みなし配当とは、法人税法第24条1項に規定されている制度です。あまり聞き慣れない用語ですが、みなし配当は自己株式取得や合併などのお金を受け取る場合に発生し、いくつかのパターンがあります。
本記事では、みなし配当の概要や計算方法と課税の仕組み、税務処理をわかりやすく解説します。
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みなし配当とは?
みなし配当とは、法人税法第24条に規定されています。法人税法第23条に規定される余剰金の配当、または分配などには該当しないものの、実態として余剰金の配当であり、これを法人税法上配当金とみなしたものを指します。
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みなし配当が生じるケース
みなし配当は自己株式取得や合併といった、株主がお金を受け取るケースに発生します。主なみなし配当が発生するパターンは以下が挙げられます。
・合併(適格合併による交付は除く)
・分割型分割(適格分割型分割による交付は除く)
・株式分配(適格株式分配は除く)
・自己株式取得(市場における取得は除く)
・資本の払戻し、または解散による残余財産が分配される場合
・出資の償却や社員の退社などによる持分の払戻しに伴い金銭などが交付される場合
・組織変更(該当する組織変更をした法人の株式または出資以外の資産を交付した場合)
みなし配当の計算方法
みなし配当の計算方法はみなし配当が生じる取引によって変動するものの、基本となる計算式があります。そのため、まずは基本となる計算式を押さえるようにしましょう。
▶みなし配当の基本的な算出方法
みなし配当の基本的な算出方法は、株主が受け取る対価全体から資本の払戻し部分をマイナスする方法になります。
・みなし配当額=株主が受け取る対価全体-資本の払戻し分
ただし、前述のようにみなし配当の計算方法はみなし配当が生じる取引により変動します。それぞれの取引ごとに算出する計算式が細かく分かれており、正確に計算するためには専門家に依頼する方が良いでしょう。
▶みなし配当の取引別算出方法
みなし配当の取引別の算出方法は以下の4つに分類することが可能です。
非適格合併の場合
合併により消滅する会社の資本金などに、株主の株式保有割合などを乗じ、その株主が受け取った合併対価の額とその乗じて算出した金額との差額がみなし配当額となります。
非適格分割型分割・非適格株式分配の場合
分割部分と分割法人全体の税務上の純資産額を割り出し、純資産額の比率を使って分割部分の資本金額などを別途算出します。この資本金などの金額をもとに資本の払戻し分を算出するという流れになります。
資本剰余金の配当、および残余財産の分配の場合
払戻した金額のうち資本金などに対応する金額を算出し、払戻し分とその資本金などに対応する金額に株式保有割合を乗じて算出した金額との差額がみなし配当額になります。
これは分割と同じような計算方法となります。
自己株式の取得・持分会社の出資払戻し・組織変更の場合
これらのケースは合併と同じような計算方法が適用されます。まず、一株あたりの資本金などの額を算出後、売却する株式などの数を掛け合わせます。こうして算出した金額と株主などが払戻しなどで受け取った対価の差額が、みなし配当の額となります。
ただし、自己株式の取得の場合、自己株式を取得する法人が普通株式だけではなく、複数種類の株式を発行している場合、自己株式として取得する株式の種類に対応する部分だけ切り出して計算することになるため注意が必要です。
みなし配当の課税の仕組み
みなし配当は、同じ会社の実質的な払戻しなので、配当として扱われます。ただし、計算方法と同じくケースによって扱いが異なるため、以下の場合を例に紹介します。
▶株式を発行法人に譲渡した法人
株式を発行法人に譲渡した法人は、受取配当金となり受取配当等の益金不算入として、計算しない部分が出てきます。税務決算申告書は、法人税申告書別表8(1)(=受取配当金を益金不算入とする際に必要な書類)を作成する必要があります。
フォーマットは、国税庁のホームページ「令和5年4月以降に提供した法人税等各種別表関係(令和5年4月1日以後終了事業年度等分)」からダウンロードしてください。
▶株式を発行法人に譲渡した個人
株式を発行法人に譲渡した個人は、配当所得という扱いになります。譲渡した企業が上場企業か非上場企業かで税率が異なります。詳しくは、後の項で解説します。
▶自己株式を取得した法人
自己株式を取得した法人は、配当として扱われます。みなし配当の金額に対応する源泉徴収税を翌月の10日までに納付する決まりになっています。
みなし配当の税務処理
みなし配当の税務処理は、法人株主がみなし配当を受け取った場合と個人が非上場株式を譲渡する場合で異なります。以下では、法人株主と個人に分けてみなし配当の税務処理について紹介します。
