業界毎の事例

2023/09/29

学習塾・予備校業界のM&A事例10選

学習塾・予備校業界のM&A事例10選

昨今、学習塾・予備校業界は大きな変革の時代を迎えています。少子化による市場の縮小や文部科学省による2020年度の教育改革、グローバル人材の需要の高まりなどを背景に、学習塾・予備校業界は新たな時代への適応が求められています。

このような状況を受け、大手学習塾は規模の拡大を主な目的として地方の小規模塾を譲り受けたり、事業領域の強化、拡大を目的として英語指導に強い塾や映像授業を提供する会社などとM&Aを行っており、業界再編が進んでいます。

本記事では、学習塾・予備校業界の現状や市場動向について解説した上で、学習塾・予備校業界で実際に行われたM&Aの事例についてご紹介していきます。

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学習塾・予備校業界の現状、市場動向

文部科学省の発表によると、2018年度の小学校、中学校の在学者数は過去最低を更新し、高等学校の在学者数も前年度より約4万5千人減少しており、学習塾・予備校業界の主な顧客層の人口は減少し続けています。今後も少子化が続き、長期的には市場が縮小していくと予測されているため、学習塾や予備校は売上を維持、向上させていくための対策が求められています。

ただ一方で、矢野経済研究所の公表データによると、2016年度の学習塾・予備校業界の市場規模は約9,620億円となっており、前年比約0.5%の微増、一昨年比で約2.6%の増加となっています。要因としては、1人の子どもに対してかける教育費用の増加や、小学校や中学校の受験を考える保護者が増えたことが挙げられます。そのため、市場全体として急激に縮小するのではなく、少子化の影響を受けながらも緩やかに縮小していくとみられています。

そのような状況の中で、受験指導に強みをもつ大手学習塾・予備校や、生徒一人ひとりのニーズに応える個別指導塾が売り上げを伸ばす一方で、地方の中小の学習塾にとっては厳しい状況が続いています。また2020年度には教育制度改革が予定されており、大手学習塾は英語教育や新大学入試に対応して、売り上げはより伸長していくと考えられます。

さらには近年、学習塾に通う以外の勉強手段として、動画学習事業や通信教育事業を行う会社も多く参入してきており、学習塾・予備校業界では競争がより激化していくでしょう。

業界大手のM&A事例4選

1.株式会社ベネッセホールディングスによる株式会社ミネルヴァインテリジェンスの子会社化

株式会社ベネッセホールディングス(以下、ベネッセ)は、2014年11月に株式会社ミネルヴァインテリジェンスの発行済株式を100%取得して子会社化しました。

ベネッセは教育業界最大手の会社であり、「こどもちゃれんじ」や「進研ゼミ」による通信教育事業や、「進研模試」による受験事業を行っています。

一方ミネルヴァインテリジェンスは、首都圏、関西圏を中心に約400教室の子ども向け英語教室事業を行っており、ショッピングセンターなどの複合商業施設への出店も行っています。

ベネッセは、幼児から中学生向けの英語教室事業を行っており、全国に約1,400教室を開講しています。また、外国人講師による語学レッスンや語学留学事業を行うベルリッツ・ジャパン株式会社を子会社として持っており、幅広い年齢層に向けた語学事業を展開しています。

英語教育に対するニーズが多様化する中で、ベネッセは、ベネッセ、ベルリッツ、ミネルヴァ3社の子ども向け英語教育のノウハウや教材、拠点などを効果的に融合し、また全体の拠点数を増加させつつ、各エリアで多様な教室を展開する目的でM&Aを実施しました。

2.株式会社ナガセによる株式会社早稲田塾の子会社化

動画形式の授業が特徴的な「東進ハイスクール」や「東進衛星予備校」を運営している株式会社ナガセが、2014年12月に株式会社早稲田塾の全株式を約20億円で取得して子会社化しました。

この事例では、早稲田塾を運営する株式会社サマデイから、会社分割によって株式会社早稲田塾を新設して株式を100%取得するという、新設分割の手法が用いられました。

株式会社早稲田塾は現役高校生専門の大学受験塾、予備校であり、AO入試や推薦入試では学習塾業界でトップクラスのブランド力を持っています。ナガセは、民間最大規模の教育機関として次世代のリーダーの育成に取り組んでおり、同じく次世代のリーダー育成を目指す早稲田塾事業のノウハウ共有等を通じ、東進グループの総合力・競争力が強化できると考えてM&Aを実施しました。

