親族内承継は、事業承継の手法の1つです。近年、事業承継全体に占める親族内承継の割合は減少傾向にあるものの、ご自身が創業した企業や先祖から受け継いだ家業を血縁関係者に承継したいと考える方は多く、今でも採用されているケースはあります。
本記事では、親族内承継の特徴や実施の流れ、メリットやデメリット、よくあるトラブルや対処法を解説します。親族内承継を検討している経営者の方はぜひ参考にしてください。
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親族内承継とは
親族内承継とは、息子や娘、甥などの自然血族や、娘の配偶者や養子などの法定血族に事業を承継する方法です。従来は親族内承継が主流でしたが、近年は親族内における後継者の減少から、親族外承継を選ぶ経営者も増えています。
親族内承継の特徴の1つに、親族外承継よりも経営者の若返りが図れる点が挙げられます。過去の調査で経営者年齢の変化をみると、親族内承継では「21~31歳低下」の割合が最多で、親族外承継では「0~10歳低下」の割合が最多でした。このことからも、親子内承継の方がより若い層への世代交代がなされているとわかります。
なお、事業承継の方法には、親族内承継の他に「従業員承継」や「社外への引継ぎ(M&A)」があります。
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親族内承継の流れ
親族内承継の流れは、一般的な事業承継と同じです。主な流れをまとめると以下のようになります。
1. 事業承継の必要性を認識する
2. 経営状況の「見える化」を図る
3. 事業承継へ向け経営改善を行う
4. 事業承継計画を策定する
5. 事業承継を行う
事業承継では、自社の承継が必要であること、早期の着手が必要であることなどの「事業承継の必要性の認識」が第一歩です。その後、ローカルベンチマークなどを活用して経営状況の「見える化」を行い、後継者に良い状況で引き継ぐための経営改善を行います。
事業承継計画を策定する際は、会社の経営資源や経営リスク、経営者や後継者の状況など現状認識をしっかりと行いましょう。同時に、後継者の社内教育や社外教育を実施し、承継後に後継者が円滑に事業を行うための準備も必要です。
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親族内承継のメリット
親族内承継を行うメリットには、以下のようなことが挙げられます。
・内外の関係者から受け入れられやすい
・後継者を早期に決定でき、準備期間を確保しやすい
・相続などで財産や株式を移転できる
各メリットの詳細を解説します。
内外の関係者から受け入れられやすい
経営権を親から子どもへ承継する方法は、従来多くの企業で採用されてきた手法です。従業員や取引先、金融機関からも、心情的に受け入れられやすいメリットがあります。また、同じ親族への承継の場合は、同じ経営方針を継続することが期待され、内外の関係者からも理解が得やすい傾向にあります。
後継者を早期に決定でき、準備期間を確保しやすい
後継者教育には、社内での教育の他、社外での経験が求められることもあり、一定の期間を要します。親族が後継者であれば、早い段階から後継者を決定できるため、国内外問わず他社や子会社で経営手法を学んだり、社内でジョブローテーションをしたりするなど、経営者の資質を養うための準備期間を確保しやすくなります。
相続などで財産や株式を移転できる
親族内承継は、相続などで事業用資産や自社株式を移転できるため、会社の所有権と経営権を一体的に引き継ぎやすい側面があります。また、相続税や贈与税を一定の条件で猶予・免除する「事業承継税制」などの優遇措置を活用しやすい点もメリットです。
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親族内承継のデメリット
親族内承継はメリットがある一方、いくつかのデメリットが存在します。主なデメリットは以下の2つです。
・事業経営の能力・適正・意欲がある親族がいるとは限らない
・法定相続人が複数いる場合の調整が困難
それぞれのデメリットの内容を紹介します。
事業経営の能力・適正・意欲がある親族がいるとは限らない
現経営者が親族に承継したいと思っても、事業経営の能力や適性、意欲をもった親族がいるとは限りません。また、候補となる親族がいる場合も、近年では家業にとらわれない職業選択をする方が増えているため、親族に承継を断られるケースも存在します。
その他、近年のビジネス環境を考慮すると、事業の将来性に不安を感じて承継をためらうケースも想定されます。「親族」という限られた範囲で承継を行うため、後継者の確保が難しい場合がある点が親族内承継のデメリットです。
法定相続人が複数いる場合の調整が困難
法定相続人が複数いる場合、遺留分などにより、事業用資産や株式を一括で承継することが難しい場合があります。事業用資産や株式が分散してしまうと、承継後の安定的な経営に影響を与えかねません。そのため、後継者以外の法定相続人との調整を行う必要があります。交渉が難航すると親族間のトラブルを招く可能性が高まるので、注意しましょう。
