
近年、中小企業の経営者や個人で事業を経営する方の高齢化が進み、事業承継の動きが活発化しています。
事業承継士は、事業承継に関する深い知識を有し、包括的な視点から承継の進行を支援する有資格者です。他の民間資格に比べて事業承継に関する全体的な知識を有しており、他の士業との連携も取りやすいなどのメリットがあります。
本記事では、事業承継士の概要や資格取得の流れ、事業承継士の仕事、相談するメリット、他の民間資格との違いなど、事業承継士に関する事柄をまとめて解説します。
事業承継士の資格に興味を持つ方、あるいは、事業承継士への相談を検討している方はぜひ参考にしてください。
▷関連記事:M&Aとは?意味・流れ・手法・費用など基本をわかりやすく解説
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。

・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
目次
事業承継士とは
事業承継士とは、事業承継に関する専門的な知識を持ち、税理士や弁護士などの各種専門家をコーディネートしながら、事業承継の手続きを総合的にサポートする資格保持者です。
事業承継では、会社の理念や収益を上げる仕組み、経営資源や独自の文化などを後継者へと承継します。自社株式や事業用資産の相続・贈与への対応や税負担に対する対策も必要となり、法務・税務・財務など様々な専門知識が必要です。
事業承継士は、包括的な視点から各種専門家との調整を行い、スムーズな事業承継の進行を支援します。事業承継士にサポートを依頼すれば、複雑化した経営課題に1つ1つに対応し、将来の成長を見据えた事業承継が可能です。
事業承継士の認定団体
事業承継士は一般社団法人事業承継協会が認定する民間資格です。
事業承継協会は2015年に設立された比較的新しい団体で、中小企業の事業承継のサポートや事業承継を支援する人材育成などの事業を実施しています。
事業承継協会では、事業承継に関する知識を幅広く世間に広める活動や事業承継に関する基礎研究・調査、事業承継に関する専門的な書籍の発行事業も手がけています。
事業承継協会から認定を受けた事業承継士は、東京都をはじめ地方自治体からも事業承継に関する業務を受託して信用金庫などの金融機関と連携し、幅広い分野で活躍しています。
事業承継士になるには一定の資格要件がある
事業承継士を取得するには講座の受講が必要となりますが、講座の受講資格には以下のような国家資格のいずれかを有していることが求められます。
・中小企業診断士
・税理士
・公認会計士
・弁護士
・司法書士
・社会保険労務士
・行政書士
・土地家屋調査士
・一級建築士
・不動産鑑定士
・宅地建物取引士
・ファイナンシャル・プランニング技能士
・一般社団法人事業承継協会が認めた国家資格保有者またはそれと同等の知識と能力があると判断される方(経営者と直接面談する立場でコンサルティングや財務・会計アドバイスを実務として5年以上行った経験のある方、MBA資格保有者 など)
上記のように、事業承継士の取得には一定の資格所持が必要です。各資格の取得難易度は総じて高いことから、事業承継士の取得難易度も高いとされています。
事業承継士の資格取得の流れ
事業承継士の資格取得には、事業承継センター株式会社が運営する資格取得講座を受講し、その後、認定試験を受ける必要があります。資格取得の流れは以下のとおりです。
1.資格取得講座の受講
2.認定試験の合格
3.事業承継協会への入会
資格取得講座の受講
事業承継士の資格取得講座は、全30時間で構成されています。
内容は事業承継士や事業承継の概論から始まり、相談者に対するヒアリングや状況分析など依頼・相談の方法や相続・贈与などの専門的な知識、事業用資産の承継方法まで多岐にわたります。
2,000件を超える事業承継コンサルティングのノウハウをもとにしたケーススタディも含まれており、実践的かつ具体的な内容です。
講座は常時開催されているビデオ講座の他、東京や福岡など主要都市で開催される教室講座、WebとビデオのMIX講座など様々な形態があり、自分の希望に合わせた選択が可能です。
