昨今の国内企業で、M&Aによる多角化の動きが活発化しているのをご存知でしょうか。多角化を目標としてM&Aを実行する場合「コングロマリット・ディスカウント」についての知識取得が必要です。
コングロマリットという言葉自体、日本ではまだ馴染み深いものではありません。しかし、今後の日本経済発展へ向けて有効な手段となる可能性を秘めています。
そこで本記事では、コングロマリット・ディスカウントの概要やコングロマリットの必要性、メリット・デメリットについて解説し、後章では、コングロマリット・ディスカウントに陥った企業の解決事例をご紹介します。
複数企業の運営を検討する際に、ぜひお役立てください。
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目次
コングロマリット・ディスカウントの概要
本章では、初めに「コングロマリット」について解説します。コングロマリット・ディスカウントとプレミアム、2つの違いについても触れますので、参考にしてみてください。
コングロマリットとは
コングロマリットとは「既存事業との関連性がない」企業同士がM&Aを実施して、事業拡大を進めるグループ企業のことです。国内におけるコングロマリットの企業として「楽天」や「DMM」などがイメージしやすいしやすいのではないでしょうか。
国内企業における、コングロマリット成功例のひとつである「楽天」を例に挙げましょう。EC事業を主軸として1997年に設立された楽天は、2000年の上場を機に積極的なM&Aを行って事業拡大に成功しました。
わずか20年という短期間で、日本を代表するコングロマリット企業へと成長し「保険業」や「金融業」など幅広く事業展開をしています。
コングロマリット・ディスカウントとは
コングロマリット・ディスカウントとは、コングロマリットを実施した企業の価値が下がること。
「事業単体の企業価値を合計した数よりも低い」場合に、コングロマリット・ディスカウントの状態と判断されます。価値が下がる原因を考えてみましょう。
・事業間の連携が不十分である
・不振な事業が存在する
原因はさまざまですが、コングロマリット・ディスカウントに陥った企業は打開策を練る必要があります。
コングロマリット・プレミアムとの違い
コングロマリットによって企業の株価が上昇することを「コングロマリット・プレミアム」と言います。コングロマリット・プレミアムは、M&Aによって取得した事業間でシナジー効果が生まれ、企業価値が向上した状態です。対して、コングロマリットにより株価が下がるのが、コングロマリット・ディスカウントです。
コングロマリットによる事業間のシナジー効果が思うように発揮されないと、企業の価値が低下の危機に。市場評価の低下と共に、株価までもが下落します。
なぜ企業成長にコングロマリットが必要なのか
コングロマリット・ディスカウントは、コングロマリットによって、企業価値・株価が下落することと解説しました。それでもなお、企業がコングロマリットを必要とするのはなぜでしょうか。
企業がコングロマリットを編成する理由として、経営戦略におけるリスクヘッジが挙げられます。
たとえば、コロナ禍における外食・旅行産業などが顕著な例といえるでしょう。外食・旅行産業に特化した企業は、規制や自粛により窮地に立たされ、不安定な状況が続きました。
しかし、コングロマリットにより収益化の偏りをなくすことで、困難な状況下でも安定した経営が持続できるのです。
また、専業経営では売上の拡大にリミットがあることも理由の一つです。日本におけるマーケット規模は世界に比べて小さいため、コングロマリットにより事業を多角化し、新たな成長を遂げる必要性があります。
このように、リスクヘッジを行いながら市場拡大につなげることが、コングロマリットを実行する企業の狙いと考えられるでしょう。
コングロマリット・ディスカウントが起こる背景
コングロマリット・ディスカウントが起こる背景として、以下のことが考えられます。
・M&Aで手に入れた新事業の独立性が高い
・事業間のシナジー効果が不十分である
その結果、収益の取り合いが生じて企業価値が低下すると共に、株価の下落にもつながります。さらに、単一事業を進める企業に比べて株価算定が難しい点も、コングロマリット・ディスカウントになる理由の一つです。
単一事業であれば、特定の技術や市場の評価となるため、比較的容易に算出できます。対して、コングロマリット企業の評価は多くの業種が混在するため、算定が難しい傾向にあるのです。
したがって、各事業の単一評価よりも、グループ全体の株価が下がる可能性が高くなります。これらの背景から、コングロマリットの実行には「グループ全体の最適化」や「コーポレート・ガバナンスの強化」などの対策が重要といえるでしょう。
コングロマリットのメリット
異なる事業の複合を検討するのであれば、コングロマリット・ディスカウントのリスクを視野に入れなければなりません。
しかし、コングロマリットには、さまざまなメリットがあります。
・シナジー効果が生まれやすい
・リスクヘッジにつながる
・迅速な事業再編を行える
「コングロマリットで効果を得られる=コングロマリット・プレミアムにつながる」ということです。コングロマリットを正しく理解するために、得られるメリットを一つずつ見ていきましょう。
シナジー効果が生まれやすい
コングロマリット最大のメリットが、関連性のない異業種が交わることで生まれるシナジー効果です。
コングロマリットを実施して異なる事業を取り込むことで、網羅的に事業展開を図れます。
それにより、新事業がもたらす新たな技術のノウハウや考え方を共有できるため、企業価値の向上につながる相乗作用を生み出せるでしょう。
また、M&Aを活発に進めることで、優秀な人材や設備も確保できます。