親族内承継のよくあるトラブル
親族内承継は、経営者の準備や関係者の協力で円滑に進む場合もあれば、何らかの理由でトラブルとなるケースもあります。ここでは、親族内承継のよくあるトラブルを紹介します。
関係者の理解を得られない
親族内承継に限ったことではありませんが、事業承継では関係者の理解が得られずトラブルに発展するケースがあります。例えば、「従業員が事業承継に不満を抱いて退職してしまった」「得意先との取引継続を断られてしまった」などの例が挙げられます。
現経営者の健康状態の悪化や事態の急変により準備が十分にできない
事業承継には一定期間の準備が必要です。事業承継の対策を行っていないうちに現経営者の健康状態が悪化したり事態が急変したりして、後継者の教育や引継ぎが十分にできないケースも存在します。このような場合、事業承継だけでなく、事業の継続すら難しくなる場合もあるので、注意が必要です。
株式・財産の分配が原因で親族内に争いが生じる
株式や事業用資産の準備(遺言など)を行わないまま現経営者が死亡すると、親族内で遺産分割を巡って争いとなる場合があります。遺産分割で事業に必要な資産や設備を他の相続人に相続することとなれば、資産や設備に相当する金額を他の相続人に支払わなければならなくなるケースもあり、承継後の資金繰りが圧迫される恐れがあります。
承継してくれる親族が見つからない
先述のように、親族内承継は後継者の確保が1つの課題です。親族内承継をしようとしても、事業に将来性を感じない、今の仕事を離れたくないなどの理由から事業を承継してくれる親族が見つからないケースも想定されます。
親族内承継の後継者に能力・適正・意欲がない
事業を引継ぐ意欲はあっても能力や適性がない、能力はあっても意欲がないなどで、適切な後継者が見つからないケースも存在します。後継者の教育を含め、適切な対処をとっておくことが重要です。
親族内承継を成功させるコツ
トラブルを回避して親族内承継を進めるためには、どういった点に注意すればよいのでしょうか。ここからは、親族内承継を成功させるコツを紹介します。
楽観的な思い込みをせず、いつ誰に承継させるか早めに決める
「子どもなら家業を承継してくれるはず」という楽観的な思い込みは禁物です。経営者の方に経営ビジョンがあるように、後継者候補の方にもキャリアビジョンがあります。そのため、後継者候補と対話し、いつ誰に事業を承継させるのか、早めに準備する必要があります。後継者を早めに決定すると、教育のための時間をより多く確保でき、スムーズな承継が可能です。
他の親族や従業員など身近な関係者に根回しをしておく
親族内承継は、当事者だけでなく他の親族や関係者にとっても重大な関心事です。事業用資産や株式を後継者に集中して承継できるように、他の親族とは事前に調整を行っておきましょう。また、事業承継計画を早めに共有し、従業員や取引先、金融機関に根回ししておくとスムーズな事業承継に役立ちます。
公正証書で遺言を作成し、万一の事態に備えておく
遺言には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。万一の事態に備えたい場合は、無効になる恐れのない「公正証書遺言」を作成しておきましょう。なお、事業用資産と株式の集中的な相続には、生前贈与や安定株式の導入、遺留分に関する民法特例の活用、といった方法も挙げられます。状況に応じて適切な対策を選択してください。
事業承継の専門家や弁護士などに相談する
事業承継では、承継や手続きに際して税務・法務・財務などの専門知識が必要となる場面が多々あります。商工会議所や商工会の経営指導員、弁護士や税理士などの士業家、事業承継・引継ぎ支援センターなどでは、事業承継の支援業務を行っています。不明点があれば、専門家に相談してみましょう。
場合によっては社外への引継ぎも検討する
親族内に後継者が見つからないときは、M&Aなどで社外に承継するのも有効です。M&Aの支援は、M&A専門業者などが実施しています。特に、プラットフォームを持つM&A専門業者の場合、さまざまな企業の中から承継先を探せるので便利です。
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まとめ
親族内承継は、周囲の理解が得られやすく、後継者教育の期間を確保しやすい手法です。ご自身の事業を身近な方に継いで欲しいと考える経営者の方にも、適した承継方法といえるでしょう。
しかし、親族内承継は後継者確保や相続などの課題も挙げられます。特に、後継者不在の問題は、多くの経営者に共通する問題であり、場合によっては社外への引継ぎ(M&A)を検討しなければならないケースもあるでしょう。fundbookは独自のプラットフォームを持ち、M&Aによる社外への引継ぎをサポートします。興味のある方は、一度fundbookまでお問い合わせください。