なお、事業承継士の取得講座の75%以上に出席すると、次のステップである認定試験の受験資格が得られます。
認定試験の合格
事業承継士認定試験は事業承継協会が実施する試験です。
先述のとおり、事業承継士の資格取得講座を75%以上の出席率で修了した方に対し、受験資格が与えられます。
事業承継士認定試験の試験範囲は、事業承継士資格取得講座で使用したテキストに記載されている内容、およびその関連項目です。
基本的に講座で学習した範囲から出題されるため、試験前は講座内容を復習しておきましょう。出題形式は選択式と記述式の混合方式となっており、60点以上を獲得すると合格となります。
事業承継協会への入会
事業承継士認定試験に合格後、事業承継協会に入会し審査を受けると、事業承継士の資格を取得できます。入会の申し込みは、事業承継士認定試験の合格通知に同封される「入会申込書」にて可能です。入会時には事業承継協会による審査があり、倫理規定や懲罰基準、資格要件などが確認されます。
事業承継士の資格取得にかかる費用
事業承継士の資格取得では、資格取得講座・認定試験・事業承継協会への入会で以下のような費用がかかります。
項目 | 費用(税込) |
---|---|
資格取得講座の受講料 | 330,000円 |
認定試験の受験料 | 9,900円 |
事業承継協会への入会金 | 11,000円 |
また、事業承継協会では年会費(税込)が11,000円と、3年ごとに更新料(税込)5,500円が必要です。
事業承継協会ではリモートによる無料ガイダンスを開催しているため、詳細を知りたい場合は無料ガイダンスを申し込んでみると良いでしょう。
事業承継士を取得するメリット
ここからは、事業承継士を取得する場合のメリットを紹介します。
事業承継士を取得するメリットは以下のとおりです。
1. 資格取得の過程で事業承継の知識が身につく
2. 人脈が広がる
3. 事業承継士として支援を受けられる
順番に解説します。
資格取得の過程で事業承継の知識が身につく
事業承継士の資格取得講座では、基礎知識から高度な実務スキルまで幅広い知識習得が可能です。事業承継の重要なポイントである「目利き」や「相談対応力」に加え、課題分析や解決策の提案能力も習得できます。
また、実際の案件で活用されたツールやテンプレート、契約文書が配布されるため、学んだ知識を現場で即活用できるのも強みです。
さらに、相続や顧客開拓、顧問契約の取り方なども身につけることができ、資格取得の過程で事業承継に必要な知識と実践力が備わります。
人脈が広がる
事業承継は複雑で多岐にわたる専門知識を要するため、個人で取り組むのは極めて困難な場合が多いです。そのため、以下のような税理士や不動産鑑定士などの専門家と連携する必要があります。
専門家 | 概要 |
税理士 | 資産や財務状況の正確な評価 税務面のアドバイス |
不動産鑑定士 | 不動産の適正価格評価 相続や売却時の価格査定 |
弁護士 | 契約書の作成 M&Aや相続時の法的支援 |
ファイナンシャルプランナー | 事業承継後の資産運用 リスク管理の提案 |
行政書士・司法書士 | 相続手続き 遺産分割協議書の作成 |
各プロセスにおける専門資格や士業の役割を理解し、効果的に協力できる人脈づくりも事業承継を成功させるポイントです。
資格取得講座を提供する事業承継センター株式会社では、定期的に懇親会や交流会を開催し、士業や事業者間での人脈形成を支援しているため、案件を一緒に取り組む、信頼の置けるパートナーを見つけたい方にもおすすめです。
▷関連記事:「士業の事業承継でM&Aを活用するには?流れや把握しておくべき知識を解説」
事業承継士としての支援を受けられる
事業承継士の資格を取得すると「事業承継士」の肩書きを得られ、名刺や自身のホームページに資格を掲載して信頼性をアピールできます。
また、資格取得後は事業承継センター株式会社から以下のように継続的サポートを受けられるため、資格未取得の場合と比べて実務においても心強くなります。
・継続研修による法律や制度などの知識のブラッシュアップ
・機関誌による事例や業界情報の提供
・会員同士の交流促進
