東京商工リサーチの発表によると、2019年の1,000万円以上の負債額の企業倒産数は8,383件でした。倒産数が前年を超えるのは、2008年以来11年ぶりのことです。このように、経営が立ち行かない状況になった企業を支援する機関に「再生ファンド」があります。
本記事では、再生ファンドとはどういったものか、どのように再生がされるのかをケーススタディとともに解説します。
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再生ファンドとは?
再生ファンドとは、経営不振や経営破綻になった企業に対して、投資家などから集めた資金をもとに債権の買い取りや出資などを行い、対象企業を再生させて株式公開や株式譲渡によって収益を上げることを目的にするファンドのことです。
対象企業の再生を図る際は、多くの場合でファンドから対象企業へ企業再生の専門家を送ります。
再生の具体的な方法は、人員削減や資金調達の見直しをはじめとしたコストの削減、M&Aの手法を用いた不採算事業の切り離し・事業停止、経営方法の改善などが挙げられます。
また、再生ファンドは地域の金融機関や中小企業基盤整備機構などと連携していることもあります。
投資ファンドとは
ファンドには複数の種類があり、上述の再生ファンドとは別に投資ファンドなどがあります。
投資ファンドは、企業の譲り受けなどによって企業の経営に関与し、対象企業の企業価値を高めることを目的とするファンドのことです。対象企業の企業価値を高め、配当や株式の譲渡益を獲得することが主だった目的です。
再生ファンドは主に経営不振や経営破綻の企業に投資しますが、投資ファンドの対象は必ずしも経営不振の企業には限らないという点が異なっています。
また、投資対象の企業を主に非上場企業とする場合は、プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)とよばれます。
ハゲタカファンドとは
ハゲタカファンドとは、株式などの資産を安く買い叩いて、高値で売却するファンドの通称です。経営不振や破綻に陥った企業への投資にも登場することがあります。他者から利益を奪う印象が生まれ、ハゲタカファンドとよばれています。
再生ファンドはどんな時に用いられるのか?
上述のように再生ファンドは、経営不振や経営破綻になった企業の再生の際に、活用されます。そのため、投資をする側にとっては投資リスクは高くなるため、再生が可能であるかなど適切な投資判断が求められます。
企業再生の流れ
まず、再生ファンドは投資候補の企業を再生できるかといったことを判断します。その他にも投資の資金が確保できるかといったことも配慮されます。例えば、地域に根ざした企業である場合、地方銀行や地域の有力企業などからファンドに対して投資されるかといったことも判断材料になり得ます。
投資をすることが決定されると、投資ファンドは投資先の負債の買い取りや出資を行います。また、ほとんどのケースで、企業再生の知識を持つ専門家を対象企業に派遣します。
企業再生の方法としては、主に「ターンアラウンド」と「ワークアウト」が挙げられます。
ターンアラウンドとは、事業再生や経営改革を意味します。財務、人事を含め経営組織や事業体制といったことも調整し、新規開拓や設備投資などを行います。
ワークアウトは、リストラによる人件費の削減や債務整理、資産の売買など過剰債務や固定費を削減することです。
ターンアラウンドは長期的な企業価値向上を図る方法で、ワークアウトは決算時の債務超過を避けるなど短期的な改善手法といえます。
再生ファンドはこうした方法を活用して、経営不振を脱し企業価値を向上させます。企業価値が向上したのちに、再生ファンドは対象企業の株式公開や株式譲渡によって収益を得ます。
企業再生ファンドのケーススタディ
ここでは、再生ファンドと協力して再生を果たしたケースを紹介します。
老舗旅館のケース
100年を超える歴史を持つ老舗旅館を営むA社は、バブル経済崩壊後、団体客が減少しました。また、周辺温泉施設の廃業、大手ホテルの撤退が相次ぎ、温泉街自体の活気が落ち込み、深刻な経営不振に陥ったのです。
温泉街、従業員のためにも旅館を再生させたいという思いから、中小企業再生支援協議会を通じて再生ファンドのB社と再生を目指すこととなりました。
まず、B社の協力法人から出資を受け、既存の温泉事業を譲り受ける新しい企業を設立して、もとの企業を整理する方法を用いて財務の健全化を図りました。
その後、ファンドの協力を受けながら、単純な財務の健全化だけをするのではなく、経営体質を抜本的に立て直すことを目指すこととなりました。
外部の取締役を迎え、定期的に経営会議を開催するだけではなく、現場レベルでの改善も行いました。原価や人件費、設備投資などの予算管理や食材の仕入れ方法の改善、効果的なマーケティング手法の導入など多岐にわたる経営改善がされました。
こうした徹底的な改善を図った結果、旅館に客足が戻り、再生を果たしたのです。再生後は、今後の増加が見込まれるインバウンドへの対応のために従業員への英語レッスンを始めるとともに、より満足度を上げるためにも施設の見直しや食事に地域の食材を使用するなど、更なる成長を遂げようとしています。
製造メーカーのケース
業務用大型家電の製造、設置などを営むC社は、そのビジネスモデルから利益の確保が難しく経営不振に陥っていました。その中で、業績の悪化により金融機関から融資を得ることも難しい状態でした。
出資などを行うD社は、C社の持つ特許技術などに着目し、ともに再生を目指すことになりました。まず、D社から運転資金の出資を受けるとともに、すでに融資を受けている金融機関への返済を開始しました。
C社は財務状況の改善を図った後に、大幅な業種変更に乗り出したのです。もともと業務用大型家電の製造、設置などを営んでいましたが、そうした事業は契約代理店に任せ、既に持っていた特許技術を活用した家電制御システムを販売するようになりました。
企業の再生では、このように大胆な事業の転換などが行われることもあります。
まとめ
再生ファンドは、ハゲタカなどマイナスなイメージを持たれることがありますが、実態は経営不振や経営破綻になった企業の再生を図る存在です。
企業の再生は、経営の改善といった高い専門的な知識が求められるうえ、依頼するファンドを見つけるのに時間を要することもあります。そのため自社の経営方法や戦略を鑑みて、再生ファンドのサポートを受ける可能性がある場合、事前に専門機関などへ相談をすることをお勧めします。