合併 債権者保護

M&Aのメジャーな手法でもある合併は、吸収合併と新設合併の2種類があります。その中でも実務で扱われるのは圧倒的に吸収合併です。これは、新設合併では上場企業の場合、新規の上場と扱われること、許認可などを再度取得しなければならないこと、株式を全て回収しなければならないことなど、コストがかかる為です。合併を行う際には、会社法などに定められるいくつもの手続きを行わなければなりません。たとえば株主総会決議や、合併に反対する株主からの株式買取請求にかかる手続き、合併の規模によっては独占禁止法などに定める届出なども必要になります。

本記事では、合併における手続きの中でも重要な手続きである、債権者保護手続き(債権者異議手続き)について、詳しく解説します。

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この記事を執筆した専門家

M&A DA
弁護士 髙田 光洋

東京都出身。名古屋大学法科大学院卒。
明治大学政治経済学部から名古屋大学法学部へ編入学し、経済学と法学を学ぶ。企業法務・企業再生を多数取扱う中島成総合法律事務所にて、一般企業法務、事業譲渡・民事再生等の企業再生事件等を中心に担当している。


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合併時の債権者保護手続きの意義と必要性

会社法では組織再編を行う場合、影響を受ける債権者がいる場合には、その債権者に対し組織再編を行う旨を知らせ、異議を述べる機会を与える手続きとして、債権者保護手続きを行わなければならないと定めています。

会社法上、債権者異議手続きが求められるかどうかを分類すると次のとおりになります。

合併 債権者保護

債権者保護手続きの意義と必要性

表にも記載されているとおり、合併の場合には、相手方当事者の資産状態が悪いときは、他方当事者会社の債権者に重大な影響を与えるので、消滅会社及び存続会社全ての当事会社が債権者の異議の手続きをとらなければなりません。なぜ会社法はこのような手続きを定めたのか、簡単な事例で説明すると、次のようになります。

例えば、合併しようとしているA社は、魅力のある事業を行っているものの業績・資産状態が悪いとします。他方A社を合併しようとしているB社は業績・資産状態は好調です。このような場合、B社はA社を合併することで、A社の債務などや不良資産を引き継ぐことになり、資産状態が悪化してしまいます。そうすると、B社に金銭を貸し付けていた債権者は、B社の業績が良かったから貸していたにもかかわらず、勝手にB社がA社を合併してしまうとB社の業績や資産状態が悪化するため、知らないうちに貸した金銭が返ってこないなどのリスクを負うことになってしまいます。このリスクから債権者を保護するために、債権者に対し「合併をしますよ」という知らせを行い、債権者が「合併するのは困ります。それでも合併するなら貸したお金を返して下さい」という機会を作ることを定めたのです。

そして、このことはA社の債権者から見ても同じことがいえます。それは、A社が勝手にC社と合併してしまうとすると、実はC社はA社よりも業績・資産状態が悪い会社である可能性があるからです。

そのため、会社法では合併の当事者である全ての当事会社に対し、債権者保護手続きを定めているのです。

債権者保護手続きを行わなかった場合

債権者保護手続きを行わなかったり、法定された期間などを守らずに行った場合はどうなるのでしょうか。

この場合、吸収合併が法令に違反するとして、法令で定められた債権者保護手続きを行わなかった会社の株主から当該合併を止めることを請求される可能性があります。この請求を差止請求といいます(会社法(以下「法」)784条の2、796条の2)。

また、合併が実行された後でも、当該合併が無効となる場合があります。ただし、合併のような組織再編の場合、その無効の解決を民法の一般原則に委ねてしまうと取引の安全を害することから、会社法は合併の無効を訴えのみによって主張できることとしました(法828条1項柱書・同項7号・同項8号)。債権者保護手続きが履践されないことは、この無効の原因になるのです。この無効の訴えは、合併の効力が生じた日から6ヶ月以内に、効力が生じた日において当事会社の株主などであった者、破産管財人若しくは吸収合併について承認しなかった債権者が提起することができます(法828条2項)。

合併時の債権者保護手続きの手順

合併 債権者保護

合併における債権者保護手続きの具体的な手順などを解説していきます。

債権者保護手続きの内容

債権者保護手続きの始期については特段の定めはありませんが、債権者が異議を述べる期間として最低1ヶ月を確保することが要求されています(法789条2項、299条2項)。合併の効力を発生させるには、次の(1)~(3)までの債権者保護手続きを少なくとも効力発生日前に完了しておく必要があります(法750条6項)。

  1. 公告
  2. 個別催告
  3. 債権者に対する弁済など

債権者手続きの具体的な手順など

(1)公告

会社法が定める事項を官報をもって公告します(法789条2項、799条2項)。公告の内容は次のとおりです(法789条2項・799条2項)。

  • 吸収合併をする旨
  • 合併の相手会社の商号及び住所
  • 当事会社の計算書類に関する事項として法務省令(法施行規則188条、199条)で定めるもの
  • 一定の期間内に異議を述べることができる旨(1ヶ月以上)

なお、公告は当事会社が共同で行うことも考えられます。

(2)個別催告

官報による公告以外に知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならないとされていますので、公告と同様の法定事項を債権者に催告します。

催告の方法は、実務的には普通郵便によるハガキまたは封書による例が多いようです。催告の期間は1ヶ月を下回らない一定の期間をとる必要があり、また、催告については到達主義(通知を発送したときではなく到達したときにその効果が発生する)とされていることから、郵送期間も加味することになります。

(3)債権者に対する弁済など

債権者が異議を申述したときは、会社は債務を弁済するか、相当の担保を提供するか、弁済に充てる目的で信託会社に相当の財産を信託しなければなりません(法789条5項、799条5項)。ただし、合併が当該債権者を害するおそれが無い場合はこの限りではありません(法789条5項ただし書き、799条5項ただし書き)。吸収合併の登記に際しては、吸収合併をしても当該債権者を害するおそれがないことを証する書面を添付する必要がありますが(商業登記法80条3号)、おそれがないと判断するケースはまれです。

なお、債権者が一定の期間内に異議を述べなかったときは、当該吸収合併を承認したものと見なされます(法789条4項、799条4項)。

合併 債権者保護

個別催告を省略する方法

原則として債権者保護手続きにおいては、上述したとおり、知れている債権者に対し個別催告を行う必要があります。この知れている債権者とは、少額の債権者も含まれます。そのため、煩雑な事務処理や通知に関する郵送費などが必要となり、コストがかかります。また、通知すべき債権者が抜け落ちてしまうリスクも起こり得ます。

そのため、会社法は一定の場合に個別催告を省略できる例外を定めており、官報の他定款で定める時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙か電子公告により公告するときは、知れている債権者への各別の催告は要しないとしています(法789条3項、799条3項)。

ただし、この方法は当事会社が会社の公告方法として、時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法、または電子公告を定めている場合にのみ採用することができるので注意が必要です。公告方法として官報を定めている場合には、定款を変更するなどの手当てが必要になります。

まとめ

以上が合併における債権者保護手続きの手順と内容になります。合併全体の流れでは具体的なイメージが難しい債権者保護手続きも、それ単体で見れば、(1)官報での公告、(2)知れている債権者への個別の催告、(3)異議があった場合の対処と、そこまで複雑な手続きではありません。

しかし、実施しなかったり法定の内容を履践しなかったときは、合併の差止めや無効訴訟の原因になりますから、十分な注意が必要です。知れている債権者の範囲や、個別の催告の省略など、注意すべき点については必要に応じ専門家に相談してみましょう。