ナガセは以前にも、2006年に中学受験大手の株式会社四谷大塚を、2008年にはイトマンスイミングスクールを運営するアイエスエス株式会社をグループ会社化しており、M&Aを積極的に活用して事業領域を拡大させて成長しています。

▷関連記事:新設分割とは?実施する際の手続きやメリット、吸収分割との違いについて解説

3.株式会社学研ホールディングスによる株式会社文理学院の子会社化

株式会社学研ホールディングスは、2017年11月、子会社の株式会社学研塾ホールディングスを通して、山梨県と静岡県で約30校の塾、予備校を展開する株式会社文理学院の株式を全て取得して子会社化しました。

学研ホールディングスはM&Aを通じて、甲信越、東海地域への進出を目指している他、文理学院がもつ高い生徒指導力、教員育成力に関するノウハウを共有できるとしています。また学研グループがもつリソースを生かし、文理学院の新たな売り上げの創出が見込めるとしており、双方にとってメリットのあるM&Aであるといえるでしょう。

学研ホールディングスはこれまでもM&Aによる全国展開を積極的に行っています。2006年に「あすなろ学院」を運営する東北ベストスタディ株式会社を買収以降、全国の地方で有力な学習塾を買収し、ブランド力の強化とシェアを拡大してきました。

またM&Aを活用して高齢者事業への参入も行っており、2011年12月に株式会社ユーミーケアを買収して高齢者福祉事業へと参入、2014年10月には株式会社エス・ピー・エーおよび株式会社シスケアを買収して、高齢者住宅事業の強化を図っています。

4.株式会社増進会出版社による栄光ホールディングス株式会社の完全子会社化

通信教育のZ会を運営する株式会社増進会出版社が、2015年5月、栄光ゼミナールをはじめとした学習塾を展開している栄光ホールディングス株式会社の全株式をTOB(株式公開買付)により取得し、子会社化することを発表しました。

増進会出版社と栄光ホールディングスは、2009年より資本業務提携を結んできましたが、少子化や国による教育改革を背景に、高品質なサービスを提供するために、より緊密な連携が必要だとしてM&Aを実行しました。Z会の遠隔指導のノウハウと栄光ホールディングスの対面指導のノウハウを一体化し、情報技術の進化なども利用することで、お客様個々の状況に適合した学習スタイルの提供を目指しています。

また、小学生向けの指導に強みをもつ栄光ホールディングスと、中学、高校生向け指導に定評があるZ会が手を組むことで、幼児、小学生から高校生、さらには社会人に至るまで一貫した教育サービスを提供できるとしています。

▷関連記事:TOB(株式公開買付)とは?友好的・敵対的TOBの意味や防衛策を解説

最新のM&A事例3選

1.株式会社明光ネットワークジャパンによる株式会社ケイ・エム・ジーコーポレーションの子会社化

株式会社明光ネットワークジャパンは2018年12月、明光義塾フランチャイジーの1つである株式会社ケイ・エム・ジーコーポレーションの全株式を取得して子会社化しました。

明光ネットワークジャパンは日本初の個別指導塾である「明光義塾」を直営およびフランチャイズとして全国2,000教室以上展開しており、その中でもケイ・エム・ジーコーポレーションは京都府、滋賀県、奈良県にて43教室を運営する、明光義塾チェーンを代表するフランチャイジーとなっています。

明光ネットワークジャパンは同年4月にも、首都圏を中心に42教室を展開しているフランチャイジーの株式会社ケイラインを買収しています。フランチャイザーを子会社化することで、明光義塾チェーン全体の競争力強化を図りつつ持続的な成長を実現し、グループの企業価値向上を図るとしています。

2.株式会社京進による株式会社ダイナミック・ビジネス・カレッジの子会社化

株式会社京進は2019年1月、都内で日本語学校を運営する株式会社ダイナミック・ビジネス・カレッジ(以下、DBC)の全株式を取得して子会社化しました。

京進は近畿地方を中心に、幼児から高校生まで幅広く対象として、個別指導塾の「京進スクールワン」や英会話教室の「ユニバーサルキャンパス」を運営しており、DBCは1991年に都内で開校した日本語学校を運営しています。

