日本では、会社の株式などを少数で保有する「同族会社」の形態をとる組織が多く存在します。しかし、同族会社の正しい定義や税法上の詳しい規定を正しく理解している方は少ないかもしれません。
本記事では、同族会社の定義や似た用語との違い、同族会社の判定基準を解説します。同族会社の税法上の特別規定やメリット・デメリットも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
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同族会社とは?
同族会社とは、株主などの3人以下ならびに特殊関係にある個人および法人が、その会社の発行済株式の総数または出資金額の50%を超える会社です。2006年に税制が改正されてからは、議決権の数や持分会社の社員数も判定に追加されました。
法人税法では、普通法人を「同族会社」と「非同族会社」で区別して課税を行っています。同族会社に該当すると、「行為計算の否認」「留保金課税」など同族会社特有の規定が適用されるので注意が必要です
同族会社と親族経営・非公開会社の違い
同族会社は「親族経営」や「非公開会社」と似たイメージで捉えられることがありますが、それぞれ意味は異なります。
親族経営は、親族で経営する会社の一般的な呼称です。一方、同族会社は法人税法上で規定される、ある一定の株主や社員などで経営権が握られている会社を指します。親族経営は同族会社の要件を満たす場合もありますが、同族会社は必ずしも血縁関係のある親族のみで構成されるわけではありません。
非公開会社は、発行する株式すべてに譲渡制限事項の定めが定款に設けられている会社です。同族会社とはそもそもの定義が異なる点に注意しましょう。
同族会社の判定基準
法人税法では、株主などの3人以下ならびにこれらと特殊関係にある個人および法人(同族関係者)が、以下の基準に当てはまる場合に同族会社と判定されます。
同族会社の判断基準 | 詳細 |
持分基準 | 発行済株式の総数または出資金額が全体の50%を超えて有する場合 |
議決権基準 | 保有する議決権が、その総数の50%を超える場合 |
社員数基準 | 持分会社(合名会社や合資会社、合同会社)の社員総数の50%を超える場合 |
上記のように、一定の株主とその同族関係者が株式(持分)または議決権、社員数で50%を超える場合に同族会社とみなされます。
株主などの3人以下の「株主」とは、株式名簿に名前が記載されている人です(その会社が保有する自己株式は除く)。同族関係者の詳細は次の章で紹介しているので、あわせてご確認ください。
なお、同族会社のなかでも、被支配会社で特定の要件を満たした会社は「特定同族会社」と判定されます。
同族関係者とは?
株主などと同族関係者にあたるのは「特殊関係にある個人または法人」です。以下では、「特殊関係」とはどのような関係にあたるのかを、個人と法人に分けて解説します。
「特殊の関係」に該当する個人
「特殊の関係」に該当する個人は次のとおりです(法人税法施行令 第4条第1項)。
1. 株主などの親族
2. 株主などと婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係にあるもの
3. 株主など(個人である株主などに限る。次号において同じ。)の使用人
4. 前3号に該当するもの以外で、株主などから経済的援助を受けて生計を維持しているもの
5. 前3号に該当するものと生計を一にするものの親族
親族は株主の配偶者や6親等内の血族、3親等内の姻族です。また、「5. 前3号に該当するものと生計を一にするものの親族」の場合、必ずしも同居している必要はありません。
「特殊の関係」に該当する法人
「特殊の関係」に該当する法人とは、以下の法人を指します(法人税法施行令 第4条第2項)。
1. 会社の株主などの一人とそのものの同族関係者が支配しているほかの会社
2. 1の会社を判定の基礎に入れている場合の、支配しているほかの会社
3. 1と2の会社を判定の基礎に入れている場合の同じく支配しているほかの会社
同族会社の税法上の特別規定
同族会社は少数の株主が経営権を握っているため、会社の経営や経理もごく少数で操作しやすい側面があります。そのため、法人税法では次の特別規定を設けています。
留保金課税がかかる
