
M&Aでは、自社の状況に合った相手とのマッチングが重要です。M&Aの進め方には、1つの企業と交渉を進める相対方式の他、オークション方式が存在します。オークション方式は複数の企業と同時に交渉を進める方式であり、相対方式とオークション方式はそれぞれ異なる特徴を持ちます。
本記事では、M&Aのオークション方式の特徴やメリット・デメリットを解説します。相対方式との違いも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
企業価値100億円の企業の条件とは

・企業価値10億円と100億円の算出ロジックの違い
・業種ごとのEBITDA倍率の参考例
・企業価値100億円に到達するための条件
自社の成長を加速させたい方は是非ご一読ください!
目次
M&Aのオークション(入札)方式とは
M&Aのオークション方式とは、複数の譲受候補企業から提案を受け、最も有利な条件を提示した候補企業を最終的な譲受企業とする方式です。オークション方式はM&Aを進める手法の1つであり、「入札方式」「競売方式」「ビッド方式」とも呼ばれます。
オークションに参加する譲受候補の企業数はM&Aにより異なりますが、3~5社程度が一般的です。
一方、特定の1社に限定して交渉を進める方式は、「相対方式」と呼ばれます。
M&Aのオークション(入札)方式の特徴
近年、オークション方式は大手企業のM&Aだけでなく、中小企業や小規模案件においても採用されています。オークション方式の主な特徴は次のとおりです。
・複数の候補企業からの提案を受ける
・リミテッドオークション方式が多い
・入札額だけでなく総合的に条件が判断される
各項目の詳細を解説します。
複数の候補企業からの提案を受ける
オークション方式の大きな特徴は、1社だけではなく複数の候補企業に同時に入札を打診し、意向表明書などによる提案を受ける点です。
意向表明書(LOI)は、譲受候補企業が譲渡企業に対して、買収の意思や希望条件を伝えるための書類です。意向表明書には譲受企業の概要や譲渡額、成約までのスケジュールなどが記載されます。オークション方式では、譲渡企業は譲受企業を決定するための情報を同時に得ることができ、比較検討しやすい点が特徴です。
▷関連記事:意向表明書とは?記載内容と基本合意書との違い・目的・法的拘束力の有無について解説
リミテッドオークション方式が多い
リミテッドオークション方式とは、オークションの中でも比較的少数の参加者で行われる方式です。クローズド・ビッドとも呼ばれ、M&Aのオークションで採用されることが多い方式です。
譲渡企業を選定する際は、譲渡価格やスキーム、M&A成立後の経営方針など、幅広い観点から検討が行われます。企業が売りに出されていることそのものが重要な情報であるため、機密事項の保持も欠かせません。
オークションへの参加者を限定した「リミテッドオークション方式」であれば、候補企業を1社ずつ慎重に吟味できます。情報を伝達する企業を減らせるため、情報漏洩のリスクを最小限に抑えられる点もメリットです。
入札額だけでなく総合的に条件が判断される
商品のオークションでは最高入札額を提示した参加者が落札するケースもありますが、M&Aのオークションでは、必ずしも最高入札額者が落札者となるとは限りません。
M&Aのオークション方式は、入札時に提示された譲渡価格だけでなく、譲受候補企業の経営方針や企業文化、M&A後の従業員の待遇などを考慮して総合的に判断されます。
M&Aのオークション(入札)方式のメリット

M&Aの進行でオークション方式を採用すると、相対方式を採用した場合と比較していくつかのメリットが得られます。主なメリットは次のとおりです。
・有利な条件を引き出しやすい
・譲渡企業側の要望が受け入れられやすい
・手続きの公平性を担保しやすい
それぞれのメリットについて詳しい内容を紹介します。
有利な条件を引き出しやすい
オークション方式では入札参加者がそれぞれに条件を提示するため、入札者間での競争が生じやすい方式です。そのため、有利な条件を引き出しやすく相対方式と比較して譲渡価格が高額になる側面を持ちます。市場価値を上回る価格で譲渡できる可能性もあるため、できるだけ高い金額で譲渡したい時に適した方式です。
譲渡企業側の要望が受け入れられやすい
オークション方式の場合、譲渡企業は複数の譲受候補企業が提示した条件を総合的に判断したうえで、譲受企業を決定します。そのため、譲受企業側はオークションを勝ち抜く必要があり、譲渡企業が主導権を握りやすい方式です。
M&Aの経営方針や従業員の雇用維持など、譲渡企業側の要望が受け入れられやすいというメリットがあります。
手続きの公平性を担保しやすい