京進グループは国内9校の日本語学校を運営しており、DBCの株式取得により国内で運営する日本語学校の数は10校となります。日本語教育事業の新規サービス展開や、その他語学関連事業とシナジー効果を生み、事業拡大を図ることを目的としています。

▷関連記事:譲渡企業側こそ意識しよう。企業選定で欠かせないポイント「シナジー効果」とは

3.株式会社城南進学研究社による株式会社アイベックの子会社化

株式会社城南進学研究社は、2018年8月に株式会社アイベックの発行済株式のうち70%を取得して子会社化しました。

城南進学研究社は、個別指導塾の城南コベッツや、大学受験対策の城南予備校を運営している会社です。一方アイベックは、企業向けビジネス英語研修をはじめ、ビジネス英語やTOEIC講座などの英会話スクールの運営を行っています。

城南進学研究社は、もともと英語事業へと力を入れていましたが、今回のM&Aにより社会人英語教育への本格的な進出を図るとともに、城南進学研究社が持つ教育事業とのシナジー効果により、幅広い年齢層をカバーする総合教育ソリューション企業としての成長を目指しています。

学習塾による異業種のM&A事例3選

学習塾が異業種の企業を譲り受けする事例についても紹介します。

1.株式会社市進ホールディングスによるパス・トラベル株式会社の子会社化

株式会社市進ホールディングスは、2018年3月にパス・トラベル株式会社の株式を100%取得して子会社化しました。

市進ホールディングスは首都圏を中心に、小中学生を対象としている市進学院や、現役高校生を対象としている市進予備校を展開しています。パス・トラベルは2003年に設立され、主に関西方面の大学や企業、個人を顧客として、学術やビジネスの出張、観光などに関する国内外の旅行プランの企画、手配を行っている会社です。

一見関わりが薄いように見える2つの会社ですが、M&Aを行うことにより、市進ホールディングスグループの各学習塾が行う勉強合宿や英語学習キャンプなどを自社内で企画、手配することが可能になります。また、インドや香港、北京などに拡大している海外事業や、国内の日本語学校事業ともシナジー効果が見込めるとしています。

2.株式会社ウィザスによる株式会社吉香の子会社化

株式会社ウィザスが2016年7月、翻訳事業を手掛ける株式会社吉香の全株式を取得して子会社化しました。

ウィザスは「第一ゼミナール」をはじめとした、幼児から高校生までを対象とした学習塾事業や単位制高校の運営、高等学校卒業程度認定試験の合格のための受験指導事業を行っている会社です。吉香は90カ国に及ぶ言語サービスを提供しており、テレビの報道番組、国際会議などでの通訳・翻訳業務の提供や語学力のある人材の派遣事業を行っています。

2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催予定であり、日本国内のグローバル化の進展の加速を背景に、ウィザスは吉香の通訳・翻訳の高度な技能を活かした質の高い語学学習プログラムの開発や、留学生を対象とした日本語教育プログラムの展開を目指しています。

3.駿台グループによる株式会社マナボの子会社化

駿台グループは2018年5月、グループ会社のエスエイティーティー株式会社を通して、オンライン家庭教師サービス「manabo」を運営する株式会社マナボの全株式を取得して子会社化しました。

エスエイティーティー株式会社は、駿台グループの中でeラーニングシステム、人材開発事業、および大規模な教育関連システムの開発を行っています。駿台グループが持つeラーニングシステムとmanaboが持つ双方向システムを融合することで、企業向けの教育研修をはじめ、病院、自治体への医療福祉など他業種に向けた新サービスの開発を目指しています。

まとめ

日本国内では少子化が進行し、将来的に学習塾、予備校市場は縮小されていくことが予測される中で、大手企業はM&Aを活用して運営教室数を増やしたり、展開する地域を拡大させています。また、2020年の教育改革では英語の4技能が重視されることや、日本全体としてグローバル人材の育成が求められている中で、語学に強い会社を買収している事例も多く見られます。

地方の個人経営の塾だとしても、規模拡大や地域拡大を目指す大手企業にとって魅力的であり、また語学の指導に強みを持つ学習塾は将来的に需要が増加していくと考えられます。経営に不安があったり、後継者不足が問題となっている学習塾にとって、M&Aという選択肢も現実的に検討できるのではないでしょうか。

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