法です。
取得費は土地や建物の購入代金と手数料に加え、改良や設備にかかった費用を加えた合計額を指します。また、譲渡費用は仲介手数料・立退料・取壊し費用・印紙といった、売却時に支払う費用のことです。

▷配当所得

株主や出資者が法人から受け取る剰余金の分配・利益配当・投資信託・基金利息などにかかるのが配当所得です。
収入金額から株式などを取得するための借入金の利子を差し引くことで、配当所得の金額を計算できます。

▷山林所得

山林を伐採した状態、もしくは立ち木のままで譲渡することにより生じるのが山林所得です。
総収入金額から必要経費と特別控除額(最高50万円)を差し引くことで、山林所得の金額が計算できます。総収入とは譲渡の対価となりますが、山林伐採で家屋を建築するために使用するといった“家事のための浪費”は、消化の際の時価が総収入金額に算入されます。必要経費は譲渡費用となりますが、概算経費控除といった特例があるため、項目ごとに確認が必要です。
山林所得は山林の取得後、5年以内の伐採・譲渡の場合には、事業所得か雑所得に該当します。また、山ごと譲渡する際の土地部分は譲渡所得となりますので、覚えておきましょう。

▷退職所得

退職により会社から支給される退職金・退職一時金や未払い賃金を指します。計算方法は、源泉徴収前の収入金額から退職所得控除額を引いた数に二分の一をかけた金額です。
退職所得控除額は、勤務年数が20年以下であれば「40万円×勤務年数」、20年以上であれば「800万円+70万円×勤務年数-20年」といった計算方法となります。

▷利子所得

・預貯金
・公社債の利子、合同運用信託
・公社債投資信託および公募公社債等の運用投資信託の収益の分配
これらは、源泉徴収される前の収入金額が、そのまま利子所得となります。

▷一時所得

営利目的であり継続性のある所得以外を、一時所得といいます。
しかし、労務や役務、資産の譲渡の対価として受け取るものは、一時所得になりません。
その他、心身や資産に対しての損害賠償金、暗号資産、家財や古着の売却も当てはまりません。総収入から収入を得るために支出した金額と特別控除額を引くと、一時所得の金額が割り出されます。

▷雑所得

前述した6つの所得に、いずれも該当しない項目の所得です。
公的年金や利子所得、近年多くなってきた仮想通貨やアフェリエイト収入も含まれます。公的年金等による所得と、それ以外に分けられ、計算方法は下記の合計金額となります。

・公的年金等の収入金額から、公的年金等控除額を控除した残額
・その年の雑所得に関する収入金額から、必要経費を控除した金額

よくある生命保険の満期保険金については、年金として受け取る場合のみ“雑所得”となります。一時金としての受け取りは“一時所得”となるため、注意しましょう。

分離課税の確定申告方法

分離課税の確定申告については、確定申告書B第三表に記載する総合課税所得とは違い、「第三表」という用紙に記載します。
記載すべき所得と併せて、記入方法の参考にしてみてください。

▷株式等の譲渡所得

一般株式もしくは上場株式に区分をし、それぞれを損益通算したのちに合計金額を算出します。
それから15%の税額をかけると、税率が決定されます。

▷不動産の譲渡所得

長期譲渡であれば所得税は15%、短期譲渡であれば所得税は30%となります。まずは、短期もしくは長期に区分をし、さらに一般・特定・軽減に分類をした上で区分ごとに合計を割り出し、税率をかけて税額を決定させます。

▷配当所得

申告分離課税を選択した場合、所得税は15%になります。
それにしたがい配当金額に税率をかけることにより、税額が計算され、その額を確定申告書へ記載します。

▷先物取引・FXで生じた雑所得

先物取引の税率は、所得に関わらず一律20.315%です。
また、会社員の場合、利益が20万円を超えた際には確定申告が必要となります。ここでの「20万円」とは、先物取引で得た収入から必要経費を差し引いた利益を指しますので、注意してください。

▷退職所得

税率は一律20.42%となり、雇用主が源泉徴収をします。
“退職所得の受給に関する申告書”を提出していなければ、この金額で確定申告をしてください。

▷山林所得

前述した計算方法を用いた所得金額を5で割った後に、対応する税率を乗じ、さらにその金額に5を乗じて税額を算出します。
(例)山林所得500万円の場合500÷5=100で、100万円に対応する税率の5%なので、求める税額は100万円×5%×5=25万円となります。

山林所得によって税率や控除額に変動があるため、専門家に確認することをお勧めします。

まとめ

今回は、分離課税の概要や種類、メリット・デメリットから確定申告の計算方法まで解説しました。
所得が多い方にとって、税金の負担を減らすことができる分離課税はありがたい制度と言えます。それぞれの所得の種類に応じて税額が異なり、計算方法も変わるため複雑な点もあるものの、メリットの方が勝ります。
正しい計算方法を用いて、賢く確定申告をしましょう。

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