留保金課税とは、各事業年度の留保金額が留保控除額を超えた際に、その留保金に課税される制度です。特定同族会社が対象で、留保控除額を超えた金額によって、以下のように課税される割合が異なります。
留保控除額を超えた金額 | 割合 |
年3,000万円以下の金額 | 10% |
年3,000万円を超え年1億円以下の金額 | 15% |
年1億円を超える金額 | 20% |
みなし役員などへの給与や賞与は損金に算入できない
同族会社の使用人のうち、一定の株式を所有し経営に従事している者は役員とみなされます(みなし役員)(法人税法施行令第7条第2項)。また、使用人として職務に従事する役員であっても、同族会社の株式を一定割合以上保有している場合は、税務上使用人兼役員になれません(法人税法施行令第71条の2)。
上記に支払われる給与や賞与は役員と同様の取扱いになり、損金に算入できない規定となっています。
行為計算否認が適用される場合がある
法人税法第132条では、「同族会社等の行為又は計算の否認」が規定されています。同族会社が法人税の計算で不当に減少させるなどの行為をした場合、税務署はそれを否認し、計算のし直しを行えます。
同族会社のメリット
同族会社の主なメリットは次のとおりです。
・意思決定がスムーズ
・長期的な経営計画を立てられる
・事業承継を行いやすい
各メリットの詳細を解説します。
意思決定がスムーズ
同族会社は会社の経営権が一定の人に集中します。経営方針を共有しやすい側面があり、意思決定をスムーズに行える点がメリットです。そのため、日々刻々と変化する現在のビジネス環境下でも、さまざまな状況の変化に柔軟に対応できます。
長期的な経営計画を立てられる
経営権が少数の人に集中する同族会社の特性は、経営の安定面にも良い影響を与えます。例えば、経営権を親族で掌握すれば、社内の派閥争いなどで経営方針が割れるリスクは少なくなるでしょう。結果として、長期的視野に立った経営を行える点もメリットです。
事業承継を行いやすい
経営権が分散している状態では、「誰に事業を承継するか」などの問題が起こりやすい傾向にあります。その点、同族会社は経営権が集中しているので、後継者への経営の引継ぎも行いやすい利点があります。
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同族会社のデメリット
同族会社はメリットがある一方、次で紹介するデメリットが生じる場合もあるので注意しましょう。
・税制面で不利になる場合がある
・経営陣へ意見をしにくい環境となる
税制面で不利になる場合がある
同族会社には「行為計算否認」や「みなし役員の給与の損金不算入」などが適用されます。さらに、特定同族会社では一定の控除額を超える留保金に税金が課されます。同族会社はこのような税法の特別規定が設けられており、税制面で不利になりやすい点がデメリットです。
経営陣へ意見をしにくい環境となる
同族会社は経営陣が強い力を持つことから、従業員が経営陣へ意見をしにくい環境になりやすいです。このような状況では、新しいアイデアや批判的な意見が抑制され、組織の改革や効率的な問題解決が妨げられる可能性があります。その結果、経営が私物化されるリスクも高まり、組織の健全性や持続可能性に影響を与えることもあるでしょう。
同族会社が注意すべきポイント
最後に、同族会社で注意すべきポイントを解説します。特に、株式を譲渡する場合には所得税や住民税が課されるので注意しましょう。
自社株対策をする
同族会社であっても、経営陣がすべての自社株を保有しているとは限りません。会社内で保管している株主名簿などを確認し、株式の保有状況を把握しましょう。株式が分散している場合は、経営権の安定のため株式を買い取る方法も選択肢です。
株式譲渡時には税金がかかる
株式譲渡においては、株式譲渡所得税(所得税や住民税)、法人税や贈与税などの税金がかかるので注意が必要です。例えば、同族会社間の個人から個人へ株式が適正価格で譲渡された場合、譲渡益に対して所得税が課税されます。
まとめ
同族会社は法人税法上の規定であり、該当すると税法上の特別規定を受けます。そのため、中小企業で同族会社となる場合は、定義や税法上の規定を把握することが大切です。
なお、同族会社で事業承継やM&Aをする場合は、法務や財務、税務などの専門的な知識が必要です。fundbookでは、優れた経験と専門性を備えたアドバイザーが経営者の方の立場に立ったサポートを提供します。
M&Aで不明な点があるときは、fundbookまで気軽にご相談ください。