歯科 M&A

1969年、厚生労働省が「1985年までに人口10万人に対する歯科医師数を50人にする」という目標を掲げ、全国的な歯学部の増設と定員増加を行いました。現在、これにより増加した歯科医師が団塊の世代を中心に高齢になり、引退の時期を迎えています。そのため、歯科医院を開業している歯科医師の方が事業承継を考えるタイミングに差し掛かっています。

長年運営してきた歯科医院をできるだけ高く譲渡したい、できるだけ自分の希望に合った人に譲り受けてもらいたい、というのは当然の考えで、そのためにM&Aの活用が検討できます。

ここでは、現在の歯科業界のM&A事情や動向、分析、そして譲渡・譲受企業がM&Aを行うメリットをわかりやすく解説します。

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歯科業界の現状

現在、歯科業界は構造不況業種*1の一つとされており、業界内の競争が年々激しさを増しています。歯科医師は毎年約2,000人近く増加し続けていますが、歯科医院の多くが個人事業主であり、定年による引退がないので歯科医院は増える一方です。

しかし日本の人口は減少傾向であることを考えると、患者数が増えるということは考えにくく、増え続ける歯科医師が患者を奪い合うという状態が今後も続くことになります。

厚生労働省の調査によると、全国の歯科診療医療費の総額は、平成28年度は2兆8,574億円でしたが、平成29年度は2兆9,152億円と横ばいからわずかに増加といった状態です。これは、厚生労働省が医療費の値段を決める公定価格などによる、国の相次ぐ医療費抑制政策が行われているためです。さらに、歯科衛生士の人件費高騰も厳しい状況に拍車をかけ、東京商工リサーチが行った調査によると、2017年度の歯科医院の倒産数は20件で、前年度と比較して81.8%の増加となりました。

*1 構造不況業種:産業構造が変化していく中、構造的に将来の発展性が期待できなくなった業種

業界定義

歯科業界を大きく見ると、歯科医院(開業医)と歯科病院、医院に治療料の器材を販売する歯科器材メーカー、薬を販売する歯科用医薬品メーカーなどが含まれます。

中心にある歯科医院・歯科病院は、「歯科」、「矯正歯科」、「小児歯科」、「歯科口腔外科」、「審美歯科」に分類されます。

それぞれの歯科で働いているのは歯医者(院長=開業医、勤務医の歯科医師)、歯科衛生士、歯科技工士などとなっています。

増加する歯科医院と歯科医師

先述の通り1960年から1970年代にかけて、歯科医師不足から歯学部・歯科大学が新設されたことにより、日本の歯科医師は一気に増加することとなりました。2017年時点の歯科医師の数は104,533人で、人口10万人に対する歯科医師の数は82.4人となっています。

歯科 M&A
平成28年(2016年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」より作成

厚生労働省の調査によると、2017年時点では歯科医院の数は68,940件となっています。これは全国のコンビニエンスストアの店舗数(2018年10月時点:55,564店舗*2)よりも多いという状況になっています。

ただし、日本全国どこでも歯科医院、歯科医師が十分に足りているかと言うとそうではなく、都市部では供給過多、地方では必要とされているのに歯科医院がゼロという空白地帯もあります。

供給過多の都市部では、特に歯科医師のワーキングプアが問題となっています。供給過多になれば、当然一定数の患者を確保できない歯科医院も増えることとなります。また専門性が薄かったり、技術力に問題があったり、昨今ではネットでの口コミ評価も患者を確保するための重要な要素となっています。

*2 「JFAコンビニエンスストア統計調査月報 2018年10月度」より

口腔環境の意識変化にともなう治療内容の変化

近年の各種研究により、歯や口腔の健康が糖尿病や胃炎、皮膚炎、早産など、全身の健康に大きく影響していることが明らかになっています。

また、以前より子供の歯に対する意識が高まっており、歯磨き粉などのケア用品もフッ素入りのものが出回るようになったことで、虫歯が原因で診察を受ける子供は年々減少しています。また、子供だけではなく、大人も虫歯になる前の予防を重視し始めていて、歯石除去や検診のために定期的に通院する人が増えてきました。歯の健康に対する意識の高まり、予防の重視、この2点により、治療内容は「修復治療」から「予防処置」へとシフトしています。

