経営者にとって、事業を次の世代へ引き継ぐことはとても重要な課題です。以前と比較すると減少してはいるものの、後継者に子どもを選択する経営者は近年でも多数見受けられます。
ただし、親子間での事業承継を検討しているけれども、どのように進めればよいか不安を持つ方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、親子間での事業承継の流れや注意点を解説します。親子間の事業承継で生じるトラブルや事業承継を円滑に進めるためのポイントも解説しているので、親子での事業承継を検討している方はぜひご覧ください。
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親子間での事業承継を親族内承継という
事業を自分の子どもに引き継がせるなど、血縁・親族関係にある後継者に承継する方法を親族内承継といいます。
親族内承継は経営者と血縁・親族関係にある方を後継者とするため、従業員や取引先の方など内外の関係者から受け入れられやすい側面があります。
また、親子であれば早いうちから後継者を決定し、経営に必要な知識・ノウハウを学ぶ育成期間を確保しやすい点もメリットです。
親族内承継に対して、役員や従業員など親族以外の方に事業を承継することを親族外承継といいます。
その他、近年では外部の個人や企業に事業を承継する第三者承継(M&A)も事業承継の方法として多く採用されています。
親族内承継の流れ
親族内承継の流れ
親族内承継を実施する際の主な流れは以下のとおりです。
1.関係者の理解
2.後継者教育
3.株式・財産の分配
4.個人保証・担保の処理
5.必要な税金・制度
それぞれの項目を以下で詳しく解説します。
1.関係者の理解
親族内承継では、後継者候補である子どもをはじめ、親族、従業員、取引先、メインの金融機関など関係者の理解が大切です。
とりわけ、後継者となる子どもとの意思疎通は重要な課題となります。自身の経営理念や事業の意義を伝えたり、子どもが事業に対してどう考えているか確認したりするなど、事業承継に対する意識の共有が重要です。
会社の10年後を互いに語り合うことも1つのコミュニケーションの方法となります。
その他、後継者とならない親族や役員、従業員や重要な取引先には事業承継の計画を早い段階で公表し、承継が円滑に進むよう協力を求めることも大切です。
2.後継者教育
先代の経営者が築いた事業を、後継者の代となっても安定して継続していくことは簡単ではありません。
後継者を決定したら、5~10年ほどの中長期的な展望のもとに、事業を承継するための教育を行いましょう。
後継者教育には、主に社内教育と社外教育があります。社内教育では、経営に必要なスキルや知識を身に付けるため、自社のさまざまな部署で業務につかせる方法があります。
また、責任のある地位を与え、リーダーシップや現場理解を深めさせることも1つの教育です。
社外教育では、外部研修に行かせる、経営者の会合に同行させるなど、社外との関係性構築が重要です。
先代の経営者が持つ人脈を引き継いでおくと、後継者が自身で経営する際に役立ちます。
3.株式・財産の分配
事業を承継後も安定的に継続するためには、株式など事業用資産を集中して承継するのが望ましくなります。ただし、後継者以外の相続人がいる場合、株式や財産の分配で問題が発生するケースもあり、注意が必要です。
事業承継で円滑に株式・財産を分配するには、主に以下のような対策があります。
・生前贈与
・遺言の活用
・後継者へ会社から報酬として財産を分配する
・議決権制限株式の活用
相続人の間で紛争やトラブルが生じないよう、後継者以外の相続人に配慮しつつ、事業用資産を後継者に承継する必要があります。
4.個人保証・担保の処理
中小企業の場合、金融機関から融資を受ける際に経営者個人が借り入れをしていたり、経営者が個人(連帯)保証を提供したりする場合が多くあります。
個人保証・担保は個人を対象としており、事業を承継しても個人(この場合は先代の経営者)に残るため、注意が必要です。
個人保証・担保をどのように扱うかは、事業承継の際に先代の経営者と後継者で十分に話し合いましょう。
後継者が借入債務を引き継ぐ場合は、金融機関など債権者の承諾や契約が必要となります。
5.必要な税金・制度
親子での事業承継では事業用資産を相続や贈与で承継する場合が多く、それぞれ相続税や贈与税の対象となります。国は法人版事業承継税制(特例措置・一般措置)や個人版事業承継税制などの措置を講じています。
事業承継税制を活用すると贈与税や相続税の猶予または免除が受けられ、税負担の軽減が可能です。
また、各都道府県には事業承継を支援する「事業承継・引継ぎ支援センター」があり、事業承継・引継ぎ補助金などの補助金制度もあります。親子での事業承継を後押しする制度となっているため、必要に応じてご活用ください。
親子間での事業承継の注意点
親子での事業承継は外部から後継者を招く場合と比較すると、関係者に受けられやすいなど、いくつかのメリットがあります。ただし、親子ならではの注意点があることも事実です。以下では、親子間での事業承継の注意点を解説します。
後継者の確保と意思確認
経営者である親が子どもへ事業承継するつもりでいても、子どもに事業を継ぐ意思がないといった事例は、親子間の事業承継でよくあるケースです。また、子どもに経営に必要なスキルや知識がない、そもそも子どもがいないなどのケースも存在します。
廃業予定企業の中には、上記のような点が理由で廃業に至るケースも少なくありません。事業承継する段階で後継者がいない状況とならないように、後継者候補に早めに意思確認を行い、後継者を確保する必要があります。場合によっては、親族外承継や第三者承継(M&A)も検討課題となります。
