事業承継税制は相続税や贈与税の納税猶予を受けられるため、事業承継を検討している中小企業の経営者の中には制度の利用を考えている方も少なくないはずです。
しかし資産管理会社に該当するという判定を受けると、事業承継税制は適応されないと聞いて気になっている経営者もいるのではないでしょうか。
確かに、事業承継税制は資産管理会社と判定されると利用できませんが、一定の要件を満たすことで利用が可能になります。
本記事では、資産管理会社が事業承継税制を利用するための要件や注意点などを解説します。事業承継税制を利用したいと考えている経営者の方はぜひ参考にしてください。
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目次
資産管理会社の判定を受けると事業承継税制は適応されない?
事業承継税制は、事業承継の際に生じる相続税や贈与税の納税の猶予を受けられる制度のことです。事業承継税制は中小企業が全て対象となるわけではなく、一定の要件を満たす中小企業に適応されることを覚えておきましょう。
事業承継税制の対象となる企業の要件は以下のようになります。
・中小企業である
・従業員が1名以上
・非上場会社で風俗営業でない
・資産管理会社ではない
事業承継税の適用を受けるためには上記の要件を全て満たす必要があります。1つでも満たしていない要件があると、事業承継税制の適用外になってしまいます。
そのため、資産管理会社の判定を受けてしまうと、原則は相続税や贈与税の納税の優遇措置は受けられません。
ただし後述しますが、一定の要件を満たしていれば資産管理会社とはみなされず、事業承継税制の適用を受けることが可能になります。
なお、事業承継税制の適用要件には、経営者と後継者に対する要件もあるので、確認しておくことをおすすめします。
事業承継税制対象外になる資産管理会社の形式要件
資産管理会社とは、資産保有型会社と資産運用型会社を包括した呼称です。
つまり、資産保有型会社または資産運用型会社に該当してしまうと、事業承継税制の対象外となるため、基本的には相続税、贈与税の優遇措置を受けられません。
ここでは資産保有型会社と資産運用型会社の形式要件を紹介するので、確認しておきましょう。
資産保有型会社
資産保有型会社とは、「特定資産の帳簿価額の合計÷資産の帳簿価額の総額」が70%以上の会社のことを指します。
特定資産には、主に有価証券や自社で使用していない不動産、現預金などが該当します。
簡単に言うと、事業活動にあまり関係のない資産を保有・運用することを目的とした会社が資産保有型会社です。
なお、子会社の有価証券も特定資産の1つとなりますが、資産保有型子会社または資産運用型子会社に該当しない特別子会社の場合は特定資産から除外されます。
特別子会社とは、会社の代表者とその同族関係者で合わせて総議決権数の過半数を持っている会社または外国会社のことです。会社法上の子会社とは異なるので、覚えておきましょう。
特定資産とは
特定資産は、特定な目的のために使途や保有または運用等に制約がある資産のことで、経営承継円滑化法施行規則に定められています。経営承継円滑化法施行規則に定められた特定資産は以下のようになっているので、確認しておきましょう。
・国際・株式・有価証券等の金融商品
・ゴルフ場のその他施設の利用に関する権利(ゴルフ場の会員権)
・現に自ら使用していない不動産(第三者へ賃貸しているものも含む)
・絵画、彫刻、工芸品等の道産、貴金属・宝石
・現金、預貯金その他これらに類する資産
資産運用型会社
資産運用型会社は「特定資産の運用収入の合計額÷資産の帳簿価額の総額」が75%以上の会社のことを指します。
特定資産の運用収入には、株式の配当や不動産賃貸による家賃収入等が含まれます。
例えば、不動産会社でも収益の75%以上が家賃収入の場合は資産運用型会社に該当してしまいます。
なお、資産運用型会社の特定資産も資産保有型会社と同じ内容になります。
事業実態要件を満たせば資産管理会社として除外される
資産管理会社(資産運用型会社・資産保有型会社)は、事業承継税制の対象外となるものの、事業の実態が認められれば資産管理会社から除外され、事業承継税制の適用を受けることが可能です。
資産管理会社として除外される要件は以下のようになっているので、覚えておきましょう。
1.常時使用の従業員の数が5人以上である
2.従業員の勤務する事務所や店舗、工場等を所有もしくは賃借している
3.3年以上継続して商品の販売等にあたる事業を行っている
事業承継税制の適用には要件を全て満たす必要があるのできちんと把握しておく必要があります。
ここでは資産管理会社として除外されるための各要件について詳しく解説していきます。
要件① 常時使用の従業員の数が5人以上である
要件の1つは従業員の人数になり、常時勤務をしている従業員数が5名以上いることが必要です。
従業員として認められる判断条件は、社会保険に「加入しているか」「していないか」になります。
例えば、従業員が10名いても6名が社会保険に加入していない場合は要件を満たしていることにはなりません。
また、後継者及び後継者と生計を一にする親族は従業員として認められませんので、覚えておきましょう。
つまり社会保険に加入しており、かつ後継者と生計を共にしていなければ従業員として数えられるということです。
要件② 従業員の勤務する事務所や店舗、工場等を所有または賃借している
事務所や店舗などの固定施設の所有・貸借を行っていることも資産管理会社から除外されるための要件になります。
例えば、「従業員が自社ビルで働いている」「子会社から店舗の賃貸を受けている」という場合は要件を満たすことになります。
ただし、固定施設の所有・貸借には自宅や事業外の施設は認められないので注意しましょう。
要件③ 3年以上継続して商品販売等の事業を行っている
資産管理会社から除外される要件の1つには、事業の実態があることも含まれます。
こちらの要件は、贈与の日または相続の開始日まで継続して3年以上にわたり以下のいずれかの業務を実行していることが必要になります。