高い専門性や特徴のある医院の生き残り戦略

歯科医師の増加、歯科医院の供給過多、治療内容の変化により、歯科業界には大きな荒波が押し寄せています。特に都市部の歯科医院は、従来のように新規の患者が来るのを待つような受け身の営業を行っていると、営業利益が少なくなっていくという状態です。そのため、サービス内容において他社との差別化を図る歯科医院が増えてきました。

どのように差別化を図るかというと、虫歯予防やホワイトニングなどの専門性を持った歯科医院や、豪華な内装やカウンセリング、使用機材、素材を高価なもので統一する富裕層向けの歯科医院といった特徴を打ち出すことです。こうした対策を講じることで、新規患者の獲得を目指しているのです。このように、最近では歯科医院ごとの特色を打ち出して集客を始めているという傾向があります。

さらに、専門性の高い歯科医院では、健康保険などを適用せずに受けるインプラントや、ホワイトニングといった審美治療などの自由診療を選択する患者が、自分が受けたい治療のために遠方から足を運ぶということが増えています。

歯科業界でM&Aが行われる理由

ここでは譲渡企業(医院を譲り渡す開業医)と譲受企業(医院を承継して開業する歯科医師)に分けて、主なM&Aのメリットについて説明します。

M&Aとは

M&A(エムアンドエー)とは、「Mergers and Acquisitions」を略した言葉です。日本語に訳すと「合併と買収」になります。複数の会社が1つになったり、ある会社が他の会社を譲り受けたりする経営戦略のことを言います。

歯科業界でM&Aが行われる理由は、団塊の世代の引退や歯科業界の患者のニーズに合わせたサービス内容の変化、他社との競争の激化など、世代的や経済的な問題によるものが多くなっています。ここでは譲渡企業と譲受企業に分けて、主にM&Aのメリットについて説明します。

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譲渡企業のメリット

歯科 M&A

歯科医院のオーナーがM&Aを検討する理由としては、主に「団塊の世代であるオーナーが引退の時期を迎えたこと」「地域の患者への継続的な治療の提供」があげられます。

歯科医師の場合、病院での診療科目になっているところが少なく、自らが歯科医院を開業するケースが多いです。そのため、歯科医院は個人事業主が多く、あまり勤務医を必要としていません。

こういったことから、後継者を身内の中から指名するか、親族外へ事業の引き継ぎをしなければならないケースが多くなります。そのような背景があり、最近では後継者不在の問題を解決するための手段として、歯科業界でのM&Aによる事業承継という形が注目されつつあります。

また、従来の修復治療中心の歯科医院の場合、今まで通院してくれた患者から継続を求められるなど、簡単に閉院することができないという現状があります。そのため、オーナーが患者の診療を継続することを望んでM&Aを行うというケースがあります。

また、銀行借り入れの際の個人保証や担保を外すこともでき、創業者利益を得て、なおかつ社会的信用を維持したまま安心してリタイアすることが可能です。

その他にも、自分の利益以外に、歯科医院で働く従業員の雇用も維持できます。歯科医院の倒産が増えている中、M&Aを行うことによって倒産により従業員が職を失うという状況を回避することができるのです。

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譲受企業のメリット

一方で譲受企業も、歯科医院の新規開業と比べて大きなメリットを受けられます。

歯科医師が個人で歯科医院を譲り受ける場合は、それまで営業してきた歯科医院の患者や患者からの信用、運営ノウハウなどを享受できます。また個人で歯科医院を新規開業するためにかかるコストは大きなものになりますが、使用していた器材の引き継ぎができるなど、開業に必要な資金が大きく抑えられます。

また、企業がM&Aによって新たな歯科医院を手に入れる場合は、原価低減や間接コスト低減などの利点があるスケールメリットを受けられます。新しい歯科医院を傘下にすることで新規顧客や新たなメソッド、資格を保有している優秀な人材などを獲得でき、歯科を運営する企業として成長スピードの飛躍的な向上が期待できます。

まとめ−歯科医院の生き残り戦略でもあるM&A

歯科医院や歯科医師の増加、進まない世代交代、不況、歯科業界内での他社との競争の激化などにより、歯科医院のM&Aは増加傾向にあります。

企業間だけの話であると思われがちなM&Aという手法は、歯科医院でも実際に行われているのが現状です。譲渡側、譲受側の双方にメリットがあるのが歯科医院のM&Aの特徴でもあります。

歯科医院の承継について考えている、先の話だが興味ある、という方はお早めに専門のM&Aアドバイザーに相談することをおすすめします。弊社では無料相談を行っておりますので、まずはお気軽にご相談ください。