建設コンサル業を含む建設業界は、人員不足や後継者不足、従業員の高齢化が深刻化しています。近年では、事業の存続や業績の確保を目的に、M&Aの実施が増加する結果も出ています。
本記事では、建設コンサル業を含む建設業界のM&Aを実施するメリットやデメリット、事例についてご紹介しましょう。
年間3,000回の面談をこなすアドバイザーの声をもとにまとめた、譲渡を検討する前に知っておくべき5つの要件を解説。
・企業価値の算出方法
・M&Aの進め方や全体の流れ
・成約までに必要な期間
・M&Aに向けて事前に準備すべきこと
会社を譲渡する前に考えておきたいポイントをわかりやすくまとめました。M&Aの検討をこれから始める方は是非ご一読ください!
目次
建設コンサル業を含む建設業界の動向
ダムや道路の建設工事が行われる前に、工事に関する調査や設計などを担当するのが建設コンサル業です。建設コンサル業の主な事業内容は、以下のとおりです。
【建設コンサル業の事業内容】
・基本方針や事業概要の立案
・建設の計画
・環境周辺の調査
・設計図の作成
・施工や維持の管理
建設コンサル業への依頼者は、国や地方自治体が多く見られます。建設工事は、コンサル業が工事を安全に遂行するための計画を練り、その計画に基づいて建設会社が施工を行う流れです。
国土交通省によると、今後20年間で高度経済成長期に建設されたトンネルや道路・河川管理施設は老朽化すると予測されています。老朽対策を速やかに行うために、建設業界の需要は高まるでしょう。
「建設コンサル業」今後の課題
建設コンサル業では、今後の課題として以下の項目が挙げられます。
人手が不足する
2022年以降も建築業界の需要は増加傾向にありますが、一方で建築業界全体の人手不足が深刻化する可能性があります。
国土交通省「最近の建設業を巡る状況について」から、建設業界の就業者ピークは平成9年の685万人とわかります。対して、令和3年の就業者数は、486万人にまで減少しました。
減少理由の1つに、長時間労働の常態化や賃金の低さが挙げられます。全産業男性労働者の賃金と比較しても、建設業男性生産労働者の賃金は低いです。若者の建築業界離れを防ぐために、働き方改革の推進が求められるでしょう。
身内に後継者がいない可能性がある
人材不足と並んで深刻化するのが、後継者不足です。帝国データバンクの全国企業「後継者不在率」動向調査(2022から、建設業の後継者不在率は、全業種のうちで最も高い63.4%と判明しました。
同調査で、後継者の属性にも変化があるとわかります。後継者候補は、2011年以降から首位であった「子ども」から、2022年に初めて「非同族」の割合が1番になりました。
この結果から、親族内の後継者不足を危惧して、第三者への事業承継を検討する経営者が増えたと言えるでしょう。
経営者・労働者の高齢化に直面する
経営者や労働者全体の高齢化により、事業の経営自体が困難になる企業もあるでしょう。
先ほどの国土交通省「最近の建設業を巡る状況について」からわかるように、建設業従事者の高齢化は深刻です。2021年(令和3年)時点で、55歳以上の従事者が35.5%という結果が出ています。
全産業における55歳以上の従事者割合が31.2%という点で比較しても、高齢化が深刻だとわかります対して、未来の建設業をけん引する29歳以下の若者の割合は、12%ほどしかいません。
若者の従事者が増加しなければ、後継者不足や労働人口の高齢化は解消できないでしょう。
建設コンサル業がM&Aを実施するメリット
建築コンサル業がM&Aを実施する場合に得られるメリットは、以下のとおりです。
買い手側、売り手側それぞれのメリットをご紹介します。
売手側のメリット①売却収入を得られる
売り手側のメリットのひとつに、売却収益があります。売却収益とは、会社を売る際に得られる利益のことです。
閉業を検討していた企業は、従業員や顧客などの事業内容全てを引き渡せるため、売却後の引退も可能になります。引退前に事業売却ができれば、売却時に得た資金を退職金に活用できたり、別の事業を始めたりもできるでしょう。
売手側のメリット②会社を存続できる
売り手側のメリットとして、会社の存続もあげられます。人材不足や後継者不足が深刻化すれば、黒字経営であっても事業継続が厳しくなるでしょう。
帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)」によると、後継者不足が理由の倒産は 2022年1〜10月で408件発生しています。
企業存続の危機に陥れば、従業員の給与の支払いができなくなる上に顧客との信頼関係も失います。M&A実施により、事業を継続させる方が得られるメリットは大きいでしょう。
買手側のメリット①人員を確保できる
買い手側としては、人員の確保が大きなメリットになります。M&Aを実施すれば、別の会社で働いている技術者を自社に取り込めるのです。
新入社員を募って一から教育するのと比べて、すでに経験豊富な技術者を確保できれば即戦力として自社事業に役立ちます。