早めの着手が必要
親子間の事業承継は後継者の教育や関係者との調整など時間のかかる工程となるため、早めの着手が必要です。
帝国データバンクの「事業承継に関する企業の意識調査」(2021年8月)によると、調査を行った企業の半数以上が後継者への移行に3年以上かかると回答しています。
また、6~9年程度は13.8%、10年以上は11.2%の割合を占めました。多くの企業が事業承継に少なくとも3年程度、より長いスパンで見るなら6~10年程度の期間を見込んでいることがわかります。
相続問題がおこる可能性
後継者以外の相続人がいる場合、相続問題に注意しましょう。
事業の継続性を考えれば事業用資産の集中した承継が望まれますが、相続人には遺留分を受け取る権利があるため、遺留分を侵害しないような対応が大切です。
まずは、後継者以外の相続人を交えて、十分に話し合う必要があります。また、事業承継の場合は「遺留分に関する民法の特例」が設定されており、除外合意や固定合意の仕組みを活用できます。
金融機関との交渉
事業承継は会社の財務状況とも関わるため、取引のある金融機関との交渉が大切です。事前に財務状況に影響する点を金融機関と話し合い、信頼関係を築いておきましょう。
また、2014年に策定された「経営者保証に関するガイドライン」では、一定の要件を満たすことで金融機関に経営者保証の見直しを促す内容が盛り込まれました。ガイドラインに法的拘束力はありませんが、金融機関との交渉により、個人保証・担保が解消される可能性もあります。
事業承継税制の特例措置の期限
先述のとおり、国は事業承継税制の措置を行っています。ただし、特例措置については期限が設けられているため、ご注意ください。
期限が設けられているのは法人版事業承継税制(特例措置)と個人版事業承継税制で、2024年3月までに特例事業承継計画(個人版では個人事業承継計画)を提出し、2027年までに(個人版では2028年まで)事業承継を行う必要があります。
親子間での事業承継のトラブル事例
親子間での事業承継では、親子の意思疎通不足や考え方の違いにより、トラブルに至るケースがあります。
典型的な例が大塚家具の事例です。
大塚家具は先代の社長が実施した会員制による高級路線により、無借金経営の優良企業として知られていました。
しかし、事業を受け継いだ次代の社長が低価格路線に転換してから状況が変わります。
親子間の対立が表面化したことから大塚家具はブランドイメージを大きく損ない、業績が低迷する結果となっています。
また、一般的なケースに置き換えても、親子間での意思疎通にはさまざまなハードルがあります。
「話をするきっかけがわからない」「親子で話すと感情的になってしまう」など日常的な会話に難しさを感じる場合もあるでしょう。親子間での事業承継を円滑に進めるには、これらのハードルを乗り越える必要があります。
親子間での事業承継を成功させるポイント
それでは、親子間での事業承継を成功させるためにはどのようにすればよいのでしょうか。ここでは、事業承継を成功させるポイントを4つの視点から解説します。
早めに事業承継の計画を立てる
親子間で事業承継を行う際は、5年後、10年後の将来を見据え、早めに事業承継計画を立てておきましょう。
事業承継計画では資産や経営権の継承をどのようにするかなどの具体的な承継内容とともに、中長期目標の設定をし、将来的な経営目標も盛り込みます。
事業承継計画を策定するときは、後継者とよく話し合い、目的意識を共有することが大切です。また、場合によっては親族と共同して事業承継計画を策定します。
事業承継計画を関係者と共有する
策定した事業承継計画は、従業員や取引先、金融機関などの関係者と共有しておくと、その後の事業承継をスムーズに進められます。会社の経営権の移転は、関係者にとっても大きな影響のあるプロジェクトです。計画を事前に共有することで、これまで築いてきた信頼関係を壊さず、事業承継への協力も得られやすくなります。
コミュニケーションを取る
これまでも述べてきたとおり、親子間での事業承継は双方の意思疎通がとても重要です。話し合いの準備のため、日常的な会話を心がける、親子で食事をする機会をつくるなど、親子間のコミュニケーションを増やす工夫も必要となります。
また、親と子双方で相手の思いを汲み取る姿勢も大切です。親の立場であれば子どもの事業を承継することへの不安を考える、子の立場であればこれまで事業に注いできた親の思いを想像する、というように、相手の立場に配慮したコミュニケーションが重要となります。
会社としての体質・体制・資産を可視化する
会社の業績が思わしくない場合、子どもに悪い部分を見せたくないと感じてしまうかもしれませんが、会社の業績を隠してしまうと、事業承継後のトラブルにつながります。
事業承継を行う際は経営状況の見える化を実施し、会社の体質や体制、資産を明らかにしておきましょう。経営者自身の会社理解につながるとともに、後継者が会社の状況を把握する際にも役立ちます。
まとめ
親子間での事業承継は、後継者を含む関係者の理解や、後継者に対する教育など、事前の準備が重要となります。
できるだけ早めに着手し、後継者や従業員、取引のある金融機関などの協力のもと、計画的に進めていくことが大切です。
事業承継計画の策定や事業承継税制の活用など、不明な点がある場合は専門家に相談しましょう。
公的機関である事業承継・引継ぎ支援センターの他、M&A仲介会社やM&Aアドバイザリーなど、近年ではさまざまな支援機関があります。
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