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2024/09/10

M&Aの減税措置とは?控除内容や2024年度税制改正の概要・対象も解説

M&Aの減税措置とは?控除内容や2024年度税制改正の概要・対象も解説

中小企業の成長支援や地域経済の活性化、さらには新型コロナウイルスの感染拡大に伴いウィズコロナを見据えた経営資源の集約化を目的として、2021年度税制改正でM&Aに関する税制上の支援措置(減税措置)が開始しました。

本税制により、M&A実施による準備金の積み立てや設備投資、雇用確保に対して税額控除や損金算入が認められ、M&Aを実施しやすい環境が整いつつあります。

本記事では、M&Aによる自社譲渡や他社譲受を検討されている方へ向け、2021年度税制改正による減税措置の概要やその目的、控除内容や減税措置を利用するメリットを解説します。2024年度の改正内容も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

宮川 真一
この記事を執筆した専門家
M&Aアドバイザー・税理士
宮川 真一
岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは20年以上。現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表として、コンサルティング、税務対応を行う。保有資格:税理士、CFP®https://ma-tmsp.com/miyagawa-shinichi/

2021年度税制改正によるM&Aの減税措置とは

2021年度税制改正により、経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)が創設されました。この制度が創設された結果、中小企業は経営力向上計画の認定を受けたうえでM&Aを行うと、税制上の措置(減税措置)を受けられます。

M&Aにおける減税措置は3つ設定されており、その大まかな内容は下記のとおりです。

設備投資減税投資額の10%の税額控除(7%の場合も)
または全額即時償却
雇用確保を促す税制給与等支給総額で増加した金額のうち、25%を税額控除
(ただし、2022年度税制改正により内容が変更)
準備金の積立M&Aで投資した金額のうち、70%以下を損金算入

M&A減税措置の概要【2021年度】

2021年度の税制改正でM&Aの減税措置が盛り込まれた背景には、いくつかの目的があります。減税措置の開始時期や減税措置の対象とともに解説します。

減税措置の目的

M&Aの減税措置により経営資源の集約化を推進する目的の1つは、中小企業における生産性の向上です。

経済産業省が実施した調査では、M&Aを実施した企業と実施しなかった企業の生産性の推移を比較した場合、その後の5年間でM&Aを実施した企業のほうがより生産性が向上した結果が示されています。

また、新型コロナウイルスの影響に対する対策も目的の1つです。新型コロナウイルスの影響により企業の廃業が見込まれる中、地域の経済や雇用を支える中小企業の経営資源の散逸リスクが高まっています。

中小企業の生産性を向上し、廃業による経営資源の散逸を防ぐためには、M&Aによる企業・事業の統合や再編を通じて、経営資源を集約化することが重要です。このような状況を踏まえて、M&Aの障壁でもある税金負担を軽減することを狙いとして、減税措置が創設されています。

減税措置はいつから始まるのか

2021年8月2日に「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」のうち一部が施行されたことを受け、経営資源集約化税制によるM&Aの減税措置の申請受付も開始されました。

申請受付の開始に伴い、中小企業庁の経営資源集約化税制に関するサイトでは、「中小企業の経営資源の集約化に資する税制概要・手引き」や「中小企業の経営資源集約化に資する税制リーフレット」などの資料が公開されています。

減税措置の対象

経営資源集約化税制における減税措置の対象となるのは、下記の2つの要件を満たす事業者です。

①特定事業者等・常時使用している従業員数が2,000人以下の法人あるいは個人
・協同組合等(※)
②中小企業者等・資本金あるいは出資金の額が1億円以下となる法人
・資本あるいは出資のない法人で、常時使用している従業員数が1,000人以下の法人あるいは個人
・協同組合等(※)
(※)協同組合等に該当する組合は各制度で異なります。


「特定事業者等」は、経営力向上計画の提出が可能な事業者です。経営資源集約化税制を活用するためには中小企業等経営強化法における経営力向上計画の認定を要するため(ただし、雇用確保を促す税制については、2022年度税制改正により経営力向上計画の認定は不要となりました)、本要件を満たす必要があります。