技術者が増えると作業分担ができるようになり、労働環境の改善にも役立つでしょう。
買手側のメリット②事業の拡大を期待できる
M&Aを実施できると、買い手側は事業の拡大も期待できるのです。建設コンサル業と建設会社がM&Aを行えば、インフラ建設の依頼が来た際に、企画や調査から施工・保守管理まで一括で対応できます。
対応できる事業幅が広がれば案件を取りやすくなり、結果的に事業拡大が期待できるのです。
M&Aの事例によっては、海外企業を取り込むことでグローバル展開を図る会社もあります。
建設コンサル業がM&Aを実施するデメリット
建設コンサル業のM&Aには、メリット以外にデメリットがあります。デメリットは買い手側と売り手側どちらにもいえることなので、下記の点を確認しておきましょう。
双方のデメリット①コストがかかる
M&Aを実施する場合、コストが発生するリスクがあります。買い手側で考えると、買収時に把握できなかった簿外債務の発覚や、M&A後の利益減少があれば追加コストが発生する可能性も。
事業の移動に関して従業員の十分な理解が得られなければ、M&Aの後に離職者が出るかもしれません。
人材確保を目的にM&Aした場合、確保した人材を失うのは大きなデメリットとなるでしょう。
M&Aは、両者の情報を細かく調査して慎重に進めることが大切です。
双方のデメリット②希望に沿う相手が見つかるとは限らない
M&Aは、両者のタイミングが合わなければ実現しません。
売り手としては、事業を継続してくれる以外にも、会社の価値を適切に判断できる企業に売りたいと考えるはず。
買い手としても、自社の事業の拡大や促進に役立つ企業を見つけなければ、M&Aに踏み切ることは難しいでしょう。
自力で会社を見つけることは難しいので、M&A知識を持つ専門家のサポートを受けながら相談を進めることが大切です。
建設コンサル業がM&Aを行う際の注意点
ここからは、建設コンサル業がM&Aを行う際の注意点を2つご紹介します。
売手企業に粉飾決算がないか確認する
買い手側の注意点としては、売り手企業に粉飾決済がないか確認しましょう。粉飾決算は、大きく分けて簿外債務と偶発債務の2つです。
簿外債務とは、退職給付引当金や未払いの給与などの貸借対照表に載っていない債務を指します。
一方で偶発債務とは、売り手が対応中の顧客とのトラブルや損害賠償責任などです。
帳簿確認だけでは判断できないため、M&Aの専門業者へ調査を依頼するか、企業間で話し合うといった対応をとりましょう。
譲渡方法により「建設業許可」の引き継ぎが変わる
M&Aの手法によって、建設業許可の引き継ぎ方法が変わるので注意しましょう。
建築業許可とは、建設業法第3条に基づいた建築工事を担う際に必要な許可です。建設業許可なく工事を受けると、最悪の場合は行政処分がくだされます。
株式譲渡を用いたM&Aでは、建設業許可が引継がれますが、事業譲渡では引継がれないので注意しましょう。
事業譲渡で企業を得た買手側は、改めて建設業許可を取得しなければなりません。建設業許可の申請は最大4ヶ月程度かかる場合もあるので、申請を早めに進めましょう。
建設コンサル業のM&A事例
ここでは、建設コンサル業のM&A事例を2つご紹介します。
「メイホーホールディングス」と「安芸建設コンサルタント」
メイホーホールディングスは、建設コンサルタント企業である安芸建設コンサルタントの全株式を取得して子会社化を実施しました。M&Aの目的は、安定的な収益の獲得です。
メイホーホールディングスの本社は岐阜県ですが、複数の会社とM&Aを実施して全国複数箇所で工事受注を行っています。
安芸建設コンサルタントの本社は広島県にあるため、今回のM&Aによって広島県のインフラ工事に事業を拡大することが可能です。建築コンサル業以外にも人材派遣や建築工事まで対応できるため、事業に合わせた人材や技術の投入が可能でしょう。
「ピーシーレールウェイコンサルタント」と「人・夢・技術グループ」
ピーシーレールウェイコンサルタントは、株式会社長大の持ち株会社である人・夢・技術グループの100%子会社となりました。M&Aの目的は人材の確保や育成です。
完全子会社化により、ピーシーレールウェイコンサルタントの平野会長は、従業員の士気低下を懸念しましたが、対策として、対等な立場を維持できるように同社の株を大量に保有しました。M&Aの前に会社同士で要望のすり合わせをしたからこそ、子会社化した後もフラットな関係を維持できています。
M&Aにおける事前の相談や、調査の重要性を学べる事例です。
まとめ
本記事では、建設コンサル業の現状の課題や将来性、課題を踏まえた上でのM&Aのメリット・デメリットを紹介しました。
実際の事例を見ることで、会社ごとの課題やその解決のためにM&Aに至った経緯を学べます。
M&Aは、事前調査や両者のすり合わせを慎重に行うことで、成功か失敗が決まります。
M&Aの成功率を高めるために、実施を検討する際は専門家に相談してみましょう。