株式や不動産の投資において欠かせない概念のひとつに、期待収益率があります。
この期待収益率は、資金調達や企業価値の算出にも密接に関わります。
本記事では、期待収益率の計算方法から、期待収益率を使って求められる資本コストや企業価値評価について解説します。
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期待収益率とは?意味と定義
期待収益率とは、投資家が投資、運用している資産に対して、将来的に期待できる収益の平均値のことを指します。「期待リターン」や「要求収益率」ともよばれます。
投資家からすると、株式などへの投資は利率が決まっている国債などと比べ、将来の収益率は不確実です。そのため、値動きのある将来の収益性をリスクの程度も踏まえて推計し求めることになります。
期待収益率を求めるにはヒストリカルデータ方式、ビルディングブロック方式、シナリオアプローチ方式といった計算方法を用います。
期待収益率の計算方法・求め方
ヒストリカルデータ方式
ヒストリカルデータ方式は言葉通り、過去のデータの平均値などで資産の期待収益率を求める推計方法です。過去に起きたことがそのまま将来に起きるわけではありませんが、過去の長期間のデータから将来の見通しを立てることができる、という考え方にもとづいています。
ヒストリカルデータ方式の利点は、過去のデータにのみ基づいていることから恣意的な要素を排除できるため、より客観的な数字を出せるという点です。
一方、気をつけるべきこととして、計算のために選んだサンプルの期間の長さや時期によって結果が大きく異なる点があります。
ビルディングブロック方式
ビルディングブロック方式は、資産の収益をいくつかの構成要素に分解し、個々の要素について予測値を置き、それらの積み上げを行って将来の収益率を予測する推計方法です。
具体的には、収益を実質経済成長率やインフレ率といった各資産に共通する市場の部分と、リスクのある資産の収益率から国債などの安全資産の収益率を引いた差によって求められるリスク・プレミアムとに分解し、収益の構造を明らかにします。
ただし、リスク・プレミアム部分については先述したヒストリカルデータ方式で計算することが一般的です。
シナリオアプローチ方式
シナリオアプローチ方式は、過去データに加え、マクロ経済予測や企業収益予測などを活用して収益率を予測する推計方法です。
将来の経済に基本、好循環、悪循環、衰退といったシナリオを立て、その発生確率を想定したうえで、各シナリオごとに資産の収益率を推計します。
ビルディングブロック方式と異なり、経済成長率やインフレ率といった市場の部分を変動するものと仮定して推計する点が特徴です。
資金調達における資本コスト(WACC)の考え方
ここまで解説した期待収益率は、資金調達における資本コストを計算する際に重要になります。
この資本コストの算出に欠かせないWACC(Weighted Average Cost of Capital、ワック)は、資金提供者から平均的にどの程度のリターンを期待されているかの比率であり、1円の資金をいくらで調達できているかを知ることができます。多くの企業はこのWACCを投資家から期待されている収益のハードルレートとして使っています。
WACCは、事業のための負債と株主資本を加重平均して出すことが可能です。
資本コスト(WACC)の計算式
WACCは以下の式で求められます。
WACC=株主資本コスト×株主資本/(有利子負債+株主資本)+負債コスト×(1-実効税率)×有利子負債/(有利子負債+株主資本)
先述した方法で求めた期待収益率は、株主資本コストと負債コストに該当します。
株主資本コストは、株主にとっては期待収益率になり、企業においては資本コストになるためです。同様に負債コストについても、債権者にとっては期待収益率になり、企業においては負債コストになります。
このように期待収益率とコストの関係の理解はWACCを求めるうえで大切になります。
M&Aにおける期待収益率
M&Aの重要なステップのひとつに企業価値評価があります。企業価値評価にはさまざまな算出方法があり、そのうちのひとつにインカムアプローチとよばれる、企業の将来の収益獲得能力を評価する方法があります。
このインカムアプローチに分類される方法の中に、現在価値に割り引いて事業価値を算出する「DCF(Discounted Cash Flow)法」があります。
DCF法は、評価対象企業の将来のフリーキャッシュフローにリスクを反映させた割引率を適用して事業価値を算出し、株式価値を算定する手法です。その際の割引率に上記で求めたWACCを用います。
まとめ
期待収益率は、投資に知識がある人たちには耳馴染みのある言葉であり、ファイナンスの知識のひとつという考え方が一般的です。しかし、M&Aにおける企業価値評価のひとつであるDCF法にも大きく関係してきます。
期待収益率の理解が進むと、自社の企業価値の理解にも繋がりますので把握しておくべきポイントともいえるでしょう。