M&Aを検討する企業が増加している近年、「M&Aブティック」という言葉を耳にすることもあるのではないでしょうか。
M&Aブティックとは、M&Aの専門家集団のことです。M&Aをスムーズに進め、目的を達成するために必要不可欠なサポートを提供する企業や機関を指します。
本記事では、M&Aブティックの概要と仲介会社などとの違い、主な業務内容について紹介します。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
M&Aブティックは「M&Aの専門家集団」
M&Aブティックとは、M&A成約までの総合的なサポートを行う専門家集団のことです。M&Aアドバイザリー業務を行う企業や機関を、総じてM&Aブティックと呼びます。
例えば、次の企業や機関がM&Aブティックに含まれます。
・銀行
・証券会社
・税理士法人などの士業事務所
・コンサルティングファーム
少しでも有利にM&Aを進め、リスクを回避しシナジー効果を最大化するためには、豊富な知識と経験をもつ専門家のサポートが必要です。大規模案件になるほど、より高い専門性が求められます。
そのため、大規模のM&A案件ではM&Aブティックが関与するケースがほとんどです。
なお、M&Aブティックは、譲渡企業(売り手)と譲受企業(買い手)のどちらかの立場でサポートする「アドバイザリー方式」が一般的です。アドバイザリー方式は、クライアントの利益最大化を目的としてサポートをします。
▷M&AブティックとM&A仲介会社の違い
先述したように、M&Aブティックは基本的に譲渡企業・譲受企業のどちらかの立場からM&Aのサポートを行います。
一方、M&A仲介会社は、譲渡企業と譲受企業の間に立って、双方の利益が公平になるようにサポートします。
ただし、日本では中小企業のM&Aの場合、仲介方式を採用するM&Aブティックもあります。そのため、M&A仲介会社もM&Aブティックに含むのが一般的です。
▷M&AブティックとM&Aアドバイザーの違い
M&Aブティックが専門家の集団を指すのに対し、専門家個人を指すのが「M&Aアドバイザー」です。M&Aコンサルタントやファイナンシャルアドバイザーとも呼ばれます。
M&Aアドバイザーは、M&Aブティックに属してアドバイザリー業務にあたる人材です。企業の財務会計や税務、法律に関する深い知識と、M&Aをスムーズに実行するための交渉力などを兼ね備えています。関連記事▷ M&Aアドバイザーとは?業務内容・手数料やメリットを解説
M&Aの基本的な流れ
M&Aの流れには、大まかに次の3つのフェーズがあります。
・準備フェーズ
・マッチング・交渉フェーズ
・最終契約フェーズ
ここでは各フェーズの流れを説明します。
▷準備フェーズの流れ
準備フェーズでは、主に譲渡企業によるM&A実施に向けた準備がメインです。
譲渡企業は次のような流れで準備を進めます。
1.M&Aの相談・検討
2.秘密保持契約・アドバイザリー契約の締結
3.M&Aの相談先に各種資料の提出
4.M&A相談先によるバリュエーション(企業価値評価)の実施と企業概要書の作成
一方、譲受企業はM&Aの相談・検討を行い、買いニーズの登録を完了させます。
▷マッチング・交渉フェーズの流れ
マッチング・交渉フェーズでは、企業情報の登録から基本合意・デューデリジェンスまで行います。
譲受企業を軸とした場合、次のような流れでマッチング・交渉が進みます。
1.譲渡企業が登録しているノンネーム情報を検討し、譲渡企業の候補を決定
2.M&A相談先と秘密保持契約を締結
3.M&A相談先が開示した譲渡企業候補の企業概要を検討
4.M&Aを継続する場合、相談先とアドバイザリー契約を締結
5.譲渡企業候補(2~3社程度)と譲受企業によるトップ面談
6.基本合意
7.譲渡企業に対してデューデリジェンス(DD)を実施
マッチング・交渉フェーズでは、まず譲渡企業によるノンネーム登録が必要です。
一方、譲受企業はノンネーム検討を行い、候補となる譲渡企業を数社~十数社ほどピックアップします。候補先を絞るのと並行して、M&Aの相談先と秘密保持契約・アドバイザリー契約の締結を行います。
その後、譲渡企業(一般的に候補先2~3社)と譲受企業双方によるトップ面談、基本合意、譲受企業によるデューデリジェンスへと進んでいきます。
▷最終契約フェーズの流れ
最終契約フェーズでは、次のような流れでM&A成約に至ります。
1.取引金額や表明保証、補償条項、解除条件などの最終契約
2.クロージングをもってM&Aの成約
このフェーズでは、交渉フェーズで行われた基本合意とデューデリジェンスの結果をもとに、譲渡企業と譲受企業が最終契約を結びます。その後、最終契約書に基づく手続き(クロージング)をもって、M&Aの成約となります。
M&Aブティックの主な業務内容
M&Aの3つのフェーズでは、それぞれの段階で様々な知識と経験が必要です。
専門性の高い知識と豊富な経験をもつM&Aブティックは、M&Aを検討している企業に高レベルで総合的なサポートを提供しています。
M&Aブティックの主な業務内容は、次の6つです。
1. M&A戦略へのアドバイス
2. M&Aのマッチングと交渉のサポート
3. バリュエーションの実施
4. デューデリジェンスの実施
5. 各種契約書の作成サポート
6. クロージングとPMIのサポート
6つの業務内容を詳しくご紹介します。
業務① M&A戦略へのアドバイス