オークション方式は、譲渡企業が事前に取り決めたプロセスやスケジュールに基づいて手続きが進められます。そのため、手続きの公平性や透明性を担保しやすい点もメリットです。
企業には株主や債権者など多くのステークホルダーが存在し、経営陣はステークホルダーへの説明責任が存在します。オークション方式であればM&Aがどのように進められたかということを、プロセスに基づいて明らかにでき、ステークホルダーへの説明責任を果たしやすい側面があります。
M&Aのオークション(入札)方式のデメリット
オークション方式は有利な条件を引き出しやすいメリットがある一方、いくつかのデメリットが存在します。具体的には、次のようなデメリットがあります。
・譲受企業の選定に手間や時間がかかる
・入札希望者がいなければ選択できない
・情報漏洩のリスクが高まる
M&Aでオークション方式を選択する際には、デメリットも事前に把握しましょう。各デメリットを詳しく解説します。
譲受企業の選定に手間や時間がかかる
オークション方式は複数の企業と交渉するため、相対方式と比較して選定までに時間がかかる場合が多いです。相対方式であれば1社分で済む候補企業の精査もオークション方式では複数社分の労力と時間が必要になり、各社に回答書を作成する手間もかかります。
また、意向表明書などに基づく1次入札、デューディリジェンスの結果に基づく2次入札など、入札を複数回実施する場合は、それだけ選定に必要な工程が増えます。入札に参加する企業の分だけ比較検討する要素も多いため、場合によってはM&Aの進行が長期間にわたる恐れがあります。
入札希望者がいなければ選択できない
オークション方式は、当然ながら入札を希望する企業が存在しなければ選択できません。そのため、企業価値や市場での人気が高い企業におすすめの譲渡方式です。複数の入札参加者が見込めない場合は、相対方式での進行が選択されます。
情報漏洩のリスクが高まる
M&Aは、原則として秘密裏にプロセスが進められます。
企業の売却は、従業員や取引先の将来にも大きく影響を与える事柄です。意図せずとも情報が漏れてしまうと、信頼の失墜やトラブルの原因になる可能性があります。
オークション方式では、複数の企業に譲渡する意思があることを伝えます。通常、事前に全ての譲受候補企業と秘密保持契約(NDA)が締結されるものの、複数の企業に自社情報を開示するため、それだけ情報漏洩のリスクが高まってしまいます。
M&Aのオークション方式と相対方式の違い
「オークション方式」と「相対方式」はM&Aの主な進行方式であり、それぞれに異なる特徴があります。各方式の違いは次のとおりです。
比較項目 | オークション方式 | 相対方式 |
交渉する企業 | 複数の企業 | 特定の企業1社 |
M&Aにかかる期間 | 相対的に長くなる | 相対的に短い |
譲渡価格 | 相対的に高くなりやすい | 相対的に低くなりやすい |
競争原理 | 働きやすい | 働きにくい |
事務負担 | 相対的に大きい | 相対的に少ない |
秘密保持 | 情報漏洩のリスクが高まる | 秘密を保持しやすい |
オークション方式は複数の企業と交渉するため、入札参加者間での競争原理が働きやすく、相対方式と比較して譲渡価格が高くなりやすい点が特徴です。一方、相対方式は特定の企業を対象に交渉することから、M&Aにかかる期間や事務負担が相対的に少なくなり、秘密保持がしやすいメリットがあります。
オークション方式と相対方式はどちらを選べば良い?
オークション方式は、自社をできる限り高い譲渡価格で売却したい場合に有効な方式です。ただし、複数の企業と同時に交渉するため、専門家を活用するなど事前に対策を講じましょう。
候補企業がすでに存在する場合や比較的短期間でM&Aを成約したい、情報漏洩のリスクを抑えたい場合は、相対方式が適しています。相対方式は、譲渡企業と譲受企業が1対1で交渉を進めるため、意向表明書や企業概要書など書類だけでは不明瞭な部分を互いに理解しやすい点もメリットです。
まとめ
M&Aのオークション方式は、複数の企業から条件提示を受け、その中から吟味して譲渡先を決定する方式です。有利な条件を引き出しやすいため、複数の譲渡候補企業が存在する企業に適しています。
しかし、オークション方式は、相対方式と比べてM&Aの進行に手間や時間がかかりやすく、情報漏洩のリスクも高いというデメリットもあります。オークション方式と相対方式をそれぞれ比較検討し、自社の状況を踏まえた選択を行いましょう。
M&Aでわからないことがある場合は、専門家への相談が有効的です。fundbookには各業界に精通したアドバイザーが在籍し、豊富な譲受企業ネットワークをもとにマッチングをサポートします。M&Aをご検討の方は、ぜひfundbookまでご相談ください。