サポートを有効活用することで、案件の進行がスムーズになり、企業や顧客からの信頼も高まります。
事業承継士の資格取得は、知識の証明だけでなく、事業承継センターからの継続的支援を受けることができ、実務の充実を図れる点でも大きなメリットがあります。
事業承継士の仕事について
ここからは、事業承継士の仕事について、その将来性や仕事内容を紹介します。また、事業承継士と同様に事業承継の専門的な知識を持つ事業承継アドバイザーとの違いも併せて解説します。
事業承継士の将来性
事業承継士が取り扱う事業承継の需要は、近年大きな高まりを見せています。
帝国データバンクの「事業承継に関する企業の意識調査(2021年5月)」によると、事業承継を経営上の問題と認識する企業は67.4%にのぼり、多くの企業が事業承継を検討課題としている状況です。
特に中小企業や小規模事業者では経営者の高齢化が進み、次の世代への事業承継は喫緊の課題です。
国も税制面の優遇措置や事業承継・引き継ぎ補助金の設置など、様々な支援策を実施しています。
このような状況の中、事業承継に関する案件は今後も増加が見込まれています。日本の雇用や技術を支える中小企業の円滑な事業承継のためにも、事業承継士は今後の活躍が期待される職業です。
事業承継士の仕事内容
事業承継士は主に事業承継支援の仕事を受託し、事業承継の準備段階から実際の手続きまで総合的にサポートします。具体的には、準備段階では後継者選定や育成のための研修のサポート、事業計画の策定、事業承継に向けた経営の磨き上げなどが主な仕事です。
他にも、実際の手続きでは自社株式の承継への対策や贈与税・相続税の税負担軽減への対応などの業務を行います。
また、事業承継では不動産評価は不動産鑑定士や土地家屋調査士、自社株評価は税理士など、各種専門家と連携して手続きを進める場合もあります。
事業承継士は各専門家のコーディネートや全体のスケジューリングの役割も果たす重要な仕事です。
事業承継士と他の民間資格の違い
次に、事業承継士とM&Aに関する他の民間資格との違いを順番に解説します。
事業承継アドバイザーとの違い
事業承継アドバイザー認定試験(BSA)は、一般社団法人金融検定協会が実施する民間資格試験です。金融機関に勤務する方のキャリアアップの一環として行われており、試験取得を通じて事業承継の基礎知識や親族内承継・親族外承継・M&Aの手法が学べます。
事業承継士と事業承継アドバイザーは、事業承継の専門的な知識を身に付けられる点ではどちらも同じですが、実施する団体、資格取得までの流れ、試験内容などに違いがあります。
また、事業承継士が税理士や中小企業診断士などの士業の方が多く取得するのに対し、事業承継アドバイザーは金融機関に在籍する方に取得者が多いという違いもあります。
事業承継プランナーとの違い
事業承継プランナーとは、一般社団法人事業承継協会が認定している民間資格であり、事業承継に対する初期対応を担う専門家です。
資格取得者は、事業承継における課題の整理や、専門的な士業へつなぐための判断力があると見なされます。
つまり、事業承継プランナーは、事業承継に関する基礎的な知識を活かして、どのような専門支援が必要かを判断し、次のステップへつなぐことが役割です。
他方、事業承継士は事業承継の全プロセスに関与し、経営課題の分析、解決策の提案、士業との連携まで包括的に対応します。
事業承継プランナーは入り口で課題整理を行うのに対して、事業承継士は事業承継に関する業務を全体的に管理し、関与する点が異なると覚えておきましょう。
M&Aエキスパートとの違い
M&Aエキスパートとは、一般社団法人金融財政事情研究会が認定する民間資格です。M&Aエキスパートは以下の3種類の難易度に分けられます。
資格名 | 概要 |
M&Aシニアエキスパート | M&A実務に関する実務ノウハウの取得が求められる |
事業承継シニアエキスパート | 事業承継実務に関する知識が求められる |
事業承継・M&Aエキスパート | 事業承継や中小企業M&Aに関する基本的な知識が求められる |
試験の難易度は3種類あり、上表で見ると、事業承継・M&AエキスパートからM&Aシニアエキスパートに向かって難易度が上がります。異なるレベルの知識を問うため、段階的に事業承継やM&Aに関する知識を習得したい方に適している資格です。