また、「中小企業者等」は租税特別措置法上の要件です。経営資源集約化税制の適用には、上記のどちらの要件も満たす必要があるため、ご注意ください。

M&A減税措置の控除内容【2021年度】

M&A減税措置の控除内容

ここからは、M&A減税措置における控除の具体的な内容を解説します。措置が適用される要件など注意すべき点も合わせて紹介しているため、制度利用の参考としてください。

・設備投資税制(中小企業経営強化税制)
・雇用確保を促す税制(所得拡大促進税制)
・準備金の積立(中小企業事業再編投資損失準備金)

設備投資税制(中小企業経営強化税制)

設備投資税制は、経営力向上計画に基づいて設備投資を実施した場合、即時償却あるいは取得価額の10%(資本金3,000万円超1億円以下の中小企業者等は7%)の税額控除が受けられる制度です。

注意したい点として、「経営力向上計画の認定を受けていること」と「対象となる設備には要件があること」が挙げられます。

経営力向上計画は設備投資や人材育成など、企業の経営力向上を実施するための計画であり、経営力向上計画を申請し認定を受けると、税制措置や金融支援、法的支援など様々な支援措置を受けられます。

経営力向上計画の計画策定に際しては、商工会議所や商工会、中央会など認定経営革新等支援機関のサポートを受けられるため、申請書作成の際は積極的に利用しましょう。経営診断ツールによる策定も可能です。

また、対象となる設備にはA~Dの4類型があり、工業会等または経済産業局に確認を受ける必要があります。適用には青色申告書を提出する中小企業者等であること、2025年3月31日までの期間内にあることなどの要件もあるため、事前の確認が重要です(2024年8月時点)。

雇用確保を促す税制(所得拡大促進税制)

2021年度税制改正における雇用確保を促す税制は、M&A実施による労働移転などで雇用者給与等支給総額(企業全体の給与)が前年度に比べ2.5%以上増加した場合、増加額の25%分を法人税額または所得税額より控除できる制度です。

雇用確保を促す税制は中小企業向け「所得拡大促進税制(2022年4月1日からは賃上げ促進税制)」に基づいた制度で、通常の場合は、雇用者給与等支給総額が前年度に比べ1.5%以上増加した場合、増加額の15%分の控除を受けられる内容となっています。

さらに、雇用者給与等支給総額が前年度に比べ2.5%以上増加しており、かつ「経営力向上計画の認定を受け、経営力向上が行われていること」か、もしくは「教育訓練費が前年度に比べ10%以上増加していること」を示すことにより、控除額が上乗せされ、25%分の控除が可能となります。

雇用確保を促す税制もまた経営力向上計画の認定が必要となりますが、設備投資減税で認定を受けている場合、認定を再び受ける必要はありません。
以上が2021年度税制改正における雇用確保を促す税制の概要ですが、2022年度税制改正によって、控除率上乗せの条件が変更されました。

まず、経営力向上計画の認定という要件は廃止されました。また、雇用者給与等支給総額が前年度に比べ2.5%以上増加していれば、15%の控除率の上乗せを受けられます。さらに、教育訓練費の額が前年度に比べ10%以上増加していれば、これに加えて10%の控除率上乗せを受けることができます。つまり、以前は計25%の控除であったのが、計40%の控除を受けられるようになりました。

このように、2021年度税制改正における制度と比べて、要件が緩和され、控除率も大幅に上がりました。

準備金の積立(中小企業事業再編投資損失準備金)

準備金の積立は、株式取得または持分の取得によってM&Aを実施する場合に(取得価額10億円以下に限る)、M&Aで取得した株式などの取得価額(取得価額10億円以下)の70%以下を準備金として積み立てた場合、積み立てた金額を当該事業年度に損金算入できる制度です。

適用要件には、デューディリジェンス(事前承継等の事前調査)についての事項が含まれた経営力向上計画が認定されること、他の特定事業者等の株式等を取得し、実質的に他社の経営資源を引き継いでいること(親族内の株式移転などは対象外)、2024年3月31日までに経営力向上計画認定を受けていることなどがあります。

準備金には5年間の据置期間が設定されており、期間中に偶発債務・簿外債務などが発覚した時は取り崩しが可能です。取崩要件に該当する問題がなければ、期間経過後に5年間に分けて均等に益金算入されます。