▶法人株主がみなし配当を受け取った場合
みなし配当は、法人株主が自己株式の買付けや合併などによって、他の法人から金銭などを交付された時に生じます。交付された資産の合計額が、交付の対象となった株式または出資に対応する部分の金額を超える場合、超過額がみなし配当となります。
例えば、出資額が80,000円、交付された資産の合計が100,000円の場合、100,000円から80,000円を差し引いた20,000円がみなし配当となり、受取配当金と同様に扱われ、受取配当金の益金不参制度が適用されます。
受取配当金の益金不算入制度とは、会計上は収益として計上される配当も、税務上は出資割合に応じて一部または全部が益金に算入されず、課税所得の計算で控除されることです。
受取配当金の益金不参制度の対象となる配当金の区分と不算入割合は、以下のとおりです。
株式等保有割合(株式の区分) | 受取配当額に対する不算入割合 |
100%(完全子法人株式等) | 100% |
3分の1超100%未満(関連法人株式等) | 100%(負債利子控除後) |
5%超3分の1以下(その他の株式等) | 50% |
5%以下(非支配目的株式等) | 20% |
証券投資信託 | 0% |
完全子会社と関連会社以外の内国法人からの配当金は、株式等保有割合に応じて原則、50%または20%が不算入となります。また、株式を100%保有する完全子会社からの配当金に対しては、100%が益金に算入されません。
関連会社からの配当金に関しては、配当の全額から負債利子の額を控除した金額が不算入となります。
外国子会社から受け取る配当金などにも益金不算入制度が適用される
外国子会社からのみなし配当を受け取った場合も益金不算入制度が適用されます。適用の判定は、外国子会社であるか否かとなり、以下の条件を満たす必要があります。
・内国法人がその外国法人の株式などを25%以上保有していること
・保有期間が6ヶ月以上であること
内国法人が外国子会社から配当金を得た場合、配当金の95%が益金不算入となります。
このように、みなし配当の場合でも通常の配当と同様に、益金不算入制度により、課税所得が控除されるため、節税につながります。みなし配当による節税に関しては、自己株式の取得を活用して行われることが多いです。
▶個人が非上場株式を譲渡した場合は総合課税になる
個人株主が非上場会社から配当を得た場合は、総合課税になり確定申告が必要です。上場会社から配当金を得た場合の分離課税とは異なるので、注意が必要です。
分離課税では税率が20.315%(所得税15.315%、住民税5%)ですが、総合課税では所得に応じて税率が上がる累進課税となります。
課税される所得金額 | 税率 |
1,000円~1,949,000円 | 5% |
1,950,000円~3,299,000円 | 10% |
3,300,000円~6,949,000円 | 20% |
6,950,000円~8,999,000円 | 23% |
9,000,000円~17,999,000円 | 33% |
18,000,000円~39,999,000円 | 40% |
40,000,000円以上 | 45% |
総合課税では、所得税と住民税の合計税率が15~55%となります。また、2037年までは復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1%)が上乗せされます。
みなし配当が発生しないケース
合併や会社分割、自己株式の取得の場合にもみなし配当が発生しない場合があります。
まず合併に関しては、適格合併の場合にはみなし配当が発生しません。適格合併では消滅会社の利益積立金が存続会社にそのまま引き継がれ、消滅会社の株主への金銭などの交付が生じないためです。
会社分割の場合も同様に、適格分割型分割の場合には分割会社の利益積立金が承継会社に引き継がれ、株主に金銭などを交付しないためみなし配当は発生しません。
また、自己株式を取得する際、みなし配当が発生しないケースとして、証券取引所などの市場で株式を取得した場合や、事業全部を譲り受けにより取得する場合、合併反対株主の買取請求権に応じた株式の取得の場合などがあります。
他にも様々なケースでみなし配当とならない場合があるため、判断が難しい場合には専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
自己株式の取得や合併、会社分割を行う場合には、みなし配当が発生することがあります。みなし配当について知っておくことで、合併や会社分割を行う際に正しい会計、税務処理ができる他、益金不算入制度により節税の効果を得られることにもつながります。
今後の節税のためにも、配当金についてより理解を深めてみてはいかがでしょうか。