他方、事業承継士は全プロセスを短期間で集中的に学ぶ構成です。
M&Aの基礎から着実に理解したい方はM&Aエキスパートを、事業承継に関する実践的な知識やノウハウを全体的に習得したい方は事業承継士を検討しましょう。
事業承継士に相談するメリット
これまで紹介してきたように、事業承継士は事業承継の実践的な知識を持ち、各種専門家をコーディネートする役割も果たします。ここでは、相談側の視点から事業承継士に相談するメリットを解説します。
専門的で正確な知識からのアドバイスを受けられる
事業承継士に相談する大きなメリットは、専門的な視点からのアドバイスを受けられる点です。
事業承継では、後継者を誰にするかという問題1つ取り上げても、引継ぎ先は子や親族、従業員や役員、外部の企業や個人など様々なケースがあり、それぞれに必要な手続きや知識が異なります。また、自社株や不動産など事業用資産の評価、節税対策には専門的な知識が必要です。
事業承継士は、事業承継に関わる国家資格保有者が実践的な教育を受けて取得する資格者です。そのため、事業承継の実務経験が豊富な場合が多く、さらに更新制度もあるため、最新の知識も持ち合わせています。
事業承継を円滑に進めるためには、専門的な知識を持ち、豊富な経験を持つ専門家から支援を受けることがとても重要です。事業承継士に相談することで、事業承継を取り巻く多くの課題によりスムーズに対応できます。
専門家とのネットワークやコネクションが豊富
事業承継は単に自社株や事業用資産を後継者へ承継するだけとは限りません。
後継者が子や親族内に見つからない場合は、第三者へのM&Aを検討する必要があり、場合によっては事業の一部だけを他社へ承継し、会社自体は廃業にするケースも考えられます。
事業承継士は各種専門家とのネットワークやコネクションを持つ場合が多く、上記のように多種多様な承継の問題が生じた場合でも、各問題を専門分野とする専門家への相談によって柔軟に対応できるでしょう。
事業承継の相談の流れ・ポイント
最後に事業承継に関する相談の流れとポイントを紹介します。
事業承継を相談する際の基本的な流れは以下のとおりです。
・相談(見積もりなど)
・自社の状況の把握
・後継者の選定・育成
・事業計画の策定
・関係者への説明
・引き継ぎ
まずは、事業承継に関する初歩的な相談を行います。
事業承継をどのような形で、どのようなスケジュールで進めていくか、大まかな概要を相談して決めていきます。事業承継の相談費用がいくらかかるか、見積もりを出してもらっても良いでしょう。
その後、自社の状況把握や後継者選定・育成、事業計画の策定など、事業承継の準備段階へと移ります。
各手続きでわからない点がある際は、事業承継士にアドバイスを求めましょう。事業計画の策定が終わったら、取引先や従業員など関係者への説明を行い、事業の引き継ぎを実施します。
先述のように、事業承継では法務・財務・税務などの専門知識も必要となるため、他の専門家との連携も必要です。場合によっては、事業引き継ぎ相談窓口、金融機関などとの相談も行ってください。
まとめ
事業承継士は中小企業診断士や税理士などの国家資格を持つ人が主に取得でき、事業承継に関する深い知識を有しています。そのため、専門的な観点からのアドバイスが受けられ、各種専門家とのネットワークを持つ人も多い資格です。
M&Aに関する民間資格は事業承継士以外にもありますが、取得までの流れや試験難易度が異なり、有する知識量が少ない場合もあります。事業承継を相談する際は、包括的な知識と幅広い人脈を持つ事業承継士のサポートを、ぜひ検討しましょう。
これまで紹介してきたように、事業承継を実施する際には専門的な知識が不可欠であり、後継者がいない場合には第三者へのM&Aを検討すべきケースもあります。
事業承継でお悩みなら、fundbookまで一度ご相談ください。
fundbookでは経験豊富なアドバイザーがチームとなって様々な相談にご対応します。独自のプラットフォームを持つため、M&Aによる事業承継での承継先探しにも役立ちます。まずはお気軽に弊社までお問い合わせください。