2024年度から中小企業事業再編投資損失準備金がリニューアル

2021年度の税制改正で設置された中小企業事業再編投資損失準備金は、2024年度の税制改正で内容の拡充と延長が行われました。中小企業のM&Aにおける税負担を軽減し、経営者の高齢化と後継者不足の課題を解消する狙いです。以下、改正の主な変更点と対象を解説します。

2024年度税制改正の変更点

中小企業事業再編投資損失準備金の2024年度における主な変更点は次のとおりです。

・一定の要件を満たす中堅・中小企業の積立率を引き上げる
・措置期間が5年間から10年間へ延長される
・対象となる株式などの取得金額が、1億円以上100億円以下になる
・現行制度の適用期限を2027年3月31日まで延長する

2024年度の税制改正により、中小企業事業再編投資損失準備金に「拡充枠」が設けられました。

拡充枠の対象となる条件を満たすと、1回目のM&Aでは株式取得価額の90%まで、2回目以降は株式取得価額の100%まで積立可能です。複数回のM&Aにより、買収に要した株式取得価額の全てを損金算入できるようになります。

また、現行制度での益金算入開始までの据置期間は5年間でしたが、拡充枠を活用した場合は10年間の措置期間へと延長されました。

なお、拡充枠の対象となる株式取得金額は1億円以上100億円以下です。新制度の適用期限が2027年3月31日までに設定されたことを受け、現行制度の適用期限も3年間延長されています。

2024年度税制改正の対象

2024年の改正で拡充枠を活用できる対象は次のとおりです。

・産業競争力強化法で新設される特別事業再編計画の認定を受けた中堅・中小企業
・過去5年間にM&Aを実施した企業


現行制度の対象は経営力向上計画の認定を受けた中小企業者等ですが、拡充枠を利用する場合は、特別事業再編計画の認定が求められます。

また、特別事業再編計画の認定には、過去5年以内にM&Aを実施した実績が必要です。2024年度の税制改正は、中堅企業や中小企業が事業拡大のため、複数回のM&Aを実施することを後押しする制度です。

M&A減税措置を利用するメリット

M&Aの減税措置を活用すると、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、M&A減税措置を利用するメリットとして、2つの視点から解説します。

・キャッシュフロー改善に役立つ
・M&Aの潜在的なリスクを低減できる

キャッシュフロー改善に役立つ

設備投資減税や雇用確保を促す税制を利用すると税額控除が受けられるため、法人税の支払いを減らすことができます。また、積み立てた準備金は当該年度の損金算入が可能なため、企業の所得が減る結果となり、同様に法人税の減額が可能です。

上記のようにM&A減税措置を利用すると、税金支払いによる手元現金の減少を抑えられ、キャッシュフローや資金繰りの改善に役立ちます。M&Aによる事業承継や新規事業拡大には相応の費用が伴うため、M&Aを検討している中小企業の経営者にとっては大きなメリットです。

M&Aの潜在的なリスクを低減できる

中小企業のM&Aにおいて、簿外債務や偶発債務への対応は以前からの課題です。簿外債務や偶発債務はデューディリジェンス(DD)によりケアされるべきものですが、中小企業ではデューディリジェンスにかけられる費用に限界があり、リスクを全て排除することには困難が伴います。

本制度により準備金を積み立てると、思わぬ簿外債務や偶発債務が発生した場合にも、準備金を取り崩すことで対応が可能です。簿外債務や偶発債務などの潜在的なリスクを低減できる利点の多い制度となっています。

M&Aの減税措置についてのまとめ

2021年度税制改正により、設備投資減税や雇用確保を促す税制、準備金の積立の各制度を利用できます。税額控除や準備金の損金算入が可能となるため、M&Aによる自社譲渡や他社譲受を検討している方にとってメリットの多い状況です。

経営資源集約化税制では、経営力向上計画の認定や企業全体の給与が一定割合増加することなど、様々な要件があります。要件は制度ごとに定められているため、事前の確認が大切です。

2024年度からは、現行制度に加えて拡充枠が設けられました。複数回のM&Aにより、企業の規模拡大や事業多角化を図る中小企業を支援する目的があります。

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