・商品の販売や資産の貸付けまたは、役務の提供で継続して対価を得て行われるもの(商品の開発、生産または役務の開発を含む)
・商品販売等を行うために必要となる資産(要件②の事業所を除く)の所有または賃貸
・上記の業務に類するもの
なお、設立後3年未満の会社の場合は当該要件を満たすことができないため、資産管理会社と判定されると事業承継税制の適用外となります。
資産管理会社における事業承継税制で確認しておきたいこと
前述しているように、資産管理会社でも要件を満たせば事業承継税制が適用され、事業承継時に相続税や贈与税の納税猶予を受けられます。
事業承継税制は後継者の納税負担を軽減できる制度のため、事業承継の実施を検討している方にとっては大きなメリットになりますが、活用する際はいくつか注意点があるので把握しておきましょう。
資産管理会社に関する事業承継税制の注意点・確認しておきたい点は以下になります。
・事業承継税制の取り消し事由に注意
・判定時期に注意する
・先代経営者・後継者の要件もチェックする
確認を怠り事業承継税制の取り消しや適用外になると、事業の運営が予定通りに行えなくなる可能性があるので、注意が必要です。
ここでは、上記の注意点・確認しておきたい点について解説します。
事業承継税制の取り消し事由に注意
事業承継税制は、制度が適用された後も多数の要件を満たさなければいけません。
また、事業承継税制の取り消し事由の中には「資産保有型会社に該当した場合」「資産運用型会社に該当した場合」という項目もあるので注意が必要です。
資産保有型会社や資産運用型会社から除外される要件を満たして事業承継税制が適用されても、制度の適用中に取り消し事由に該当してしまうと、猶予されていた相続税または贈与税について、利子分を上乗せして納税しなくてはいけなくなります。
多くの経営者は、後継者の納税負担を軽減するために事業承継税制の活用を検討しているはずですが、取り消し事由に該当してしまうと、逆に金銭的な負担が大きくなってしまう可能性があるので、注意しましょう。
事業承継税制を活用する際はリスクがあることを理解し、事業実態要件を満たしていることを常に確認できる体制を作っておく必要があります。
判定時期に注意する
資産保有型会社または資産運用型会社の判定時期は、後継者へ相続または贈与する直前事業年度の開始の日から納税猶予の期限確定日までのうち、いずれかの日になっており、資産保有型会社と資産運用型会社による違いはありません。
前述しているように、取り消し事由に該当すると納税の猶予が打ち切られてしまうため、資産管理会社として除外される条件を満たしているか定期的に確認する必要があります。
・資産保有型会社:「特定資産の帳簿価額の合計÷資産の帳簿価額の総額」が70%以上
・資産運用型会社:「特定資産の運用収入の合計額÷資産の帳簿価額の総額」が75%以上
なお、平成31年度の税制改正により、資産管理会社として一時的に該当した場合の緩和措置が新たに設けられたので、事業承継税制を利用する前に内容を確認しておきしましょう。
資産管理会社として一時的に該当した場合の緩和措置
平成31年度の税制改正により、一時的に資産管理会社に該当しても取り消し事由に該当しないという緩和措置が設けられました。
以前の内容では、「納税猶予開始後5年以内または5年経過後において、納税の猶予が適用されている会社が資産管理会社に該当した場合は納税猶予が打ち切り」となっていました。
しかし、税制改正により「事業活動上生じた偶発的な事由で、やむを得ない事情により認定されていた会社が資産管理会社に該当した場合は、該当した日から6ヶ月以内にこれらの会社に該当しなくなった時は取り消し事由に該当しない」とされています。
やむを得ない事情には、例えば「事業活動のために必要な借入れを行った」「事業用に供していた資産の譲渡またはその資産について生じた損害に基因した保険金の取得」などが該当します。
なお、この緩和措置は2019年4月1日以後の「やむを得ない事由が生ずる場合」に適用となっています。
先代経営者・後継者の要件もチェックする
事業承継税制の適用には、会社だけではなく先代経営者と後継者の要件もあります。先代経営者と後継者の要件は以下になります。
対象 | 要件 |
---|---|
先代経営者 | ・会社の代表であった ・相続または贈与時に、親族で自社株式の過半数以上を保有し、かつ筆頭株主であった ・贈与時に代表ではない(贈与) |
後継者 | ・相続または贈与時に後継者と親族で自社株式の過半数以上を保有し、かつ親族の中で筆頭株主になる ・会社の代表である ・18歳以上かつ贈与時まで3年以上役員を務めている(贈与) ・相続直前に役員、かつ相続から5ヶ月後に代表である(相続) |
なお、取り消し事由にも先代経営者と後継者のそれぞれに要件があるので、確認は必須になります。
取り消し事由は要件が多く全てを把握するのは難しいため、事業承継税制の活用を検討する際は、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
まとめ
事業承継税制は、相続税や贈与税の納税猶予を受けられるため、事業承継の際にぜひ活用したい制度ですが、事業承継税制の要件には「資産管理会社ではない」というものがあるので、基本的に資産管理会社は適用されません。
しかし、資産管理会社でも事業実態要件を満たせば事業承継税制を利用できるので、内容を把握しておくと良いでしょう。
ただし、事業承継税制は適用後も多くの要件を満たさなければならず、取り消し事由に該当すると打ち切られてしまい、納税の義務が発生するというリスクがあります。
そのため、資産管理会社で事業承継税制の活用を検討する際は、資産運用型会社と資産運用型会社の形式要件・事業実態要件を把握し、常に確認できる体制を整えておくことが大切です。
事業承継税制の全容を個人で把握するのは難しいため、状況に応じて専門家のサポートを受けるようにしましょう。