少ない労力と時間で競争力を増し、経営資源の強化を実現できることが、コングロマリットの大きなメリットです。
リスクヘッジにつながる
経営におけるリスクを分散できる点も、メリットの一つです。
コングロマリットにより事業の多角化を促進すれば、時代の進化に伴うビジネスモデルの変化にも対応できます。仮に、一つの事業収益が悪化したとしても、他事業でリカバリーできる体制が整っていれば、財政悪化や倒産のリスクを回避できるでしょう。
迅速な事業再編を行える
コングロマリットは異業種が集まる複合企業ですが、それぞれの事業が独立性を持っています。企業の形を保持しながらグループ企業として参与するため、環境の変化にも対応しやすいでしょう。
また、意思決定もスムーズなので、事業再編も迅速に行えます。間接事業の統合も容易となり、事業全体の最適化をしやすいこともメリットといえるでしょう。
コングロマリットのデメリット
業種の複合を検討する経営者は、コングロマリットのデメリットも十分に理解しましょう。
・企業価値が下がる可能性がある
・全体をまとめるのが難しくなる
・短期間では成果が得られにくい
デメリットの状態が続いた企業は、コングロマリット・ディスカウントになりかねません。3つのデメリットについて解説しますので、参考にしてみてください。
企業価値が下がる可能性がある
コングロマリットの実行で「企業価値が下がるリスクがある」点が、デメリットの一つです。コングロマリットによって想定以上の効果を生み出せなかった場合は、企業価値を低下させる恐れがあります。
また、他業種事業への拡大により投資家の評価を受けづらく、事業それぞれの評価自体が下がることも懸念されるでしょう。企業の価値が下がって株価にも影響を及ぼせば、コングロマリット・ディスカウントの状態に陥ります。
全体をまとめるのが難しくなる
コングロマリットでは、異業種の事業がそれぞれ独立性を持って構成されます。そのため、それぞれの理念や方針に違いが生じ、買収企業がグループ全体を監視・指導できない可能性もあるのです。
結果、コーポレート・ガバナンスの低下を招き、不正会計や品質の低下といった事態を招く要因になりかねません。
また、異なる業種が混合するため、コミュニケーションが滞ると必要な情報が会社全体に伝わらない可能性も考えられます。コングロマリット実行時には、コーポレート・ガバナンスやコミュニケーション強化への対策が必要といえるでしょう。
短期間では成果が得られにくい
コングロマリットは、既存事業と異なる市場を開拓・拡大していくため、短期間で成果を得るのは困難です。コングロマリットによる事業間のシナジー効果を期待するならば、中長期的な目線を持ち計画を立てる必要があります。
コングロマリット・ディスカウント|2つの企業事例
コングロマリット企業は日本に数多く存在するものの、コングロマリット・ディスカウントに陥った企業もあります。ここでは、コングロマリット・ディスカウントをそれぞれの対策で解消した「東芝」と「ソニー」の事例をご紹介します。
【東芝】会社分割後の動向に期待
コングロマリット・ディスカウントの解消に向けて、会社分割をした東芝の例は記憶に新しいでしょう。コングロマリット・ディスカウントに陥ったことをきっかけに、事業を3分割。
・資産管理会社
・インフラサービス会社
・デバイス会社
「インフラサービス事業」と「デバイス事業」を2社に分け、株式上場を目指します。一方で、東芝自体は半導体大手の「キオクシアホールディングス」やPOSシステムを手がける「東芝テック」の株式を保有します。資産管理会社として、存続を図る流れです。
東芝の会社分割による狙いは、以下の3点です。
①経営の独立
・分割する会社は中核事業に専念できる
・分割された会社は、迅速な意思決定ができる
②資本の独立
・投資家の出資先が分割できる
③上場の独立
・分割する会社はコングロマリット・ディスカウントを解消できる
・分割された会社は、新たな投資家を引きつけることができる
コングロマリット・ディスカウント解消のスキームは国内初となるため、今後の動向に注目・期待が寄せられています。
【ソニー】複合経営継続を貫きプレミアムへ成長
ソニーのコングロマリット・ディスカウント解消への動きは「コングロマリットによる複合経営を貫く」というものでした。
ゲームから半導体、音楽事業や金融などと幅広く事業拡大するソニーに対し、米アクティビストのサードポイントがコングロマリット・ディスカウントを指摘し、事業の分離を迫った危機がありました。
しかし、ソニーはあくまでも複合経営を継続することを一貫します。
株主との対話を続け「ソニー本体に残っていたエレクトロニクス要素を切り離し、グループ経営に集中する」手段を選択したのです。
「ソニーグループ」への社名変更・組織再編を通じて、非中核とされていた金融事業を100%子会社としてグループ内に配置し、他事業と連携しながらさらなる事業の拡大を進めました。
その結果、金融やゲーム、エンターテイメントなど、非製造業の売上が増加し、コングロマリット・ディスカウントから一気にコングロマリット・プレミアムをもたらすまでに成長したのです。
まとめ
本記事では、コングロマリット・ディスカウントの概要や背景、企業事例を解説しました。
コングロマリット形成における経営の多角化は、成功すれば自社を大きく成長させることができます。
事業同士のコラボレーションや新事業への展開など、さらなる進展が大いに期待できるでしょう。
そして、社会情勢や他事業の不振にも揺るがない、強い経営戦略を貫くことができると考えられます。
しかし、コングロマリット・ディスカウントに陥ると企業価値が下がってしまうデメリットも考慮しなければなりません。
コングロマリットのメリット・デメリットを充分理解したうえで実行を検討しましょう。