M&Aブティックは、準備フェーズでの戦略策定の段階から企業をサポートします。
これまでにM&Aの経験がなく、企業の売買に詳しい社員もいない場合、自社だけでM&Aの戦略を立てるのは困難です。M&Aブティックは、クライアント企業のM&Aの目的を明確化し、その達成に向けた戦略やスキームの策定、資金調達の計画やタックスプランニングにアドバイスをします。
各分野の専門知識や経験を活かしたM&A戦略へのアドバイスは、M&Aを進める中で起こり得るリスクを低減し、成功率を上げるために欠かせない業務です。
業務② M&Aのマッチングと交渉のサポート
M&Aブティックには、譲渡企業と譲受企業のマッチングと交渉のサポートを行う企業や機関があります。
M&Aのメリットの1つは、異なる企業同士が融合することでシナジー効果(相乗効果)が期待できることです。M&Aブティックに依頼することで、シナジー効果を最大化できる相手企業を選定してもらえる可能性があります。さらに、仲介形式を採用しているM&Aブティックであれば、譲渡企業と譲受企業の双方が公平な利益を得られるように交渉を行ってくれるでしょう。
一方、アドバイザリー方式による交渉のサポートは、クライアント(譲渡企業または譲受企業)の利益を最大化するためのものです。仲介形式とは交渉段階のサポート方針が異なるため、M&Aの相談先を検討する際は企業や機関の特徴を把握し、自社に適切な相談先を見つけましょう。
業務③ バリュエーションの実施
M&Aにおけるバリュエーション(企業価値評価)とは、譲渡価額を決める際の企業価値を算出するための方法です。
株式が市場で取引されていない中小企業の場合、企業価値を把握するのは容易ではありません。M&Aブティックでは、売り手企業の財務情報やブランド力、ノウハウ、独自の流通経路など「のれん代」の価値などを総合したうえで、いくつかの理論に基づいて企業価値を算出します。
バリュエーションの方法は、主に次の3種類に分けられます。
・主に資産や負債から企業価値を算出する「コストアプローチ」
・株式市場からの評価をもとにする「マーケットアプローチ」
・将来見込まれる収益やキャッシュフローからリスクを差し引いて算出する「インカムアプローチ」
バリュエーションによって最終的な譲渡価額が決まるわけではありませんが、M&Aを進めるうえで目安となる重要な業務です。
業務④ デューデリジェンス(DD)の実施
デューデリジェンス(DD)とは、譲受企業側が譲渡企業を財務や税務、法務などの様々な角度から調査することです。
一般的にM&Aの最終契約フェーズ直前に行われ、最終的な譲渡価額に影響を与えます。
デューデリジェンスによって問題が見つかった場合、譲渡価額の見直しや見つかった問題に関する取り決めなどが行われます。
業務⑤ 各種契約書の作成サポート
M&Aでは、企業間の基本合意、M&Aの最終契約など、様々な契約書や書類を作成する必要があります。
このような契約書や書類は、今後にも影響する重要なものなので、作成にあたって高度な知識をもつ専門家からのサポートを受けるのが望ましいです。
M&Aブティックを利用すると、契約書や書類に関するサポートも行ってもらえるため、スムーズにM&Aを進められるでしょう。
業務⑥ クロージングとPMIのサポート
「クロージング」とは、M&Aによる経営権移転のための最終契約書に基づく手続きを指します。M&Aブティックは、資料の開示や提出が問題なく行われるようにクライアント企業をサポートします。
また、クロージング後のPMIまでサポートしてくれるM&Aブティックもあります。PMIとは、企業の統合手続きのことです。M&Aによる業務の混乱や、従業員への負担をできるだけ軽減するには、効率的で速やかなPMIの遂行が重要です。
M&Aブティックを利用したい場合は、PMIまでサポート内容に含まれるか確認しておくとよいでしょう。
M&Aブティック利用のメリット・デメリット
M&Aブティックを利用するメリットは、各分野の専門家のサポートを受けながらクロージングまで進められる点です。
また、数多くの企業から自社の目的に合致した相手先候補を選んでもらえます。もしトラブルが起こった場合も、円満な解決を目指したサポートを受けられるでしょう。
豊富な知識や経験をもつM&Aブティックを利用すれば、社内に詳しい人材がいなくても効率の良いM&Aを実行できます。
その一方、M&Aブティックの利用には高額な費用がかかるのも事実です。また、M&Aの成功確率は上がるものの、必ず成功するとは限りません。費用を支払っただけで成果がなかった、という可能性があるのはデメリットです。
ただし、多くのM&A ブティックでは、買収額が高くなるほど報酬率が下がる「レーマン形式」によって成功報酬を計算しています。大規模なM&Aであるほど支払う成功報酬の割合は下がるため、コスト面の負担が軽減できるでしょう。
まとめ
M&Aブティックは、M&Aの相談から成約までを総合的にサポートする企業や機関などの総称です。
業務内容はM&A戦略へのアドバイス、マッチングと交渉のサポート、バリュエーション・デューデリジェンスの実施、各種契約書作成・クロージングとPMIのサポートと多岐にわたります。どの業務もM&Aでは重要です。
M&Aの実施は様々な専門知識や経験が必要になるため、スムーズに進めて成功させるにはM&Aブティックのサポートを受けるのが良いでしょう。