株式譲渡は、中小企業のM&Aでは最も行われている手法の1つで、譲渡企業の株式を譲受企業が買い取り、経営権を譲受企業に移動することを指します。
株式譲渡を行うことで、事業を続けてきた会社の経営者は譲渡所得を得られます。幸せなリタイア生活を考えて、株式譲渡を検討している経営者も多いのではないでしょうか。しかし、株式を売却し金銭などを得る際に、気にしなければいけないのが税金です。
今回は非上場企業における株式譲渡の事例をとって、株式譲渡の際にかかる税金の種類や、その計算方法について詳しく紹介します。
▷関連記事:株式譲渡とは?株式譲渡のメリット、デメリットについて
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株式譲渡では「譲渡所得」に対して税金がかかる
そもそも株式譲渡を行い利益を得た際に、どんな税金がかかるのか知らない方も多いのではないでしょうか。株式の売却時に譲渡所得が出た場合には、その譲渡所得に対する税金、つまり「譲渡所得税」がかかります。ここでは、譲渡所得税の計算方法を説明していきます。
M&Aにおける譲渡所得税の計算方法
では、譲渡所得税の計算方法について、具体的に説明していきます。まず、M&Aにおける株式譲渡により得られる譲渡所得は、一般的に以下の式によって表されます。
①総収入金額(譲渡価額)-②必要経費(取得費+委託手数料等)=③譲渡所得
それぞれの項目について、細かく説明します。
①総収入金額(譲渡価額)
株式の譲渡対価として得られる金額です。株主と譲受企業両者の協議の上、合意して決まります。
②必要経費(取得費+委託手数料等)
必要経費として認められるのは、売却する株式を取得した際にかかった「取得費」や、仲介会社などに支払う「委託手数料」などです。
会社を設立した際に出資した資本金など
※取得費の算出が難しい場合には、譲渡価額の5%を「概算取得費」として処理することも可能
譲渡の際にM&A仲介会社等を入れた場合に仲介会社等に支払う仲介手数料など
③譲渡所得
①の総収入金額から②の必要経費を引いた残りの金額が譲渡所得となります。
株式譲渡に掛かる税金は、この譲渡所得から求めます。譲渡所得にかかる税金は20.315%(所得税および復興特別所得税15.315% + 住民税5%)となり、下記の式で納税する金額が求められます。
③譲渡所得 x 20.315% = 譲渡所得税
参考URL:▷平成29年分株式等の譲渡所得等のあらまし
株式譲渡の際に確定申告は必要?その判断基準を解説
譲渡所得があった場合は、確定申告が必要となるのでしょうか。給与を1か所だけから受けており、給与の年間収入金額が2,000万円以下の給与所得者は確定申告をする必要はありません。しかし、給与を1か所だけから受けており、給与の年間収入金額が2,000万円以下でも、給与以外の所得が20万円を超えた人は確定申告が必要です。
株式譲渡した際の所得が20万円を超えないことは考えにくく、M&Aにおける株式譲渡の際には、ほぼ全ての人に申告の義務が生じます。
所得税の計算方法としては、給与以外での各種所得金額を合計した総所得金額から税額を計算する「総合課税」が原則です。しかし株式譲渡所得については、他の所得金額と区分され、その所得単体で税額を計算する「申告分離課税」と定められています。そのため、その他の所得との損益通算が出来ない点は注意が必要です。
株式譲渡にかかる税金
譲渡所得に対して発生する税金の納付時期
株式譲渡の際に発生する税金は、平成25年から平成49(令和19)年までの間においては、日本大震災の復興財源に充てる目的で、所得税と住民税の他に東復興特別所得税が課税されます。
これらの税金の納付時期は、所得税及び復興特別所得税と、住民税とで異なるため注意が必要です。
所得税及び復興特別所得税は、翌年の3月15日までに確定申告を行って納税します。例えば2020年分の所得税と復興特別所得税の納税を行う場合は、2021年の3月15日までに確定申告を行う必要があります。
住民税は、確定申告後の納税となります。具体的には、確定申告を行った年の4月〜5月頃に住民税の納付書が送られてくるので、こちらに従って一括もしくは4分割で納める決まりになっています。
このように、それぞれ同じ株式譲渡にかかる税金でも納付時期が異なるので注意が必要です。特に、後から別で納税する住民税については、納付期限を過ぎると延滞税が追徴課税されるのでしっかりと確認するようにしましょう。
株式譲渡で発生する税金の注意点
株式譲渡は譲渡所得に対して税金が発生するため、基本的には譲渡側に対して税金が発生します。そのため、通常譲受側には税金は発生しませんが、親族への株式譲渡の場合は相続税に該当するとみなされるかどうかについて、注意が必要です。
具体的には、相続税に該当するとみなされる場合、譲受側も取得額に対する10%から55%が税金として課税されます。また、株式を時価の半分未満の額で譲渡する場合には、譲受側にも時価との差額に対して贈与税が発生します。これは無償で譲渡した場合も同様です。
以上の点から、譲り受ける側も税金が発生するのかどうか、事前に専門家に相談し、確認しておきましょう。
株式等の譲渡に係る主な特例
非上場株式を事業承継時に相続または贈与することについては、事業承継税制という特例があります。こちらは平成30年度税制改正の際に、事業承継問題に対応するために新制度として創設されました。
これは非上場株式を相続または贈与する際に、同時にその会社の事業を引き継ぐ場合、該当するすべての非上場株式に対して課税される相続税または贈与税は100%猶予されるというものです。また複数の株主から、代表者である3人までの後継者であれば対象となるため、親族だけでなく第三者への承継も適用されます。
この猶予された税額は途中で取り消しにならない限り、後継者の相続または贈与が発生することで、猶予されていた税額が免除となります。
ただし、事務手続きがかなり煩雑なことや制度として非常に複雑であること、また取り消しリスクが存在することなど、注意すべきポイントも多くあるため、税理士などの専門家に相談しましょう。
まとめ
株式譲渡は国内の中小企業のM&Aで多く行われている手法の1つです。株式譲渡を行う際に、忘れてはいけないことが税金です。M&Aで株式譲渡を行う上でほとんどの人に確定申告の義務が発生します。
今回紹介した税金の種類や計算方法を理解し、株式譲渡をスムーズに進められるようにしましょう。また、特に税務に関する事は頻繁に制度が変わります。そのため、税務などの専門知識はM&Aアドバイザーに相談し、最終的な判断をする際には税理士に相談することをおすすめします。